菓子市場の現状(2025年)|課題と販売戦略(国内&海外)

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目次

菓子市場とは

日本の菓子市場は、少子高齢化と人口減少という構造的な課題に直面しながらも、生産金額と小売金額の両方が過去最高の水準を更新している市場です。

全日本菓子協会の推定によると、小売金額は3兆8000億円以上に達しており、この成長はインバウンド(訪日外国人観光客)需要の拡大や円安による輸出の伸長、そして国内における消費者の購買行動の変化といった複数の要因によって支えられています。

メーカーは、節約志向と自分へのご褒美という二つの消費者心理に対応するため、商品の価格帯を二極化させる戦略をとっています。

日本の菓子市場が直面する課題

日本の菓子市場は現在、国内の人口動態の変化という構造的な課題に直面しています。

この課題は、少子高齢化とそれに伴う総人口の減少です。

少子高齢化

少子高齢化とは、子どもの数が減少し、同時に高齢者の割合が増加していく現象のことです。

日本では出生率の低下が続いており、新たに生まれる子どもの数は年々減少しています。

同時に、医療の進歩などにより平均寿命が延びた結果、高齢者の人口が増加しています。

この二つの動きが組み合わさることで、日本の総人口は減少局面に入っています。

人口減少が市場に及ぼす影響

人口が減少するということは、単純に考えれば消費者の数が減ることを意味します。

消費者が減れば、菓子を購入する人も減り、市場全体が縮小していくと予想されます。

菓子市場の生産金額と小売金額の現状

人口減少という課題がある中で、実際の菓子市場の数字は予想とは異なる動きを示しています。

生産金額と小売金額の成長傾向

菓子市場は4年連続で、生産金額と小売金額の両方が前年を上回る結果となっています。

生産金額とは、菓子メーカーが生産した菓子の総額のことで、小売金額とは、小売店で実際に販売された菓子の総額のことです。

過去最高の小売金額を更新した2024年

全日本菓子協会が公表した2024年の推定値によると、これらの金額は過去最高を更新しました。

小売金額は前年比5.3パーセント増の3兆8785億円に達しています。

この傾向から、2025年度には4兆円に到達する可能性が見えてきています。

2025年の店頭販売実績の増加

この成長傾向は2025年に入っても継続しています。

1月から8月までの店頭販売実績を示すKSP-POSというデータがあります。

KSP-POSデータによると、2025年1月から8月までの販売金額は、前年の同じ期間と比べて約2.3パーセント増加しています。

KSP-POSデータは小売店のレジで商品が販売された際に記録されるデータを集計したもので、実際の消費動向を反映しています。

消費者の購買行動の変化

人口が減少しているにもかかわらず、菓子市場が成長を続けている理由の一つとして、消費者の購買行動の変化が挙げられます。

チョコレート商品の販売動向

店頭データを細かく分析すると、消費者が購買行動を変化させていることがわかります。

具体的な例として、チョコレート商品の動向を見てみましょう。

カカオ価格の高騰と商品価格の値上げ

近年、世界的にカカオの価格が高騰しました。

カカオはチョコレートの主原料ですから、カカオの価格が上がれば、当然チョコレート商品の製造コストも上がります。

その結果、菓子メーカーは商品価格の値上げを行わざるを得なくなりました。

値上げ後の板チョコの販売実績

通常、商品が値上げされると、消費者は購入を控えるため販売量が減少すると考えられます。

しかし、板チョコの販売実績を見ると、約10パーセント増と大幅に伸びています。

消費者は、一袋や一箱といった販売単位で見た価格、つまりユニットプライスではなく、1個当たりの単価を重視するようになったと考えられます。

板チョコは1枚当たりの価格が比較的安価であるため、値頃感を求める消費者に選ばれるようになりました。

つまり、消費者はチョコレートの購入をやめたのではなく、より経済的な選択肢へと購買行動をシフトさせたのです。

商品の容量別の販売動向

チョコレートカテゴリーをさらに詳しく見ていくと、商品の容量によって販売動向が大きく異なることがわかります。

少容量パウチ商品の販売増加

30グラムから50グラムという少容量のパウチ商品は、2桁の増加率で推移しています。

パウチ商品とは、袋に入った少量の菓子のことです。

大袋商品の販売減少

一方で、大袋商品は前年同期比2.9パーセント減となっています。

大袋商品とは、ファミリーサイズなど、一度に多くの量が入った商品のことです。

この対比から、消費者が大量購入よりも少量ずつ購入する方向に動いていることが読み取れます。

ビスケットの大袋商品の販売増加

ただし、大袋商品の中でも状況は一様ではありません。

チョコレートの大袋商品は販売に苦戦している一方で、ビスケットの大袋商品は前年同期比9.6パーセント増と伸びています。

これは、大袋商品を購入したいと考える消費者が、価格の高いチョコレートから相対的に値頃感のあるビスケットへと商品選択を変えていることを示しています。

つまり、消費者は菓子の購入そのものを控えているわけではなく、限られた予算の中でより経済的な選択を行っているのです。

菓子メーカーがとる商品戦略

こうした消費者の行動変化に対して、菓子メーカーは商品戦略を調整しています。

その戦略は、二極化戦略と呼ばれるものです。

二極化戦略

二極化戦略とは、価格を抑えた値頃感のある商品と、高価格帯のプレミアムな商品の両方を展開するというアプローチです。

この戦略は、節約を心がける消費者と、自分へのご褒美を求める消費者という、二つの異なる心理に対応するために採用されています。

日常的な節約志向に対応する商品

日常的な買い物では節約を心がけている消費者が多くいます。

こうした消費者に対しては、価格を抑えた値頃感のある商品が必要です。

プチ贅沢需要に対応する商品

節約を続けていると、時には自分へのご褒美として少し贅沢なものを買いたくなる心理も働きます。

これがプチ贅沢と呼ばれるもので、こうした需要に対応するためにプレミアムな商品が必要になります。

ロングセラーブランドを活用する戦略

メーカーは、これらの商品を全く新しいブランドとして発売するのではなく、すでに長年親しまれているロングセラーブランドの派生商品として展開しています。

失敗したくない消費者心理

この戦略の背景には、消費者の心理があります。

新しいブランドの商品を買うことは、ある種の冒険です。

もし口に合わなければ、お金が無駄になってしまうというリスクがあります。

消費者、特に節約志向の強い消費者は、買い物に失敗したくないと考えます。

知っているブランドの新しいバリエーションであれば、味の傾向がある程度予想できるため、安心して購入できるのです。

菓子市場の成長を支える海外需要

国内における消費者行動の変化に加えて、菓子市場の成長を支えているもう一つの要因があります。

それは海外市場における需要の拡大です。

訪日外国人観光客によるインバウンド需要

訪日外国人観光客、いわゆるインバウンド需要が、菓子市場の成長に寄与しています。

2024年の訪日外国人観光客数は過去最高を更新しました。

日本の菓子がお土産として購入される理由

外国人観光客は日本滞在中に菓子も購入しており、その多くがお土産として購入されています。

日本の菓子は、品質の高さ、繊細な味わい、美しいパッケージデザインなどから海外で評価されています。

訪日外国人観光客による菓子購入金額

2024年の訪日外国人観光客による菓子購入金額は約2900億円と推計されています。

この数字は、さまざまなデータから推定された金額であり、正確に測定された数字ではありません。

この推計値も過去最高となっており、今後も訪日観光客の増加とともに、この分野の成長が見込まれています。

日本から海外への菓子輸出の伸長

インバウンドが好調である一方で、もう一つの動きとして、日本から海外への輸出(アウトバウンド)も伸びています。

日本の菓子輸出は近年急速に伸びており、前年比10.7パーセント増の477億円で過去最高を更新しました。

輸出を後押しする円安

この背景には、円安があります。

円安とは、日本円の価値が他の通貨に対して下がることを意味します。

円安になると、日本の商品を外貨で見たときの価格が相対的に安くなるため、海外の消費者や小売業者にとって購入しやすくなります。

こうした為替の動きが、日本の菓子輸出を後押ししています。

輸出市場における商品価値の発信戦略

輸出が伸びているという事実に加えて、日本国内で成功した戦略を海外市場でも展開し、成果を上げている事例が出てきています。

明治「チョコレート効果」の展開

その一例が、明治の「チョコレート効果」という商品です。

この商品は高カカオチョコレートで、カカオポリフェノールを豊富に含んでいることが特徴です。

明治台湾市場において、単に商品を輸出するだけでなく、カカオポリフェノールに関する研究成果や健康価値を積極的に発信する取り組みを行いました。

2022年11月には台北市で発表会を開催し、高カカオチョコレートが持つ健康面での魅力を伝えました。

こうした活動を通じて、「チョコレート効果」を日常的に食べる習慣を台湾の消費者に根付かせることを目指したのです。

「チョコレート効果」の売上げは約2倍

この取り組みの結果、台湾は「チョコレート効果」の輸出先国の中で売上げ第1位となりました。

台湾における「チョコレート効果」の売上げは直近5年間で約2倍に成長しました。

この事例が示しているのは、日本国内で培った健康価値の訴求という戦略が、海外市場でも有効である可能性があるということです。

単に商品を輸出するだけでなく、その商品の価値を丁寧に伝えることで、海外の消費者の行動変容を促し、市場を開拓できる可能性があるのです。

まとめ

菓子市場は、国内の人口減少という構造的な課題がある中でも、複数の成長要因を持っていることがわかります。

国内では、消費者が経済的な選択を行いながらも菓子の購入を続けており、メーカーも消費者心理に配慮した商品戦略で対応しています。

海外からは、インバウンド需要の拡大と輸出の伸長という二つの要因が成長を支えています。

これらの要因が組み合わさることで、菓子市場は成長を続けているのです。

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