マラサダとは
「マラサダ」という名前を聞いても、まだあまり馴染みがないかもしれません。しかし、これは遠くヨーロッパの国ポルトガルを発祥とし、ハワイで独自の進化を遂げた、とても興味深い歴史を持つお菓子です。このお菓子の魅力と、日本に伝わるまでの物語を詳しく見ていきましょう。
ポルトガル生まれ、ハワイ育ちのお菓子
マラサダは、もともとポルトガルで生まれた揚げパンの一種です。このお菓子が世界に広まった背景には、ポルトガルの歴史が深く関係しています。ポルトガルは大航海時代に世界各地に進出し、多くの植民地や交易の拠点を持っていました。こうした背景から、ポルトガルの人々は移民として世界各地に渡り、自分たちの文化や食べ物を広めていきました。マラサダも、そうした文化的な伝播の一例としてハワイへと渡ったのです。
ハワイでの始まりと独自の進化
マラサダがハワイで広まった具体的なきっかけは、ワイキキの近くにあったポルトガルにルーツを持つパン屋さんでした。このパン屋さんが作ったマラサダが評判を呼び、ハワイを代表するおやつにまで発展していったのです。
このパン屋さんが作るマラサダは、本場ポルトガルの伝統的な製法を受け継ぎながらも、ハワイの気候や現地で手に入る材料に合わせて少しずつ改良されていきました。その結果、ポルトガル本国のものとは一味違う、ハワイ独自のマラサダが誕生したのです。
マラサダの特徴
マラサダが多くの人に愛されるようになったのは、その独特な食感にあります。発酵させた生地を油で揚げるというシンプルな製法ですが、ここに美味しさの秘密が隠されています。
ドーナツとは違う特別な製法
マラサダは、小麦粉、砂糖、卵、バターなどを混ぜた生地に酵母を加え、十分に時間をかけて発酵させてから作られます。この発酵の過程がとても大切です。生地の中に無数の小さな気泡が形成されることで、マラサダ特有の軽くてふわふわした食感が生まれます。
一方、ドーナツは、発酵生地で作るものもありますが、マラサダほど長い時間は発酵させません。また、発酵させずにベーキングパウダーなどの膨張剤を使って作るものも多くあります。このため、ドーナツは生地がしっかりしていて、少し硬めの食感になるのが特徴です。マラサダは、発酵パンに近い製法で作られているため、ドーナツとは全く違う、もっと柔らかくふわっとした食感に仕上がります。
揚げたてが最高の理由
マラサダは、十分に発酵させた生地を熱した油でじっくりと揚げて作ります。揚げ上がったマラサダは、外側がカリッとして香ばしく、中はフワッと柔らかい絶妙な食感になります。特に揚げたては格別で、外側の軽やかなクリスピーさと内側のもちもちとした柔らかさの組み合わせが、マラサダを格別な美味しさにしているのです。
マラサダの食べ方
マラサダの一般的な食べ方は、お好みでシナモンシュガーを振りかけることです。この食べ方は、実はマラサダと同じくポルトガルを発祥とする別のお菓子にも見られます。
そのお菓子とは、1999年に日本でも大流行した「エッグタルト」です。エッグタルトの正式な名前は「パステル・デ・ナタ(pastel de Nata)」といい、これもポルトガルで生まれたお菓子です。ポルトガル本国では、このお菓子を食べる時にシナモンを振りかけるのが習慣です。
大航海時代にアジア各地と交易を行い、香辛料の貿易で栄えたポルトガルでは、シナモンをはじめとする香辛料が料理やお菓子作りに欠かせないものでした。マラサダもエッグタルトも、同じポルトガルの食文化から生まれたため、シナモンを使った食べ方という共通点を持っているのです。マラサダがハワイに伝わった後も、この習慣は受け継がれてきました。
ハワイの多様な文化との融合
マラサダがハワイの定番のおやつとして定着した背景には、現地の多様な文化との融合も重要な要素でした。ハワイは、アジア系、ヨーロッパ系、アメリカ本土系など、さまざまなルーツを持つ人々が共存する多文化社会です。マラサダも、こうした多様性の中でハワイ独自の進化を遂げ、ついにはハワイを代表するおやつの地位を獲得するまでになったのです。
マラサダが人気になった理由
そんなマラサダが日本に上陸したのは2008年のことでした。しかし、真に注目を集めるようになったのは、その翌年の2009年に公開されたある映画がきっかけでした。
映画「ホノカアボーイ」に登場
ハワイ島を舞台にした日本映画『ホノカアボーイ』に、マラサダが登場しました。映画という強力なメディアを通じて多くの日本人がマラサダの存在と魅力を知り、日本でも徐々に広がりを見せるようになりました。
マラサダは、単なる「ハワイのドーナツ」という枠を超えて、ポルトガルからハワイ、そして日本へと受け継がれてきた独自の文化的背景と、特有の製法に基づく独特の食感を持つ、固有のお菓子です。食べ物を通じた文化交流の興味深い事例として、私たちに多くのことを教えてくれる存在と言えるでしょう。