マームールとは
マームールは、エジプト、レバノン、シリアを中心とした東地中海沿岸地域で愛される伝統的な焼き菓子です。
この菓子の名前はアラビア語の「マアムール」に由来し、これは「詰め物をされた」という意味を持ちます。
その名の通り、生地の中に様々な詰め物が入っていることが特徴です。
マームールの歴史
マームールは、古代エジプト時代から存在すると言われています。
地理的・文化的背景
エジプト、レバノン、シリアは、古くからアフリカ、アジア、ヨーロッパを結ぶ文明の交差点でした。
肥沃なナイル川流域では小麦が栽培され、東地中海沿岸地域ではピスタチオやデーツなどのナッツ類やドライフルーツが豊富に生産されていました。
これらの地域が共通して栽培していたのが、硬質小麦であるデュラム小麦です。
イスラム文化圏での発展
7世紀にイスラム教が広まって以降、これらの地域はアラブ・イスラム文化圏として一体的な発展を遂げました。
アラビア語という共通言語、イスラム教という共通の宗教、そして類似した生活習慣が、食文化においても共通性をもたらしました。
マームールの構造
マームールは、生地と詰め物から成り立っています。
生地
マームールの生地には、デュラム小麦を粗挽きしたセモリナ粉が使われます。
セモリナ粉は通常の小麦粉よりも粒子が粗く、独特の風味と歯応えがあり、マームール独特のほろほろとした食感と、黄色味がかった色合いを生み出します。
このセモリナ粉に、バター、グラニュー糖、ドライイースト、水を加えて作られます。
詰め物
最も一般的な詰め物は、デーツ、クルミ、ピスタチオです。
デーツは、ナツメヤシの実を乾燥させたもので、とろりとした食感と自然な甘みが特徴です。
クルミやピスタチオといったナッツ類は、食感にアクセントを加えるだけでなく、栄養価も高めています。
これらの材料を細かく刻み、バターと水で加熱して餡にします。
この過程でシナモンなどのスパイスを加えることで、風味に深みを与えます。
マームールの製造過程
マームールの製造には、いくつかの工程があります。
成型
マームールは、単に丸めるだけでなく、**「タベ」**と呼ばれる専用の木型を使用して成型されます。
この木型には様々な種類があり、表面に美しい装飾パターンを施します。
この模様は、イスラム装飾文化の影響を受けており、幾何学的で繊細な美しさを特徴としています。
焼成
マームールは比較的短時間、約15分から20分程度オーブンで焼かれます。
短時間で仕上げることで、外側はほろほろとしながらも、内側は柔らかな食感が保たれます。
マームールと文化的な行事
マームールは、宗教的・文化的に深い意味を持っています。
イスラム教の祝祭
イスラム教徒にとって、マームールは「イード」と呼ばれる祝祭に欠かせないお菓子です。
特に、ラマダンという断食月の終わりを告げる「イード・アル・フィトル」で重要な役割を果たします。
この時期には、家族や友人と一緒にマームールを手作りする習慣があり、これは絆を深める重要な行事となっています。
その他の文化的役割
マームールは、キリスト教徒にとっても重要な意味を持っています。
イースターやクリスマスの際に教会で配られることもあります。
誕生日や結婚式などの特別な機会の贈り物としても用いられます。
また、アラビアコーヒーやミントティーと共に、来客をもてなす際にも供されます。
現代のマームール
現代では、マームールは年中いつでも楽しむことができるお菓子です。
特別な宗教行事だけでなく、日常的に食べられるようになっています。
その美しい外観と独特の味わい、そして豊かな文化的背景を持つマームールは、東地中海沿岸地域の歴史と文化を現在に伝える貴重な食文化の遺産と言えるでしょう。