ガレット・デ・ロワとは
ガレット・デ・ロワは、フランス語で「王様のお菓子」を意味する伝統的な焼き菓子です。
1月になると、フランスや日本のパン屋、ケーキ屋で見かけることが多くなります。
円形で表面に模様が施されており、中に隠された小さな陶器の人形を当てた人が「王様」になるという特徴があります。
この記事では、ガレット・デ・ロワの歴史から、その構造、伝統的な作法、そして世界各地への広がりについて解説します。
ガレット・デ・ロワの起源
この菓子の歴史は、古代ローマ時代にまで遡ります。
ガレット・デ・ロワの起源は、古代ローマの祭り「サトゥルナーリア」にあります。
この祭りでは、貧富の差なく皆で平等に楽しみ、豊作を願いました。
その習慣として、豆を一つ入れたケーキを皆で分け合い、豆を当てた人が一時的に特別な地位に就くことがありました。
この古代の習慣は、形を変えながら中世フランスに伝わり、1月に行われる「道化の祭り」と結びつきました。
キリスト教の祝日との関係
現在ガレット・デ・ロワが1月6日前後に食べられるのは、キリスト教の祝日「エピファニー」(公現祭)と関係しています。
エピファニーは、東方の三博士が誕生したキリストを訪れた日を記念するものです。
ガレット・デ・ロワの「ロワ」(王たち)は、この三博士の王を指しており、キリストの降誕を祝う宗教的な意味合いを持つお菓子として発展しました。
ガレット・デ・ロワの構造
ガレット・デ・ロワは、円形で平たい形をしており、サクサクとしたパイ生地の中にアーモンドクリームが入っています。
生地
ガレット・デ・ロワの生地は、サクサクとした折りパイ生地です。
この生地は、小麦粉とバターを何層にも重ねて作られており、焼くと層が膨らんで軽やかな食感になります。
クリーム
中に包まれているアーモンドクリームは「クレームダマンド」または「フランジパーヌ」と呼ばれます。
フランジパーヌは、アーモンドクリームにカスタードクリームを混ぜたもので、よりなめらかでクリーミーな食感になります。
フェーヴ
ガレット・デ・ロワには、「フェーヴ」が隠されています。
フェーヴは、フランス語で「そら豆」を意味し、現在はお菓子の中に隠された小さな陶器製の人形を指します。
これを引き当てた人は、その日一日「王様」または「王妃様」となり、紙製の王冠を被って皆から祝福を受けます。
この紙製の王冠は、キリストを訪れた三博士の「王冠」に由来するとされています。
ガレット・デ・ロワの模様の意味
ガレット・デ・ロワの表面には「レイエ」と呼ばれる幾何学模様が施されています。
この模様は単なる装飾ではなく、新年にふさわしい願いが込められています。
太陽をモチーフにした放射状の模様は「生命力」、麦の穂をモチーフにした縦方向の模様は「豊穣」を象徴します。
ひまわりをモチーフにした格子状の模様は「栄光」や「忠誠」、月桂樹をモチーフにした模様は「勝利」を象徴します。
ガレット・デ・ロワの伝統的な食べ方
ガレット・デ・ロワを食べる際には、公平性を保つための伝統的な作法があります。
一番年下の子どもが決める
ガレットを切り分ける際、一番年下の子どもがテーブルの下に隠れて、誰にどのピースを渡すかを決めます。
これにより、誰がフェーヴを引き当てるかを完全に運に任せることができます。
人数よりも一つ多く切り分ける
また、かつては参加者の人数よりも一つ多く切り分ける習慣がありました。
その余った一切れは「神様の分け前」として、貧しい人々に分け与えたり、その場にいない人のために取っておかれたりしました。
これはキリスト教の慈悲の精神を実践する機会でもありました。
フランス国内の地域差
ガレット・デ・ロワには、フランス国内でも地域による違いが見られます。
北部と南部の違い
パリを中心とした北部地域では、パイ生地にアーモンドクリームを入れたタイプが一般的です。
一方、南仏地域では、「ガトー・デ・ロワ」または「ブリオッシュ・デ・ロワ」と呼ばれる、ブリオッシュ生地で作られたタイプが主流です。
これは、レモンやオレンジのピールで香りをつけた王冠の形をしています。
ガレット・デ・ロワとピティヴィエの違い
ピティヴィエは、フランスのピティヴィエという町で生まれた伝統的な焼き菓子です。
ガレット・デ・ロワと同じく、パイ生地の中にアーモンドクリームが入っています。
見た目が似ているため混同されやすいのですが、この2つの菓子には違いがあります。
ピティヴィエとガレット・デ・ロワは、作られる時期や見た目、中に含まれるクリームなどに違いがあります。
食べられる時期
ガレット・デ・ロワが新年のエピファニーの時期に食べられるお菓子であるのに対し、ピティヴィエは一年中作られ、食べられています。
形状と模様
ガレット・デ・ロワが平たい円形であるのに対し、ピティヴィエはドーム型をしています。
表面の模様も異なり、ガレット・デ・ロワが太陽や麦の穂など複数のモチーフを使うのに対し、ピティヴィエは「ロザス」と呼ばれるバラを模した放射状の模様のみが使われます。
中身
ピティヴィエの中には、フェーヴは入っていません。
また、ガレット・デ・ロワのクリームがカスタードクリームを混ぜたフランジパーヌであるのに対し、ピティヴィエはカスタードクリームを混ぜない純粋なアーモンドクリームを使用しています。
そのため、ピティヴィエの方がアーモンドの香りが強く、濃厚な味わいです。
ガレット・デ・ロワと似ている世界各地の菓子
ガレット・デ・ロワの伝統は、キリスト教の広がりとともに世界各地に伝わり、それぞれの地域で独自に変化しました。
ここでは、ガレット・デ・ロワと似た習慣を持つ世界の菓子をいくつか紹介します。
トルテリュ(スペイン)
スペインのカタルーニャ州では、トルテリュ(Tortell)という菓子が公現節に食べられます。
これはリング状のブリオッシュ生地に、砂糖漬けの果物やナッツが飾られたものです。
トルテリュの中には、陶器の人形やコインが隠されており、これらを当てた人が幸運を得るという習慣があります。
ヴァシロピタ(ギリシャ・キプロス)
ギリシャやキプロスでは、ヴァシロピタ(Vasilopita)と呼ばれるパンやケーキを新年に食べます。
これは、1月1日の聖ヴァシリオスの日に食べる伝統的な菓子です。
中にコインが一つ隠されており、自分のピースからコインが出てきた人は、その年を幸運に過ごせると言われています。
キングケーキ(アメリカ)
アメリカのルイジアナ州、ニューオーリンズではキングケーキが食べられています。
これはフランスとスペインからの入植者によって持ち込まれた伝統が変化したものです。
リング状のパン生地にアイシングや砂糖が施されており、中には小さな人形が隠されています。
この人形を引き当てた人は、次のキングケーキのパーティを主催する義務がある、というルールもあります。
現代のガレット・デ・ロワ
現代のフランスでは、1月中に複数回ガレット・デ・ロワを楽しむ習慣があります。
職場でも「ガレット・パーティ」が開かれ、新年を祝う機会となっています。
フランス政府の大統領府では、政治的配慮からフェーヴを入れない大きなガレットが用意されます。
日本では、宗教的な習慣がなくても、このお菓子を家族や友人と楽しむ文化が広まっています。
多くの店舗では、安全のため陶器のフェーヴの代わりにアーモンドを入れるなどの対応をしています。
このように、ガレット・デ・ロワは長い歴史を持ちながら、時代と共に形を変え、人々のつながりや新年の希望を象徴するお菓子として愛され続けています。