ウラノス・エコシステムとは|経済産業省の取り組みを紹介
ウラノス・エコシステムとは
ウラノス・エコシステムは、経済産業省という国の機関が中心となって進めている、会社同士のデータのやり取りをスムーズにするための大きな取り組みです。
日本の経済や産業の発展を支えるために設けられた国の行政機関です。
国内の企業活動を促進し、雇用の安定や新しい産業の育成を進める役割を担っています。
また、エネルギー政策や貿易の推進、技術開発の支援なども行い、日本の経済が持続的に成長できるように調整を行っています。
データ共有における現代の課題
まず、皆さんが毎日使っているインターネットのサービスを思い浮かべてください。
YouTubeで動画を見たり、LINEで友達とメッセージをやり取りしたり、Amazonで買い物をしたり。これらのサービスは、それぞれの会社が独自にシステムを作って運営しています。
これは私たち利用者にとっては便利ですが、実は会社同士がデータをやり取りする場面では大きな問題が隠れています。




たとえば
ある会社が気温のデータを「摂氏25度」という形で保存していて、別の会社が「華氏77度」という形で保存していた場合
この場合、どちらも同じ温度を表していますが、形式が違うため、そのままではコンピューターが理解できません。
人間なら「ああ、単位が違うだけだな」と気づけますが、コンピューターは言われた通りにしか動けないので、こうした違いが大きな障害になるのです。
ウラノス・エコシステムの考え方
ウラノス・エコシステムの基本的な考え方はこうです。
協調領域の情報やシステムを整備して、いろいろな会社が効率よく使えるようにしよう!
気象情報や道路情報のように、みんなが共通して使える情報は、一つにまとめて、必要な会社が自由に使えるようにすれば、同じ情報を何度も集める無駄がなくなり、みんなが同じ質の高い情報を使えるようになります。
データ共有の先にあるシステム連携
ここで大切なポイントは、単にデータを集めて配るだけではなく、会社が使っているシステム同士をつなげることです。
たとえば
- 配送会社は、配達管理システムを持っていて、どの荷物をどのトラックに載せて、どのルートで運ぶかを管理しています。
- 気象会社は、天気予測システムを持っていて、気温や風の予報を出しています。
これら①②のシステムが自動的につながって、配送会社のシステムが天気予測システムから最新の情報を受け取れたら、雨が降りそうな時は配達ルートを変更する、といった判断が素早くできるようになります。
ウラノス・エコシステムの名前の由来
ウラノス
ギリシャ神話に登場する天空の神様「ウラノス」から来ています。
空から地上を見渡すように、日本中のいろいろな産業や会社を上から俯瞰して、全体がうまくつながるようにしようという意味が込められています。
エコ・システム
元々、エコシステムという言葉は、生態系を意味します。
森の中では、植物が光合成をして、虫が植物を食べて、鳥が虫を食べて、というように、いろいろな生き物がつながって、全体として一つの生態系を作っています。
ビジネスの世界でも同じように、いろいろな会社や組織がつながって、お互いに協力したり、競争したりしながら、全体として一つの生態系を作ることができます。
ウラノス・エコシステムが目指す社会
ウラノス・エコシステムが目指しているのは、データ、システム、サービスが有機的につながって、新しい価値が次々と生まれるような、豊かな生態系を作ることです。
一つの会社が独占するのではなく、多様な会社や組織が参加して、それぞれの得意分野を活かしながら、全体として発展していく形を目指しています。
Society5.0
また、ウラノス・エコシステムの根底には、Society5.0という日本が目指す社会の姿があります。
- Society1.0
狩猟社会です。人々が狩りをして、採集をして暮らしていた時代です。
- Society2.0
農耕社会です。農業が始まって、定住するようになった時代です。
- Society3.0
工業社会です。機械を使って大量に物を作れるようになった時代です。
- Society4.0
情報社会です。コンピューターやインターネットが発達して、情報が大切になった時代です。
そして今、Society5.0という次の段階を目指しています。ウラノス・エコシステムは、このSociety5.0を実現するための具体的な取り組みの一つです。データやシステムをつなげることで、社会全体の効率を上げて、無駄を減らし、新しい価値を生み出していこうとしています。
Society 5.0は、インターネットが発達した情報社会(Society 4.0)のさらに次の社会です。
日本政府は、Society5.0を「持続可能性と強靭性(きょうじんせい)を備え、みんなが安心して暮らせて、一人ひとりが自分らしい幸せを実現できる社会」と定義しています。
ウラノス・エコシステムの仕組み
ウラノス・エコシステムでは、具体的にどんな技術や仕組みが使われているのでしょうか。いくつかの重要な要素を見ていきましょう。
空間ID
まず、空間IDという仕組みがあります。これは少し難しく聞こえるかもしれませんが、仕組み自体はシンプルです。
- まず、日本全体の空間を、細かい立方体の箱に分けることを想像してください。
- 縦にも横にも高さにも、細かく区切って、それぞれの箱に番号を付けます。
- たとえば、東京タワーのある場所は番号123456、スカイツリーのある場所は番号234567、というように決めます。
この番号を使うと、何が便利になるでしょうか。下記のように番号を使った情報を具体的に考えてみましょう。
たとえば
- 気象会社が「番号123456の場所は気温25度、湿度60%」という情報を持っているとします。
- 別の地図会社が「番号123456の場所には高さ333メートルの建物がある」という情報を持っているとします。
- さらに別の通信会社が「番号123456の場所は電波の状態が良好」という情報を持っているとします。
これらのように同じ番号に紐づいた情報があれば、コンピューターは簡単に情報を組み合わせることができます。
つまり、これらが全て同じ位置(番号123456=東京タワー)の「気温」「湿度」「周囲の建物」「電波状態」の情報だとすぐにコンピューターが理解して、表示してくれるのです
ドローン配達の場合
考えてみてください。
車が自動で走るには、今いる場所の正確な位置情報、周りの建物や道路の形、信号や標識の位置、他の車や歩行者の動き、道路工事の情報などが必要です。
ドローンが飛ぶには、風の強さや向き、雨や霧の状態、飛んではいけない場所の情報、電波の状態などが必要です。さらに、荷物を配達するなら、どこに何をいつまでに届けるかという情報も必要になります。
これらの情報がバラバラの場所にあって、それぞれ違う方法で管理されていたら、確認するだけで時間がかかってしまいます。でも、上で説明したように同じ番号で整理されていれば、素早く確認できます。
自動運転の車やドローンのように、リアルタイムで判断しながら動くシステムでは、こうした速さが安全性に直結するのです。


もし、それぞれの会社が自分たちだけでこれらの情報を全部集めようとしたら、どうなるでしょうか。
配送会社Aも、配送会社Bも、タクシー会社Cも、それぞれが気象情報を集めて、道路情報を集めて、地図を作って、となったら、同じ情報を何度も何度も集めることになります。
これは明らかに無駄です。お金も時間もかかりますし、情報の質もバラバラになってしまいます。
ウラノス・エコシステムでは、こうした空間を分割する枠や、空間IDの構成要素、空間に関する情報などを定めて、ガイドラインとして公開しています。このガイドラインに従ってシステムを作れば、他のシステムとも自然につながるようになります。
ODS-RAM
ウラノス・エコシステムを実現するための技術的な設計図が、ODS-RAMと呼ばれるものです。
ODS-RAMは、Ouranos Ecosystem Dataspaces Reference Architecture Modelの略で、ウラノス・エコシステム・データスペーシズ・リファレンスアーキテクチャモデルという長い名前です。
少し難しい言葉なので、分解して理解しましょう。それぞれの言葉の意味は下記となります。
- リファレンス
参照
- アーキテクチャ
設計
- モデル
模型、見本
つまり、データスペースを作る時に参考にする設計の見本ということです。
データ連携における課題
ODS-RAMでは、データをやり取りする時に起きる問題を整理しています。
これらの問題は、データを使いたい側と、データを提供する側の両方から見た時に出てくるものです。
- どこにどんなデータがあるのか分からない
- データがあることは分かったけどアクセスする方法が分からない
- データの形式が会社ごとにバラバラで使えない
- データの質が良いのか判断できない
- 自分たちのデータを必要としている会社に見つけてもらえない
- データを求めている相手が信頼できるのか判断できない
- 自分たちの形式でデータを提供しても相手が使ってくれない
- データの質を保証する方法が分からない
4層構造による問題解決
ODS-RAMは、これらの問題を解決するために、システムを4つの層に分けて考えています。
層というのは、建物の階のようなもので、それぞれの層が異なる役割を持っています。
- 一番下の層
データそのものをどう扱うかを決めます。データをどんな形式で保存するか、どうやって検索できるようにするか、誰がアクセスできるかをどう管理するかなどです。この層は、データの基礎的な管理を担当します。
- その上の層
データをどうやってやり取りするかを決めます。データを送る時の通信方法、データの形式を変換する方法、セキュリティを確保する方法などです。この層は、データの流通を担当します。
- さらに上の層
どんなサービスを提供するかを決めます。カーボンフットプリントを計算するサービス、トレーサビリティを管理するサービス、在庫を最適化するサービスなど、具体的な用途に応じたサービスです。この層は、データを使った実際の業務を担当します。
- 一番上の層
全体をどう管理するかを決めます。誰がどんな役割を持つか、ルールをどう決めるか、問題が起きた時にどう対処するかなどです。この層は、エコシステム全体の運営を担当します。
このように層を分けることで、それぞれの問題を整理して、段階的に解決していくことができます。また、下の層が変わらなければ、上の層だけを変更することもできるので、柔軟性が高まります。たとえば、新しいサービスを追加したい時、下の層のデータ管理方法は変えずに、上の層に新しいサービスを追加するだけで済みます。
公益デジタルプラットフォーマー認定制度
ウラノス・エコシステムでは、公益デジタルプラットフォーマー認定制度という仕組みを作りました。
公益デジタルプラットフォーマー認定制度とは、社会全体のためのデジタルの基盤を運営する事業者を認定する制度ということです。
少し長い名前なので、一つずつ見ていきましょう。
認定制度の目的
データ連携基盤は、社会のインフラとして重要な役割を果たします。しかし、運営する事業者が信頼できなかったり、システムが安全でなかったりすると、大きな問題が起きてしまいます。そこで、一定の基準を満たした事業者を国が認定することで、安心して使える環境を整えているのです。
認定を受けるための3つの条件
この認定を受けるには、3つの大きな条件を満たす必要があります。
システムがサイバー攻撃から守られているか、データが適切に管理されているか、提供されるアプリケーションが安全に動作するか、料金が適正な範囲に設定されているかなどがチェックされます。サイバー攻撃とは、インターネットを通じてコンピューターシステムに不正に侵入したり、データを盗んだり、システムを壊したりする行為です。データ連携基盤は多くの企業の重要な情報を扱うため、高度なセキュリティ対策が必須なのです。
異なる会社のシステム同士が問題なくつながって、データをやり取りできるかということです。たとえば、A社のシステムとB社のシステムが、同じルールや形式でデータを扱っていれば、簡単につながります。でも、まったく違うルールで作られていたら、つなぐのに多くの手間がかかったり、つながらなかったりします。相互運用性を確保するために、共通のID、データモデル、インターフェースなどが定められます。
システムを運営する組織の経営が安定していて、長く続けられる見込みがあるかということです。社会の基盤となるシステムが、運営する会社が倒産したからといって突然止まってしまったら、大混乱が起きてしまいます。ですから、しっかりした財務基盤と、持続可能なビジネスモデルを持っていることが求められます。
認定制度の効果
これら3つの条件を満たした組織を国が認定することで、みんなが安心してデータをやり取りできる環境を作っています。認定されたプラットフォームを使えば、企業は安全性や信頼性を自分で確認する手間が省けます。また、認定という客観的な基準があることで、どのプラットフォームを選べばよいか判断しやすくなります。