ミルフィーユは、フランス生まれの優雅なスイーツで、その名前には素敵な意味が込められています。これから、その名前の由来から歴史、そして奥深い魅力まで、一つひとつ丁寧に解説していきます。
ミルフィーユとは
ミルフィーユの基本構造は、キャラメリゼした3枚のパイ生地の間にクリームを挟んだものです。
このパイ生地は、 「フィユタージュ」 と呼ばれる特殊な製法で作られます。
小麦粉とバターを交互に層にして何度も折りたたむ、専門的な技術が必要な工程を繰り返すことで、焼き上がったときにパイ生地の層がはっきりと分かれ、サクサクとした軽やかな食感が生まれます。
生地を重ねる作業は、温度管理や折り方一つで仕上がりが大きく変わってしまうため、長年の経験を積んだ職人の腕が問われます。
ミルフィーユの食感
パイ生地の間に挟むクリームは、伝統的にはなめらかでコクのある カスタードクリーム が使われます。
しかし、現在では生クリームや、カスタードクリームと生クリームを混ぜ合わせた クレーム・レジュール 、さらに濃厚なバタークリーム、さらにはフルーツのジャムなど、パティシエの工夫次第で様々なバリエーションが存在します。
これらのクリームが、サクサクのパイ生地と絶妙なコントラストを生み出し、口の中で独特の食感と風味が一体となり、深い味わいを楽しむことができるのです。
ミルフィーユの名前の由来
ミルフィーユという名前は、フランス語の 「mille(ミル)」 と 「feuille(フイユ)」 という二つの言葉からできています。
「mille」は「千・たくさん」を意味し、「feuille」は「葉」を意味します。
そのため、「mille-feuille」を直訳すると「千枚の葉」となります。
この名前は、何層にも重なったパイ生地が、まるで森の落ち葉のように幾重にも積み重なって見えることから付けられました。
実際に千枚もの生地があるわけではありませんが、生地を何度も折り重ねては冷やし、また折り重ねるという繊細な作業を繰り返すことで、このお菓子を口に入れたときに、まるで千枚の葉が舞うかのような、繊細な層構造と軽やかな食感が生まれるのです。
ミルフィーユの日本での発音
日本では「ミルフィーユ」という発音が一般的ですが、実はこの発音には少し問題があります。
フランス語で「fille(フィーユ)」は「女の子」を意味する単語であるため、「ミルフィーユ」と発音すると「千人の女の子」という意味になってしまいます。
この発音の誤りは、日本に洋菓子が伝わった際に、発音が変化して定着した結果だと言われています。
本来のフランス語の発音により近いのは「ミルフイユ」または「ミルフォイユ」なのですが、日本では「ミルフィーユ」として広く知られ、愛されています。
ミルフィーユの歴史
発祥起源
ミルフィーユの歴史を辿ると、何層も生地を重ねて作る食べ物は古くからヨーロッパで食べられてきました。
現在のお菓子のミルフィーユの原型を考案したのは、1867年のフランス・パリにある洋菓子店 「Seugnot」 のパティシエ、アドルフ・セニョ氏とされています。
ただし、ミルフィーユの起源については複数の説があり、有名なフランスの料理人アントナン・カレームが考案したとする説や、1800年頃にルージェという菓子職人が得意としていたという説も存在します。
いずれにせよ、19世紀には現在の形に近いミルフィーユが確立され、以降150年以上にわたって世界中で愛され続けています。
ミルフィーユの魅力
ミルフィーユの魅力は、その複雑で繊細な食感のハーモニーにあります。
フォークを入れると、まずサクサクと崩れるパイ生地の抵抗を感じ、次になめらかなクリームの柔らかさが口の中に広がります。
この対照的な食感が一度に楽しめることが、ミルフィーユが愛される理由の一つです。
また、キャラメリゼされたパイ生地の香ばしさ、クリームの濃厚な甘さ、そしてもしフルーツが使われていればその酸味やみずみずしさが、層になって口の中で完璧に調和します。
ミルフィーユのおいしい食べ方
この層構造が原因で、ミルフィーユは食べるのが少し難しいのも事実です。
フォークを縦に入れると、パイ生地が割れてクリームがはみ出してしまうことがあります。
そこで、おすすめの食べ方は、ミルフィーユを横に倒すことです。
こうすることで、ナイフで層を崩すことなく、きれいに一口大に切り分けることができます。
切り分けたパイとクリームを一緒に口に運ぶことで、すべての要素が一口で味わえ、味と食感の絶妙なバランスを最大限に楽しむことができます。
ミルフィーユの種類
ミルフィーユには、形状や装飾、そして使用する素材によっていくつかの種類があります。
ミルフィーユ・ロン
最も一般的なのが、この 「ミルフィーユ・ロン」 です。
表面に粉砂糖をまぶしたシンプルなものが多く、円形や長方形の形をしています。
お店でよく見かけるのがこのタイプで、パイ生地本来のサクサク感とクリームの風味を最もシンプルに楽しむことができます。
ミルフィーユ・グラッセ
より装飾的なのが 「ミルフィーユ・グラッセ」 です。
これは表面を砂糖を溶かしたフォンダンでコーティングし、その上に溶かしたチョコレートで矢羽模様などの美しいデザインを描いたものです。
この糖衣がけの技術により、エレガントな見た目と高級感が演出されるだけでなく、パイ生地の乾燥を防ぎ、食感を保つ役割も果たしています。
ミルフィーユ・ブラン
「ミルフィーユ・ブラン」 は、3枚のパイ生地のうち中央の1枚をスポンジケーキに置き換えたバリエーションです。
サクサクとした食感にふわふわのスポンジが加わることで、食べたときの口当たりが大きく変わります。
また、通常のミルフィーユよりも生地が崩れにくく食べやすいという利点があるため、子供のおやつにも適しています。
ミルフィーユ・オ・フレーズ
日本で特に人気が高いのが 「ミルフィーユ・オ・フレーズ」 です。
「フレーズ」はフランス語で 「fraise(イチゴ)」 を意味し、その名の通りイチゴを使ったミルフィーユです。
生クリームやカスタードクリームと組み合わせて、華やかで美しい見た目に仕上げられます。
ジャムやフルーツのコンポートを使ったバリエーションも楽しめ、特に日本ではフォトジェニックなビジュアルが話題を呼び、専門店もオープンしています。
似ているお菓子との違い
ミルフィーユによく似た名前のスイーツに 「ミルクレープ」 がありますが、これらは全く別のお菓子です。
共通点は「ミル」という言葉が使われていることで、どちらも「何層もの生地を重ねている」という特徴がありますが、使用する生地が根本的に異なります。
ミルフィーユはサクサクとした食感のパイ生地を使用するのに対し、ミルクレープはしっとりやわらかなクレープ生地を10〜20枚ほど重ねて作ります。
意外にも、ミルクレープの発祥地は日本で、1980年頃に東京のパティスリーでミルフィーユを参考に作られたのが始まりです。
現代のミルフィーユ
2つの異なるタイプ
現在では、ミルフィーユは大きく二つのタイプに分けることができます。
一つは生ケーキタイプで、これは伝統的なミルフィーユの形を踏襲し、主に洋菓子店で販売され、冷蔵保存が必要なものです。
もう一つはチョコレート菓子タイプで、パイ生地とクリームをチョコレートでコーティングし、常温保存が可能なものです。
後者は日本の菓子メーカーが商品化し、手土産や贈り物として広く親しまれています。
日本独自の進化
ミルフィーユは、フランスの伝統的な菓子でありながら、世界各地でその土地の特色を活かした独自の発展を遂げてきました。
日本においても、四季折々のフルーツを使ったり、抹茶やあずきなど和の要素を取り入れたりと、様々なアレンジが生まれています。
基本的な構造は変わらないものの、使用するクリームやフルーツ、装飾によって無限のバリエーションが可能なのが、ミルフィーユの持つ大きな魅力といえるでしょう。
サクサクとした食感と濃厚なクリームが織りなすハーモニーは、一度味わえば忘れられない特別な体験を提供してくれる、まさに洋菓子の芸術品なのです。