2025年付近のスイーツトレンドを考える
現在2025年を迎えた今、過去数年間にわたるスイーツ業界の変遷を振り返ると、興味深い現象が明確に見えてきます。なぜあのスイーツが流行したのか。その背景にあるメカニズムを理解するには、現代の消費行動の変化から説明する必要があります。
スマートフォンとSNSの普及により、商品の流行り方は根本的に変わりました。スイーツのトレンドは、高級店で誕生し、SNSで話題となって拡散され、最終的にコンビニエンスストアが参入することで一般に普及するという明確なパターンを確立しています。この流れは2025年現在でも継続しており、東京のスイーツシーンでは「可愛い」や「写真映え」といった見た目が流行を牽引している要素の一つとされています。
成功事例から読み解くトレンドのメカニズム
この流行の仕組みを理解するために、過去の成功事例を見ていきましょう。ブームを分析することで、今後のトレンドを予測するヒントが見つかります。
カヌレの復活ブーム
2022年後半から2023年にかけて起こったカヌレ・ド・ボルドーの復活は、このパターンの典型的な例でした。カヌレは17世紀にフランスのボルドー地方で修道女によって作られ始めた伝統的な焼き菓子です。蜜蝋を塗った銅の型で焼き上げることで、外側はカリッとした食感と香ばしさが生まれます。内側は卵とミルクが豊富に使われた生地によって、もっちりとした食感になるのが特徴です。
時代を超えたカヌレの歴史
日本でカヌレが最初に注目されたのは1996年頃です。当時はまだSNSが存在せず、主に雑誌やテレビを通じて情報が広まりました。しかし、製造の難しさと専門的な設備が必要なことから、広く普及するには至りませんでした。その後約20年間、カヌレは一部の洋菓子愛好家の間で愛され続けていました。
デジタル時代に再ブレイクした理由
ところが2022年後半、デジタル時代に適応した新しい波が到来します。Instagramで美しく撮影されたカヌレの写真が話題になり、その独特な形と断面の美しさがSNS映えするお菓子として再発見されました。この時期の重要な変化は、製造技術の向上によって専門店でなくても比較的簡単にカヌレを製造できるようになったことです。そして、コンビニエンスストア各社が相次いでカヌレ商品を展開したことが決定打となりました。手軽な価格で本格的な味を楽しめる商品として位置づけられ、2023年には多くの人が日常的にカヌレを購入する状況が生まれました。
ドーナツの第三次ブーム
同じ時期に起こったもう一つの興味深い現象が、ドーナツの第三次ブームです。ドーナツという商品カテゴリーの人気には周期性があることが分かります。
第一次・第二次ブームの振り返り
日本のドーナツブームは、大きく分けて二つの波がありました。2006年頃、アメリカの「クリスピー・クリーム・ドーナツ」が日本に上陸し、長い行列ができるほどの人気を博して第一次ブームが起こりました。このブームは、それまで日本ではあまり馴染みのなかった、ふわふわで軽い食感とグレーズ(砂糖衣)の甘さが特徴的なドーナツを広めました。次に、2010年頃には国内の最大手「ミスタードーナツ」が、もちもち食感の「ポン・デ・リング」をはじめとする新商品を次々と展開し、幅広い層から支持を得て第二次ブームを牽引しました。
第三次ブームの背景と特徴
そして2023年頃から、これまでの量産型とは異なる新しいドーナツが注目され始め、第三次ブームが始まりました。このブームを牽引したのは、生地の素材や製法にこだわった、手作り感のある個性的なドーナツを提供する専門店です。特に、SNSの普及により、一つひとつのドーナツのデザインやトッピングの華やかさが写真映えする商品として広まりました。また、健康志向の高まりから、米粉や豆腐などを使ったヘルシーなドーナツも登場し、消費者の多様なニーズに応えるようになりました。
成功に共通する要素
これらのブームに共通しているのは、単に美味しいというだけでなく、その時代の消費者のニーズに合致していたことです。カヌレの場合はSNS映えする見た目と手軽に高級感を味わえる価値、ドーナツの場合は個性的で手作り感のある商品への回帰が背景にありました。
スイーツ業界の予測法則と新たなトレンド
大手製菓メーカーの動向も重要です。ロッテの生チョコパイは、従来の定番商品を現代的にアップデートした成功例として注目されました。外側のパイ生地はそのままに、内側のチョコレートを生チョコレートに変更することで、口どけの良さと濃厚な味わいを実現しました。この商品は、馴染みのある商品の「プレミアム版」として位置づけられ、日常的な価格帯でありながら特別感を演出することに成功したのです。
ここで重要なのは、スイーツ業界における予測の法則を理解することです。業界関係者や研究者の間では、いくつかの予測パターンが確立されています。
復活の法則
まず「復活の法則」があります。これは過去に人気があった商品が、技術の進歩や消費者の忘却により、新しい形で再び注目される現象です。カヌレの復活はまさにこの例に当てはまります。
文化圏の拡散法則
次に「文化圏の拡散法則」があります。これは、ある特定の地域で成功したスイーツが、文化的類似性を持つ他の地域に段階的に広がっていく現象です。2021年頃に大ブームとなったマリトッツォの成功は、イタリア系スイーツ全般への関心を高めました。この流れを受けて、業界では同じイタリア発祥のカッサータ、ズッコット、カンノーロなどに注目が集まりました。
スイーツ名 | 発祥地 | 特徴 |
カッサータ | シチリア島 | リコッタチーズとドライフルーツを使った鮮やかなケーキ |
ズッコット | フィレンツェ | ドーム型のケーキで、アイスクリームなどをスポンジで包んだ半凍結タイプのデザート |
カンノーロ | シチリア島 | 円筒形のパリパリした生地の中にリコッタチーズのクリームを詰めたお菓子 |
ただし、予想と実際の市場動向には違いも見られます。2023年から2025年の実際の動きを見ると、これらのイタリア系スイーツで日本市場に本格的にブレイクしたものは限定的でした。この理由を考えると、マリトッツォの成功要因が単純に「イタリア発祥」ということだけでなく、手軽に食べられるサイズ感、程よい甘さ、そして朝食としても利用できる実用性といった複数の要因にあったことがわかります。
地理的・文化的な発信地の役割
日本のスイーツトレンドを理解する上で、地理的・文化的な発信地の存在は見逃せません。
原宿の役割
例えば原宿という地域は、1970年代から若者文化の中心地として機能しており、ファッションだけでなく食文化においても重要な役割を果たしています。この地域の特徴は、新しいものを積極的に取り入れ、それを独自にアレンジして発信する文化があることです。台湾や韓国発祥のスイーツが日本に導入される際、多くの場合、まず原宿の専門店で紹介され、SNSで話題となり、その後全国に広がるというパターンを繰り返しています。
これらのスイーツは、このルートを辿って全国に普及しました。
未開拓の食文化
スイーツトレンドの予測における「ないものの充足」理論も重要な観点です。これは、現在の日本市場にまだ本格的に紹介されていない地域の食文化に注目するという考え方です。
東南アジアのスイーツ
東南アジアの米文化圏では、もち米や米粉を使った独特の食感のスイーツが豊富に存在します。これらは日本人の好むもっちりとした食感と相性が良く、健康志向の高まりとも合致します。実際に2023年以降、ベトナムのチェー(ベトナム風ぜんざい)や、タイのマンゴー系スイーツなどが徐々に認知度を高めています。これらの商品は、今後のコンビニでの展開が検討されています。
その他の地域の可能性
インド系スイーツも注目される分野の一つです。ラスグッラやグラブジャムンなどの乳製品を多用した濃厚な甘味は、日本人にはまだ馴染みが薄いものの、新しい体験を提供する可能性があります。中東や中南米のスイーツも同様に未開拓の分野として期待されています。
2025年現在のトレンドを形作る要素
2025年現在のスイーツ業界で他にも注目すべきは、健康志向の高まりによる新しいカテゴリーの確立です。
ヘルシースイーツの台頭
従来の「美味しいが体に悪い」というスイーツのイメージから、健康面に配慮した商品が市場で受け入れられるようになりました。ヴィーガンスイーツは、動物性食材を使わずに植物性の代替材料を使用することで、環境問題への配慮と健康志向を両立させています。豆乳や米粉などを活用し、従来のスイーツと遜色ない味わいを実現することが可能になりました。実際に2024年から2025年にかけて、主要なコンビニエンスストアチェーンでもヴィーガン対応のスイーツが商品化され、一定の市場を確保しています。
価値観の多様化と技術の進歩
評価される要素 | 具体的な例 |
健康への配慮 | 砂糖控えめ、低カロリー、ヴィーガン対応 |
SNSでの共有価値 | 写真映えする見た目、ユニークなデザイン |
手軽さ | コンビニで購入できる、食べやすいサイズ |
特別感 | 期間限定、特定の地域限定、高級感のあるパッケージ |
成功するスイーツは、美味しさだけでなく、健康への配慮、環境への意識、SNSでの共有価値、手軽さ、特別感など、複数の要素を複合的に満たす傾向が強くなっています。また、製造技術の進歩により、以前は専門店でしか味わえなかった高品質なスイーツが、コンビニエンスストアでも手軽に楽しめる環境が整っています。
まとめ
スイーツ業界は技術革新、消費者ニーズの変化、グローバル化、健康意識の高まりなど、複数の要因が相互に作用しながら常に変化し続けています。2025年の現在も、世界各地の伝統的なお菓子の再発見、新しい食材や製法の開発、消費者の多様化するライフスタイルへの対応など、様々な可能性が探求され続けています。