ビスケットの名前の由来と発祥起源【二度焼き】

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ビスケットの名前の由来

ビスケットという言葉は、もともとラテン語の「ビスコクトゥス・パーニス(bis coctus panis)」に由来しています。この言葉を日本語にすると、「2回焼いたパン」という意味になります。

では、それぞれの単語をくわしく見てみましょう。

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ラテン語意味
ビス(bis)「2回」や「もう一度」という意味
コクトゥス(coctus)「焼いた」という意味。ラテン語の「コクエレ(coquere)=焼く」の過去分詞です
パーニス(panis)パン」という意味

つまり、「ビスケット」という言葉そのものが、「一度焼いたあとに、もう一度焼くパン」という昔の作り方をあらわしています。昔は食べ物を長持ちさせるために、パンを2回焼いて水分を飛ばしていたのです。

いろんな国のビスケットの呼び方

ビスケットは世界中で食べられており、その呼び方も国によって違います。でも、どれもラテン語の「bis coctus」にルーツを持っているものが多いです。

以下は、国ごとの呼び方と特徴です。

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言語呼び方説明
イギリス英語Biscuit(ビスケット甘い焼き菓子のことをこう呼びます。日本のビスケットとほぼ同じ意味です。
アメリカ英語Cookie(クッキーアメリカでは「ビスケット」というと、ふくらんだパンのような別の食べ物を指します。日本でいうスコーンに近いです。
フランス語Biscuit(ビスキュイ)発音は「ビスキュイ」に近く、ケーキの生地や焼き菓子全般に使われます。
イタリア語Biscotto(ビスコット)「Biscotti(ビスコッティ)」という複数形は、固い二度焼きのビスケットを指します。コーヒーと一緒に食べることが多いです。
スペイン語Bizcocho(ビスコチョ)地域によってはスポンジケーキの意味でも使われることがあります。
ドイツ語Keks(ケークス)クッキーのような焼き菓子のことを指します。また「Zwieback(ツヴィーバック)」という言葉もあり、こちらはまさに「二度焼きパン」のことです。
日本語ビスケット英語からきた言葉で、日本では甘くてサクサクした焼き菓子をこう呼んでいます。

このように、ビスケットの名前は世界中で少しずつ違いますが、もとをたどると「二度焼いたパン」という共通の意味にたどりつきます。それぞれの国で、食文化に合わせて呼び方や使い方が変わっていったのですね。これは、ビスケットが世界中の人々に親しまれてきた証でもあります。

ビスケットの発祥起源

ビスケットのもとになった食べ物は、とても昔のヨーロッパで生まれました。当時は冷蔵庫もなく、食べ物はすぐに傷んでしまいます。そこで、人々は長く保存できる食べ物を工夫して作るようになりました。

船乗りと兵士のための保存食

昔の船旅は何ヶ月もかかり、新鮮な食べ物を手に入れることができません。そのため、腐りにくい保存食がとても大切だったのです。

ビスケットのような「水分の少ない固いパン」は、長い航海での貴重な栄養源となります。大航海時代の船には何ヶ月分もの保存食として積載され、生命を支える重要な物資として認識されていました。

軍事利用においても、戦地への移動や長期の駐屯に適した食料として広く使用されました。戦場では火を使った料理ができないこともありますが、ビスケットならそのまま食べられて、しかも長もちします。調理なしで食べられる便利さは、兵士たちにとって心強い味方でした。

古代ローマ時代のビスケット

ビスケットの原型は古代ローマ時代にまで遡ることができます。パニス・ビスコクトゥス(Panis Biscoctus)というパンは、ローマ軍が長距離の行軍や遠征に使用した携帯食でした。

このパンは通常通り焼いた後、再度オーブンで乾燥させる製法が用いられ、水分を徹底的に除去することで腐敗を防ぎ、長期保存を実現していました。

普及の経緯としては、ローマ帝国の版図拡大に伴い、実用的な食品としてヨーロッパ各地に伝播し、各地域で独自の製法やレシピが発展する基盤を形成しました。

「2回焼く」ことで、なぜ長もちするの?

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工程目的効果
1回目の焼きパンと同じように生地を焼く外側が固まり、形ができる
2回目の焼き水分をしっかりと飛ばすカビや腐敗を防ぎ、保存がきくようになる

この「二度焼き」によって、ビスケットは固くて乾いた食べ物になります。そのおかげで、湿気や菌に強くなり、腐りにくくなります。

昔の人たちはこのビスケットのおかげで長旅や戦争の中でも食事に困らずにすんだので、冷蔵庫のない時代にとっては、とても大切な命綱だったのですね。

中世から近世のビスケット

中世ヨーロッパでのビスケット

中世になると、ビスケットはただの保存食から少しずつ変わっていきます。

ビスケット製造の中心地となった修道院では、自家製ビスケットを旅人や巡礼者に提供し、修道士による製法改良と地域独自のレシピ開発が進められました。

味わいの進化としては、単なる保存食から味わいを重視したビスケットへの変化が見られ、はちみつや香辛料の導入による風味の向上が図られました。

特別な祝日には、華やかなビスケットが登場し、やがて伝統菓子として定着していきます。

貴族社会での発展においては、砂糖を使った高級ビスケットが登場し、当時の砂糖はとても貴重だったため、こうしたお菓子は富や地位を示す特別な存在にもなります。

これが後の洗練された菓子としてのビスケットの原点を形成することになりました。

大航海時代とビスケット

15世紀から17世紀にかけての大航海時代。遠い海へ長い旅をするには、腐らない食料が欠かせず、ビスケットは船員たちにとって重要な食べ物でした。

コロンブスやマゼランの船にも、大量の「船舶用ビスケット(Ship’s Biscuit)」が積まれていました。1日あたりおよそ450グラムが配られ、何ヶ月もの航海を支える主な食料となっていたのです。

しかし問題もありました。湿気の多い船の中では虫がわきやすく、とくに「ウィービル」という小さな虫がビスケットに入り込むことがありました。そのため船員たちは、暗い中でビスケットを食べるようになったともいわれています。虫が見えないようにして、気持ちだけでも落ち着けていたのでしょう。

各国の海軍や商船隊は、こうした課題に対応するため、より良いビスケットを作る技術を競い合いました。イギリスやスペイン、オランダなどでは、ビスケットをつくるための工場を国が運営することもありました。品質の高いビスケットは、国の力を支える重要なものと考えられていたのです。

産業革命とビスケット

18世紀の終わりから19世紀にかけて、産業革命がヨーロッパに広がりました。これによって、ビスケットの作り方も大きく変わっていきます。

1830年代、イギリスでは世界で初めてのビスケット製造機が発明されました。これにより、手でこねたり焼いたりする必要がなくなり、機械でたくさんのビスケットを同じ品質で作れるようになります。ハントレー&パーマーズやピーク・フリーンといったビスケット専門の会社も登場しました。

その中でもイギリスのレディングという町は「ビスケットの町」と呼ばれ、ここにあるハントレー&パーマーズの工場は、19世紀後半には世界で一番大きなビスケット工場となります。

鉄道の発達も、ビスケットの広がりを後押ししました。遠くの町や村までビスケットを運ぶのが簡単になったのです。さらに缶詰の技術が進み、保存や輸送もしやすくなりました。イギリスのビスケットは、大英帝国の植民地にも広がり、世界中で親しまれるようになっていきました。

ハードタックから現代のビスケットへ

初期のビスケット

現代のような甘くて柔らかいビスケットとは異なり、初期のビスケットは「ハードタック(堅パン)」や「シップビスケット」と呼ばれる硬い保存食でした。これらは過酷な環境でも長期保存が可能で、主に軍隊や航海における食料として重宝されました。

ハードタックの特徴

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材料小麦粉・水・少量の塩のみで作られる、極めてシンプルなレシピ
形状平らな四角形が一般的で、熱が均等に入るよう小さな穴が整然と並ぶ
耐久性適切な環境下では数年間保存可能。南北戦争時代のものが100年以上現存した例も
食べ方非常に硬いため、水・スープ・コーヒーなどに浸して柔らかくしてから食べるのが一般的
調理例「ダンディファンク」:ハードタックを砕いて水で戻し、豚脂・砂糖・ドライフルーツを加えて再加熱したもの

軍事史におけるビスケット

ビスケットの歴史は、軍隊の携行食の変遷と深く関わっています。保存性・携帯性に優れたビスケットは、各国の軍隊で重宝され、多様な呼び名と調理法で取り入れられてきました。

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時代呼称・利用法特徴
アメリカ南北戦争(1861–1865)「ハードブレッド」「歯折れ」「弾丸止め」コーヒーに浸したり、ベーコン脂で炒めるなど多様な調理法が用いられた
イギリス海軍(18~19世紀)「シップビスケット一人あたり週に数ポンドを支給。レモン果汁と併用して壊血病の予防にも貢献
第一次世界大戦(1914–1918)軍の非常食油紙や布に包んで携行。塹壕内では「塹壕シチュー」の材料としても使われた
第二次世界大戦非常食として標準装備栄養価を高めた軍用食との併用が一般化

甘いビスケットへの進化

時代が進むにつれて、ビスケットは甘い菓子としての性格を強めていきました。製法と材料の進化として、砂糖の普及により一般家庭でも砂糖が使えるようになり、甘いビスケットが一般化したからです。

バターや卵の追加によるより豊かな風味と食感が生まれ、シナモン、ナツメグ、ジンジャーなどの香辛料の活用が広がり、19世紀末〜20世紀初頭にはチョコレートとビスケットの融合も見られるようになりました。

世界各国のビスケット文化

イギリスのビスケット文化

イギリスは、現代ビスケット文化の中心地とされています。

19世紀以降、アフタヌーンティーの習慣が広まり、ビスケットは紅茶とともに楽しむお菓子として定着しました。

代表的なビスケットとその特徴

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種類特徴歴史・背景
ダイジェスティブ全粒粉を使った、素朴でやさしい味わい1839年、スコットランドの医師が消化を助ける目的で開発
リッチティー上品で軽やかな味わい17世紀、イングランド北部のヨークシャーで誕生し、上流階級のお茶請けに
ショートブレッドバターの風味が豊かで、口の中でほどけるような食感スコットランド発祥。メアリー女王の時代から続く伝統菓子
ジンジャーナッツ生姜の香りとスパイシーな味が特徴船乗りの間で重宝され、乗り物酔い予防にも効果があるとされた
ホブノブオーツ麦入りで、噛みごたえのある素朴なビスケット1985年発売。家庭的で親しみやすい味わいが人気

イギリスでは、ビスケットを紅茶に「ディップ(浸す)」して食べる習慣があります。

とくにチョコレートでコーティングされたビスケットは、温かい紅茶で少し溶かして食べると、風味が引き立ちます。

フランスのビスケット文化

フランスでは、洗練された製菓技術のなかでビスケットが発展してきました。

繊細な味わいと見た目の美しさが両立しています。

代表的なビスケットとその特徴

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種類特徴由来・背景
サブレさくさくした軽い食感。バターの香りが豊かノルマンディー地方発祥。名前はフランス語で「砂」の意味
ラングドシャ薄くてやわらかく、上品な甘さ「猫の舌」という意味。形が猫の舌に似ていることに由来
マドレーヌ貝殻の形をした、ふわふわの小型ケーキプルーストの小説で有名に。記憶と結びついた菓子として知られる
パレ・ブルトン塩気とバターの風味が特徴の厚焼きビスケットブルターニュ地方の伝統菓子。特産の塩を使うことが多い
ゴーフレット薄いワッフルのような形状中世から伝わるワッフル技術をもとに発展

フランスでは、ビスケットをワインやチーズと一緒に楽しむ習慣があります。とくに甘口のデザートワインとの組み合わせは人気です。

また、チョコレートをのせた「プティ・エコリエ」のようなお菓子も子どもから大人まで親しまれています。

イタリアのビスケット文化

イタリアでは、古代から続く菓子文化の中で、地域ごとに個性的なビスケットが育まれてきました。

特にコーヒーやワインに浸して食べるスタイルが広く見られます。

代表的なビスケットとその特徴

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種類特徴由来・用途
ビスコッティ堅く焼き上げた二度焼きビスケット。保存性が高いトスカーナ地方発祥。甘口のワイン「ヴィンサント」に浸して食べる
アマレッティアーモンドの風味とほんのり苦みが特徴サルデーニャやロンバルディアの伝統菓子。「アマーロ(苦い)」が語源
クロスタータタルト状で果物のジャムなどをのせた焼き菓子古代ローマ時代にさかのぼる伝統。家庭で親しまれる
パスタ・ディ・マンドルラアーモンドペーストを使った、やわらかい食感のビスケットシチリア地方で発展。アラブ文化の影響を受けている
ザエティトウモロコシ粉を使った黄色いビスケットヴェネト地方の特産。名前は「黄色」を意味する方言に由来

イタリアでは、朝食としてビスケットをカフェラテやミルクに浸して食べる習慣があります。

また、祝祭日には地域ごとに特別なビスケットが作られ、家族や友人への贈り物としても活用されています。

日本へのビスケット伝来

日本にビスケットが伝わったのは、比較的新しい時代です。

明治時代の開国以降、西洋文化の流入とともにビスケットも紹介されました。

その後、国内での製造が始まり、日本ならではのアレンジも加わって発展していきます。

日本におけるビスケットの歴史

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時期出来事詳細
明治時代初期(1868年頃〜)ビスケットの伝来開国をきっかけに西洋文化と共に伝わる。最初は「麦殻餅(ばっかくもち)」と呼ばれていた。
明治20年代(1887年頃〜)国内製造の始まり東京・神戸・横浜などの外国人居留地で製造がスタート。
1900年代初頭大手メーカーの参入森永製菓(1899年創業)や明治製菓(1916年創業)が本格的に製造を開始。
大正時代(1912〜1926年)一般家庭への普及ビスケット」の名称が浸透し、家庭でも親しまれるようになる。
昭和戦前期(1926〜1945年)製品の多様化クラッカーやウエハースなど、さまざまなタイプが登場。
戦後(1945年以降)洋菓子産業の発展製造技術が進化し、多彩な種類のビスケットが開発される。
1970〜80年代日本独自の商品開発ポッキーなど、日本独自のビスケット系お菓子が誕生し人気に。

日本独自の発展として、米菓技術とビスケット製造技術が融合したライスクラッカーなど、日本の食文化と西洋の製法が融合した製品も多く生まれました。また、ビスケットは学校給食の間食としても採用され、多くの日本人の食生活に定着していきました。

近年では、日本独自のビスケット文化に関して、いくつかの特徴が見られます。抹茶や黒ゴマ、柚子などの和の素材を使用した「和風ビスケット」が人気を集め、日本独自のビスケット文化が形成されています。

輸入ビスケットの広範な流通も進み、グローバルな菓子文化と日本の嗜好の融合としてのビスケット市場が発展しています。

現代のビスケット産業

ビスケットは、今では世界中で親しまれているお菓子です。

昔は保存食として食べられていましたが、今はおやつや軽食として、幅広い年齢層に楽しまれています。

グローバル化が進んだことで、いろいろな国の味や食文化がビスケットに取り入れられ、種類もどんどん増えています。

世界のビスケット市場

ビスケットの市場(売上や取引の全体のこと)は年々大きくなっています。

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項目内容補足
市場規模2024年の時点で約1,000億ドル(日本円で約15兆円)2030年には約1,300億ドルに成長すると見込まれています
年間成長率平均で約4.5%ずつ増加中特にアジア太平洋地域(日本、中国、インドなど)が元気な市場です
主な生産国イギリス、アメリカ、インド、中国、イタリア、フランスなどインドは特にビスケットの消費量が多い国として知られています
消費が多い地域西ヨーロッパ、北米(アメリカなど)、インド一人あたりの消費量が一番多いのはイギリスです

世界で活躍する主なビスケットメーカー

世界には、有名なビスケットを作っている大きな会社がたくさんあります。

  • モンデリーズ・インターナショナルオレオ、リッツなどで有名)
  • ネスレ(スイスに本社がある世界的な食品メーカー)
  • ケロッグ(朝食シリアルでも知られるアメリカの会社)
  • プルーデンシャル・ビスケット(マッケイビットを製造)
  • ユナイテッド・ビスケット(マクビティーズなどを販売)

新興市場の様子

「新興市場」とは、経済が急速に成長している国々のことです。

インドや中国では、中間所得の人たちが増えており、ビスケットのような手軽なおやつの人気が高まっています。

また、都市で働く人が増えたことで、手軽に持ち運べてすぐ食べられるビスケットのような食品が求められるようになりました。

各国の伝統的なお菓子とビスケットが組み合わさり、独自の進化も見られます。

健康志向のビスケット

最近では、健康に気をつかう人が増えており、「体にやさしいビスケット」の種類も多くなっています。

企業は健康を意識したビスケットを開発し、より多くの人に選ばれる商品を目指しています。

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種類特徴人気の背景
低糖質・低脂肪ビスケット砂糖や脂肪を少なくした製品ダイエット中の人に人気。欧米で特に需要が増えています
グルテンフリービスケット小麦を使わない小麦アレルギーやグルテンに敏感な人向け。アレルギー対応製品として注目されています
有機(オーガニック)ビスケット化学肥料や農薬を使わない材料で作る環境や体へのやさしさを求める人に選ばれています
機能性ビスケット食物繊維やタンパク質を強化健康管理に気をつかう中高年やスポーツをする人に支持されています
ヴィーガン(植物性)ビスケット動物性の材料を使わない環境保護や動物福祉を考える人に選ばれています

環境に配慮したビスケット

環境への配慮として、生分解性素材やリサイクル可能なパッケージの採用が増加しています。

フェアトレードチョコレートやRSPO認証パーム油など持続可能な原材料調達が進み、環境負荷の少ない製造方法への移行が図られています。

このように、現代のビスケット産業は単なる美味しさだけでなく、健康・環境・社会的責任といった多様な価値観を反映した製品開発が進んでいます。

まとめ

ビスケットという名前には「二度焼きされたパン」という意味が込められており、その製法がそのまま名前の由来となっています。

生活必需品としての保存食から始まり、今日のビスケットは世界中で愛される菓子へと発展しました。

今のビスケットは、健康や環境、食文化の多様性といった、さまざまな価値を取り入れながら進化を続けています。

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