かき氷とは|平安時代から続く歴史や種類、作り方を解説

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目次

かき氷とは

かき氷は、氷を細かく削って器に盛り、その上に色とりどりのシロップをかけた日本の伝統的な冷たいデザートです。

削られた氷の軽やかな食感と、甘いシロップが組み合わさることで、暑い夏の日に体を冷やし、涼を取るための代表的な食べ物として、日本全国で親しまれています。

「かき氷」という名前の由来

この食べ物がなぜ「かき氷」と呼ばれるのかには、複数の説があります。

欠き氷からかき氷になった説

最も広く受け入れられているのは、昔は冷凍技術がなかったため、天然の氷を保存している間に表面が欠けてしまい、その「欠けた氷」の部分を利用して作ったことから「欠き氷」と呼ばれたという説です。

それが時代とともに「かき氷」という呼び名に変化したとされています。

氷を手で掻いて食べた説

別の説では、氷を手で掻いて食べたことから「かき氷」と名付けられたとも言われています。

この説は、手で氷を掻くという行為そのものに由来するという考え方です。

ぶっかき氷が短縮された説

東京の方言では、氷を大胆に砕いて食べることを「ぶっかき氷」と呼んでいました。

この「ぶっかき氷」が短縮されて「かき氷」になったという説もあります。

地域による呼び方の違い

地域によって呼び方に違いがあり、西日本では「かちわり氷」と呼ばれることもありました。

この呼び方は、氷を砕く様子を表していると考えられています。

かき氷の歴史

かき氷の歴史を知ることで、この食べ物がいかに古くから日本人に愛されてきたかがわかります。

平安時代のかき氷

かき氷の起源は、平安時代まで遡ります。

今から約1000年以上前には、すでに食べられていたことが文献に記されています。

清少納言が書いた『枕草子』という古典文学作品の中に、「削り氷(けずりひ)にあまづら入れて、あたらしき鋺(かなまり)に入れたる」という記述があり、これが日本におけるかき氷に関する最も古い文献記録とされています。

この記述を現代の言葉で説明すると、「削った氷に甘葛(あまづら)という甘味料をかけて、新しい金属製のお椀に入れたもの」となります。

貴重品だった氷

この時代のかき氷は、現在のように誰でも気軽に楽しめる食べ物ではありませんでした。

なぜなら、製氷技術が存在しなかった当時、氷は非常に貴重なものだったからです。

人々は冬の間に自然にできた天然氷を「氷室」と呼ばれる地下の貯蔵庫に保存していました。

奈良県天理市にある氷室は国内最古のものとされ、約1300年前に作られたと考えられています。

夏になると、この氷室から氷を取り出して都へ運んでいましたが、運搬中にも氷は徐々に溶けてしまうため、最終的に氷を手に入れることができたのは朝廷の貴族など限られた上流階級の人々だけでした。

貴重品だった甘味料

甘味料も当時は非常に高価な品物でした。

『枕草子』にある「甘葛」(蔦の樹液から作られた天然の甘味料)や蜂蜜は、氷と同様に貴重なものでした。

このため、かき氷は氷と甘味料という二つの贅沢品を組み合わせた、極めて豪華な食べ物として位置づけられていました。

『枕草子』で清少納言がかき氷を「あてなるもの」(上品なもの)として紹介していることからも、当時の貴族たちがこれを特別な食べ物として扱っていたことがうかがえます。

江戸時代のかき氷

時代が進んで江戸時代になっても、かき氷の状況はそれほど大きく変わりませんでした。

北海道や東北地方、富士山麓といった寒冷地で採取された天然氷を江戸まで運ぶ技術は発達していましたが、輸送には多大な費用がかかるため、将軍家や大名、豪商など限られた裕福な人々しか味わうことができませんでした。

一般の町人や農民にとって、かき氷はまだまだ手の届かない憧れの食べ物だったのです。

明治時代のかき氷

この状況が劇的に変化したのは、明治時代に入ってからでした。

日本初の氷水店開業

1869年(明治2年)に、横浜の馬車道通りで町田房造という人物が日本初のかき氷店「氷水店」を開業しました。

この出来事は、かき氷が一般の人々にとって身近な存在になるきっかけとなった重要な転換点です。

町田房造は、徳川幕府の使節団としてアメリカに渡った経験を持つ人物でした。

彼はアメリカで学んだ氷の製法や冷たいデザートの作り方を日本に持ち帰り、それを活かしてかき氷だけでなくアイスクリームも販売する店を始めたのです。

しかし、開業当初は人々にとってかき氷がどのような食べ物なのかわからず、あまり人気は高くありませんでした。

普及を後押しした技術革新

かき氷が全国的に広まった背景には、二つの重要な技術革新がありました。

氷削機の発明

まず、1887年に機械で氷を削る「氷削機」が発明されました。

それまでは手作業で氷を削っていたため、均一で細かい氷を大量に作ることは困難でした。

機械の発明により、効率的に美しいかき氷を大量に作ることが可能になったのです。

明治20年には村上半三郎という人物がより精密なかき氷機を発明し、手作業では難しかった薄く均一な氷を削ることが可能になりました。

これにより、現代のかき氷に近いふわふわとした食感を実現できるようになりました。

人工製氷技術の確立

さらに、1897年頃には人工的に氷を製造する技術が確立されました。

これにより、自然の氷に頼らずに一年中安定して氷を供給することができるようになりました。

この二つの技術革新の組み合わせは、かき氷の普及に決定的な影響を与えました。

人工氷と氷削機の登場により、かき氷の製造コストが大幅に下がり、品質も安定し、一般の人々にも手の届く価格で提供できるようになったのです。

氷旗の起源

この時期に生まれた制度の一つに「氷旗」があります。

急速に増加した製氷店を適切に管理するため、政府は衛生検査に合格した業者に対して、店名を示した幟や看板を掲げることを義務付けました。

これが現在でもかき氷店でよく見かける白地に青い字で「氷」と書かれた旗の起源となっています。

この旗は単なる装飾ではなく、その店が衛生基準を満たしていることを示す公的な証明書のような役割を果たしていました。

かき氷の作り方

氷の削り方

かき氷の基本的な作り方を理解するために、その構造を詳しく見てみましょう。

まず、氷を専用の機械で細かく削ります。

この工程が最も重要で、氷を削る際のポイントは、できるだけ薄く細かく削ることです。

薄く削ることで氷の表面積が大きくなり、シロップとよく絡み合うようになります。

また、細かく削ることで口の中での食感が軽やかになり、ふわふわとした独特の食感を生み出すことができます。

シロップのかけ方

削った氷は器に盛られ、その上に色とりどりのシロップがかけられます。

シロップをかける際にも技術が必要です。

氷を層状に重ねながらシロップをかけることで、氷とシロップが均等に混ざり合い、最後の一口まで味を楽しめるようになります。

単純に氷の上にシロップをかけるだけでは、下の部分は味がなく、上の部分だけが甘くなってしまうからです。

使用する氷による違い

かき氷の味を大きく左右するもう一つの要素が氷の品質です。

使用する氷によって、かき氷の食感や味わいは大きく変わります。

天然氷を使用

天然氷は、冬の間に自然にできた氷を氷室などで保存したものです。

ゆっくりと時間をかけて凍るため、不純物が少なく、硬さや品質が均一になります。

このため、かき氷機で削った時にふんわりとした食感を生み出します。

舌触りも滑らかで、口の中で溶ける際の感触も上品です。

純氷を使用

純氷は、水道水などをろ過し、不純物を取り除いた水を時間をかけてゆっくりと人工的に凍らせた氷のことです。

天然氷と同様に、不純物が少ないため透明度が高く、密度が均一な氷ができます。

削った際にきめ細かな氷になりやすく、ふわふわとした食感のかき氷を作るのに適しています。

家庭用や市販の氷を使用

一方、家庭用冷凍庫で作った氷や一般的な製氷機で作られた氷を使用すると、よりガリガリとした固い食感になることがあります。

これは、氷を作る際の冷却速度や不純物の含有量の違いによるものです。

急速に凍らせると、空気が含まれやすくなり、氷の結晶も不揃いになります。

また、市販のカップかき氷では、保存性を考慮して氷の密度を高くしているため、専門店のふわふわした食感とは異なる、より密度の高い食感になります。

かき氷のフレーバー

シロップの種類は、時代とともに非常に豊富になっています。

最も基本的で伝統的なフレーバーとしては、鮮やかな赤色のいちご味、やかな酸味を持つレモン味、独特の香りと甘さが特徴のメロン味があります。

これらは戦後から現在まで変わらない定番の味として愛され続けています。

これらの基本的なシロップに加えて、さまざまな味付けも発展してきました。

ブルーハワイとは

お祭りの屋台などでよく見かける「ブルーハワイ」は、比較的新しく生まれたフレーバーです。

鮮やかな青色が特徴的で、その名前はカクテルの「ブルー・ハワイ」から取られています。

味はソーダのようなやかな風味で、見た目の鮮やかさと相まって子供たちに人気があります。

和のフレーバー

みぞれ

白い砂糖蜜だけをかけた「みぞれ」は、雪のような純白の見た目が特徴です。

甘さも控えめで上品な味わいです。

金時

小豆あんをのせた「金時」は、甘いあんこと冷たい氷の組み合わせが絶妙で、和風のデザートとして根強い人気があります。

宇治金時

抹茶シロップと小豆あんを組み合わせた「宇治金時」は、抹茶の苦みとあんこの甘さ、氷の冷たさが三重に楽しめる味わいです。

エスプーマを使ったかき氷

技術的な革新として注目されるのが「エスプーマ」を使ったかき氷です。

エスプーマはフランス語で「泡」を意味する言葉で、特殊な装置を使って液体を泡状にする調理技術です。

この技術をかき氷に応用することで、従来のシロップとは全く異なる軽やかで口どけの良いトッピングを作ることができます。

泡状のクリームやムースが氷の上にふわりと乗せられた様子は視覚的にも美しく、食べた時の食感も通常のかき氷とは大きく異なります。

おかず系かき氷

従来の概念を覆すような「おかず系かき氷」も登場しています。

これは甘いデザートとしてのかき氷の常識を打ち破り、野菜やチーズ、豆腐、肉や惣菜などをトッピングしたものです。

甘いシロップの代わりに味噌ベースのソースや出汁を使用することもあり、まるで冷製スープのような味わいを楽しむことができます。

これは甘いものが苦手な人や、デザートではなく軽食として氷を楽しみたい人にとって、新しい選択肢となっています。

韓国のピンス

近年のかき氷は、伝統的な日本のスタイルを基礎としながらも、海外の影響を受けて大きな変化を遂げています。

韓国の「ピンス」は、パウダースノーのような極めて細かい氷の上に、あずきやフルーツ、アイスクリームなどを豪華にトッピングしたものです。

日本の伝統的なかき氷と比べて量が多く、複数人でシェアして食べるスタイルが一般的です。

全体を混ぜながら食べることで、様々な食材の味が混ざり合い、一口ごとに異なる味わいを楽しめます。

台湾のかき氷

台湾かき氷も日本で広く知られるようになっています。

台湾は一年中温暖な気候のため、かき氷文化が非常に発達しており、新鮮な南国のフルーツを使ったかき氷が特徴的です。

特に有名なのがマンゴーかき氷で、完熟したマンゴーの果肉を贅沢に使用し、マンゴーシロップと組み合わせることで、フルーツ本来の甘さと香りを最大限に活かしています。

もう一つの台湾の特徴的なかき氷として、タロイモを使ったものがあります。

タロイモはアジア圏で広く栽培される芋の一種で、日本ではあまり馴染みがない食材ですが、独特の風味と紫がかった色合いが特徴的です。

これを煮てペースト状にしたものをトッピングしたり、シロップとして使用したりすることで、他では味わえない独特の味わいのかき氷を楽しむことができます。

かき氷の文化

かき氷専門店

現在の日本には、一年中営業しているかき氷専門店も数多く存在します。

これらの店舗では、それぞれが独自のこだわりを持って高品質なかき氷を提供しています。

栃木県日光市の「湯沢屋茶寮」では、日光の天然氷を使用した和風かき氷を提供しており、氷の質の良さと伝統的な味付けで評価を得ています。

埼玉県秩父市の「阿左美冷蔵」は天然氷の製造から手がける蔵元で、自社で作った純氷を使用したかき氷の食感は格別です。

鹿児島県の白熊

地域の特色を活かしたかき氷として、鹿児島県発祥の「白熊」があります。

これは自家製のミルクをベースとし、その上にフルーツ、寒天、白豆などを豪華にトッピングした見た目も華やかなかき氷です。

白い氷の上に黒い豆で目と鼻を表現し、まるで白熊の顔のように見えることからこの名前が付けられました。

現在では全国の百貨店での出張販売やインターネットでの取り寄せも可能になっており、鹿児島以外でも楽しめるようになっています。

かき氷を食べる際の注意点

頭痛(ブレイン・フリーズ)の原因と対処方法

かき氷を食べる際によく経験する「頭がキーンとする」現象について説明します。

これは「アイスクリーム頭痛」や「ブレイン・フリーズ」と呼ばれる生理現象です。

冷たいものを急激に摂取すると、口や喉の温度が急激に下がります。

すると人間の体は体温を維持しようとして、血流量を増やして体を温めようとします。

この際、頭部につながる血管が一時的に拡張し、周囲の神経を刺激することで頭痛のような感覚が生じるのです。

この現象を避けるためには、かき氷をゆっくりと少しずつ食べることが重要です。

かき氷の日とは

毎年7月25日は「かき氷の日」として制定されています。

この日付の由来は二つあります。

一つは「な(7)つ(2)ご(5)おり」という語呂合わせです。

もう一つは、1933年のこの日に山形市でフェーン現象によって日本最高気温の40.8度が記録されたという歴史的事実に基づいています。

この二つの要素が組み合わさって、7月25日がかき氷を楽しむのにふさわしい日として認定されました。

まとめ

かき氷が長期間にわたって日本人に愛され続ける理由を考えてみましょう。

まず、高品質な氷と多様なシロップが作り出す独特の食感と味わいがあります。

氷の冷たさとシロップの甘さが組み合わさることで、暑い夏の日に体を冷やし、同時に味覚的な満足感も得られます。

また、シロップやトッピングの種類が豊富であることから、個人の好みに合わせて様々な楽しみ方ができる点も魅力です。

見た目の美しさも重要な要素です。

色とりどりのシロップがかけられたかき氷は、見ているだけで涼しさを感じさせてくれます。

特に暑い夏の日に、鮮やかな色彩のかき氷を目にすると、視覚的にも涼を得ることができ、食べる前から快感を味わうことができます。

そして、平安時代から続く長い歴史を持ちながらも、時代に応じて新しい要素を取り入れ続けている点です。

伝統的な味を大切にしながらも、海外の技術やフレーバーを積極的に取り入れ、常に進化を続けていることが、世代を超えて愛される理由となっています。

このように、かき氷は単なる冷たいデザートを超えて、日本の夏の文化そのものを体現する食べ物として進化を続けています。

長い歴史に裏打ちされた伝統的な価値と、時代の変化に対応する柔軟性を併せ持つことで、これからも多くの人々に愛され続けていくことでしょう。

暑い夏の日にかき氷を食べることは、ただ体を冷やすだけでなく、日本の文化や歴史の一端に触れる体験でもあるのです。

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