ファセットとは – 香水初心者向け解説

  • URLをコピーしました!
目次

ファセットとは何か

香水における「ファセット」とは、香りが持つ細かな要素や側面を表す言葉です。

香水はシトラスやフローラル、ウッディ、スパイシーといった大きな香調を組み合わせて作られていますが、その中にはさらに「パウダリー」「グリーン」「グルマン」など、より繊細で具体的なニュアンスが含まれています。

これらのニュアンスや香りの表情を一つひとつ切り取ったものをファセットと呼びます。

もともと宝石のカット面を意味する言葉であるように、ファセットは香りを多面的に見せる役割を持っています。

ひとつの香水の中に複数のファセットが共存することで、香りは平面的ではなく立体的に感じられ、奥行きや複雑さが生まれます。

つまり、ファセット香水の個性を形づくる「細やかな表情」をとらえるための大切な概念といえるのです。

「ファセット」をもっと説明

香りの世界に足を踏み入れると、一つの香水が時間の経過とともに異なる印象を与えることに気づくでしょう。

これは香水が単一の香りではなく、複数の要素が組み合わさって構成されているためです。

この複雑な香りの構造を理解するために開発されたのが「ファセット」という概念なのです。

ファセットの概念を理解する

ファセットという言葉の理解には、ダイヤモンドの構造が参考になります。

ダイヤモンドは数多くの面を持ち、それぞれの面がファセットと呼ばれます。

各面が異なる角度で光を反射することで、全体として複雑で美しい輝きが生まれるのです。

香りの世界でも同様の現象が起こっており、一つの香水は複数の異なる香りの側面から構成されています。

調香師がフレグランスを創作する際、彼らは様々なファセットを選択し組み合わせて完成された香りを作り上げます。

この過程は、画家が異なる色を使って絵を描いたり、作曲家が異なる楽器の音色を組み合わせて音楽を作ったりすることと類似しているでしょう。

ファセットという概念を理解することで、香りをより体系的に理解し表現することが可能になります。

ファセットの分類

パリ発の香りのスクール「サンキエムソンス」では、香りの世界を18種類のファセットに分類しています。

この分類システムは、香りを理解し表現するための具体的な方法論を提供します。

絵画において多くの色が必要なように、音楽において多くの楽器が存在するように、香りの豊かな表現のためにはこのような詳細な分類が有効なのです。

7つのファセットファミリー

この18のファセットの中で、7つが「ファミリー」と呼ばれる基本的なカテゴリーに分類されます。

ファミリーは香水の基本構造を形成する要素であり、建物における基礎や柱のような役割を果たします。

残りのファセットは、これらの基本構造に加えられる装飾的な要素として機能します。

何をファミリーとするかについては、世界の香料会社でも統一された見解は存在しません。

これは香りの世界が科学的側面と芸術的側面の両方を持つことを示しています。

しかし、一般的には7つから8つのファミリーが認識されており、これらを理解することで香りの基本的な構造を把握できます。

ファセットの概念を理解するために、代表的なファセットファミリーを一つずつ詳しく見ていきましょう。

シトラスファミリー

シトラスファミリーは、ベルガモット、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、マンダリンなどの柑橘類で構成されます。

このファセットは、つんと鼻を刺激するような快感と、ジューシーで酸味のある特徴を持ちます。

フランスでは、ギリシャ神話の「黄昏の娘たち」を意味するヘスペリデスと呼ばれることもあり、神々の園に実る黄金の果実を表現する香りとされています。

シトラスファセットの特徴は、その汎用性にあります。

若々しいフレッシュさから洗練されたエレガンスまで、幅広い表現が可能です。

他のファセットとの組み合わせにより、様々な印象を生み出すことができます。

フルーティファセット

フルーティファセットは、アップル、洋梨、カシス、フランボワーズ、無花果などの果実で構成されます。

シトラスが柑橘類に限定されるのに対し、フルーティはより広範囲の果実を扱います。

このファセットには親しみやすさがあり、活気に満ちた印象を与える特徴があります。

フルーティファセットには大きく二つのタイプが存在します。

摘みたての果実のような新鮮さを持つタイプと、コンポートや砂糖漬けのような凝縮された甘さを持つタイプです。

どちらもフレグランスに親しみやすさを付与する効果があります。

アロマティックファミリー

アロマティックファミリーは、ラベンダー、ミント、ティーなどのハーブ系植物で構成されます。

このファセットは清涼感があり、自然環境を連想させる特性を持ちます。

アロマティックと関連する「フゼア」というファセットも存在し、これはラベンダー、ゼラニウム、ベチバー、オークモス、クマリンという特定の香料の組み合わせによって作られるアコードです。

フゼアはマスキュリンな力強さと清涼感を併せ持つ表現を生み出します。

フローラルファミリー

フローラルファミリーは、ローズ、ジャスミン、オレンジフラワー、ミュゲ、イランイラン、チュベローズ、スズランなど、多くの花の香りを含みます。

花は生命の美しさを表現する存在であり、フローラルファセットも華やかさと優雅さ、生命力を特徴とします。

フローラルファセットでは、同じ花でも抽出方法や処理の違いによって異なる表情を見せることができます。

ローズを例にとると、フレッシュで軽やかな印象のものから、深く官能的な印象のものまで様々な表現が可能です。

グルマンファセット

グルマンファセットは、キャンディ、ケーキ、キャラメル、バニラ、チョコレートなど、菓子類を連想させる香りで構成されます。

グルマンはフランス語で「美食家」を意味し、嗅覚における美食体験を表現します。

このファセットは甘い香りによる快楽的な印象と、安心感や幸福感を提供する特徴があります。

グルマンファセットは比較的新しいカテゴリーですが、近年のフレグランス市場では広く使用されています。

子どもらしい無邪気な甘さから、大人の洗練された甘美さまで、幅広い表現が可能です。

オリエンタルファミリー

オリエンタルファミリーは、パチョリ、スパイス、アンバーリーノート(バニラ、ラブダナム、ベンゾイン)などで構成されます。

このファセットは深みがあり力強い印象を与え、神秘性と豊かさを表現します。

東洋文化の奥深さと贅沢さが反映されており、威厳と魅力を演出する効果があるでしょう。

ウッディファミリー

ウッディファミリーは、サンダルウッド、シダーウッド、パチョリ、ベチバー、オークモスなどの木質系香料で構成されます。

自然の力強さと安定感を表現し、森林環境を連想させる安らぎと、地に足のついた存在感を提供します。

ウッディファセットは時代とともに変化を見せています。

従来は男性的な印象が強かったものの、現在では性別を問わない香りとして広く受け入れられています。

やかで明るい表現も可能になり、フルーティと組み合わせたり、シトラスと合わせることで軽やかな仕上がりにすることもできます。

ファミリー以外のファセット

主要な7つのファミリー以外にも、香りの世界を豊かにする重要なファセットが存在します。

レザーファセット

ウッディと関連する「レザー」ファセットは、ラブダナム、バーチ、タバコなどを使用して、より個性的で力強い印象を作り出します。

レザーの香りには独特の官能性があり、着用者に自信と魅力を付与する効果があるでしょう。

シプレーファセット

「シプレー」は特別な位置づけを持つファセットです。

ベルガモット、ローズ、ジャスミン、オークモス、パチョリ、ラブダナムという特定の香料のブレンドによって作られるアコードで、洗練された華やかさを持ちます。

シプレーにはクラシックタイプとモダンタイプがあり、どちらも時代を超えて愛される普遍的な魅力を持っています。

ファセットの組み合わせ

実際の香水では、これらのファセットが単独で使用されることは稀で、複数のファセットが組み合わされて一つの完成された作品が作られます。

調香師は、それぞれのファセットの特性を理解し、バランスを考慮して組み合わせることで、意図した印象を持つ香りを創造するのです。

印象別にファセットを組み合わせる例

清々しい朝の気分を表現する場合、シトラスファセットやかな導入部を作り、アロマティックファセットで自然な清涼感を加え、軽いウッディファセットで安定感を与えるという構成が考えられます。

ロマンチックな印象を目指す場合は、フローラルファセットを中心に、グルマンファセットで甘美さを加え、オリエンタルファセットで神秘性を演出するという組み合わせが効果的です。

現代の香りのトレンド

現代の香りのトレンドを理解する際にも、ファセットの知識は有用です。

近年の価値観や生活様式の変化に伴い、求められる香りも変化しています。

自然回帰とジェンダーレスな香り

パンデミック後、自然との繋がりや内面的な充実感を求める傾向が強まりました。

これが香りの世界にも反映され、ウッディとフローラルのファセットの人気が高まっています。

従来、ウッディは男性的、フローラルは女性的とされていましたが、現在ではこれらの境界が曖昧になり、個人の感性に基づいた選択が行われています。

個性を重視する「自分のための香り」

「自分のための香り」という考え方も浸透しています。

他人に与える印象よりも、自分自身が心地よく感じることを重視する傾向があるのです。

これにより、従来の大手ブランドに加えて、より個性的で独創的な香りを提案する「コンフィデンシャルパフューマリー」と呼ばれる小規模ブランドへの注目も高まっています。

これらのブランドは、ファセットの組み合わせにおいて従来の常識にとらわれない実験的なアプローチを取っており、香りの可能性をさらに広げました。

コンフィデンシャルブランドの影響により、ノンジェンダーのフレグランスが定着し、特にウッディファセットの人気が高まっています。

まとめ

ファセットの概念を理解することで、個人の香りの好みもより明確になります。

これまで漠然としていた好みを、具体的にどの要素に魅力を感じているかという形で言語化できるようになるでしょう。

これは香水選びをより効率的で満足度の高いものにします。

18のファセットの完全なマスターには時間が必要ですが、まず7つのファミリーから始めて、徐々に理解を深めていくことができます。

香りの世界は実際の体験が重要であるため、理論と実践を組み合わせながら学習を進めることが効果的です。

香りを言語化するスキルは、香水の楽しみ方を広げるだけでなく、他の感覚体験にも応用できます。

ファセットという概念は、香りの世界を体系的に理解するための枠組みを提供します。

この枠組みがあることで、複雑な香りの世界を効率的に探索し、新しい発見と理解を得ることができるでしょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次