【2025年1-7月】菓子製造小売業の倒産が過去最多ペースで推移
帝国データバンクの調査により、2025年1月から7月までの菓子製造小売業の倒産件数が39件に達し、昨年同期の約1.6倍に増加していることが明らかになりました。このペースが続けば、2025年は過去最多を大きく更新する見通しです。
倒産件数の推移と現状
2025年1-7月の倒産件数
| 期間 | 倒産件数 | 前年同期比 |
|---|---|---|
| 2025年1-7月 | 39件 | 約1.6倍 |
| 2024年1-7月 | 24件 | ― |
| 2019年通年(過去最多) | 49件 | ― |
2025年1月から7月までの7ヶ月間で、菓子製造小売業の倒産は39件に達しました。前年同期の24件と比較すると、1.6倍という大幅な増加を記録しています。このままのペースで推移すると、2025年の年間倒産件数は70件に到達する可能性があり、過去最多だった2019年の49件を大きく上回る見通しです。
倒産件数が増加している背景
菓子製造小売業の倒産が増加している背景には、複数の要因が重なっています。原材料価格の高騰が続いており、和菓子店では小豆、洋菓子店では卵や牛乳といった主要な材料のコストが上昇しています。これらの原材料は菓子製造において欠かせないものであり、価格上昇は直接的に収益を圧迫する構造になっています。
人手不足も深刻な問題です。菓子製造には手作業が必要な工程が多く、熟練した技術を持つ職人の確保が難しくなっています。人材を確保するためには賃金を上げる必要がありますが、それが経営負担となって倒産につながるケースも出ています。
大手チェーンや近隣同業者との競争激化も、個人経営の菓子店にとって厳しい状況を生んでいます。コンビニエンスストアやスーパーマーケットで販売される菓子の品質が向上しており、わざわざ専門店に足を運ぶ消費者が減少している側面もあります。
倒産企業の詳細分析
法人と個人の内訳
| 区分 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 法人 | 27件 | 69.2% |
| 個人 | 12件 | 30.8% |
| 合計 | 39件 | 100% |
39件の倒産のうち、法人が27件、個人が12件となっています。法人が全体の約7割を占める結果となりました。個人経営の菓子店も一定数存在しますが、法人として経営していた企業の倒産が多い状況です。
法人の場合、店舗展開や設備投資を行っているケースが多く、固定費の負担が大きくなりがちです。売上が減少した際に、固定費を削減することが難しく、資金繰りが悪化しやすい構造があります。
業態別の倒産状況
業態別に見ると、ケーキや焼き菓子などを扱う洋菓子店が25件で最も多く、全体の64.1%を占めました。まんじゅうやもなかなどを扱う和菓子店は13件で33.3%、あめ店が1件という内訳です。
洋菓子店の倒産が多い理由として、原材料費の影響が大きい点が挙げられます。洋菓子の製造には卵、牛乳、バター、生クリームといった乳製品や畜産物が多く使われており、これらの価格が高騰している影響を強く受けています。特に2025年は鶏卵の価格が急騰しており、洋菓子店の収益を圧迫する要因となっています。
和菓子店も小豆などの原材料価格の上昇に直面していますが、洋菓子店と比較すると使用する原材料の種類が少ない傾向にあります。それでも13件の倒産が発生しており、業態を問わず厳しい経営環境が続いています。
倒産態様と地域分布
倒産態様
39件すべてが破産という倒産態様でした。破産とは、債務を返済できなくなった企業や個人が、裁判所に申し立てを行って事業を清算する手続きです。民事再生や会社更生といった再建型の倒産はゼロであり、事業継続を断念したケースが大半であることを示しています。
都道府県別の発生状況
倒産は19都道府県で発生しており、大阪府と福岡県が各5件で最も多く、青森県、東京都、愛知県が各3件と続いています。都市部だけでなく地方都市でも倒産が発生しており、地域を問わず菓子製造小売業が厳しい状況に置かれていることがわかります。
業歴別の分析
| 業歴 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 30年以上 | 14件 | 35.9% |
| 30年未満 | 25件 | 64.1% |
| 合計 | 39件 | 100% |
業歴が30年以上の企業が14件と、全体の35.9%を占めました。長年にわたって地域で営業を続けてきた老舗の菓子店が、経営環境の変化に対応できずに倒産するケースが目立っています。
老舗企業が倒産する背景には、後継者問題も関係しています。創業者や二代目が高齢化する中で、次の世代に事業を引き継ぐ人材がいない場合、設備更新のタイミングや大きな投資が必要になった時点で、事業継続を断念する判断につながりやすくなります。
一方で、業歴が30年未満の企業も25件と多数を占めています。比較的新しい企業であっても、競争環境の厳しさやコスト上昇に対応できず、倒産に至っているケースが多いことがわかります。
負債規模の実態
小規模倒産が大半を占める
| 負債額 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 1億円未満 | 31件 | 79.5% |
| 1億円以上 | 8件 | 20.5% |
| 合計 | 39件 | 100% |
負債額が1億円未満の小規模倒産が31件と、全体の79.5%を占めました。菓子製造小売業は個人経営や小規模な法人が多く、事業規模そのものが小さい企業が大半です。そのため、倒産時の負債額も比較的小さい傾向にあります。
小規模な事業者は資金力が限られており、原材料費の高騰や売上減少といった環境変化に対して、耐える力が弱い構造があります。大企業であれば一時的な赤字を吸収できる体力がありますが、小規模事業者は数ヶ月の赤字で資金繰りが行き詰まるケースも少なくありません。
負債額が最大だった事例
負債額が最大だったのは、青森県のお菓子のみやきんで、負債額は約7億1600万円に達しました。同社は1861年(文久元年)創業の老舗和菓子店で、164年の歴史を持つ企業でした。皇室に献上された「駒饅頭」なども製造しており、地域では知名度の高い菓子店として営業を続けていました。
倒産に至った経緯
同社は新工場の建設や店舗開設といった設備投資を行っており、その投資負担が収益を圧迫していました。設備投資は将来の成長を見込んで行われるものですが、投資後に売上が計画通りに伸びない場合、返済負担だけが残る形となります。
2025年度に入ってからは原材料の高騰が加わり、収益環境がさらに悪化しました。売上が伸び悩む中でコストが上昇する状況では、利益を確保することが難しくなります。結果として資金繰りに行き詰まり、事業継続を断念する判断に至りました。
長い歴史を持つ企業であっても、投資のタイミングと市場環境の変化が重なると、倒産に追い込まれる可能性があることを示す事例です。
菓子製造小売業が直面する課題
原材料価格の高騰による収益悪化
原材料価格の高騰は、菓子製造小売業にとって最も大きな経営課題となっています。和菓子店では小豆、洋菓子店では卵や牛乳といった主要原材料の価格が上昇しており、製造コストが増加しています。
小豆は和菓子の主原料であり、あんこを作るために欠かせない材料です。気候変動による収穫量の減少や、国際的な需要の増加により、価格が上昇傾向にあります。卵は洋菓子のスポンジケーキやクリーム、クッキーなど、ほぼすべての洋菓子に使用される基本的な材料です。鳥インフルエンザの影響による供給減少と、猛暑による産卵率の低下が価格を押し上げています。
牛乳やバター、生クリームといった乳製品も、飼料価格の高騰により生産コストが上昇しており、その分が販売価格に転嫁されています。菓子製造においては、これらの原材料を大量に使用するため、価格上昇の影響を大きく受ける構造になっています。
価格転嫁の難しさ
原材料費が上昇しても、販売価格に転嫁することは簡単ではありません。消費者は価格に敏感になっており、値上げをすると客足が遠のく可能性があります。特に地域密着型の菓子店では、常連客との関係性を重視するため、価格を上げにくい状況があります。
結果として、原材料費の上昇分を自社で吸収せざるを得ず、利益率が低下します。利益率の低下が続けば、最終的には赤字に転落し、資金繰りが悪化して倒産につながる流れが生まれています。
人手不足の深刻化
菓子製造には、生地を練る、成形する、焼く、デコレーションするといった多くの手作業が必要です。特に和菓子は伝統的な技法が求められ、熟練した職人の技術が欠かせません。洋菓子も、ケーキのデコレーションや焼き加減の調整など、経験と技術が必要な工程が多くあります。
しかし、若い世代の菓子職人を確保することは難しくなっています。労働時間が長く、早朝から仕込みを始める必要があるなど、労働環境の厳しさが敬遠される要因となっています。賃金水準も他の業種と比較して低い傾向にあり、人材が集まりにくい状況です。
人手が不足すると、営業時間を短縮したり、製造できる商品の種類を減らしたりする必要が出てきます。これは売上の減少に直結するため、経営を圧迫する要因となります。
大手チェーンとの競争激化
コンビニエンスストアやスーパーマーケットで販売される菓子の品質が向上しており、個人経営の菓子店にとって脅威となっています。大手チェーンは規模の経済を活かして、比較的低価格で高品質な菓子を提供できる強みがあります。
消費者にとっては、身近な場所で手軽に購入できる利便性があり、わざわざ専門店まで足を運ぶ理由が薄れています。特に若い世代は、伝統的な和菓子店や洋菓子店に馴染みが薄く、コンビニエンスストアで済ませる傾向が強くなっています。
近隣の同業者との競争も激しくなっています。同じ商圏内に複数の菓子店が存在する場合、顧客の奪い合いが発生します。人口が減少している地域では、市場そのものが縮小しているため、競争はさらに厳しくなります。
設備投資の負担
菓子製造には、オーブン、ミキサー、冷蔵庫、冷凍庫といった専門的な設備が必要です。これらの設備は高額であり、購入時の初期投資だけでなく、定期的なメンテナンスや買い換えにもコストがかかります。
製造工場の設備機器は消耗品であり、長年使用すると故障や性能低下が発生します。故障した設備を修理するか、新しい設備に買い換えるかの判断が必要になりますが、どちらも資金負担が大きくなります。
特に老舗の菓子店では、古い設備を使い続けているケースが多く、メンテナンス費用が膨らんでいます。設備を新しくすれば生産効率が上がる可能性がありますが、そのための資金を確保することが難しい状況です。設備更新のタイミングで、事業継続を断念する企業が出てくる背景には、この資金負担の問題があります。
今後の見通しと懸念事項
後継者問題の深刻化
菓子製造小売業では、後継者が見つからずに廃業を選択するケースが増加しています。創業者や現在の経営者が高齢化する中で、事業を引き継ぐ子どもや親族がいない、または引き継ぐ意思がない場合、事業の継続が困難になります。
後継者がいない理由として、労働環境の厳しさや収益性の低さが挙げられます。早朝から仕込みを始め、夜遅くまで営業する生活は体力的に負担が大きく、若い世代が敬遠する要因となっています。また、原材料費の高騰や競争激化により、利益を確保することが難しくなっており、魅力的な事業と映らない側面もあります。
第三者への事業承継も選択肢の一つですが、小規模な菓子店の場合、買い手を見つけることは容易ではありません。結果として、経営者の引退とともに店を閉じる、つまり廃業という形を取るケースが増えています。
設備更新のタイミングでの事業断念
製造設備の更新には多額の資金が必要であり、そのタイミングで事業継続を断念する企業が増えることが懸念されています。設備が老朽化して修理費用が高額になる、または故障して製造が継続できなくなった時点で、新たな設備投資をするか、事業をやめるかの選択を迫られます。
新しい設備を導入すれば生産性は向上しますが、投資を回収するためには一定期間の営業継続と売上確保が必要です。将来の売上に不安がある場合、設備投資のリスクを取ることができず、廃業を選択する流れが生まれています。
2025年の倒産件数予測
2025年1月から7月までの7ヶ月間で39件の倒産が発生しており、月平均では約5.6件のペースです。このペースが年末まで続くと仮定すると、2025年の年間倒産件数は約67件と計算されます。実際には、設備更新のタイミングや後継者問題により、下半期に倒産が増加する可能性があるため、年間70件に到達する見通しが示されています。
70件という数字は、過去最多だった2019年の49件を大きく上回るものです。約1.4倍の増加となり、菓子製造小売業が記録的に厳しい年を迎える可能性が高まっています。
この予測が現実となれば、地域で長年愛されてきた菓子店が次々と姿を消すことになります。消費者にとっては、地域の味が失われるという文化的な損失にもつながります。
まとめ
2025年1月から7月までの菓子製造小売業の倒産件数は39件に達し、前年同期の1.6倍という大幅な増加を記録しました。このペースで推移すると、2025年の年間倒産件数は70件に到達する可能性があり、過去最多を大きく更新する見通しです。
倒産の背景には、原材料価格の高騰、人手不足、大手チェーンとの競争激化、設備投資の負担といった複数の要因が重なっています。特に洋菓子店では卵や牛乳の価格上昇が収益を圧迫しており、和菓子店でも小豆などの原材料費が上昇しています。
負債額1億円未満の小規模倒産が全体の約8割を占めており、資金力の乏しい小規模事業者が環境変化に耐えられずに倒産するケースが多くなっています。業歴30年以上の老舗企業も全体の約36%を占めており、長年の歴史を持つ企業であっても、経営環境の変化に対応できずに倒産する状況が生まれています。
今後は、後継者問題や設備更新のタイミングで事業を断念する企業がさらに増加することが懸念されています。地域で愛されてきた菓子店が次々と姿を消す可能性があり、菓子製造小売業にとって厳しい状況が続くと予想されています。




