ムースとは何か?
ムース(mousse)とは、ヌーヴェル・パティスリー(新しい洋菓子)の代表的なスイーツのひとつです。フランス語で「苔」や「泡」を意味する言葉ですが、お菓子の場合は「泡」の意味を指します。その名の通り、泡のように柔らかく軽い食感が特徴です。
ムースの材料
ムースの主な材料は、メレンゲ(フランス語ではムラング)や泡立てた生クリームです。これらは多くの気泡を含んでおり、軽く滑らかな口当たりを生み出します。さらに、ムースにはさまざまなフレーバーを加えることができ、チョコレート、フルーツ、ナッツなど、多彩なバリエーションがあります。
ムースの固め方
従来の洋菓子は、焼く、煮る、蒸すといった加熱の手法によって形を保つのが一般的でした。しかし、冷却技術の進歩により、お菓子作りの可能性が大きく広がりました。ムースは冷やして固めるスイーツであり、常温や口の中に入れるとすぐに柔らかくなるくちどけの良さが、当時の人の嗜好や味覚にぴったりでした。このような背景も、ムースを中心とした「ヌーヴェル・パティスリー」が流行するようになった原因のひとつかもしれません。
ムースブームのきっかけ
ムースが広く注目されるようになった背景には、1981年のフランスにおける政治的な変化が関係しています。この年、フランスではフランソワ・ミッテランが大統領に就任し、社会主義政権が誕生しました。
労働時間の短縮化
ミッテラン政権のもとで進められた改革のひとつに、労働時間の短縮がありました。これは一般的な労働者にとっては好ましい変更でしたが、少量多品種生産を主とする洋菓子業界にとっては大きな問題となりました。
ショックフリーザーの導入
その対策として、多くの菓子店が「ショックフリーザー(急速冷凍機)」を導入しました。ムースは急速冷凍に適したお菓子のひとつ。その理由は気泡を多く含んでいるため、冷凍しても固くなりすぎず、解凍も短時間で済むからです。この機器によって大量のムースを製造、保存できるようになりました。
急速冷凍に向く素材と向かない素材
ムースと相性の良い素材には、メレンゲや生クリームのほか、ピュレ状にしたフルーツがあります。たとえば、新鮮なイチゴやフランボワーズは、冷凍すると細胞が壊れ、解凍後に食感が損なわれてしまいます。しかし、最初からピュレ状にしてムースに混ぜ込むことで、風味を損なうことなくムースの中に閉じ込めることができます。一方で、固形のフルーツや、水分の多いゼリー状の素材は、急速冷凍には向いていません。
ムースの大量生産
菓子店は、ショックフリーザーを活用することで、1日5〜6種類のムースをまとめて1週間分製造し、冷凍保存することが可能になりました。そして、必要な分だけ解凍し、仕上げにデコレーションを施して販売するスタイルへと変化していきました。従来のような少量多品種生産から、大量少品種生産へのシフトが進み、労働時間の短縮を実現したのです。そしてムースは一気に菓子業界の主流となり、多くの洋菓子店のショーケースを彩る存在となりました。
まとめ
ムースは、軽やかな食感と豊かな風味を持つ魅力的なスイーツです。その流行の背景には、冷却技術の進歩と、フランスにおける政治・社会の変化が大きく関係しています。
ショックフリーザーの導入により、ムースは大量生産が可能になり、多くの菓子店で取り扱われるようになりました。このような技術革新と時代のニーズの変化が相まって、ムースはヌーヴェル・パティスリーの代表的な存在として、現在も多くの人々に愛されています。