【2025年】菓子パン市場の動向|「消費者の心理」と「企業の成長戦略」
調査概要
株式会社富士経済による市場調査
株式会社富士経済は2025年10月10日、国内のパン市場に関する包括的な調査結果を「パン&スイーツ市場の全貌・課題分析 2025」として発表しました。
この調査は、原料価格の高騰により消費者の価格意識が高まる中で、パン市場がどのように変化しているのかを明らかにすることを目的としています。
調査では製品の種類だけでなく、どこで販売されているかという視点からも詳細な分析を行っており、市場の実態を多角的に捉えています。
調査の対象範囲
製品分類
| 製品分類 | 主な対象商品 |
|---|---|
| 食パン | 食パン、バラエティ食パン |
| テーブルパン | ロールパン、クロワッサン、バゲット、ベーグル、塩パンなど |
| 惣菜パン | カレーパン、ハム・ソーセージ入り、サンドイッチ、ピザなど |
| 菓子パン | デニッシュ、メロンパン、ドーナツ、ベーカリースイーツなど |
| チルドパン | チルドパン(惣菜系)、チルドパン(菓子系) |
パン市場は非常に多様な製品から構成されています。朝食の定番である食パンから、食事代替として機能する惣菜パン、おやつや軽食として人気の菓子パンまで、幅広い商品が含まれています。
販売チャネル
| 販売チャネル | 主な業態 |
|---|---|
| 流通パン | 量販店、コンビニエンスストア、ドラッグストア |
| ベーカリー | オープンフレッシュベーカリー、チェーンベーカリー、量販店インストアベーカリー、食パン専門店 |
| 外食 | ハンバーガーショップ、宅配ピザ、ドーナツショップ、サンドイッチショップ、コーヒーショップ |
パンがどこで販売されているかという販売チャネルの視点も重要です。工場で大量生産される流通パン、店内で焼き上げるベーカリー、店舗での飲食体験を提供する外食という三つの大きなカテゴリーに分類されます。
本記事では、これらの調査結果を基に「菓子パン市場」に焦点を当てて考察していきます。
菓子パン市場の特徴
2023年に1兆円突破
菓子パン市場は2023年に1兆円の大台を突破しました。
この数字は単なる市場規模の拡大を示すだけではなく、菓子パンが日本人の食生活において果たす役割が大きく変化したことを物語っています。
かつて菓子パンはおやつや間食という限定的な位置づけでしたが、今や食事の代わりにもデザートの代わりにもなる、懐の深い商品カテゴリーへと成長を遂げたのです。
2024年も拡大の勢いは衰えず、市場は成長を続けています。
製品の多様性
菓子パン市場の底力は、その豊かな製品の多様性にあります。
幅広い品揃えがあるからこそ、子どもから高齢者まで、甘党もそうでない人も、それぞれに合った商品を見つけられるのです。
デニッシュ系
デニッシュやクロワッサン生地で作られた菓子パンは、朝のひとときやおやつの時間に選ばれています。何層にも重なった生地にたっぷりとバターが練り込まれているため、口に入れた瞬間にサクサクとした食感と芳醇な香りが広がります。シンプルなプレーンタイプもあれば、チョコレートやカスタードクリームで甘みを加えたもの、フルーツを載せて華やかさを演出したものもあります。
フィリング入り
アンパン、クリームパン、ジャムパンは、日本の菓子パン文化を語る上で欠かせない存在です。アンパンの小豆あんは素朴でありながら深い甘さを持ち、どこか懐かしさを感じさせてくれます。クリームパンのカスタードクリームは舌触りが滑らかで、優しい甘さが口の中に広がります。こうした定番商品は時代を超えて愛され続けていますが、抹茶あんや栗あん、チョコレートクリームやいちごクリームといった新しい味わいが次々と生まれ、古くからのファンも新しい世代も楽しませています。
メロンパン
メロンパンは日本で独自の発展を遂げた菓子パンです。表面を覆うクッキー生地のサクサク感と、中のパン生地のふんわりとした柔らかさという、相反する二つの食感が見事に調和しています。最近ではチョコチップを混ぜ込んだものや、中にクリームを詰めたものなど、バリエーションが増えており、選ぶ楽しみも広がっています。
ベーカリースイーツ
ドーナツやスイスロールといったベーカリースイーツは、菓子パンの中でも勢いのある分野です。特にドーナツは専門店が次々と店舗を増やし、多彩なフレーバーや食感の商品を世に送り出すことで、市場を活気づけています。スイスロールは、スポンジ生地でクリームを巻いた見た目がケーキそのもので、それでいて値段は手頃です。この価格差が、デザートの代わりにスイスロールを選ぶ人を増やしているのです。
菓子パン市場の2024年の動向
外食チャネルの積極展開
2024年の菓子パン市場では、外食という販売チャネルが目覚ましい活躍を見せました。外食は単に商品を売るだけではなく、店で過ごす時間そのものに価値を持たせることで、流通パンやベーカリーとは一線を画す魅力を打ち出しています。
ドーナツショップ
ドーナツショップは大手企業を中心に売上を伸ばしました。専門店ならではの高い品質と、次々と新商品を出すことで話題を保ち続ける戦略が功を奏したのです。
グレーズドドーナツの表面が放つ艶やかな輝き、チョコレートドーナツの濃厚で深い味わい、フレンチクルーラーの軽やかな口当たりなど、一口にドーナツといっても実に多様な表情を見せてくれます。
季節ごとに限定商品を投入する取り組みも効果を上げています。
春にはいちごの甘酸っぱさを活かした商品、夏には柑橘系の爽やかさを前面に出した商品、秋には栗やさつまいもの素朴な甘みを楽しめる商品、冬にはチョコレートの濃厚さが際立つ商品と、季節の移ろいを味覚で感じられる工夫が凝らされています。
多くの店舗ではイートインスペースを設けており、買ったその場でコーヒーと一緒にドーナツを味わえます。加えて、ドーナツは手土産としても重宝されています。友人の家を訪ねる時や職場に持っていく差し入れとして、箱に詰められたドーナツは見栄えも良く、もらう側も嬉しい贈り物なのです。
ハンバーガーショップ
ハンバーガーショップでは、昼食と夕食の間の時間帯、つまりアイドルタイムと呼ばれる午後2時から5時頃の集客を強化するため、パイの新商品を相次いで投入しました。
パイはハンバーガーに比べると軽めの食べ物で、ちょっと小腹が空いた時に丁度良い重さです。コーヒーや紅茶と一緒にパイを楽しむという提案は、食事の時間帯以外にも店を訪れる理由を作り出しています。
パイは季節ごとに味を変えやすい商品でもあり、春には桜をイメージしたパイ、夏にはマンゴーの甘さを感じるパイ、秋にはパンプキンの優しい甘みが特徴のパイと、四季折々の風味を楽しめます。
この動きは、外食産業全体が「食事を出す場所」から「一日中いつでも使える場所」へと変わろうとしていることを示しています。
流通では安価な菓子パンが人気
流通パンの世界では、税込120円以下という手頃な値段で、しかも大きめのサイズの単品菓子パンが人気を集めました。
コンビニエンスストアのスイーツは大抵200円から300円、ケーキ屋の洋菓子となれば300円から500円はします。それに対して120円以下で買える菓子パンは、半分以下の出費で済むわけです。
しかも、安いからといって量が少ないわけではありません。むしろ大ぶりで食べ応えがあるのが特徴です。原料価格が上がって洋菓子の値段が跳ね上がる中、菓子パンの価格の手頃さがより際立つようになりました。
それに加えて、複数個が一つの袋に入ったマルチパック品も変わらず好調でした。一つあたりの値段がさらに下がることに加えて、まとめて買えば買い物に行く回数も減らせます。忙しい日々を送る人にとって、この手間の省略は見逃せない利点となっています。
菓子パン市場の2025年の見込み
三層価格戦略の展開
2025年の菓子パン市場では、企業がより戦略的な価格設定を進めています。
流通パンメーカーは、アッパー、ミドル、廉価という三つの価格帯で商品を展開し始めました。この戦略の根底にあるのは、消費者が単に安さだけで商品を選んでいるわけではないという理解です。
三層価格戦略の本質は、同じ商品ラインアップの中で、様々な場面や気分に応じた選択肢を用意することにあります。同じ人でも、平日の普通のおやつには廉価な商品を、週末の家族団らんにはミドルの商品を、特別な日にはアッパーの商品を、と使い分けられるわけです。
アッパー価格帯
アッパー価格帯は200円以上の商品群です。ここでは品質や付加価値を重んじる人たちに向けた商品が並びます。
北海道産の小麦粉や発酵バターといった上質な原料を使った菓子パンや、生地を長い時間かけて発酵させることで深みのある風味を引き出した商品があります。
こうした商品は毎日のおやつというよりも、週末の贅沢や特別な日のデザートとして選ばれています。
ミドル価格帯
ミドル価格帯は120円から200円の範囲で、品質と価格の釣り合いを大切にする人たちを対象としています。
この価格帯の存在意義は、高い商品と安い商品の二択だけに市場を分断しないことにあります。
「安すぎると品質が心配だけれど、高すぎるのも避けたい」という心理は、多くの人が抱いているものです。
主要な素材には良いものを使いつつ、脇役の材料では費用を抑えるといった工夫で、納得できる価格と品質を両立させています。
廉価価格帯
廉価価格帯は120円以下で、何よりも価格を優先する人たちに向けた商品です。
構成をシンプルにすることで費用を抑えていますが、基本的な美味しさは守られています。
日々のおやつとして、躊躇なく手に取れる値段設定が、繰り返し買ってもらえる理由となっています。
洋菓子からの需要流入
原料費が上がり続ける中、洋菓子の価格は上昇の一途を辿っています。ケーキ屋のショートケーキが一つ400円から500円もするのは、今や珍しくありません。対して菓子パンなら、150円ほどでデザートに近い満足感を得られます。
この価格の開きは、人々の選び方を変えています。
洋菓子と菓子パンの値段
週に一度の楽しみとして洋菓子を買っていた人も、菓子パンなら同じ予算で週に二回、三回と楽しめます。あるいは、洋菓子は本当に特別な日だけにして、普段は菓子パンで済ませるという選択も増えています。
ただし、これは単なる値段勝負の結果ではありません。菓子パンメーカーが商品の質を高め、洋菓子に匹敵する満足感を届けられるようになった成果でもあるのです。
洋菓子と菓子パンの品質
専門店のドーナツは色々なトッピングや味で、洋菓子店のケーキに負けない豊かさを実現しています。スイスロールは、ロールケーキという洋菓子の姿をそのまま菓子パンに持ち込んだ商品です。
こうした取り組みによって、これまで洋菓子を買っていた人たちが菓子パン市場に加わり、市場全体が大きくなっています。菓子パンメーカーには、洋菓子店のような見た目の美しさや素材の良さ、味の深みを追求しながら、パン作りの技術と価格の手頃さを維持するという、高度なバランス感覚が求められています。
まとめ
菓子パン市場は2023年に1兆円の大台を突破し、その後も成長を続けています。
この躍進は、製品の豊かな多様性、外食チャネルの積極的な取り組み、流通における手頃な価格の商品の人気、そして戦略的な三層価格展開といった、いくつもの要因が絡み合って生まれたものです。
市場の力の源は、デニッシュからフィリング入り、メロンパン、ベーカリースイーツまで、幅広い商品が揃っていることにあります。
2024年は外食と流通の両方が伸びました。ドーナツショップは専門店としての品質と絶え間ない新商品開発で実績を上げ、ハンバーガーショップは午後の時間帯を狙ってパイを展開しました。流通では120円以下の大きな単品菓子パンと、お得なマルチパック品が支持を集めました。
2025年には三層価格戦略が本格化し、アッパー、ミドル、廉価という三段階の価格設定で、多様な場面や消費者の求めに応えています。加えて、洋菓子の値上がりを背景に菓子パンへと流れてくる需要もあり、市場を広げる新たな機会となっています。
菓子パン市場は今後も、日本人の食生活において大切な役割を担い続けるでしょう。





