カステラの元になったお菓子とは?
今ではすっかり日本の定番となったカステラ。しっとりとしていて甘く、長方形の形をしたお菓子です。
しかしこの形や味は、日本で発展した独自のスタイルです。
カステラのルーツには、実は2つの説があると言われています。
1つはポルトガルのお菓子「パン・デ・ロー」、もう1つはスペインの保存食「ビスコチョ」です。
ポルトガルの「パン・デ・ロー」説
パン・デ・ローは、ポルトガルで古くから親しまれている伝統的なお菓子です。
特徴は、ふんわり柔らかく、中心部がとろっとした半熟の焼き加減にあること。材料には卵と砂糖をたっぷり使い、贅沢で濃厚な味わいが楽しめます。かつては高級品とされ、王様や貴族など一部の人だけが食べられる特別なお菓子でした。
実は、もともとのパン・デ・ローは完全に焼けておらず、半熟の状態は「失敗作」とされていました。しかし、あるとき王様がその食感を気に入り、「これが美味しい」と称賛したことで、半熟タイプが正式な形として広まりました。失敗から生まれた独自の美味しさが、のちに定番になったのです。
また、パン・デ・ローは修道院で作られることが多く、宗教的な意味合いも持っていました。卵や砂糖といった貴重な食材を使い、神への感謝を込めて焼かれていたのです。こうした背景から、パン・デ・ローは単なるスイーツではなく、「天の恵み」として大切にされていました。
現代の日本でも、半熟カステラがブームになったことがありました。この新しいカステラは、焼き加減や食感がパン・デ・ローに近く、ルーツに立ち返るような存在とも言えます。
スペインの保存食「ビスコチョ」説
もう一つの有力な説が、スペインから伝わった「ビスコチョ」というお菓子です。
ビスコチョとは、スペイン語で「2度焼く」という意味があります。その名のとおり、焼いたものをもう一度加熱して水分を飛ばして仕上げるため、表面がカリッとした硬い食感になります。
このお菓子は、スペインの船乗りたちが航海中に食べる保存食として使われていました。長い船旅のあいだも傷まず、日持ちするよう工夫された実用的な食品だったのです。食感や味よりも、保存のしやすさが重視されていました。
しかし、このビスコチョが日本に伝わると、少しずつ形や味が変わっていきました。日本人は、硬くて乾いたお菓子よりも、ふわっとした口あたりや甘みを好みます。また、日本の高温多湿な気候では、乾燥したお菓子よりもしっとりしたもののほうが合っていました。
こうして、保存食だったビスコチョは、日本人の嗜好に合わせて柔らかく甘いカステラへと進化していったのです。実用性を重視した食べ物から、「美味しさ」を追求するスイーツへと姿を変えていきました。
日本での改良と発展
伝来したばかりのカステラは、どちらかといえば硬く、パサついた食感だったと考えられています。しかし、日本の職人たちはその味や食感に満足せず、何度も試行錯誤を繰り返しました。材料の配合を変えたり、焼き方を工夫したりしながら、日本人の繊細な味覚に合うように改良を重ねていったのです。
また、日本の気候も、しっとりとしたカステラが生まれる要因になりました。湿度が高い日本では、ふわっとした柔らかさやしっとり感のあるお菓子の方が好まれます。そのため、乾いた焼き菓子ではなく、なめらかでしっとりとした現在のカステラが定着していったのです。