サクッとした衣の中から、とろりとしたカレーがあふれ出す。
今ではどこでも手軽に買えるこのパンが、実は日本で生まれたユニークな発明品だと知っていましたか。
この記事では、カレーパンの奥深い世界を、その誕生の歴史から最新のトレンド、美味しく食べる秘訣まで、詳しく解説していきます。
カレーパンとは?
まずはじめに、カレーパンがどのようなパンなのか、その基本的な特徴から見ていきましょう。
カレーパンの定義
カレーパンは、パンの中にカレーを入れた「惣菜(そうざい)パン」の一種です。
惣菜パンとは、お菓子として食べる甘いパンとは違い、食事になるような具材を使ったパンを指します。
一般的には、小麦粉で作った生地でカレーフィリングを包みます。
その周りにパン粉をまぶし、油で揚げて作られるのが最も知られたスタイルです。
西洋の「パン」とインドの「カレー」が融合した、まさに日本ならではの食べ物なのです。
カレーパンの魅力
食感の魅力 | サクサクの衣、ふわっとした生地、とろけるカレー |
---|---|
味の魅力 | スパイスと小麦の甘さが絶妙にマッチ |
手軽さ | 片手で食べられる。ボリュームもある |
バリエーション | 具材、調理法、見た目などで多様化が進む |
カレーパン最大の魅力は、その食感と味わいの絶妙なバランスにあります。
一口食べると、まず衣のサクサクとした食感が楽しめます。
次に、パン生地のふんわりとした優しい甘さが口の中に広がります。
そして最後に、中から出てくるスパイシーなカレーが全体をまとめ上げます。
この三つの要素が織りなすハーモニーが、多くの人々を惹きつけてやみません。
カレーパンの起源と歴史
カレーパンがいつ、どこで、誰によって作られたのか。
その起源にはいくつかの説があり、今も「元祖」をめぐる議論が続いています。
発祥元候補 | 年代 | 特徴や根拠 |
---|---|---|
名花堂(カトレア) | 1927年(昭和2年) | 実用新案登録あり。揚げカツ風の製法 |
デンマークブロート | 1934年創業 | とんかつから着想を得た揚げパンを販売 |
新宿中村屋 | 不明 | インドカレーを元に独自開発した説 |
ピロシキ起源説 | 不明 | ロシア料理の影響。揚げパン文化の共通点あり |
元祖の有力説①:名花堂(現カトレア)
現在、最も有力とされているのが、1927年(昭和2年)に東京・江東区にあった「名花堂」が元祖だという説です。
「洋食パン」としての発明
名花堂の二代目であった中田豊治氏が、「洋食パン」という名前で実用新案を登録した記録が残っています。
実用新案とは、新しい発明やアイデアを保護するための権利のことです。
その内容は「具の入ったパンをカツレツのように揚げる」という製法に関するものでした。
この調理法が、現在のカレーパンの直接のルーツになったと考えられています。
元祖の有力説②:デンマークブロート
一方で、東京・練馬区にある「デンマークブロート」(1934年創業)も、カレーパンの発明者として名乗りを上げています。
とんかつをヒントに発明
こちらの店では、最初にあんぱんのようにカレーを包んで焼いたり、サンドイッチにしたりして販売しました。
しかし、残念ながら売れ行きは芳しくなかったようです。
ある時、店主が洋食のとんかつからヒントを得ました。
「カレーも揚げてみたらどうか」というアイデアから生まれた揚げカレーパンが、大ヒット商品となったのです。
その他の起源説
上記二つの有名な説のほかにも、カレーパンの起源とされる話がいくつか存在します。
新宿中村屋説
老舗の「新宿中村屋」が、インド独立運動家ラス・ビハリ・ボースから伝授された本格的なインドカレーをヒントに開発した、という説です。
ピロシキ起源説
ひき肉などの具材をパン生地に包んで揚げるロシアの家庭料理「ピロシキ」が、カレーパンの原型になったという説もあります。調理法に多くの共通点が見られます。
カレーパンの普及史
今や国民食ともいえるカレーパンですが、その道のりは平坦ではありませんでした。
調理法から価格、そして全国への普及まで、様々な背景がありました。
「揚げパン」である理由
カレーパンが揚げて作られるようになったのには、技術的な理由がありました。
調理上の理由
カレーは、パン生地に比べて水分を非常に多く含んでいます。
そのため、オーブンで焼こうとすると、水分が蒸発してパンがうまく膨らまなかったり、べちゃっとした仕上がりになったりしました。
油で揚げることで、パンの表面が一気に固まって丈夫な衣となり、中のカレーをしっかりと閉じ込めることができたのです。
全国に広まった経緯
カレーパンは、誕生してからすぐ日本中に広まったわけではありませんでした。
普及を後押しした要因
1984年(昭和59年)に出版された俳優・石坂浩二さんの本によると、驚くべき事実が書かれています。
石坂さんがラジオ番組でカレーパンの話をしたところ、全国のリスナーから「私の地元ではカレーパンを見たことがない」といったハガキが届いたそうです。
その後のカレーパンの急速な普及には、二つの大きな力が働きました。
一つは、大手食品メーカーが、袋詰めのカレーパンを大量生産し、スーパーなどで販売し始めたことです。
もう一つは、コンビニエンスストアが、レジ横のホットスナックとしてカレーパンを置くようになったことです。
これにより、カレーパンはいつでもどこでも買える身近な存在へと変わりました。
カレーパンの種類と進化
カレーパンは、今もなお進化を続けています。
調理法から具材、サービスに至るまで、そのバリエーションは驚くほど豊かです。
調理法による種類
種類 | 製法 | 特徴 |
---|---|---|
揚げカレーパン | 油で高温揚げ | カリッとした食感。香ばしく、食べ応えあり |
焼きカレーパン | オーブンで焼成 | 油を使わずヘルシー。軽い口当たり |
蒸しカレーパン | 蒸し器で加熱 | もちもち食感。やさしい風味としっとり感 |
伝統的な揚げパンだけでなく、新しいスタイルのカレーパンも定番になりつつあります。
揚げカレーパン
高温の油で揚げることで生まれる、カリカリ、サクサクの食感が魅力の伝統的なスタイルです。香ばしい風味と満足感が人気の理由でしょう。
焼きカレーパン
油を使わずにオーブンで焼き上げたカレーパンです。揚げていないためカロリーが低く、あっさりとした軽い食感が特徴で、健康を気にする人から支持されています。
蒸しカレーパン
蒸し器を使って作られる、少し珍しいタイプのカレーパン。パン生地がもちもちとした食感になり、カレーの風味がよりマイルドに感じられます。
具材による種類
カレーの種類 | 主な具材 | 味の特徴 |
---|---|---|
ビーフカレー | 牛肉・玉ねぎなど | 濃厚でコクのある定番の味 |
キーマカレー | ひき肉・スパイス | スパイシーで食感も楽しめる |
チキンカレー | 鶏肉・野菜 | あっさりとしたヘルシーな味わい |
シーフードカレー | エビ・イカ・ホタテなど | 魚介のうま味がしっかり効いている |
中に入れるカレーフィリングやトッピングも、時代と共に進化しています。
カレーの種類
昔ながらの牛肉を使ったカレーだけでなく、ひき肉で作る「キーマカレー」、さっぱりとした「チキンカレー」、魚介の旨味が詰まった「シーフードカレー」など、様々な種類が登場しています。
人気の具材
カレーパンの中に、丸ごと一個のゆで卵が入ったものは、今や大人気商品です。
また、カレーと相性抜群のチーズをたっぷり加えたカレーパンも、多くのファンを獲得しています。
ご当地カレーパン
日本各地では、その土地ならではの特産品を活かした「ご当地カレーパン」が次々と生まれています。
例えば、ブランド牛を使ったり、地元の野菜を入れたりしたカレーパンが、観光地の名物として人気を集めています。
見た目・サービス
味だけでなく、見た目や買い方にも新しい波が来ています。
写真映えを意識して、ハート型にしたり、生地に色を付けたりしたカラフルなカレーパンも登場しました。
また、月額定額制で色々なカレーパンが届くサブスクリプションサービスや、全国の有名店のカレーパンを自宅で楽しめるお取り寄せサービスも始まっています。
カレーパンの美味しい食べ方と注意点
せっかくカレーパンを食べるなら、一番美味しい状態で味わいたいものです。
ここでは、専門家も推奨する食べ方のコツと、知っておきたい注意点を紹介します。
美味しく食べるためのコツ
ちょっとした工夫で、カレーパンの魅力は何倍にも膨らみます。
手で持って食べる
カレーパンは、フォークやナイフを使わず、ぜひ素手で持って食べてみてください。
手で感じるパンの温度や油の状態も、美味しさを構成する大切な要素の一つだからです。
温め直して食べる
冷めてしまったカレーパンは、オーブントースターで温め直すのがおすすめです。
中のカレーが温まることで香りが立ち、衣のサクサク感も復活します。
食べる際の注意点
美味しく安全に楽しむために、いくつか注意したいポイントがあります。
やけど
温め直したばかりのカレーパンは、中のカレーが非常に熱くなっています。勢いよくかぶりつくと、やけどをする危険があるので気をつけましょう。
カレーの漏れ
カレーパンには、生地を閉じた部分があり、これを「へそ」と呼びます。この「へそ」を下に向けて持つと、カレーがこぼれ出ることがあるので、上向きにして食べるのが正解です。
服装の汚れ
万が一カレーが服に飛んでしまっても目立たないように、白っぽい服は避けるのが賢明です。黄色や茶色、黒っぽい服装だと安心できます。
鳥からの横取り
公園など屋外で食べる際は、カラスや鳩に狙われることがあります。食べ物を取られないよう、周囲にも気を配る必要があります。
カレーパンの海外での評価
日本で独自の進化を遂げたカレーパンは、今や海を越えて海外でも注目され始めています。
海外での普及状況
世界的な日本食ブームを背景に、「Japanese Curry Bread」として、海外のベーカリーや日本食レストランのメニューに加わる例が増えています。
特にニューヨークやロサンゼルスといった大都市では、日本のパン屋が進出し、現地の味として受け入れられつつあります。
海外からの感想
カレーパンを初めて食べた外国人の反応は、概ね好意的です。
「クリスピーな食感と、甘くてスパイシーなカレーの組み合わせが最高」といった、称賛の声が多く聞かれます。
一方で、「これは甘いドーナツなの?それとも食事なの?」といった、その独特な立ち位置に驚く人もいます。
まとめ
カレーパンは、海外から伝わったパンとカレーという文化を、日本人が独自のアイデアで融合させて生み出した、類まれな食べ物です。
昭和の時代に東京の町工場で生まれ、労働者のお腹を満たし、技術的な課題を乗り越えてきました。
そして、大手メーカーやコンビニの力を借りて全国に広まり、今では焼きカレーパンやご当地カレーパンといった多様な姿に進化しています。
その歴史は、まさに日本の食文化が持つ「創意工夫」と「適応力」の象徴といえるでしょう。
これからもカレーパンは、時代と共に新しい姿を見せながら、日本のソウルフードとして多くの人々に愛され続けていくに違いありません。