「生のとき」とは|新しすぎてチョコレートとは呼べない

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「生のとき」とは何か

「生のとき しっとりミルク」は、株式会社明治が開発・販売する新しいタイプのお菓子です。

この商品は、見た目は一般的な板チョコレートに似ていますが、口に入れたときの食感は生チョコレートのように柔らかく、なめらかに溶ける特徴を持っています。

これまでのチョコレート市場では、健康や機能性を重視した商品が主流でしたが、「生のとき」はそうした流れとは一線を画し、お菓子本来の甘さやおいしさを追求して作られました。

商品の形状と内容について具体的に説明すると、1つのパッケージに4枚のお菓子が入っています。

1枚の大きさは、お米を原料とするお菓子「ハッピーターン」とほぼ同じサイズです。

味わいは非常に濃厚で、生クリームとカカオの風味がバランスよく組み合わさっており、クリーミーなミルク感と香り高いカカオ感が口の中に広がります。

口の中でゆっくりと時間をかけて溶けていくため、深い甘みと豊かな余韻を長く楽しむことができます。

「生のとき」の価格設定

「生のとき」の価格は、税込みで330円程度に設定されました。

これは、明治が通常発売する新しいチョコレート商品の価格が約220円であるのと比較すると、約1.5倍の価格でした。

価格は高めであるにもかかわらず、週間での売上個数は、明治が事前に想定していた約2倍に達しました。

通常、新しいチョコレート商品で週間3個から4個売れれば合格点とされる中、これは想定を大きく上回る売れ行きを記録しました。

「生のとき」が誕生した背景:美味しさ重視

この商品が生まれた背景には、日本のチョコレート市場における消費者意識の変化があります。

日本のチョコレート市場では、長年にわたり新しい大ヒット商品が生まれにくい状況が続いていました。

1998年に明治が発売した「チョコレート効果」をきっかけに、健康に良いとされるポリフェノールを多く含む高カカオチョコレートが広く普及しました。

この背景には、消費者がチョコレートを食べる際の罪悪感を減らし、「体に良い成分が入っているから食べても大丈夫」という心理的な安心感を求めたことが挙げられます。

しかし、このような健康や機能性を重視する流れが続いた結果、一部の消費者の間で「高カカオ疲れ」や「健康・機能性疲れ」といった現象が起こり始めました。

これは、健康志向のチョコレートばかりが続くことに対する飽きや、甘くておいしいチョコレートを純粋に楽しみたいという欲求が高まってきたことを示しています。

「生のとき」は、まさにこの「お菓子本来の嗜好性(おいしさ)」を求める消費者の声に応える形で開発されました。

「生のとき」の独特な食感:生チョコレートのような口どけ

このお菓子が持つ最大の特徴の一つが、その独特な食感です。

見た目は、手に持っても溶けにくい硬さの板状ですが、実際に口に入れると、生チョコレートのようにしっとりとした柔らかさがあり、なめらかに溶けていきます。

この食感は、従来の板チョコレートのパリッとした食感とも、生チョコレートのねっとりとした食感とも異なります。

口の中でゆっくりと溶けながら、濃厚な甘みとカカオの風味が広がるため、一口をじっくりと味わうことができます。

食べた後も、深いカカオの香りが口の中に残り、心地よい余韻を楽しむことができるように作られています。

「生のとき」の作り方:生ねり製法

この独特な食感は、明治が長年にわたり開発した独自の技術によって実現しました。

この技術は「生ねり製法」と呼ばれ、約5年という開発期間を経て生み出されました。

この製法が開発されるまでには、技術的な課題がありました。

チョコレートの主成分であるカカオ(油分)と、生チョコレートに欠かせない生クリーム(水分)は、本来混ざりにくい性質を持っています。

これは、油と水が分離しやすいという物理的な性質によるものです。

「生ねり製法」は、この課題を解決するために、特殊な圧力と練り込み技術を組み合わせた新しい手法です。

この手法を用いることで、少ない水分量でもカカオと生クリームを均一に混ぜ合わせることが可能になりました。

この独自の技術により、板チョコレートのように常温で保存できる安定性を保ちながら、生チョコレートのような柔らかく溶ける食感を持つ、両方の良い点を兼ね備えた商品が誕生しました。

この製法は明治によって特許として登録されています。

「生のとき」の分類:菓子

「生のとき」は、法的な分類において一般的なチョコレートとは異なる位置づけにあります。

全国チョコレート業公正取引協議会が定める基準では、水分が3パーセント以下のものを「チョコレート」と、水分が10パーセント以上のものを「生チョコレート」と分類します。

「生のとき」の水分量は3パーセントを超え10パーセント未満という、この二つの分類の中間に位置しています。

そのため、「生のとき」は、法的な分類上は「チョコレート」や「生チョコレート」ではなく、「菓子」として扱われます。

「生のとき」のキャッチコピー:新しすぎてチョコレートとは呼べない

この商品のキャッチコピーも、その独自性を表現するために戦略的に考えられました。

明治は、法的な分類が「菓子」であることを逆手に取り、「新しすぎてチョコレートとは呼べない」というキャッチコピーを採用しました。

この言葉は、単に法律上の分類を説明するだけでなく、既存のチョコレートというジャンルには当てはまらない、全く新しいお菓子であることを消費者に強く印象づける狙いがあります。

これにより、消費者の好奇心を刺激し、商品への関心を引き上げることに繋がりました。

「生のとき」と従来の生チョコレートの比較

「生のとき」は、従来の生チョコレートが抱えていたいくつかの問題を解決し、より手軽に楽しめるように改良されています。

従来の生チョコレート

従来の生チョコレートは、水分が多いため温度に非常に敏感です。

そのため、品質を保つには冷蔵保存が必須でした。

また、賞味期限が約1ヶ月と短く、指の熱でも溶けやすいため、指でつまむとすぐに形が崩れてしまうという問題がありました。

多くの生チョコレートは、食べる際に専用のピックを使って口に運ぶ必要がありました。

さらに、水分が多い生チョコレートでは、品質を保ち、菌の繁殖を防ぐために洋酒が使われることが一般的でした。

生のとき

「生のとき」は、従来の生チョコレートの課題を解決するように設計されています。

常温での保存が可能で、28℃以下の涼しい場所であれば品質を保つことができます。

賞味期限も10ヶ月と長期間に設定されており、カバンの中や職場のデスクに常備しておくことができ、好きなときにいつでも楽しめます。

また、個包装で細長い小判状の形をしているため、手を汚さずにそのまま食べられるように工夫されています。

さらに、洋酒が使用されていないため、子どもやドライバーなど、アルコールを摂取できない人も安心して食べることができます。

「生のとき」の販売戦略

「生のとき」の発売当初の販売戦略も、商品の独自性を際立たせるものでした。

明治は、全国で一斉に発売するのではなく、関東甲信越の限られた地域、具体的には東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、山梨県、栃木県、群馬県、新潟県、長野県に限定し、数量を絞って発売しました。

この地域限定の販売方法により、販売されていない地域の消費者からの関心が高まりました。

SNSでは「どこにも売っていない」「ようやく見つけた」といった投稿が相次ぎ、これらの情報が拡散されることで、商品への注目度が高まりました。

発売からわずか1ヶ月後の2025年6月初週には、準備していた生産在庫65万個がすべて出荷されるほどの売れ行きとなりました。

「生のとき」の広告展開

広告には、女優の新垣結衣さんが起用されました。

「日本で初めてチョコレートを食べた人」という設定で撮影が行われ、浮世絵のタッチで描かれた新垣さんと現代の新垣さんが同じ画面に登場する演出が採用されました。

この和と洋が融合した独特な世界観は、商品の新しさと、これまでのチョコレートの常識を覆すコンセプトを表現する狙いがありました。

「生のとき」の今後の展開

明治は、「生のとき」を一時的な商品ではなく、新しいお菓子市場を創出するための重要な柱と位置づけ、今後の展開について具体的な計画を公表しています。

販売地域の拡大

2025年10月7日からは、販売地域を中部、関西エリアまで拡大することがすでに決定しています。

この第2弾の展開も、発売当初と同様に数量限定での販売となります。

明治は、この段階的な販売地域の拡大を通じて、商品の生産体制を整えながら、より多くの消費者に商品を届けたいと考えています。

最終的には、できるだけ早い時期での全国での販売を目指しています。

賞味期限の延長

賞味期限を現在の10ヶ月から12ヶ月に延長することも予定されています。

この変更は、流通や在庫管理の効率化を図るとともに、消費者にとってはさらに長い期間、商品をストックできるという利便性の向上につながります。

ラインアップの拡充

長期的には、「生のとき」のラインアップを増やす計画も進められています。

現在、「しっとりミルク」のみの展開ですが、今後は抹茶やイチゴ、ナッツなど、様々なフレーバーを追加していくことが検討されています。

これにより、消費者は好みに合わせて様々な味を楽しむことができるようになります。

独自技術「生ねり製法」の応用

「生のとき」のために開発された独自技術「生ねり製法」を、他の菓子類に応用することも検討されています。

この技術は、常温で保存できる安定性と、柔らかく溶ける食感を両立させることを可能にするため、既存のチョコレートキャンディー、焼き菓子など、様々なお菓子に新しい価値をもたらす可能性があります。

明治は、この製法を活かして、これまでにない新しいジャンルのお菓子を創出することを目指しています。

まとめ

「生のとき」は、健康や機能性を重視する流れが続いていた日本のチョコレート市場において、お菓子本来のおいしさを追求して作られた商品です。

独自の「生ねり製法」によって、板チョコレートの保存性と生チョコレートの食感という、相反する両方の利点を併せ持っています。

既存のチョコレートのカテゴリーを超えた新しいお菓子として、消費者の「おいしいものを楽しみたい」という気持ちに応えた商品と言えるでしょう。

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