2025年のパン・スイーツ市場の動向と2026年の未来予測
調査概要
株式会社富士経済は、消費者の価格意識が高まる中で変化するパン・スイーツ市場の実態を明らかにするため、包括的な市場調査を実施しました。
この調査は「パン&スイーツ市場の全貌・課題分析 2025」として2025年10月10日に発表されたものです。
調査の背景には、消費者の購買行動に大きな変化が起きているという認識があります。原料高騰に伴う価格改定が相次ぐ中で、消費者は低価格商品や値ごろ感のある商品を求める傾向を強めています。この動きは単に同じ商品カテゴリーの中で安い商品を選ぶというだけでなく、異なるカテゴリー間での需要シフトも引き起こす可能性があると予想されています。
調査の対象範囲
今回の調査では、パンとスイーツという二つの大きなカテゴリーを網羅的に分析しています。
パン
食パン、テーブルパン、惣菜パン、菓子パン、チルドパン販売チャネルは量販店やコンビニエンスストアといった流通、ベーカリーショップ、スイーツショップなどの専門店、さらには外食店にまで及んでいます。
スイーツ
パンと同様に、チルド洋菓子やドライ洋菓子、和菓子、チョコレートといった製品種類と、それらが販売される様々なチャネルの両面から市場を捉えています。このような多角的なアプローチにより、市場全体の構造と動きを立体的に理解できる調査設計となっています。
パン市場
パン市場は2025年に3兆3,187億円の規模に達すると見込まれています。
この巨大な市場を製品種類別に見ると、菓子パンと惣菜パンだけで全体の約70%を占めており、日本の消費者にとってこれらが主力商品であることがわかります。
販売チャネル別では、量販店やコンビニエンスストアなどの棚に陳列される流通パン、ベーカリーショップや量販店内のインストアベーカリーで販売されるベーカリー、そしてハンバーガーショップや宅配ピザ、ドーナツショップといった外食の三つに大別されます。それぞれのチャネルが異なる顧客ニーズに応えながら市場を形成しています。
2024年の市場動向
2024年のパン市場は前年比3.2%増と堅調に成長しました。
この成長の背景には、価格志向の強まりと、それに対応した商品展開があります。流通パンでは、低価格なホワイト食パンや、税込120円以下の単品菓子パン・惣菜パンといった値ごろ感のある商品への需要が高まりました。
一方でベーカリー分野では、個人経営の店舗が減少傾向にある中、量販店インストアベーカリーの出店が活発化しています。これらの店舗では惣菜パンや菓子パンに加えて、ドーナツをはじめとするベーカリースイーツが消費者の支持を集めました。
2025年の見通し
2025年も市場の拡大基調は続く見込みです。
流通パンでは価格改定により消費者の価格志向がさらに強まっています。その結果、割高感のあるハーフサイズ食パンなどは苦戦していますが、全体としては単価上昇により市場は伸びを維持すると予測されています。
ベーカリー分野では、個人店の苦戦が続く一方で、量販店インストアベーカリーへの参入企業の注力度が高く、市場全体を牽引する存在となっています。この二極化の傾向は今後も続くと考えられます。
菓子パン市場
製品構成の多様性
菓子パン市場には多様な製品が含まれています。デニッシュやフィリング入りのアンパンなどの伝統的な製品に加えて、ドーナツやスイスロールといったベーカリースイーツも菓子パンの一部として扱われています。この幅広い製品構成が市場の魅力を高めています。
成長の軌跡
2021年以降、菓子パン市場は活性化の局面に入りました。ドーナツの好調や、複数個入りでお得感のあるマルチパック品のラインアップ拡充などが市場を後押しし、拡大が続いています。2023年には市場規模が1兆円を突破するという大きな節目を迎えました。
2024年の市場動向
2024年も市場拡大の流れは継続しました。外食分野ではドーナツショップが上位企業を中心に実績を伸ばしています。ハンバーガーショップでは、昼食と夕食の間の時間帯の集客を強化するため、パイの新商品投入が活発に行われました。
流通パンでは、価格優位性の高い120円以下の大ぶりな単品菓子パンへの需要が高まりました。この価格帯は消費者にとって手頃でありながら満足感も得られるため、支持を集めています。
2025年の展望
2025年の年初には価格改定があり、消費者の価格志向がより一層強まっています。こうした環境下で、流通パンメーカーは戦略的な対応を進めています。具体的には、アッパー、ミドル、廉価という三つの価格帯での商品展開を行うことで、幅広い顧客層のニーズに応えようとしています。
低価格ニーズへの対応だけでなく、洋菓子と比較した際の価格優位性も菓子パンの強みとなっています。この優位性により洋菓子からの需要流入も期待され、市場拡大が続くと予測されています。
スイーツ市場
スイーツ市場は多様な製品カテゴリーから構成されています。
中でもチルド洋菓子とドライ和菓子が市場全体の60%以上を占めており、主力製品となっています。チルド洋菓子にはケーキやシュー・エクレアなどが、ドライ和菓子には大福・団子やまんじゅうなどが含まれます。
販売チャネル別では、スイーツショップが約60%、流通スイーツが約35%という構成になっています。専門店での販売が主流でありながら、量販店やコンビニエンスストアなどでの流通も一定の割合を占めているのが特徴です。
2024年の市場動向
2024年のスイーツ市場では、洋菓子と和菓子の両方が前年を上回る実績を示しました。洋菓子については、前年まで続いていた鶏卵不足が緩和されたことが市場にプラスの影響を与えました。この供給改善により、流通スイーツでの新商品投入が活発化しています。
洋菓子
消費者の価格志向に対応して、大容量のロールケーキや小型ホールのタルト、低単価なシュークリームといった値ごろ感のある商品が好調でした。一方でスイーツショップでは、付加価値商品を投入することで、レギュラー商品とのラインアップを充実させ、多様な顧客の獲得につなげています。
和菓子
和菓子市場は新型コロナウイルスの影響により2020年に4,000億円を下回りましたが、その後は百貨店内店舗を中心に回復し、2022年に再び4,000億円台に戻して以降、拡大を続けています。2024年には、洋菓子と比較して値ごろ感があることから贈答需要が高まり、観光地や行楽地の店舗を中心に安定した需要を獲得しました。
流通スイーツでは、ようかんが予想外の形で注目を集めました。日持ちの良さや栄養補給に効果的であるという情報がSNSなどで話題となり、備蓄需要を獲得して売上増につながっています。
2025年の見通し
2025年もスイーツ市場は前年比微増が見込まれています。スイーツショップでは上位企業が店舗数を増やしており、これが市場拡大の原動力となっています。手土産需要や自家需要が引き続き好調であることも市場を下支えしています。
流通スイーツでは、二つの異なるアプローチが見られます。チルド洋菓子では付加価値商品が需要を獲得する一方、ドライ洋菓子では値ごろ感のある商品が支持を集めています。また、多くの品目で季節感を訴求したフレーバー展開や新商品投入が行われており、これらが市場の伸びを支えると予測されています。
量販店インストアベーカリー市場
量販店インストアベーカリーとは、量販店内に出店するチェーンベーカリーを指します。
この市場規模にはパン以外の飲料などの売上も含まれています。2026年には2,290億円に達し、2024年比で5.0%増と予測されています。
過去の市場推移
2010年代後半は、量販店インストアベーカリーにとって厳しい時期でした。流通パンとの競合に加えて、量販店側がベーカリー売場を重視していなかったことから、市場は微減が続きました。しかし2021年以降、状況は大きく変化します。
外出自粛や在宅勤務による内食需要の高まりが市場を後押しし、回復の契機となりました。その後も原料高騰に伴う価格改定で単価が上昇したことや、個人ベーカリーや外食店に対する価格優位性が働き、伸びが続いています。
2024年の市場動向
2024年は市場にとって転換点となる年でした。低価格な流通パンへのシフトも一部で見られましたが、コストパフォーマンスの高い惣菜パンを中心に需要が増加しました。さらに店舗数の増加も市場拡大に寄与しています。
量販店の新規出店や改装時にインストアベーカリーを併設する動きが活発化しており、量販店側の注力度の高まりが明確に表れています。この変化は、量販店がベーカリーを差別化要素として重視し始めたことを示しています。
2025年以降の見込み
2025年も店舗数の増加は続く見込みですが、それだけでなく質的な変化も起きています。量販店がベーカリーをテナントから直営へ切り替える動きが見られ、他チェーンとの差別化を図ろうとしています。
商品戦略の進化
直営化により、エリア独自のメニューや単価の高い付加価値商品の投入が可能になります。これにより1店舗あたりの売上が増加し、市場の続伸につながると期待されています。地域性を活かした商品開発は、全国チェーンとの差別化において重要な要素となります。
販売方法の見直し
新型コロナウイルス対策としてパンの袋売りが広がりましたが、現在は裸売りに戻す動きが見られます。この変更により、オープンフレッシュベーカリーならではの焼きたて感やシズル感を訴求でき、需要喚起につながると考えられています。視覚的・嗅覚的な訴求は、購買意欲を高める重要な要素です。
チョコレート専門店市場
チョコレート専門店市場は、チョコレート商品の販売が5割以上を占める洋菓子店を対象としており、百貨店の催事場も含まれます。2026年には1,001億円に達し、2024年比で8.5%増と予測されています。これは1,000億円の大台を突破する重要な節目となります。
コロナ禍からの回復
百貨店が主要なロケーションであるため、2020年は店舗の休業やギフト需要の低下に伴って市場は大きく縮小しました。しかしその後は、人流の回復やバレンタインを中心とした自家需要の増加により回復に向かっています。
2024年の市場動向
2024年は複数の要因が市場拡大に寄与しました。前年に引き続き、バレンタインデーのカジュアルギフト需要や自家需要が旺盛でした。カジュアルギフトとは、高額な贈り物ではなく、手頃な価格で気軽に贈れるギフトを指します。
また、カカオ豆の高騰や為替の影響による価格改定で単価が上昇したことも市場拡大の要因となりました。需要が堅調であったため、価格上昇が市場縮小につながらず、むしろ金額ベースでの市場拡大に寄与したのです。
2025年以降の見込み
原料価格の影響
2025年はカカオ豆価格の高止まりという課題に直面しています。さらに夏場の長期化による需要減退といった懸念もあります。こうした環境下で、参入各社は新たな商品開発戦略を展開しています。
商品開発の方向性
各社が注力しているのは、焼き菓子や半生菓子など、カカオ含有量が少ない商品の開発です。これらの商品は原料コストを抑えながらも、チョコレート専門店らしさを維持できるため、価格高騰への有効な対応策となっています。
将来的な懸念
原料高騰などによる価格改定の動きが続いていることは、将来的に参入企業の注力度低下につながる可能性もあります。利益率の圧迫が続けば、企業が事業を縮小したり撤退したりする可能性も否定できません。
しかし短期的には、需要の堅調さと商品開発の工夫により、市場は拡大を続けると予測されています。2026年の1,000億円突破は、こうした複合的な要因の結果として実現する見込みです。
市場動向から読み取れる考察
価格志向の強まりと商品戦略
パン・スイーツ市場全体を通じて、消費者の価格志向が強まっていることが明確に表れています。しかしこれは単に安い商品だけが売れるという単純な構図ではありません。市場では価格帯別の商品展開が進んでおり、低価格商品と付加価値商品が共存する二極化の傾向が見られます。
この二極化は、消費者の購買行動が多様化していることを示しています。日常的な消費では価格を重視しつつ、特別な機会には付加価値商品を選ぶといった使い分けが進んでいると考えられます。企業側もこの動きに対応して、単一の価格戦略ではなく、複数の価格帯での商品ラインアップを充実させています。
チャネル間の競合と住み分け
流通パンとベーカリー、外食といった異なるチャネル間での競合が激しくなっています。しかし同時に、それぞれのチャネルが独自の強みを活かした住み分けも進んでいます。流通パンは価格優位性と利便性、ベーカリーは焼きたて感と商品の質、外食は体験価値といった具合です。
特に量販店インストアベーカリーの成長は、この住み分けの好例と言えます。量販店という利便性の高い立地で、ベーカリーの強みである焼きたて感を提供することで、新たな需要を創出しています。直営化による地域独自メニューの開発は、さらに差別化を強化する動きとして注目されます。
和菓子の再評価
和菓子市場の回復と成長は、日本の伝統的な菓子が現代の消費者ニーズに適合している側面を示しています。洋菓子と比較した際の値ごろ感、日持ちの良さ、健康面での利点といった実用的な価値が、消費者に再評価されています。
ようかんがSNSで話題となり備蓄需要を獲得したという事例は、伝統的な商品が新しい文脈で注目を集める可能性を示しています。これは単なる懐古的な人気ではなく、現代的なニーズに応える形での再発見と言えるでしょう。
原料価格高騰への適応
カカオ豆の高騰に対するチョコレート専門店の対応は、原料価格変動への企業の適応力を示しています。カカオ含有量の少ない商品開発という戦略は、短期的なコスト対策であると同時に、商品バリエーションの拡大という長期的な意義も持っています。
ただし、価格改定が続くことで将来的に企業の注力度が低下する可能性があるという指摘は重要です。消費者の価格許容度には限界があり、それを超えると需要減退や事業撤退につながる可能性があります。この均衡点をどこに設定するかが、今後の市場動向を左右する要因となるでしょう。
外食需要の回復と変化
ドーナツショップやハンバーガーショップの好調は、外食需要の回復を示していますが、同時に変化も見られます。ハンバーガーショップがアイドルタイムの集客強化のためにパイなどの新商品を投入している例は、従来の食事時間帯以外での需要創出を目指す動きです。
この傾向は、外食産業が単なる食事提供から、より幅広い時間帯での軽食・おやつ需要への対応へとシフトしていることを示唆しています。パンやスイーツは、こうした新しい消費機会を創出しやすい商品カテゴリーと言えます。
今後の市場展望
これらの動向を総合すると、パン・スイーツ市場は短期的には堅調な成長が続くと予想されますが、中長期的には消費者の価格許容度、原料価格の動向、企業の商品開発力といった複数の要因のバランスが重要になります。
市場の拡大が続く中でも、個人店の減少やチャネル間の競合激化といった課題も存在します。成功する企業は、価格と品質のバランス、立地の優位性、商品開発力といった複数の要素を組み合わせて、独自の競争優位性を構築していく必要があるでしょう。





