水菓子とは|本来の意味と現代で勘違いされている意味

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水菓子」という言葉を聞いて、あなたは何を思い浮かべるでしょうか。おそらく多くの人は、水ようかんや水まんじゅう、わらび餅といった、涼し気で透明感のある和菓子を連想するのではないでしょうか。しかし、この一般的な認識は本来の意味とは大きく異なっています。

目次

水菓子とは

水菓子とは、本来「果物(フルーツ)」のことを指す言葉なのです。りんごやみかん、桃やぶどうといった、私たちが日常的に「くだもの」と呼んでいるものこそが、正式な意味での水菓子でした。

ところが皮肉なことに、この本来の意味が忘れられていく一方で、現代では全く異なる意味で使われるようになりました。水ようかんや水まんじゅう、わらび餅、葛餅、ゼリーなどの和菓子を「水菓子」と呼ぶ人が増えているのです。

「水菓子」の言葉の歴史

なぜ果物が「水菓子」と呼ばれるようになったのでしょうか。そしてなぜ現代では全く異なる意味で使われているのでしょうか。この疑問を解くためには、日本の食文化の長い歴史を紐解く必要があります。

昔の「くだもの」と「菓子」

漢字が日本に伝わる以前の時代、人々は米や麦などの主食とは別に、木の実や果実などを軽食として食べる習慣がありました。松の実、びわ、柿、栗などの自然の恵みを、人々は「くだもの」と呼んでいたのです。ただし、この時代の「くだもの」は現在の果物だけを指すのではなく、主食以外の軽食全般を広く意味していました。弥生時代になって中国から漢字が伝来すると、この「くだもの」という和語に「菓子」や「果子」という漢字が当てられるようになりました。「菓」という字は果物を表す漢字であり、「子」は種や実を表すことから、木の実や果実を意味する言葉として使われ始めたのです。

橘が「菓子」の語源に

『日本書紀』には、第11代垂仁天皇が田道間守(たじまもり)という人物に、不老不死の薬とされた「非時香菓(ときじくのかぐのこのみ)」を探してくるよう命じたという伝説が記されています。「非時香菓」とは、時を選ばず香り高い果実という意味で、不老長寿をもたらす神秘的な食べ物として伝説に語り継がれていたものです。田道間守は中国やインドまで10年の歳月をかけて旅をし、ついに現在のミカンの原種である「(たちばな)」を持ち帰りました。しかし残念ながら、田道間守が帰国した時には、垂仁天皇はすでに亡くなっていました。それでも田道間守は天皇の陵墓に橘を供え、その後この橘は皇室の紋章にも使われるようになったのです。後に聖武天皇が「橘は菓子の頂上、人の好むところ」と言ったことから、この橘、ひいては果物全般が「菓子」と呼ばれる起源の一つになったと考えられています。なお、田道間守は、現在菓祖神として祀られています。この神社は全国の菓子業者から信仰を集める聖地となっています。

江戸時代に生まれた「水菓子」

時代が進み、大きな転換点となったのが江戸時代でした。この時代になると、砂糖の流通が本格化し、砂糖や小麦粉などを使用して人の手によって加工され、甘く作られた食べ物が一般的になってきたのです。江戸時代の人々は、人工的に作られた甘い食べ物と、自然の甘味である果実とを区別する必要を感じるようになりました。そこで、人の手が加えられた甘い食べ物を「菓子」と呼び、自然の果実については別の呼び方をするようになったのです。この果実の呼び方には地域差があり、関西地方では従来通り「くだもの」と呼び続けましたが、江戸では「水菓子」という新しい表現が生まれたのです。なぜ江戸の人々は果物を「水菓子」と名付けたのでしょうか。これは人工的に作られた「菓子」と対比して、自然の果実が持つみずみずしさや豊富な水分を強調したかったためと考えられています。また、「水」という文字には清らかさや自然さのイメージもあり、人工的な加工食品とは一線を画す自然の恵みという意味を込めたとも考えられます。

現代の「水菓子」の姿

本来の意味での「水菓子」が忘れられていく一方で、現代では全く異なる意味で使われるようになりました。

なぜ和菓子が「水菓子」と呼ばれるのか

これらの和菓子が「水菓子」として認識されるようになったのは、主にその見た目食感、そして季節性が大きな要因です。透明感や涼し気な見た目が、言葉から連想されるイメージと合致したのです。特に水ようかんや水まんじゅうのように、名前に「水」が付く和菓子は、より一層「水菓子」と呼ばれやすい傾向にあります。また、これらの和菓子は主に夏の暑い時期に食べられることが多く、涼しさを求める人々に「水」という文字が魅力的に感じられました。つるりとした食感や口当たりの良さも、「水菓子」というイメージを後押ししたと考えられます。さらに、かき氷などの氷を使った冷たい食べ物も、水菓子として認識されることがあります。確かにかき氷は氷(つまり水)を削って作るものですから、字面だけを見れば「水菓子」という名前にふさわしく感じられるかもしれません。

正しい食品分類

厳密には、現代で「水菓子」と呼ばれることの多い食べ物には、それぞれ正しい分類名があります。

生菓子

生菓子とは、食品衛生法に基づく分類で、水分含有率が30%以上の菓子類を指します。水ようかんやういろう、わらび餅、葛餅、大福どら焼きなどがこれに該当します。これらは主に餡類を用いて作られ、比較的日持ちしないという特徴があります。生菓子は和生菓子と洋生菓子に分けることができ、洋生菓子にはスポンジケーキシュークリーム、エクレアなどが含まれます。

干菓子

干菓子とは、水分含有率が10%以下の乾燥した菓子です。落雁、和三盆、煎餅、あられ、おかき、などがその代表例です。水分が少ないため長期保存が可能で、茶道の席でもよく用いられます。

氷菓子

氷菓とは、冷凍食品の一種で、アイスクリームシャーベット、かき氷などを指します。これは冷凍食品の一種として扱われ、アイスクリームシャーベット、かき氷などが含まれます。

「水菓子」と呼ばれる和菓子の種類

現在「水菓子」として認識されやすい和菓子には、それぞれ興味深い特徴と歴史があります。

わらび餅

本来のわらび餅は、山菜のわらび(蕨)の根から採取したデンプンを精製して作られる和菓子です。わらびの根を掘り起こし、叩いて砕き、水にさらしてデンプンを取り出すという非常に手間のかかる作業が必要です。このようにして作られた本わらび粉を使った「本わらび餅」は、独特の風味と弾力のある食感を持ち、薄茶色をしています。しかし、本わらび粉は採取量が限られており非常に高価なため、現在市販されているわらび餅の多くは、タピオカデンプンやサツマイモデンプン、じゃがいもデンプンなどで代用されています。これらの代用デンプンを使用したわらび餅は透明感があり、涼し気な見た目が特徴です。

葛餅

葛餅は、関西と関東で全く異なる食べ物です。

関西の葛餅

マメ科の植物である葛(くず)の根から採取したデンプンを使用して作られます。葛の根を砕いて水にさらし、沈殿したデンプンを精製するという、これもまた非常に手間のかかる工程を経て作られます。関西風の葛餅は透明感があり、プルプルとした独特の食感を持ちます。

関東の葛餅

小麦デンプンを発酵させて作られるもので、見た目は乳白色をしており、酸味のある独特の風味があります。関東の葛餅は「くず餅」と表記されることが多く、これは葛粉を使用していないことを示しています。同じ「葛餅」という名前でも、関西と関東では全く別の食べ物なのです。

水ようかん

ようかんは、通常のようかんと基本的な材料は同じですが、製法に違いがあります。通常のようかんは寒天をしっかりと煮溶かして餡と混ぜ、十分に煮詰めて固めるのに対し、水ようかんは寒天の量を少なくし、あまり煮詰めないことで水分量を多く保ちます。その結果、つるりとした滑らかな食感とすっきりとした甘さを持つ、夏らしい和菓子となるのです。

ゼリー

和菓子としてのゼリーは、寒天を主原料として作られることが多く、中にはオレンジや桃などの果物だけでなく、栗や梅、あんこなどの和風の具材が入ることもあります。寒天は海藻から作られるため、洋菓子で使われるゼラチン(動物性)とは異なる食感を持ちます。

ところてん

ところてんも「水菓子」のイメージが強い食べ物の一つです。ところてんは天草(テングサ)という海藻を煮詰めて作られます。同じ天草から作られる寒天は、ところてんを一度凍らせてから乾燥させたもので、より保存性を高めた食品です。ところてんは寒天と違って乾燥させないため、天草に含まれているミネラルや食物繊維をそのまま摂取することができます。

まとめ

水菓子」という言葉は、本来「果物」を意味するものでした。しかし、言葉の意味が時代とともに変化し、現在では水ようかんやわらび餅といった、涼し気な和菓子を指す言葉として広く認識されています。この変化は、日本の食文化の歴史を反映しているといえるでしょう。「水菓子」の本来の意味を知ることで、私たちが日頃楽しんでいる食べ物の背景にある、奥深い歴史をより深く理解することができます。

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