長野県伊那市に、今、全国から注目を集める銘菓があります。
その名は「伊那のまゆ」です。
昭和の時代に生まれ、令和のSNS時代に人気が爆発したこのお菓子は、一体どのようなものなのでしょうか。
この記事では、唯一無二の魅力を持つ「伊那のまゆ」の誕生秘話から現在の状況、そして美味しさの秘密までを徹底的に解説します。
伊那のまゆとは?
「伊那のまゆ」は、和菓子とも洋菓子とも一言では言い表せない、特別なお菓子です。
その見た目や味わいには、作り手の丁寧な手仕事と独自の発想が詰まっています。
もっとも大きな特徴は、「和」と「洋」が見事に調和していることです。
最中の皮という和の要素に、ホイップクリームやチョコレートといった洋の素材が組み合わさることで、これまでにない味わいが生まれています。
その独創的な組み合わせが、多くの人の心をつかんで離しません。
最中・クリーム・チョコの三重奏
「伊那のまゆ」は、舟形の最中の皮を器に見立てたお菓子です。
その中には、ふんわりと軽いホイップクリームがたっぷりと詰められています。
さらにその上から、全体をやさしく包み込むようにチョコレートでコーティングされています。
パリッとしたチョコの食感と、ふわっとしたクリーム、そして香ばしい最中の皮。
この三つの層が口の中で一体となり、まるで三重奏のように絶妙なハーモニーを奏でます。
見た目はしっかりとしたボリュームがありますが、味わいは意外なほど軽やか。
さっぱりとした後味で、思わずもう一つ手が伸びてしまう不思議な魅力を持っています。
伊那のまゆのメーカー「越後屋菓子店」
このユニークなお菓子「伊那のまゆ」を生み出したのは、長野県伊那市にある「越後屋菓子店」です。
創業は明治15年(1882年)。
JR伊那市駅の目の前に店を構え、140年以上にわたり地域の人々に愛されてきた老舗の和菓子店です。
越後屋菓子店では、かつて10種類以上のお菓子を取り扱っていました。
しかし現在は、「伊那のまゆ」を含め、選び抜いた3種類に絞り込んでいます。
それは、ひとつひとつの品質を徹底的に追求するため。
素材の選定から仕上げまで、細部にまでこだわったものづくりが、変わらぬ人気の理由です。
「伊那のまゆ」は、老舗の誇りと新しい発想が見事に融合した、まさに現代の名菓といえるでしょう。
「伊那のまゆ」誕生と歴史の物語
今でこそ大人気の「伊那のまゆ」ですが、その誕生から現在に至るまでの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。
昭和が生んだ革新的なお菓子
「伊那のまゆ」が生まれたのは、昭和30年代のことです。
和洋折衷という言葉もまだ珍しかった時代に、このお菓子は生まれました。
四代目店主による発明
このお菓子を考案したのは、越後屋菓子店の四代目店主・竹村新太郎氏でした。
和菓子の伝統に、洋菓子の要素である生クリームとチョコレートを取り入れるという発想は、当時としては非常に挑戦的な試みでした。
発売当初の苦労
その新しさゆえに、発売当初はほとんど売れませんでした。
「こんなものは菓子ではない」と言われることもあったといいます。
しかし、四代目はその味に自信を持ち、諦めることなく作り続けました。
口コミで広がった人気
作り続けて2〜3年が経った頃から、状況は変わり始めます。
食べたお客様の間で「他にはない珍しいお菓子だ」という口コミが自然に広がっていきました。
お客様自身が価値を見出し、伊那を代表する銘菓へと押し上げてくれたのです。
伊那のまゆの名前の由来・変遷
「伊那のまゆ」という名前は、お客様との対話の中から生まれてきました。
その歴史には、三段階の変遷があります。
初代「福俵」から「まゆ玉」へ
発売当初の名前は、縁起の良い「福俵(ふくだわら)」でした。
しかし、お客様がその見た目から「まゆの形のお菓子」と呼ぶようになり、いつしか「まゆ玉」という愛称が定着しました。
現在の「伊那のまゆ」へ
「まゆ玉」として販売していましたが、京都に同名のお菓子があることがわかりました。
そこで、この土地ならではのお菓子であることを示すため、地名を冠した現在の「伊那のまゆ」という正式名称になったのです。
伊那の養蚕文化との深いつながり
「まゆ」という名前は、この地域の歴史と深く結びついています。
昔、伊那地方では養蚕(ようさん)が非常に盛んでした。
蚕は「おかいこ様」と呼ばれ、人々の暮らしを支える大切な存在として扱われていました。
そのため「まゆ」の形をしたこのお菓子は、地域の人々にとって特別な思い入れのある存在なのです。
「伊那のまゆ」の製法とこだわり
多くの人を魅了する味わいは、誕生から一貫して変わらない製法によって守られています。
50年以上変わらない手作りの製法
「伊那のまゆ」の基本的な作り方は、昭和30年代の誕生から50年以上、まったく変わっていません。
職人による丁寧な手作業
クリームを絞り、チョコレートをかける工程は、今もすべて職人の手作業で行われます。
機械では決して出せない、繊細な味わいと温かみがそこにあります。
添加物を使わない
「伊那のまゆ」は、保存料などの添加物を使用していません。
そのため、日持ちは夏期で7日、冬期で10日と短めです。
この短さこそが、素材の良さを活かした手作りの証といえるでしょう。
SNSでの大ヒットと現在の状況
長い歴史を持つ「伊那のまゆ」は、2024年春、SNSをきっかけに全国的な大ヒット商品となりました。
TikTokの動画が起爆剤に
あるインフルエンサーが投稿した一本の動画が、すべての始まりでした。
注文殺到でオンライン販売は一時休止
2024年4月にTikTokに投稿された動画が話題となり、注文が殺到しました。
オンラインショップでは通常の10倍の注文が入り、販売開始からわずか5分で完売する日が続きました。
電話も鳴り止まず、生産が追いつかなくなったため、現在はオンラインと電話での注文受付を一時休止しています。
生産体制の強化で対応
以前の1日500個から、現在は2,000〜3,000個へと生産量を大幅に増やしました。
さらに、生産時間を確保するため、定休日を水曜日に加えて木曜日も設けて対応にあたっています。
五代目店主が語る人気の理由
突然の人気沸騰について、現在の五代目店主・竹村裕氏は冷静に分析しています。
「珍しさ」が人気に火を付けた
五代目は「多くの人がまだ食べたことがないという珍しさが、人気に火を付けたのではないか」と語ります。
50年前に「他にない」と評価された価値が、SNS時代に再発見された形です。
地域振興への期待
全国から多くのお客様が店を訪れるようになり、店主は喜びを感じています。
「これをきっかけに多くの人に伊那の魅力を知ってほしい」と、お菓子作りを通じた地域振興への想いを強くしています。
「伊那のまゆ」の購入方法
「伊那のまゆ」を手に入れるには、どこへ行けばよいのでしょうか。
購入に関する情報をまとめました。
購入できる場所
現在、「伊那のまゆ」は販路を限定しています。
購入できるのは、伊那市の「越後屋菓子店」本店と、ごく一部の小売店のみです。
通信販売は、前述の通り現在一時休止中です(2024年6月時点)。
「伊那のまゆ」の価格・日持ち・栄養成分など
商品の詳細なデータは以下の通りです。
価格 | 1個 150円(税込) 10個入り 1,680円(税込)など |
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日持ち | 夏期(28℃以下):7日 冬期:10日 |
栄養成分 (1個あたり) | 熱量139kcal、たんぱく質0.4g、脂質12.9g、炭水化物5.3g、食塩相当量0.006g |
アレルギー表示 | 乳成分、卵、アーモンド、大豆 |
商標登録 | 第5893487号 |
まとめ
「伊那のまゆ」は、昭和の職人の革新的なアイデアから生まれたお菓子です。
発売当初の苦労を乗り越え、地域文化と結びつきながら、お客様の口コミによって伊那の銘菓へと成長しました。
そして50年以上の時を経て、SNSをきっかけにその価値が全国に知れ渡ることとなりました。
伝統の製法を守りながら、世代を超えて愛される「伊那のまゆ」。
それは、作り手の想いとお客様の愛情、そして時代の偶然が織りなした、奇跡のようなお菓子といえるでしょう。