香水に使われるオークモスとは
オークモスは、香水作りでよく使われる天然の香料です。
名前は「樫の木(Oak)」と「苔(Moss)」という言葉からできていますが、私たちが普段見る苔とは違うものです。
オークモスの正体
オークモスの正体は「地衣類(ちいるい)」という、菌類と藻類が一緒になって生きている植物です。
お互いに助け合いながら成長しており、樫の木の幹や枝に付いて、海藻のように垂れ下がって育ちます。
育つ場所と採取方法
オークモスは、主にフランスやハンガリーなど、ヨーロッパの湿気が多い森に生えています。
育つためにはちょうど良い湿気と、樫の木が必要です。
そのため、どこにでもあるものではありません。
香料にするには、まず木から採取し、「溶剤抽出(ようざいちゅうしゅつ)」という方法で「アブソリュート」という濃い香りの液体を取り出します。
このアブソリュートは香りがとても強いため、香水を少しだけ作るときでも、ほんの少し加えるだけで十分な効果を発揮します。
オークモスの香りの特徴
多様な香りの層
オークモスの香りは、とても複雑で、色々な香りが混ざり合っています。
まず、湿った森や土のような香りがします。
それに加えて、少し埃っぽさやスモーキーな匂いも感じられます。
香水の世界では、これらの香りを「モッシーノート」と呼んでいます。
さらに深く香りを嗅ぐと、木の樹脂のような匂いや、大地の香りも感じられます。
日本のお香のような和の趣
この複雑な香りは、どこか日本のお香に似た、落ち着いた神秘的な雰囲気を持っています。
一方で、革のような力強くセクシーな匂いも持っていて、ユニークな香料です。
香りが強いため、好き嫌いが分かれることもありますが、その分、香水に深みと個性を与える大切な役割を担っています。
香水における役割
持続性と調和
オークモスは、香りが長持ちするというとても重要な特徴を持っています。
香水は時間が経つと香りが消えてしまいますが、オークモスは香りが蒸発しにくい性質を持っています。
そのため、香りの土台となる「ベースノート」として使われることがほとんどです。
また、他の香料と混ぜても相性が良く、全体の香りをまとめる「接着剤」のような働きもします。
他の香料との組み合わせ
オークモスは、さまざまな香りと組み合わせることで、それぞれの香りの良さを引き立てます。
たとえば、レモンやオレンジのような爽やかな柑橘系の香りと組み合わせると、香りに深みと上品さが加わります。
ベルガモットという柑橘系の香料とも相性が良いとされています。
バラやジャスミンのような華やかな花の香りと組み合わせると、甘い中に落ち着きが生まれます。
この組み合わせは、特に秋冬の香水によく使われます。
パチュリというオリエンタルな香料や、ヒノキのような樹木の香りとも相性が良いです。
オークモスが活躍する香りの種類
シプレ系の香水
オークモスが特に大切に使われるのが「シプレ系」と呼ばれる香水です。
シプレは、トップノートに柑橘系、ミドルノートにフローラル系、ラストノートにウッディ系を配置した三段構造が特徴です。
オークモスは、このラストノートの中心となり、香りに幻想的で神秘的な印象を与えます。
シプレ系の香水は、明るい香りから始まり、最後にオークモスの深い香りに変化していくのが特徴で、この美しい香りの変化は、オークモスがなければ実現できません。
フゼア系の香水
フゼア系は、主に男性用の香水で使われる香りの種類です。
ラベンダーやゼラニウムといったハーブの香りに、オークモスのウッディな深みを加えることで、自然で大人っぽい男性の魅力を表現することができます。
オークモスのアレルギーに注意点
オークモスには、「アトラノール」という肌に刺激を与える可能性がある成分が含まれています。
そのため、EU(欧州連合)はアレルギーを引き起こす香料としてオークモスを指定し、香水に使える量を0.1パーセント以下に制限しています。
これにより、濃度の高い天然のオークモスを使うことは難しくなっています。
アレルギー問題を解決するための計画
この問題に対応するため、アレルゲン成分を取り除いた、人工的なオークモスの香料も開発されています。
しかし、天然のオークモスが持つ複雑で繊細な香りは、まだ完全に再現することが難しいとされています。
だからこそ、天然のオークモスは今でも香水の世界では貴重な存在なのです。
オークモスの楽しみ方
芳香浴法
一番手軽な楽しみ方です。
ハンカチやティッシュペーパーにオークモスオイルを1、2滴垂らすだけで、いつでもどこでも香りを楽しむことができます。
吸入法
お湯を入れたカップにオイルを垂らし、立ちのぼる蒸気をゆっくり吸い込みます。
この方法だと、香りをより直接的に感じることができます。
沐浴法
バスタブにお湯を張り、オイルを数滴入れてアロマバスとして楽しめます。
ただし、オークモスは水に溶けにくいので、無水エタノールに混ぜてから使うのがおすすめです。
まとめ
オークモスは、自然が生み出した複雑で奥深い香りを持つ貴重な香料です。
その香りは、単なる匂いではなく、私たちに自然の神秘や美しさを伝えてくれます。
その価値はさらに高まり、香水の世界で愛され続けています。