パン市場のまとめ|2024年の動向・2025年の見通し・2026年以降の予測

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目次

調査概要

株式会社富士経済による市場調査

株式会社富士経済は2025年10月10日、国内のパン市場に関する包括的な調査結果を「パン&スイーツ市場の全貌・課題分析 2025」として発表しました。

この調査は、原料価格の高騰により消費者の価格意識が高まる中で、パン市場がどのように変化しているのかを明らかにすることを目的としています。

調査では製品の種類だけでなく、どこで販売されているかという視点からも詳細な分析を行っており、市場の実態を多角的に捉えています。

調査の対象範囲

製品分類

製品分類主な対象商品
食パン食パン、バラエティ食パン
テーブルパンロールパンクロワッサン、バゲット、ベーグルパンなど
惣菜パンカレーパン、ハム・ソーセージ入り、サンドイッチ、ピザなど
菓子パンデニッシュメロンパンドーナツ、ベーカリースイーツなど
チルドパンチルドパン(惣菜系)、チルドパン(菓子系)

パン市場は非常に多様な製品から構成されています。朝食の定番である食パンから、食事代替として機能する惣菜パン、おやつや軽食として人気の菓子パンまで、幅広い商品が含まれています。

販売チャネル

販売チャネル主な業態
流通パン量販店、コンビニエンスストア、ドラッグストア
ベーカリーオープンフレッシュベーカリー、チェーンベーカリー、量販店インストアベーカリー、食パン専門店
外食ハンバーガーショップ、宅配ピザ、ドーナツショップ、サンドイッチショップ、コーヒーショップ

パンがどこで販売されているかという販売チャネルの視点も重要です。工場で大量生産される流通パン、店内で焼き上げるベーカリー、店舗での飲食体験を提供する外食という三つの大きなカテゴリーに分類されます。

パン市場の全体構造

3兆円超の巨大市場で堅調な成長

パン市場は2024年に前年比3.2%増という堅調な成長を記録し、2025年には3兆3,187億円という規模に達する見込みです。この市場規模は日本の食品市場の中でも極めて大きく、パンが日本人の食生活に深く根付いていることを示しています。

原料価格の高騰による価格上昇

原料価格の高騰により、多くのパン製品で価格改定が実施されています。小麦粉やバターといった主要原料の価格が上昇したことで、メーカーは価格改定を余儀なくされました。この価格改定は一度だけでなく、複数回にわたって実施されており、消費者にとっては家計への影響が無視できない状況となっています。

需要の変化

価格高騰という環境下で、消費者の購買行動には顕著な変化が現れています。低価格商品や値ごろ感のある商品への需要が高まっていますが、これは単に安い商品だけが売れるという単純な構図ではありません。消費者は価格と内容量、そして品質のバランスを慎重に判断しており、本当に納得できる商品を選んでいます。また、外食で食べていたハンバーガーを持ち帰りの惣菜パンに置き換えるといった、異なるカテゴリー間での需要の移動も起きています。

パン市場の製品種類別の特性

市場を製品種類別に見ると、菓子パンと惣菜パンだけで全体の約70%を占めています。この高い比率は、日本の消費者がパンを単なる主食としてだけでなく、食事の代替や間食としても幅広く利用していることを物語っています。

食パン

食パンは日本の朝食文化において中心的な位置を占めています。トーストにしてバターやジャムを塗る、あるいはサンドイッチの材料として使うなど、用途は多岐にわたります。近年では高級食パン専門店の登場により、食パンそのものの味わいを楽しむという消費スタイルも広がっています。

テーブルパン

テーブルパンは食事の添え物として使われることが多い商品群です。ロールパンは洋食のサイドメニューとして、クロワッサンは朝食やブランチで、バゲットはスープやシチューと一緒に楽しまれます。ベーグルは食事としてもおやつとしても使える柔軟性があり、パンは近年人気が高まっている商品です。

惣菜パン

惣菜パンは食事代替として重要な位置を占めています。カレーパンやハム・ソーセージ入りのパンは昼食として、サンドイッチは朝食や昼食として、ピザパンは軽い夕食としても利用されます。惣菜パンの最大の特徴は、パンとおかずが一体化しているため、これ一つで食事が完結する点です。

菓子パン

菓子パンはおやつや軽食として幅広い年齢層に支持されています。デニッシュメロンパンといった伝統的な商品に加えて、ドーナツスイスロールといったベーカリースイーツも菓子パンの一部として扱われます。菓子パンの魅力は、手頃な価格でデザートに近い満足感が得られる点です。菓子パン市場の詳細については別の記事で解説します。

チルドパン

チルドパンは冷蔵保存が必要なパン製品で、長期保存が可能という特徴があります。惣菜系のチルドパンには冷蔵が必要な具材を使った商品が、菓子系のチルドパンにはクリームやフルーツを使った商品が含まれます。

パン市場の販売チャネル別の特性

パン市場は販売形態によって大きく三つのカテゴリーに分類され、それぞれが異なる特性を持っています。

流通パン

販売場所特徴消費者にとっての利点
量販店品揃えが豊富、まとめ買い可能日常的な買い物と同時購入できる
コンビニエンスストア24時間営業、店舗数が多い必要な時にすぐ購入できる
ドラッグストア価格競争力が高い他の日用品と一緒に低価格で購入できる

流通パンは工場で大量生産され、量販店やコンビニエンスストア、ドラッグストアの棚に陳列される商品です。大量生産により価格優位性があり、日持ちも比較的長いという特徴があります。

ベーカリー

業態特徴提供価値
オープンフレッシュベーカリー店内で製造・販売焼きたての香りと食感
チェーンベーカリー複数店舗展開、品質標準化安定した品質と利便性
量販店インストアベーカリー量販店内に併設買い物ついでに焼きたてパン購入
食パン専門店食パンに特化専門性の高い高品質食パン

ベーカリーには様々な業態がありますが、共通しているのは焼きたて感や商品の質を重視している点です。個人経営のベーカリーの状況については別の記事で、量販店インストアベーカリーの詳細については別の記事で解説します。

外食

業態主力商品消費シーン
ハンバーガーショップハンバーガー、パイ昼食、軽食
宅配ピザピザ夕食、パーティー
ドーナツショップドーナツおやつ、手土産
サンドイッチショップサンドイッチ昼食、テイクアウト
コーヒーショップサンドイッチ、ペストリー朝食、カフェタイ

外食店で提供されるパン製品は、単なる商品販売ではなく、店舗での飲食体験という付加価値を伴っています。

パン市場の2024年の動向

2024年のパン市場は前年比3.2%増という堅調な成長を記録しました。原料価格の高騰という逆風がある中でのこの成長は、パンが日本人の食生活において不可欠な存在であることを改めて示しています。

安価な流通パンの人気向上

流通パンの分野では、低価格なホワイト食パンや税込120円以下の単品菓子パン・惣菜パンといった値ごろ感のある商品への需要が高まりました。ホワイト食パンは余計な材料を使わないシンプルな食パンで、毎日の朝食に使うものだからこそ価格が重要な判断基準となります。また、120円という価格帯は、コンビニエンスストアの弁当が500円以上することを考えると、手頃でありながら食事としての満足感も得られる絶妙なラインです。

個人経営のベーカリー減少

個人経営のベーカリーは減少傾向が続いています。これは原料価格の高騰により仕入れコストが上昇する中で、大手チェーンのような大量仕入れによるコスト削減ができないことが大きな要因です。また、経営者の高齢化と後継者不足という構造的な問題も影響しています。個人ベーカリーの減少については別の記事で詳しく解説します。

インストアベーカリーの出店活発化

個人店の減少とは対照的に、量販店インストアベーカリーの出店は活発化しています。これらの店舗では惣菜パンや菓子パンに加えて、ドーナツをはじめとするベーカリースイーツが消費者の支持を集めました。

量販店側の意識変化

2024年の重要な変化の一つは、量販店側の意識の変化です。量販店の新規出店や改装時にインストアベーカリーを併設する動きが活発化しています。これは量販店側がベーカリーを単なるテナントスペースではなく、店舗全体の魅力を高める重要な差別化要素として認識し始めたことを示しています。量販店インストアベーカリーの詳細については別の記事で解説します。

パン市場の2025年の見通し

2025年のパン市場は3兆3,187億円という規模に達すると見込まれており、拡大基調は継続する見通しです。ただし、その内実を見ると、チャネルや商品タイプによって明暗が分かれています。

成長を支える要因

市場の成長を下支えする要因は複数存在します。これらの要因が相互に作用することで、市場全体の拡大につながっています。

内食志向の定着

消費者の内食志向の定着は、パン市場にとって追い風となります。新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに家で食事をする習慣が定着したことで、パンの消費機会は増加しました。この傾向は、感染症の影響が落ち着いた後も一定程度維持されています。在宅勤務の継続や、外食費を節約したいという家計意識の高まりが、内食需要を下支えしているのです。

三層価格戦略による顧客層の拡大

企業側の戦略的な取り組みも市場成長を支えています。三層価格戦略による複数の価格帯での商品展開により、幅広い消費者層のニーズに応えることが可能になっています。低価格を重視する層だけでなく、品質や付加価値を求める層の需要も取り込むことで、市場全体の底上げにつながっています。

インストアベーカリーの質的進化

量販店インストアベーカリーの直営化という質的な変化も、市場成長の原動力となっています。エリア独自のメニュー開発や、地域性を活かした商品展開により、全国チェーンとの差別化が進んでいます。地元の食材を使った商品や、その地域でしか買えない限定商品は、消費者にとって「この店でしか買えない」という特別感があり、来店動機を強化します。

注視すべきリスク要因

市場の成長見通しがある一方で、注意深く見守るべきリスク要因も存在します。

原料価格の高止まり

原料価格の動向は市場にとって大きなリスク要因です。小麦粉やバターといった主要原料の価格が高止まりする、あるいはさらに上昇する場合、消費者の価格許容度を超える可能性があります。価格改定が相次ぐ中で、消費者がパンの購入量を減らす、あるいはより安価な代替品に移行するリスクも否定できません。

市場の多様性喪失

個人店の減少が続くことで、市場全体の多様性が失われる懸念もあります。大手チェーンによる寡占化が進めば、商品の均質化や地域性の喪失につながる可能性があります。長年親しまれてきた個人店の味や、店主と顧客の関係性といった、大手チェーンでは代替できない価値が失われていくことは、地域コミュニティにとっても損失となります。

過度な価格競争のリスク

消費者の価格志向が強まりすぎることで、過度な価格競争に陥るリスクもあります。価格だけが購買決定の要因となってしまうと、品質の低下や、必要な投資ができなくなるといった問題が生じる可能性があります。持続可能な市場成長のためには、価格と品質のバランスを適切に保つことが重要です。

パン市場の消費者動向

価格高騰という環境下で、消費者はコストパフォーマンスを重視した購買行動を取っています。ただし、これは単に安い商品だけを選ぶという単純な行動ではありません。消費者は価格と内容量、そして品質のバランスを慎重に判断しており、本当に納得できる商品を選んでいます。

購買シーンによる判断基準

消費者の行動を詳しく見ると、購買場面によって判断基準を使い分けていることがわかります。

日常的な消費

日常的な朝食用のパンや、昼食用の惣菜パンを購入する場合、消費者は価格を重視します。毎日食べるものだからこそ、少しでも安く買いたいという心理が働きます。この場面では、低価格なホワイト食パンや、税込120円以下の単品商品が選ばれる傾向があります。

特別な機会での消費

一方で、週末のブランチや、ちょっとした贅沢をしたい時には、品質や付加価値を重視します。この場面では、専門店の高級食パンや、オープンフレッシュベーカリーの焼きたてパンが選ばれます。価格は高くても、その分の価値があると感じられれば、消費者は購入を決断します。

カテゴリー間での需要変化

価格改定が相次ぐ中で、異なるカテゴリー間での需要の移動が起きています。

洋菓子から菓子パンへの需要流入

原料価格の高騰により洋菓子の価格が上昇する中、菓子パンは相対的に手頃な価格でデザートに近い満足感を提供できる商品として注目されています。ケーキ屋のショートケーキが1個400円から500円する中で、菓子パンであれば150円程度でも十分な満足感が得られます。従来は洋菓子を購入していた消費者層を菓子パン市場に取り込むことで、市場の裾野が広がる可能性があります。菓子パン市場の詳細については別の記事で解説します。

外食から持ち帰りへの需要流入

外食産業の価格上昇により、外食から持ち帰りの惣菜パンへのシフトも起きています。ハンバーガーショップでの食事が1,000円近くかかる中で、量販店インストアベーカリーの惣菜パンであれば200円から300円程度で食事代替になります。特に単身世帯や共働き世帯では、外食と比較した際のコストパフォーマンスが購買決定の重要な要素となっています。

パン市場の企業動向

企業側は消費者の使い分け行動に対応して、複数の価格帯での商品展開を進めています。特に菓子パン市場では、アッパー、ミドル、廉価という三層の価格戦略が明確に打ち出されています。この三層構造の利点は、単純な二極化を避けられることです。ミドル価格帯の商品を充実させることで、「安すぎるのは不安だが、高すぎるのも避けたい」という消費者心理に応えることができます。

チャネル別の住み分け

各販売チャネルは、それぞれの特性を活かした戦略を展開しています。この住み分けにより、激しい競合がある一方で、共存共栄も可能となっています。

流通パン

流通パンは価格優位性を最大の武器としています。工場での大量生産により実現される低価格は、日常的な消費において強力な訴求力を持ちます。また、量販店やコンビニエンスストアという身近な場所で購入できる利便性も大きな強みです。

ベーカリー

ベーカリーは焼きたて感と商品の質を訴求しています。店内で焼き上げるパンの香りや、目の前で商品が並べられる様子は、流通パンでは得られない体験価値を提供しています。また、職人の技術や独自のレシピといった、大量生産では実現できない価値を提供することで、流通パンとの差別化を図っています。

外食

外食は店舗での体験価値を重視しています。ハンバーガーショップやドーナツショップでは、店内で食べるという行為そのものが商品の一部となっています。友人や家族との会話を楽しみながら食事をする、あるいは一人でゆっくりと時間を過ごすといった、時間の過ごし方全体を提供しているのです。

量販店インストアベーカリー

量販店インストアベーカリーは、流通パンとベーカリーの中間的な位置づけにあります。量販店という利便性の高い立地で、ベーカリーの強みである焼きたて感を提供することで、独自のポジションを確立しています。日常的な買い物のついでに焼きたてパンを購入できるという利便性は、専門のベーカリーショップまで足を運ぶ時間がない消費者にとって大きな魅力です。

パン市場で成功するための鍵

適切なコスパを設定

パン市場で成功するための第一の鍵は、価格と品質のバランスを適切に設定する能力です。単に安いだけでなく、消費者が納得できる品質を維持しながら、適正な価格を設定することが重要です。消費者は価格に敏感である一方で、極端に安い商品には品質への不安を感じます。この微妙なバランスを見極め、「この価格ならこの品質で納得できる」と消費者に感じてもらうことが成功の条件です。

立地の優位性を活かす

第二の鍵は、立地の優位性を活かす戦略です。量販店インストアベーカリーの成長が示すように、消費者の日常的な動線上に店舗を配置することで、購買機会を最大化できます。立地戦略は単に人通りの多い場所に出店するというだけではありません。ターゲットとする顧客層の生活動線を理解し、その動線上に適切に店舗を配置することが重要です。

商品開発力

第三の鍵は、商品開発力です。消費者のニーズは絶えず変化しており、新しい商品や価値を提案し続けることが必要です。地域独自メニューの開発、健康志向に対応した商品、季節感を取り入れた商品など、差別化につながる商品開発が競争優位性の源泉となります。商品開発においては、単に新しい商品を作るだけでなく、消費者の潜在的なニーズを掘り起こすことが重要です。

多様な購買シーンへ対応

第四の鍵は、多様な購買シーンに対応できる柔軟性です。消費者の使い分け行動が進む中で、企業は単一の顧客像ではなく、複数の購買シーンに対応できる商品ポートフォリオを持つことが求められます。日常的な朝食用の低価格食パン、週末の贅沢用のプレミアム商品、昼食代替の惣菜パン、おやつ用の菓子パンといった、異なるニーズに応える商品を揃えることが重要です。

まとめ

市場

パン市場は2025年に3兆3,187億円という規模に達する見込みであり、日本の食品市場において極めて重要な位置を占めています。市場は原料価格の高騰という逆風がある中でも、2024年に前年比3.2%増という堅調な成長を記録しました。

消費者

消費者の購買行動は、価格志向が強まる一方で、購買シーンによって判断基準を使い分けるという複雑な様相を呈しています。日常的な消費では価格を重視しつつ、特別な機会には品質や付加価値を求めるという使い分けが進んでいます。また、洋菓子から菓子パンへ、外食から持ち帰りの惣菜パンへという、カテゴリー間での需要移動も起きています。

企業

企業側は、この消費者行動の変化に対応して、複数の価格帯での商品展開を進めています。流通パンは価格優位性を、ベーカリーは焼きたて感と品質を、外食は体験価値を、量販店インストアベーカリーは利便性と焼きたて感の両立を、それぞれ強みとして戦略を展開しています。

パン市場で成功するための鍵は、適切なコストパフォーマンスの設定、立地の優位性を活かす戦略、商品開発力、そして多様な購買シーンへの対応という四つの要素にあります。2025年も市場の拡大基調は継続する見通しですが、原料価格の動向や個人店の減少といったリスク要因も存在します。中長期的には、これらの要因のバランスを適切に管理しながら、持続可能な成長を実現することが求められます。

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