食料システム法とは|2025年6月に国会で成立した新しい法律
食料システム法とは
| 法律の通称 | 食料システム法 |
|---|---|
| 正式名称 | 食品等の持続的な供給を実現するための食品等事業者による事業活動の促進及び食品等の取引の適正化に関する法律 |
| 成立時期 | 2025年6月 |
| 完全施行予定 | 2026年4月 |
| 前身の法律 | 食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律 |
食料システム法は、2025年6月に国会で成立した新しい法律です。
正式な名前は「食品等の持続的な供給を実現するための食品等事業者による事業活動の促進及び食品等の取引の適正化に関する法律」といいます。
非常に長い名前ですが、要するに「食べ物を作る人や売る人が、これからもずっと仕事を続けられるように支える法律」という意味です。
実はこの法律は、もともとあった「食品等の流通の合理化及び取引の適正化に関する法律」という法律を大きく改正して、名前も変えたものです。
そして2026年4月から完全に実施される予定になっており、今、農林水産省という国の役所が、この法律をきちんと動かすための準備を急いで進めています。
食料システム法が必要になった理由
現状の問題点
- 実際にかかっている費用を値段に反映できない
- 関わっている人たちがみんな我慢している
- 食べ物を作る人や会社が減る恐れがある
- 将来的に食べ物の安定供給が危うくなる
私たちが毎日食べている食べ物は、農家で作られてから食卓に届くまでに、いくつもの段階を通ります。
しかし、実際にかかっている費用を値段に反映できないまま、関わっている人たちがみんな我慢している状況が続いていました。
このような状態が続くと、食べ物を作る人や会社が減ってしまい、将来的に食べ物の安定した供給そのものが危うくなってしまいます。
国はこの問題を深刻に受け止め、食料システム法を制定しました。
食べ物が届くまでの流れ
生産から販売までの段階
食べ物が届くまでの段階(例:米の場合)
- 農家:田んぼで米を作る
- 集荷業者:各農家から米を集める
- 運送業者:米を運ぶ
- 小売店:お店で消費者に売る
食べ物が届くまでの段階(例:豆腐の場合)
- 農家:大豆を育てる
- 加工工場:大豆を豆腐に加工する
- 運送業者:豆腐を運ぶ
- 小売店:お店で消費者に売る
私たちが毎日食べている食べ物は、農家で作られてから食卓に届くまでに、いくつもの段階を通ります。
野菜や米を作る農家の人がいて、それを集めて運ぶ業者がいて、最後にお店で売る小売店があります。
豆腐や納豆のような加工食品なら、原料の大豆を育てる農家と、それを豆腐や納豆に変える工場、そして完成した商品を運ぶ業者とお店も関わってきます。
このように、食べ物が私たちの手元に届くまでには多くの人が関わっているのです。
それぞれの段階でかかる費用
| 段階 | 主なコストの例 |
|---|---|
| 農家 | 肥料代、種代、電気代、水道代、人件費 |
| 加工工場 | 原材料費、人件費、電気代、機械の維持費 |
| 運送業者 | 燃料代、人件費、車両の維持費 |
| 小売店 | 人件費、店舗の家賃、電気代 |
農家の人が野菜を育てるには、肥料代や種代、ビニールハウスを暖める電気代などが必要です。
工場で豆腐を作るにも、大豆を買うお金や、工場で働く人の給料、機械を動かす電気代がかかります。
こうした費用のことを「コスト」と呼びます。
普通に考えれば、これらのコストをきちんと計算して、それに見合った値段で売らないと、作っている人や会社が赤字になってしまいます。
食料システム法が解決する価格形成の問題点
コストが値段に反映されない現状
値段を上げられない理由
- 取引先が値上げを受け入れてくれない
- 消費者が高いと買わなくなる心配がある
- 長年の商習慣で値上げを言い出しにくい
- 取引先との力関係で弱い立場にある
実際には、コストが上がっても値段を上げられないことがよくあります。
なぜそんなことが起きるのでしょうか。
たとえば農家の人が「肥料代が上がったので野菜の値段を上げてほしい」と買い取り業者にお願いしても、「うちも小売店から買い取り価格を上げてもらえないので無理です」と断られることがあります。
小売店はどうかというと、「お客さんが高いと買ってくれなくなる」と心配して、なかなか値段を上げられません。
また、長年の商習慣や取引先との力関係によって、弱い立場の人が値上げを言い出しにくい雰囲気もあります。
このままでは起きる問題
- 農家や加工業者が赤字になる
- 廃業する事業者が増える
- 食べ物を作る人や会社が減る
- 将来的に食べ物の安定供給が危うくなる
こうして、実際にかかっている費用を値段に反映できないまま、関わっている人たちがみんな我慢している状況が続いているのです。
このような状態が続くと、どうなるでしょうか。
農家の人は赤字が続けば農業をやめてしまうかもしれません。
豆腐屋さんも利益が出なければ廃業してしまいます。
そうなると、将来的に食べ物を作る人や会社が減ってしまい、私たちが食べたいものが手に入らなくなる恐れがあります。
つまり、目の前の値段を安く抑えることばかり考えていると、長い目で見たときに食べ物の安定した供給そのものが危うくなってしまうのです。
食料システム法の考え方
合理的な費用を考慮した価格形成とは
食料システム法の中心になる考え方は「合理的な費用を考慮した価格形成」というものです。
難しい言葉に聞こえますが、意味はシンプルで「実際にかかった費用をちゃんと考えて値段を決めましょう」ということです。
当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これまでは明確なルールがなかったため、コストを無視した値段交渉が行われることもありました。
法律でこの考え方を示すことで、関係者全員が意識するようになることが期待されています。
努力義務という位置づけ
ただし、これは法律で強制的に義務付けられているわけではありません。
「努力義務」といって「できるだけそうするように頑張りましょう」という性質のものです。
なぜ強制しないのかというと、値段は最終的には売る人と買う人が話し合って決めるものであり、国が一方的に決めることはできないからです。
しかし法律で努力義務として定めることで、これまで曖昧だったルールを明確にし、関係者が意識を変えるきっかけを作ることができます。
価格協議への誠実な対応
食料システム法で定められた努力義務
- 実際にかかった費用を考えて値段を決める
- 価格協議の申し出があれば誠実に対応する
さらに食料システム法では、売る側が「値段について話し合いたい」と申し出たら、買う側は誠実に応じるように努力しなければならないと定めています。
これも努力義務ですが、法律に書かれることで、弱い立場の人が値上げを言い出しやすくなり、対等に話し合える環境が整うことが期待されています。
食料システム法におけるコスト指標の仕組み
コスト指標が必要な理由
ただし、値段の話し合いをするときに「うちはこれだけお金がかかっているんです」と口で言うだけでは、相手を納得させるのは難しいでしょう。
具体的な根拠がなければ、本当にそれだけの費用がかかっているのか、相手は判断できないからです。
そこで登場するのが「コスト指標」という仕組みです。
コスト指標の内容
コスト指標に含まれる内容(例:米の場合)
| 段階 | 示される費用の内容 |
| 生産段階 | 農家が米を作るのにかかる費用 |
| 集荷段階 | 業者が米を集めるのにかかる費用 |
| 流通段階 | 運送会社が米を運ぶのにかかる費用 |
| 小売段階 | お店が米を売るのにかかる費用 |
コスト指標というのは、それぞれの食べ物について「作るのにどれくらいお金がかかるのか」を数字で示したものです。
たとえば米なら、田んぼで米を作る農家の費用、それを集める業者の費用、お店に運ぶ運送会社の費用、お店で売る小売店の費用などを、それぞれ調べて数字で表します。
これにより、値段について話し合うときに「この商品にはこれだけの費用がかかっているので、この値段が必要なんです」と具体的に説明できるようになります。
今まで見えにくかったお金の流れが、透明になるわけです。
コスト指標に利益は含まれない
ただし、企業がどれだけ儲けているかという利益の部分は、コスト指標には含めません。
- コスト指標に 含まれる:生産・加工・流通・販売にかかる費用(コスト)
- コスト指標に含まれない:企業の利益
利益は各会社が経営努力や戦略によって生み出すものであり、それぞれの会社が自分たちで決めることなので、公表する必要はないという考え方です。
コスト指標はあくまで「費用」を示すものであって、「儲け」を示すものではないのです。
コスト指標における減価償却の扱い
| 例 | 機械の購入価格 | 使用年数 | 年間の減価償却費 |
|---|---|---|---|
| 工場の機械 | 1000万円 | 10年 | 100万円/年 |
また、工場で使う機械を買ったときの費用を少しずつ経費として計算する「減価償却」という会計の仕組みがあります。
たとえば1000万円の機械を買ったとき、1年目に1000万円全部を経費にするのではなく、10年間使えるなら毎年100万円ずつ経費にしていくという考え方です。
この減価償却が合理的なものであれば、コストに含めることができます。
こうした細かいルールは、今後作られる基本方針という文書の中で決められることになっています。
コスト指標作成団体の役割
関係者全員で作る理由
このコスト指標は、誰か一人が勝手に作るものではありません。
それぞれの食べ物について、生産する人、加工する人、運ぶ人、売る人といった関係者がみんな集まって団体を作り、その団体が協力してコスト指標を作ることになっています。
この団体のことを「コスト指標作成団体」と呼びます。
なぜみんなで作るのかというと、それぞれの段階の費用を正確に把握するには、その段階で実際に仕事をしている人の協力が不可欠だからです。
コスト指標作成団体の認定手続き
コスト指標作成団体の認定から公表までの流れ
- 品目ごとに関係者が集まって団体を作る
- 農林水産大臣が団体を認定する(2026年4月前を目標)
- 認定された団体がコスト指標を作成する
- コスト指標を公表する(法施行と同時が理想)
農林水産大臣は、食べ物の種類ごとにこの団体を認定する必要があります。
たとえば米なら米の団体、豆腐なら豆腐の団体というように、それぞれ別々の団体を作って認定するのです。
農林水産省は、法律が完全に始まる2026年4月よりも前に、これらの団体の認定を終わらせたいと考えています。
理想的には、法律が施行されると同時にコスト指標が発表されるようなスケジュールを想定しています。
食料システム法における指定品目
すべての食品が対象だが監視を強化する品目を設定
この価格形成の仕組みは、すべての食べ物が対象になります。
しかし、すべての食べ物について同じように細かく監視するのは現実的ではありません。
そこで、その中でも国が特に注意して見守る「指定品目」というものを決めることになっています。
指定品目の決定手続き
指定品目の決定手続き
- 食料・農業・農村審議会で議論
- パブリックコメントで国民の意見を聞く
- 省令で正式に決定
指定品目を決めるときは、専門家や関係者が集まる「食料・農業・農村審議会」という会議で話し合います。
そして、広く国民の意見を聞く「パブリックコメント」という手続きを経てから、省令という形で正式に決定します。
省令というのは、国の役所が法律の細かい部分を決めるときに使う規則のことです。
指定品目の候補
今のところ、加工食品では牛乳、豆腐、納豆の3つが指定品目になる見通しです。
生鮮品では米、タマネギ、キャベツ、じゃがいもの4つが選ばれる予定です。
これらはどれも私たちが日常的に食べている基本的な食材で、値段の変動が家計や農業に大きく影響するものばかりです。
食料システム法における品目ごとの準備状況
米のコスト指標作成団体の準備状況
特に米については、最近値段の上がり下がりが激しくなっています。
米は日本人の主食であり、価格が不安定になると消費者にも生産者にも大きな影響が出ます。
そのため農林水産省は、米農家や米を集める業者、米を売るお店など、米に関わるすべての段階の人たちを集めて、コスト指標作成団体を作るための準備会合を開いています。
国が主導して、丁寧に準備を進めているわけです。
加工食品3品目の準備状況
一方、牛乳、豆腐、納豆の3つについては、民間の会社や団体が自分たちで準備を進めているようです。
国が積極的に関与している米とは違い、業界の人たちが自主的に動いて、団体認定の申請に向けた準備を行っているということです。
食料システム法の施行に向けた動き
食料システム法の実施に向けた流れ
- コスト指標作成団体を設立
- 農林水産大臣が団体を認定
- 団体がコスト指標を作成・公表
- コスト指標をもとに価格交渉を実施
- 合理的な費用を考慮した価格形成を実現
このように、食料システム法は単に法律の文章を作っただけではなく、実際にそれを動かすための具体的な仕組みを整えようとしています。
コスト指標を作る団体を設立し、国がそれを認定し、指標を公表して、それをもとに価格の話し合いをする。
こうした一連の流れを作ることで、値段の決まり方を透明にし、食べ物を作る人や売る人がきちんと続けていけるようにしようという試みなのです。
農林水産省は2026年4月からこの新しい仕組みが本格的に動き出せるよう、今まさに準備作業を急いで進めているところです。



