食品を購入する際、パッケージに記載されている「製造者」や「販売者」の情報を見たことがある人は多いでしょう。
しかし、商品の裏側に記された「+ABC」のような謎の記号について、詳しく知っている人は少ないかもしれません。
これは「製造所固有記号」と呼ばれ、食品表示の中でもとても大切な仕組みです。
この記事では、製造所固有記号の役割やルール、表示方法まで、制度の背景を含めて詳しく解説します。


製造所固有記号とは?
製造所固有記号とは、同一商品を複数の工場(製造所)で作っている場合に、実際の工場名や住所を表示せず、代わりに記号で表すことを認めた制度です。
記号の前には「+」記号が付き、例えば以下のように表示されます。
製造者 ○○食品株式会社 +AB1
なぜ製造所固有記号が必要なのか?
1. トレーサビリティの確保
食品事故や異物混入などが起きたとき、「どこで作られたか」を追跡するためには製造所の情報が不可欠です。
固有記号で表示しても、記号に対応する工場を公開することでトレーサビリティ(追跡可能性)を維持できます。
2. 表示スペースの有効活用
多くの食品パッケージは限られたスペースしかありません。
特に小容量商品では、すべての工場名や住所を記載することが難しい場合もあります。
そこで、記号を使って表示を簡略化することが認められています。
製造所固有記号の表示方法
表示例 | 内容 |
---|---|
株式会社○○ 東京都千代田区1-1-1 +AB1 | 製造者の情報の後に記号を追加 |
販売者:株式会社△△ 大阪市中央区2-2-2 +XY2 | 販売者が表示責任を負う場合 |
委託製造あり:販売者情報 +記号 | 委託先を含むパターン |
※パッケージの形状などにより同一箇所に表示できない場合は、記号を別の位置に表示しても差し支えありません。
製造所固有記号の表示条件
製造所固有記号は、どんな商品にも自由に使えるわけではありません。
以下のような条件をすべて満たす必要があります。
製品の製造者 | 同一の製造者であること(会社が同じ) |
---|---|
製造所数 | 2つ以上の製造所で製造されている、または予定されていること |
製品の内容 | 同一規格・同一包装の製品であること |
- 原材料や配合、添加物などの成分が同じ
- 内容量が同じ
- 包材(パッケージ)のデザイン・表示内容がすべて同じ
使用できない例
内容量が異なる (例:お茶500mlとお茶280ml) | 内容が違うため別製品とみなされる |
---|---|
パッケージデザインが異なる (例:通常パッケージとキャンペーン仕様) | 表示内容が違うため別製品 |
製造所固有記号の使用パターン
製造パターンによっても、記号の使用可否が変わります。
使用が可能な例
- 自社の複数の工場で製造している
- 委託している他社工場で製造している
- 自社工場と委託工場の両方で製造している
例外的に使用が認められる場合
- 届出時点では1つの工場しか使っていないが、将来的に複数工場で製造予定がある(その場合、計画書の添付が必要)
- 複数の工場で最終的に衛生状態が変化する加工をしている(例:殺菌処理など)
- 他の法律に基づくトレーサビリティ制度がある場合
記号を使う際の必須対応
記号を表示する場合、次のいずれかの方法で製造所の実際の情報を消費者が確認できる状態にしておく必要があります。
製造所情報の提示
- 問い合わせ先(電話番号・窓口など)の明記
- 製造所の情報が記載された公式ウェブサイトのURLを掲載
- パッケージ上に、すべての製造所の住所・名称を記載
表示例
製造所に関するお問い合わせは、○○食品株式会社 お客様相談室(0120-XXX-XXX)まで
または https://www.example.co.jp/factory-list をご確認ください。
消費者・事業者にとってのメリット
● 消費者にとって
- 製造所の情報が明確で、安心して購入できる
- 問題発生時に迅速に問い合わせが可能
● 事業者にとって
- 表示スペースを有効に使える
- 複数拠点での製造体制に柔軟に対応できる
製造所固有記号は届出が必要
製造所固有記号を使うには、消費者庁への事前届出が必要です。
以下の内容を含めた届出書を提出します
届出内容の一例
- 使用する製品の情報
- 対象となるすべての製造所の名称・所在地
- 使用する固有記号とその意味
- 消費者への開示方法(電話窓口、WEBなど)
まとめ
「+AB1」や「+XYZ」など、いままで見過ごしていた小さな記号にも、食品の安全や透明性を支える重要な意味があります。
製造所固有記号は、企業にとっては効率的な表示方法、消費者にとっては安心して選べる手がかりになる制度です。
食品を手に取るとき、ぜひその記号にも注目してみてください。