菓子卸業界の動向と競合企業たちの見解
菓子卸の仕事内容
私たちが普段スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどでお菓子を買うまでの流れは、一見シンプルに見えますが、その裏側には菓子卸という仕事をする人たちの貢献があります。
メーカーがお菓子を作り、それが全国の何万という小売店の棚に並ぶまでには、複雑で大きな流通の仕組みが存在しています。もし、お菓子のメーカーが、全国のすべての小売店と直接やり取りしようとすると、莫大な手間とコストがかかり、必ず非効率な部分が出てきてしまいます。
菓子卸は、まさにこのメーカーと小売店の間に立ち、物流や取引の非効率な部分を解消することで、私たち消費者の手に商品がスムーズに届くようにしてくれる重要な橋渡し役なのです。
お菓子がお店に並ぶまでの流れ
菓子メーカーは、お菓子を工場で大量に製造します。製造されたお菓子は、最終的に消費者である私たちに届く必要があります。このため、お菓子は小売店(スーパー、コンビニ、個人商店など)の棚に並べられなければなりません。
菓子メーカーが直接取引を避ける理由
日本全国には何万もの小売店があります。もし菓子メーカーがこれらすべての小売店と一つ一つ直接取引をしようとすると、非常に大変なことになります。
配送の手配や代金回収、在庫管理など、メーカーにとって本業ではない仕事に多くの時間と労力がかかってしまうからです。
このようなやり方は非効率であると言えます。
菓子卸が果たす役割
そこで登場するのが菓子卸です。菓子卸は、中間流通業者とも呼ばれる存在です。
菓子卸は、まず菓子メーカーから商品を大量にまとめて仕入れます。次に、仕入れた商品を日本各地の小売店に届けるという役割を果たし、流通をスムーズにしています。
菓子メーカーにとってのメリット
この仕組みがあることによって、菓子メーカーは製造という本業に専念できます。メーカーは販売や物流の複雑な作業を菓子卸に任せられるのです。
小売店にとってのメリット
また、小売店は必要な商品を一つの卸業者から効率的に仕入れることができるようになります。これにより、私たち消費者は欲しい時に、どこのお店でもお菓子を購入できるようになるのです。
菓子卸業界の主要企業が示す好調な業績
現在、日本の菓子卸業界では業績、つまり会社の売上げの調子が良い状態が続いています。菓子市場全体の活況を背景に、多くの企業が売上げを伸ばしています。
2024年度のデータを見ると、業界の主要な企業では増収(売上げが増えること)が続いています。これは前年に続いて2年連続での増収となりました。
この状況は、菓子卸業界全体が安定して成長していることを示しています。
業界を牽引する大手企業の売上高
業界で売上げが大きい企業から順に、各社の業績を説明します。これらの企業は、全国の流通を支える大手です。
山星屋とは
業界で売上高が3571億円と最も高い山星屋は、前年と比べて6.7%の増加でした。
同社は菓子卸業界の企業として、全国のスーパーやコンビニ、ドラッグストアなどへ菓子を一括で仕入れ、安定的に供給する事業を専門に行っています。
メーカーと小売店をつなぐ流通網を持つ、菓子の供給を支える企業です。
三菱食品とは
三菱食品の菓子部門の売上げは3013億円で、前年比3.9%増となりました。
同社は菓子だけでなく、冷凍食品、チルド食品、加工食品など、私たちの食卓に並ぶありとあらゆる食料品全般を扱う総合食品卸売業の大手です。
全国のスーパーやコンビニなどに食品を供給し、食品流通全体を支える役割を担っています。
コンフェックスとは
コンフェックスは売上高を公表していませんが、3000億円にわずかに届かない水準だったとされています。
同社は菓子・食品の卸売や流通加工などを手がける、菓子卸業界の主要企業の一つです。
全国の小売店に対して、商品の選定や陳列方法の提案なども行う流通企業です。
高山とは
高山は2310億円で前年比6.2%増でした。
同社は、菓子や食品を扱う卸売企業であり、特に菓子卸の分野で大手の位置づけにあります。
全国の量販店や小売店へ菓子を提供することで、消費者にお菓子を届ける役割を担っています。
業界を支える中堅企業の売上高
次に、売上高が1000億円前後の企業、第2集団と呼ばれる企業の業績と、それぞれの具体的な事業内容を説明します。
これらの企業は、地域や特定の販路において重要な役割を果たし、高い成長率を見せています。
外林とは
外林は984億円で前年比14.6%増と、高い伸びを示しました。
同社は菓子や食品の卸売を主軸としており、スーパーマーケットやドラッグストアなど多岐にわたる小売店に商品を供給しています。
近年は特に、顧客ごとのニーズに合わせた細やかな商品提案や、効率的な物流システムの構築に力を入れることで、成長を実現しています。
種清とは
種清は855億1700万円で前年比7.6%増でした。
同社は、菓子卸売業を主軸に、特定の地域に根ざした事業展開を得意としています。
地元のメーカーが作る特産品のお菓子なども積極的に取り扱い、地域の小売店へのきめ細かな供給を得意としています。
地域に密着したサービスで、安定した需要を確保しています。
ナシオとは
ナシオは700億円で前年比9.2%増でした。
同社は菓子や加工食品の卸売を手掛ける企業であり、特にコンビニエンスストアやスーパーマーケットといった現代的な小売店への供給に強みを持っています。
新しい傾向の菓子をいち早く見つけ出し、小売店の棚に並べる役割を果たしています。
タジマヤとは
タジマヤは371億円で前年比4.4%増となりました。
同社は、菓子をはじめとする食品の卸売や小売店の運営支援などを行っています。
特に、地域の中小の小売店や専門店に対して、商品の仕入れだけでなく、お店の経営に関するアドバイスまで行うなど、独自のサービスを提供しているのが特徴です。
ハセガワとは
ハセガワは326億円で前年比11.2%増でした。
同社は菓子卸売業を事業の中心としており、特に地域密着型のスーパーや小売店との関係が深い企業です。
地域ごとの消費者の好みを把握し、それに合った商品をタイムリーに供給することで成長を続けています。
関口とは
関口は265億円で前年比7%増という結果になりました。
同社は菓子や食品の卸売を手掛けており、特に特定の販路や地域において事業を展開しています。
商品の仕入れから物流、小売店での販売支援までを、効率的な流通を実現するために一貫して行っています。
日本の菓子市場の長期的な成長傾向
菓子卸業界の業績が良い背景には、日本の菓子市場そのものの動きがあります。市場全体が拡大傾向にあることが、卸売業の好調を支える土台となっています。
日本では人口減少が進んでいるため、菓子市場も縮小するのではないかと長年言われてきました。しかし、実際のデータを見ると、菓子市場は過去4年にわたって着実に成長を続けています。
これは、菓子が単なる嗜好品ではなく、生活の中で多様な役割を果たすようになっていることを示しています。
菓子生産金額の過去最高更新
全日本菓子協会が公表した2024年のデータによると、菓子生産金額は前年と比べて4.1%増の2兆7886億円となりました。この協会は、日本の菓子メーカーなどで構成され、菓子産業全体に関する統計や情報提供を行っている業界団体です。
菓子小売金額の過去最高更新
また、小売店で実際に売られた金額である小売金額の推定値は前年比5.3%増の3兆8785億円となり、いずれも過去最高を更新しました。小売金額は4兆円の大台に近づいています。
市場の成長を支える具体的な要因
訪日外国人観光客の増加
2024年には訪日外国人観光客の数が過去最高の水準となりました。
これに伴い、インバウンド(海外から日本へ来た人)による菓子購入金額も約2900億円と推定され、こちらも過去最高となりました。
外国人観光客が日本の菓子をお土産として購入する需要が、菓子市場全体の売上げを押し上げています。
円安が菓子の輸出を後押し
日本国内だけでなく、菓子の輸出も伸びています。
円安(日本の円の価値が外国の通貨に対して安くなること)を背景に、輸出金額は前年比10.7%増の477億円となり、過去最高を更新しました。
これは、日本の菓子が海外でも高く評価されていることを示しています。
商品供給不足の解消
これまで菓子市場では、需要はあるのに対し、商品が十分に供給できないという状況が、成長を妨げる一つの原因でした。
しかし、菓子メーカー各社が設備投資を行い、新しい工場の建設や生産ラインの増設を進めてきました。
その結果、この供給不足の問題は解消しつつあります。
需要が安定して高い上に、供給体制も整ったことで、市場は安定的に拡大できる環境になったと言えます。
菓子卸業界の企業構造
菓子卸業界には、企業グループによる系列関係が存在します。
系列関係があるということは、特定の商社や食品卸売業者のグループに入っていることを意味します。
業界上位の企業は、すでに明確な系列や連携関係を持っています。
これにより、企業間の競争だけでなく、系列間の競争という側面も生まれています。
上位企業間での提携や統合の可能性を分析する
企業名 | 系列の種類 | 企業の説明 |
三菱食品 | 商社系列 | 菓子だけでなく、冷凍食品や加工食品など食品全般を扱う総合食品卸売業の大手であり、国際的な取引や流通を幅広く手がける大手商社の流れをくんでいます。 |
コンフェックス | 食品卸系列 | 菓子・食品の卸売や流通加工などを手がける企業であり、九州を地盤に食品の卸売や物流を行うヤマエグループホールディングスの傘下に入っています。 |
山星屋 | 丸紅系・国分連携 | 菓子卸業界のトップ企業であり、資源開発から生活産業まで多岐にわたる事業を手掛ける大手総合商社丸紅のグループに属しています。また、酒類や食品を扱う大手卸売業者国分と連携しています。 |
高山 | 独立系 | 特定の大きなグループに属さず、独立した形で事業を展開している菓子卸企業です。 |
これらの上位4社はすでに系列や連携関係が明確であるため、この4社間で新たに提携や統合が生まれる可能性は低いと見られています。
過去の菓子卸業界の再編(企業の合併や統合)を振り返ると、菓子卸企業自身が主導して行われたケースは少ないという特徴があります。
小売業界の再編が菓子卸業界に及ぼす影響
菓子卸業界の動きを見る上で、小売業界の動きには注意が必要です。小売店側の再編は、卸売業者との取引にも影響を与えるためです。
例えば、ドラッグストア業態ではツルハとウエルシアの統合といった、大規模な再編が発表されています。
ツルハとウエルシアはどちらも全国に多数の店舗を持つ大手ドラッグストアチェーンであり、日用品や医薬品だけでなく、菓子や食品の販売も強化しています。
この統合により、両社の店舗網がさらに広がり、卸売業者に対する影響力も大きくなります。
小売業の集約化が菓子卸業界へ及ぼす影響
小売業でこのような再編や集約化(一つにまとまること)が進めば、その影響は取引先である菓子卸業界にも及ぶ可能性があります。
小売業の力が強まることで、仕入れ価格の交渉がより厳しくなったり、取引条件が変わったりする可能性が考えられます。
卸売業者にとっては、特定の取引先への依存度が高まるリスクも生まれます。
企業規模の違いが示す成長率の傾向
2024年度の各社の業績をさらに詳しく見ると、企業規模によって成長率に違いがあるという傾向が見えてきます。これは、各企業が持つ得意な分野や事業戦略の違いを反映していると言えます。
業界上位4社の売上高の伸び率は、おおむね4%から7%の範囲に収まっています。一方、売上高1000億円を目指す第2集団と呼ばれる企業群では、より高い成長率を示しています。
例えば、外林は14.6%増、種清は7.6%増、ナシオは9.2%増という結果でした。
高い成長率を支える具体的な要因
この高い成長率の背景には、主に二つの理由が考えられます。
一つは、小売店での菓子の売上げが好調に推移していることです。
もう一つは、価格改定、つまり値上げが行われても、菓子の需要が底堅かったという事情もあります。
通常であれば値上げの局面では、小売業者の間で激しい価格交渉が行われるものですが、今回は菓子の需要が安定していたため、小売側も激しい見積もり合わせ(いくらで仕入れるか競うこと)を行わなかったようです。
菓子仕入れにおける最適な組み合わせの考え方
小売業の側から見た場合、菓子の最適な仕入れ先の組み合わせは、全国規模で展開する大手菓子卸と地域に根ざした地域菓子卸を組み合わせるという形態であることが分かっています。
この組み合わせが、最も効率的で多様な商品を確保できると考えられています。
これは、企業規模の大きさだけが生き残りの条件ではないということを意味しています。大手だけではカバーできない地域のきめ細かなニーズや、特産品の提供も重要だからです。
大手菓子卸の強み
全国展開する大手は、幅広い商品ラインナップと効率的な物流(商品の流れ)を提供できます。
大量の標準的な商品を安定的に供給する能力に優れています。
地域菓子卸の強み
一方、地域卸は、地元の特産品や地域限定商品、きめ細かな配送サービスといった独自の価値を提供できます。
地域に特化した情報を持ち、特定の顧客の要望に応えることに長けています。
地域菓子卸の重要性に関する業界トップの見解
この多様性を重視する考え方を、全国菓子卸商業組合連合会の新理事長に就任した戸澤亨氏が示しています。
全国菓子卸商業組合連合会とは
全国菓子卸商業組合連合会は、全国の菓子卸業者で構成される業界団体です。業界全体の発展や地位向上などを目的に活動しており、中小の菓子卸業者の意見をまとめる役割も担っています。
新理事長が関東圏以外から選出された経緯
連合会は全国の菓子卸業者の業界団体ですが、関東圏以外から理事長が選ばれたのは16年ぶりのことでした。これは地域卸を代表する立場からの発言として注目されます。
戸澤亨氏の言葉
戸澤亨氏は、「人間は動脈、静脈だけでなく毛細血管がないと生きていけない」という比喩(たとえ)を用いました。
戸澤氏は、この連合会で地域の菓子卸業者を代表する立場にあります。
これは、大手菓子卸を動脈と静脈に、中小菓子卸を毛細血管に例えたものです。
戸澤理事長は、「全国津々浦々まで菓子を届ける役割を担う菓子卸のネットワークは重要」と述べました。
そして、地方の小さな小売店まで商品を運ぶ中小菓子卸の存在が、日本の豊かな菓子文化を支えているとの見解を示しています。
地域菓子卸が取り組むべき課題
戸澤理事長は、中小菓子卸がこのまま現状維持で良いとは考えていません。厳しい競争の中で生き残るために、変革が必要だと認識しています。
生産性向上と賃上げ
戸澤理事長は、「激変する環境に対応し生産性を向上させ、粗利益(あらりえき)を高めることで従業員の賃上げ(ちんあげ)につなげる」必要性を強調しています。
社員の給料を上げることは、働く人を確保し、企業の競争力を高めるために不可欠です。
経営効率の改善
つまり、地域卸としての役割を果たし続けるためには、経営効率(会社の運営の効率)を高めて収益性(利益が出る力)を改善することが求められています。
それによって、人材(働く人)を確保していかなければならないという認識です。
大手菓子卸経営者が示す多様性への見解
大手菓子卸の経営者も、この多様性を重視する考え方に同調しています。大規模な企業も、地域に根ざした企業の重要性を認めています。
山星屋社長が語る多様性への見解
山星屋の猪忠孝社長は、菓子産業が成長を続けている要因を多様性に求めています。
猪社長は、山星屋の代表として業界の動向を語っています。
社長は、「日本の菓子産業は、全国津々浦々の地域銘店メーカーから大手メーカーまで多彩で特筆性のある商品で構成されている」と述べました。
そして、「日本の産業の中でもこの多様性こそが菓子産業の強み」との見方を示しています。
コンフェックス社長が語る多様性への見解
コンフェックスの昆靖社長も、同様の考えを示しています。
昆社長は、コンフェックスの代表として菓子卸業界のあり方について見解を述べています。
社長は、「日本の菓子卸全体で考えれば大手菓子卸、中小菓子卸の役割分担がより明確になってくる」と語りました。
また、「小売業の皆さまが考える日本の菓子卸のあり方としての理想は、現状では、全国卸と地域卸の最適な組み合わせだと理解している」との見解を示しました。
菓子卸業界における新たな参入企業
こうした業界の状況の中で、新たな動きも出てきています。従来とは異なる背景を持つ企業が菓子卸市場に力を入れ始めています。
トモシアホールディングスが菓子分野を強化する狙い
トモシアホールディングスは、菓子を強化カテゴリー(特に力を入れる分野)と位置づけています。
同社は、菓子だけでなく酒類や冷凍・チルド食品、加工食品といった食品全般を扱う総合食品卸売業のグループです。
同社は2027年度に菓子部門で売上げ1000億円という目標を掲げており、菓子卸業界における存在感を高めようとしています。
加藤産業が中間持ち株会社を設立し事業を強化する体制
加藤産業も菓子卸売事業の強化を進めています。
加藤産業は、酒類や冷凍食品、加工食品など幅広い食品を扱う総合食品卸売業の一つであり、菓子分野の強化に乗り出しました。
2023年10月に、中間持ち株会社として「加藤菓子ホールディングス」を設立しました。
加藤菓子ホールディングスは、加藤産業グループの中で菓子卸事業全体を統括する役割を担う会社です。
この持ち株会社の下に、加藤産業の子会社であったカトー菓子と植嶋を傘下に置く体制を構築しています。
カトー菓子と植嶋は、加藤産業グループの菓子卸売を担う企業です。
新たな参入企業が業界動向に与える影響
これらの企業は、従来の主要な菓子卸とは異なる系統の企業です。
こうした動きが菓子卸業界の競争環境にどのような影響を与えるかが、今後の業界動向を見る上での一つの観察点となっています。
新たな資本が加わることで、市場の構造が変化する可能性もあります。