アイスは暑い日に売れるって本当?|気象データとアイス市場の相関

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スーパーマーケットにおけるアイスの購買データと、気温や降水量、風速、気圧といった各種気象データを組み合わせて分析した結果が明らかになりました。2024年1月から12月までの1年間のデータを用いた調査により、気候や天候が売上に与える影響について、具体的な傾向が確認されました。

目次

ID-POSデータの仕組みと分析手法

POSとはいつ・どの商品が・どんな価格で・いくつ売れたのかを記録する仕組み
ID-POSとはPOSに顧客IDがひも付いたもの
把握できる情報誰が買ったのかまで特定可能

今回の分析で使用されたID-POSデータについて、まず説明します。POSとは「Point Of Sales」の略称で、販売時点情報管理と呼ばれる仕組みです。コンビニやスーパーマーケットのレジで商品をスキャンする際に、いつ・どの商品が・どんな価格で・いくつ売れたのかという情報を記録・管理しています。

ID-POSは、このPOSデータに顧客IDがひも付けられたものです。顧客IDとは、ポイントカードや会員カードの番号を指します。これにより、誰が買ったのかまで把握することができるため、より精緻な購買分析に役立てることができます。

リピート購入や顧客層の嗜好を分析可能に

通常のPOSデータでは、商品がいつ売れたかはわかりますが、同じ顧客が繰り返し購入しているのか、それとも毎回異なる顧客が購入しているのかを判別することができません。ID-POSデータを使うことで、個々の顧客の購買パターンを追跡でき、リピート購入の傾向や、特定の顧客層の嗜好を分析することが可能になります。

今回の分析では、地方スーパーマーケットにおけるアイスカテゴリの購買データを、Ponta会員の購買履歴から抽出しています。期間は2024年1月1日から12月31日までの1年間で、この期間内のすべての購買記録が分析対象となっています。

アイスの売上は気温が高いほど増加する

日別の平均気温とアイス売上金額の構成比の関係を散布図で確認したところ、気温が高いほどアイスの売上は高くなる傾向が確認されました。これは、多くの人が直感的にイメージする通りの結果です。

暑い日には体温を下げたいという生理的な欲求が働き、冷たいアイスへの需要が高まります。逆に、気温が低い日には、わざわざ冷たいものを食べる必要性が低くなり、アイスの購入が減少します。このような気温と売上の関係は、データ上でも明確に確認することができました。

低温でも休日と年末年始はアイスの売上が上振れ

気温が10℃付近でも、一部売上が上振れしている日が確認されました。この現象は、休日情報を付加することで説明が可能です。同じ散布図を平日と休日で色分けしたグラフを作成すると、ほぼすべての気温帯で休日の売上金額が高い傾向にあることがわかりました。

休日の売上は平日の約1.4倍

気温帯休日と平日の売上比
高い気温帯約1.4倍
低い気温帯特に年末年始に高い

高い気温帯では、休日の売上は平日の約1.4倍ほど高い記録となっています。休日は家族で外出する機会が増え、買い物に行く時間も長くなります。その結果、アイスを購入する機会も増加すると考えられます。

低い気温帯で特に売上金額が高い日は、年末年始の期間になっていました。これは、冬であっても年末年始は家族が集まる機会が多く、デザートとしてアイスを購入する需要があるためです。また、暖房の効いた室内で食べるアイスは、夏とは異なる楽しみ方として受け入れられています。

休日にアイスの売上が増加する理由

家族連れでの買い物が増加

休日にアイスの売上が増加する背景には、いくつかの要因が考えられます。まず、休日は家族連れでの買い物が増えるため、子どもへのおやつとしてアイスを購入する機会が増えます。

衝動買いが増加

平日は仕事や学校で忙しく、計画的な買い物になりがちですが、休日は時間に余裕があり、その場の気分でアイスを購入する「衝動買い」も増加します。

また、休日は外出先から帰宅した際に、暑さで疲れた体を癒すためにアイスを食べたいという欲求が強まります。行楽地やレジャー施設での活動後に、スーパーマーケットに立ち寄ってアイスを購入するパターンも多く見られます。

降水量・風速・気圧が売上に与える影響

気象要素相関の強さ傾向
降水量ほとんど相関なし雨の影響は限定的
風速若干の負の相関風が強いと売上低下
気圧強い負の相関気圧が高いと売上低下

気温以外の気象データと売上との関係性を確認するため、最大降水量と最大瞬間風速のデータとの相関を見てみました。結果として、降水量はほとんど相関が見られませんでした。

この結果は一見意外に思えるかもしれません。雨が降ると外出を控える人が増え、買い物客が減少するため、アイスの売上も下がると予想されます。しかし、実際のデータでは明確な相関が確認されませんでした。

降水量について相関が見られなかった理由

降水量について相関が見られなかった理由として、日本の気候上、気温が高い夏に雨が多くなる傾向にあるため、気温と雨の影響が相殺された結果と推察されます。日本は梅雨や台風の時期に降水量が増加しますが、これらの時期は気温も高い状態です。

雨が降ることで外出を控える効果がある一方で、気温が高いことでアイスの需要が高まる効果もあります。この二つの効果が相殺し合うことで、降水量単独では売上への明確な影響が見られなかったと考えられます。雨の日でも、スーパーマーケットに来店した顧客は、暑さを感じていればアイスを購入する行動を取るわけです。

風が強いと体感温度が下がり売上低下

風速については、若干の負の相関が見られました。風が強いと売上が低下する傾向があります。風が強い日は、体感温度が実際の気温よりも低く感じられる効果があります。これは「風冷え」と呼ばれる現象で、風によって体表面の熱が奪われるため、実際の気温よりも寒く感じるのです。

風が強い日は外出そのものが億劫になり、買い物客が減少する可能性もあります。また、風によって体温が下がると感じるため、冷たいアイスへの欲求が減少することも考えられます。ただし、この相関は「若干」という表現にとどまっており、風速が売上に与える影響は限定的であることがわかります。

高気圧は冬の晴天を意味し売上が低下

気圧については、気温とは逆に強い負の相関があることが確認されました。気圧が高いほど、アイスの売上は低くなる傾向があります。この結果は、一見すると直感に反するものです。

「高気圧=晴れ」でもアイスが売れない矛盾

一般的に「高気圧=晴れ」という印象があるため、「晴れているのにアイスが売れない」という結果は意外に感じられます。高気圧に覆われた日は、雲が少なく晴天となることが多いため、アイスの売上が増えると予想されます。しかし、実際のデータでは逆の結果が出ました。

この矛盾を解消する鍵は、日本の気候の特性にあります。日本では、冬は高気圧に覆われた晴天の日が多くなります。冬型の気圧配置では、大陸からの高気圧が日本列島を覆い、太平洋側では乾燥した晴天が続きます。

冬の高気圧は低温を伴うため売上減

つまり、「晴れていても寒ければアイスは売れない」という、より本質的な因果関係が見えてきます。気圧が高い日は確かに晴れていますが、冬の晴天では気温が低いため、アイスの需要は高まりません。一見すると逆説的に見える関係も、背景構造に一歩踏み込むことで納得できる結論を導くことができます。

データ分析では、表面的な相関関係だけでなく、その背景にある因果関係を理解することが重要です。気圧とアイス売上の負の相関は、実際には気圧と気温の関係を反映したものであり、最終的には気温がアイス売上を左右する主要因であることを示しています。

日射量が売上に与える影響

日射量20MJ/㎡を超えると売上が急増

日射量については、弱めの正の相関ではありますが、20MJ/㎡付近から売上が急激に増加する傾向が確認されました。日射量とは、地表に届く太陽からのエネルギー量を示す指標で、単位はメガジュール毎平方メートル(MJ/㎡)で表されます。

20MJ/㎡という数値は、エジプトやロサンゼルスなどの年間平均日射量に近い値です。この数値に達する日は、ジリジリと強く太陽が照っている日であることがわかります。日本では、夏の晴天日にこの水準に達することがあります。

強い日差しで体感温度が質的に変化

日射量が高い日は、直射日光による体感温度の上昇が顕著です。気温が同じであっても、強い日差しを浴びると体感温度は大きく上昇します。炎天下を歩いた後や、日差しの強い場所で過ごした後には、体を冷やしたいという欲求が強まります。

日射量が20MJ/㎡を超えると売上が急増する理由は、この閾値を超えると体感的な暑さが質的に変化するためと考えられます。通常の暑さから、耐え難い暑さへと変化する境界線が、この20MJ/㎡付近に存在する可能性があります。この水準を超えると、冷たいものへの欲求が急激に高まり、アイスの購入行動につながるのです。

暑い日に好まれる商品の傾向

ラクトアイスと氷菓が上位を独占

平均気温が30℃以上の暑い日の売上上位15位までの商品を確認したところ、第1位となったのは「元祖鹿児島 南国白くま」でした。この商品は「ラクトアイス」に分類されます。

乳固形分3.0%以上のさっぱりした味わい

ラクトアイスとは、乳固形分が3.0%以上のアイスを指します。アイスは乳固形分の含有率によって、アイスクリーム(15.0%以上)、アイスミルク(10.0%以上)、ラクトアイス(3.0%以上)の3つに分類されます。ラクトアイスは、乳成分を含む規格の中では最もさっぱりとした味わいのカテゴリです。

暑い日は濃厚さより清涼感を重視

商品カテゴリ上位15商品中の割合特徴
ラクトアイス6商品(4割)さっぱりとした味わい
氷菓複数商品シャーベット系、強い清涼感

ランキング全体を見ると、ラクトアイスの商品が上位15商品のうち6商品(4割)を占めていました。暑い日には濃厚さよりも清涼感や軽さを求める傾向があることが伺えます。

濃厚なアイスクリームは、口の中に脂肪分が残る感覚があり、暑い日には重たく感じられることがあります。一方、ラクトアイスはさっぱりとした後味で、何度でも食べたくなる軽やかさがあります。真夏の暑い日には、体を冷やすことが最優先となり、濃厚さよりも清涼感が重視されるのです。

氷菓はかち割り氷感覚で体を冷やす

あずきバー」や「ガリガリ君」、「サクレレモン」といった氷菓も上位にランクインしています。氷菓とは、乳成分を含まないシャーベット系のアイスを指します。これらの商品は、強い日差しの中でも手軽に体を冷やしたいというニーズにマッチしています。

強い清涼感を提供し、暑さを和らげる効果

氷菓は、まさにかち割り氷感覚で親しまれています。氷を砕いたような食感と、強い冷たさが特徴で、口に入れた瞬間に体温を下げる効果を感じることができます。価格も手頃なものが多く、気軽に購入できる点も、暑い日の人気を支えています。

ガリガリ君は、シャリシャリとした氷の食感と、果汁のやかな味わいが組み合わさっています。あずきバーは、小豆の素朴な甘さと、硬い食感が特徴です。サクレレモンは、レモンの酸味と、シャーベット状の氷が口の中で溶ける感覚が楽しめます。これらの商品は、いずれも強い清涼感を提供し、暑さを和らげる効果があります。

寒い日に好まれる商品の傾向

濃厚なアイスクリームと食感のある商品が人気

平均気温が10℃以下の寒い日の売上上位15位までの商品を確認したところ、第1位となったのは「グリコ ジャイアントコーン」でした。この商品は、アイスの中でも最も乳成分が多い「アイスクリーム」規格に分類されます。

乳固形分15.0%以上の濃厚な味わい

アイスクリーム規格とは、乳固形分が15.0%以上のアイスを指します。乳固形分が高いほど、濃厚でリッチな味わいとなります。ジャイアントコーンは、コーンの香ばしさと、濃厚なアイスクリームチョコレートやナッツといったトッピングが組み合わさった商品です。

寒い日はデザートとしての満足感を重視

商品カテゴリ代表的な商品特徴
アイスクリームジャイアントコーン濃厚で満足感のある味わい
アイスミルクガーナチョコ&クッキーサンド、ザ・クレープしっかりとした食感

通常よりも販売比率が高まる商品として、「ガーナチョコ&クッキーサンド」や「ザ・クレープ」などがランクインしています。これらは、アイスクリームラクトアイスの中間に位置する「アイスミルク」に分類されます。

クッキーやクレープのしっかりした食感が評価

アイスミルクは、乳固形分が10.0%以上のアイスで、アイスクリームほど濃厚ではありませんが、ラクトアイスよりもコクがある味わいです。ガーナチョコ&クッキーサンドは、チョコレートアイスクッキーでサンドされており、クッキーの食感が楽しめます。ザ・クレープは、クレープ生地でアイスが包まれており、もちもちとした食感があります。

寒い日には、清涼感よりもスイーツとしての満足感や食べ応えを重視した商品が選ばれる傾向にあります。冬のアイスは、体を冷やすためではなく、デザートとして楽しむものとして位置づけられています。濃厚な味わいと、しっかりとした食感が、寒い日のアイス選びにおいて重要な要素となっているのです。

暖房の効いた室内でゆっくり味わう楽しみ方

寒い日にアイスが売れる背景には、暖房の効いた室内での楽しみ方があります。冬の室内は暖房により温かく、時には暑いと感じることもあります。そのような環境では、冷たいアイスが心地よく感じられます。

こたつに入りながらアイスを食べるという楽しみ方は、日本の冬の風物詩の一つとなっています。暖かい部屋で、濃厚なアイスをゆっくりと味わう時間は、夏とは異なる贅沢な体験です。この文化が、寒い日でも一定のアイス需要を支えています。

購買データとオープンデータの組み合わせ

飲料や菓子など多様な商品への応用が可能

今回は「アイス」市場に焦点を当てた分析でしたが、この手法は他の商品カテゴリにも応用可能です。飲料市場では、気温と冷たい飲料の売上、雨天と温かい飲料の売上といった関係を分析できます。お菓子市場では、湿度とスナック菓子の売上、気温とチョコレートの売上といった関係を調べることができます。

生活用品では、気温と制汗剤の売上、降水量と傘や雨具の売上、花粉の飛散量と花粉症対策商品の売上といった分析が可能です。このように、購買データと気象データを組み合わせることで、天候が消費行動に与える影響を定量的に把握できます。

人口動態や経済指標との組み合わせも実現

気象データ以外にも、人口動態や経済指標といったオープンデータを活用した組み合わせ分析が可能です。人口動態データを使えば、地域ごとの年齢構成と商品の売上の関係を分析できます。高齢化率の高い地域で売れる商品と、若年層が多い地域で売れる商品の違いを明らかにすることができます。

経済指標としては、所得水準や失業率といったデータがあります。これらのデータと購買データを組み合わせることで、景気動向が消費行動に与える影響を分析できます。所得が高い地域では高価格帯の商品が売れやすい、失業率が上昇すると低価格帯の商品へのシフトが起こる、といった傾向を定量的に把握できるのです。

発注量最適化や新商品開発に活用

このようなデータ分析は、小売業や製造業の意思決定に役立ちます。気温や天候の予測データを活用することで、商品の発注量を最適化できます。暑い日が予想される週には、ラクトアイス氷菓の在庫を増やし、寒い日が予想される週には、アイスクリーム規格の商品を充実させるといった対応が可能になります。

また、新商品開発においても、データ分析から得られる示唆は有用です。暑い日に求められる清涼感、寒い日に求められる満足感といった消費者ニーズを踏まえた商品設計ができます。マーケティング施策においても、気温に応じた広告メッセージの最適化や、天候に連動したプロモーションの実施が可能になります。

まとめ

ID-POSデータと気象データを組み合わせた分析により、アイス市場における気候や天候の影響が明らかになりました。気温とアイス売上の間には強い正の相関があり、暑い日ほど売上が増加する傾向が確認されました。特に、暑い日の休日売上は、平日の約1.4倍に上昇しています。

降水量や風速との相関は弱めでしたが、気圧との間には強い負の相関が確認されました。気圧が高いほど売上は低くなる傾向がありますが、これは冬の高気圧に覆われた晴天日には気温が低いため、晴れていても寒ければアイスは売れないという因果関係を反映しています。

日射量については、20MJ/㎡付近から売上が急激に増加する傾向が見られ、強い日差しが体感温度を上昇させ、アイスへの需要を高めることが示されました。

商品別の分析では、暑い日には「南国白くま」や「ガリガリ君」など清涼感を与えるラクトアイス氷菓が人気となり、寒い日には「ジャイアントコーン」や「ガーナチョコ&クッキーサンド」などスイーツとしての満足感を味わえるアイスクリームアイスミルクが選ばれる傾向が確認されました。

購買データとオープンデータの組み合わせは、アイス市場に限らず、多様な商品カテゴリや分析テーマに応用可能です。気象や人口動態、経済指標といったデータを活用することで、消費行動のメカニズムを深く理解し、ビジネスの意思決定に役立てることができます。

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