スイーツ店の倒産が過去20年で最多ペース【2025年1-9月】
街のケーキ店や和菓子店といった菓子製造小売業が厳しい経営環境に直面しています。2025年1月から9月までの9ヶ月間で、負債1,000万円以上の菓子製造小売業の倒産は37件に達し、過去20年間で最も多いペースで推移しています。材料コストの上昇、酷暑による影響、人手不足といった複数の要因が重なり、商品の値上げによる購入機会の減少も加わって、経営が成り立たなくなる店舗が増加しています。
倒産件数の推移と現状
2025年1-9月の倒産状況
| 期間 | 倒産件数 |
|---|---|
| 2025年1-9月 | 37件 |
| 2024年1-9月 | 32件 |
| 2013年1-9月(過去最多) | 34件 |
2025年1月から9月までの菓子製造小売業の倒産は37件となり、前年同期の32件と比較して15.6%増加しました。この数字は、過去20年間の1月から9月の期間で見ると最も多い件数となっています。これまでの最多は2013年の34件でしたが、2025年はこれを上回る結果となりました。このペースで推移すると、2025年の年間倒産件数は50件を超える見込みです。
過去20年間の倒産件数の変遷
2006年から2016年の動向
2006年以降の1月から9月の期間における倒産件数を振り返ると、2013年が34件で最多でした。その後は景気の動向やスイーツブームといった要因により、倒産件数は増減を繰り返してきました。2016年には14件まで減少しており、この時期は比較的安定した経営環境だったことがわかります。
倒産件数が減少した背景には、タピオカドリンクやパンケーキといったスイーツブームが起こり、新たな需要が創出されたことが関係しています。こうしたブームは消費者の関心を集め、店舗への来客数を増やす効果がありました。
2020年から2024年の推移
2020年からの新型コロナウイルス感染症の流行期には、政府や自治体による資金繰り支援策が実施されました。実質無利子・無担保融資や持続化給付金といった支援策により、経営が苦しい店舗でも事業を継続できる環境が整えられました。その結果、倒産件数は一時的に抑制されていました。
しかし、2023年以降は支援策が段階的に縮小され、自力での経営が求められるようになりました。2023年の1月から9月の倒産件数は18件でしたが、2024年には32件まで増加しており、明確な増加傾向に転じています。
2025年に倒産が急増した背景
- 原材料費などの物価高
- 値上げによる売上減少
- 競合商品の台頭
2025年に入ってから倒産が急増した背景には、複数の要因が同時に作用しています。37件の倒産のうち、約3割にあたる10件は原材料費などの物価高が直接的な原因となりました。卵、牛乳、小麦粉、砂糖、バターといった菓子製造に欠かせない材料のコストが上昇し続けています。
商品の値上げを実施した結果、売上が減少して倒産に至ったケースもあります。コストが上昇したため販売価格を引き上げたものの、消費者が値上げに反応して購入を控えるようになり、売上が大幅に減少しました。
コンビニエンスストアの冷凍スイーツなど、競合商品が台頭したことで、顧客を奪われて倒産したケースも存在します。過去にはタピオカドリンク、マカロン、パンケーキ、カヌレといったスイーツブームが起こり、一時的に市場が活性化する時期がありました。しかし、2025年には起死回生となるようなスイーツブームが現れていません。
倒産事例の詳細分析
事業規模と地域分布
| 項目 | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 従業員数5人未満 | 29件 | 78.3% |
| 資本金1,000万円未満(個人企業含む) | 32件 | 86.4% |
倒産した37件の菓子製造小売業を分析すると、従業員数が5人未満の事業者が29件で、全体の78.3%を占めました。資本金が1,000万円未満の事業者(個人企業を含む)は32件で、全体の86.4%に達しています。この結果から、倒産したのは小規模・零細規模の店舗が大半であることがわかります。
小規模な菓子店は、経営基盤が脆弱な構造があります。資金力が限られているため、原材料費の高騰や売上の減少といった環境変化に対して、耐える余力が少ないのです。大手企業であれば一時的な赤字を吸収できる体力がありますが、小規模事業者は数ヶ月の赤字で資金繰りが行き詰まる可能性があります。
都道府県別の倒産状況
| 都道府県 | 倒産件数 |
|---|---|
| 東京都 | 5件 |
| 大阪府 | 5件 |
| 福岡県 | 4件 |
| 愛知県 | 3件 |
| 兵庫県 | 3件 |
都道府県別に見ると、東京都と大阪府が各5件で最も多く、福岡県が4件、愛知県と兵庫県が各3件と続いています。これらは人口の多い都市部であり、菓子店の数も多い地域です。
都市部では店舗の賃料が高く、固定費の負担が大きくなります。人通りの多い場所に店を構えることで集客を図りますが、その分の賃料負担が経営を圧迫します。売上が減少した際に、高い賃料を支払い続けることが難しくなり、倒産につながるケースがあります。
菓子製造小売業が直面する経営課題
材料費の高騰と種類
菓子製造に使われる主要な材料の価格が、軒並み上昇しています。それぞれの材料について、具体的に見ていきます。
卵の価格上昇
卵はケーキ、プリン、カスタードクリームなど、洋菓子のほぼすべてに使用される基本的な材料です。スポンジケーキの生地を作る際には大量の卵が必要であり、コスト上昇の影響を大きく受けます。2025年は鳥インフルエンザの影響による供給減少と、猛暑による産卵率の低下が重なり、卵の価格が高騰しました。
牛乳と乳製品の価格上昇
牛乳、生クリーム、バターといった乳製品も、洋菓子製造に欠かせない材料です。ケーキのクリーム、アイスクリーム、焼き菓子など、幅広い商品に使用されます。飼料価格の高騰により、酪農家の生産コストが上昇し、その分が乳製品の価格に転嫁されています。
小麦粉と砂糖の価格上昇
小麦粉は焼き菓子やケーキの生地を作る際に必要な材料であり、砂糖は菓子全般に使用される基本的な材料です。どちらも菓子製造において代替が難しく、価格が上昇してもコストを削減する方法がありません。小麦は輸入に依存しており、国際的な穀物価格の変動や為替レートの影響を受けます。
和菓子の材料費の価格上昇
和菓子で主に使用される小豆も、価格が上昇しています。あんこを作るために欠かせない材料であり、まんじゅう、どら焼き、大福といった和菓子の多くに使用されます。気候変動による収穫量の減少や、国際的な需要の増加により、小豆の価格は上昇傾向にあります。
エネルギーコストの増加
菓子製造には、オーブン、冷蔵庫、冷凍庫、ショーケースといった電気設備を常時稼働させる必要があります。これらの設備は消費電力が大きく、電気料金の上昇は直接的にコストを増加させます。
ガスはオーブンや蒸し器といった調理設備に使用されます。焼き菓子やケーキを焼く際には長時間のガス使用が必要であり、ガス料金の上昇は製造コストに直結します。原油価格や天然ガス価格の国際的な動向により、日本国内のガス料金も影響を受けます。
特に2025年は記録的な猛暑となり、店内の冷房と冷蔵設備の稼働により、電気使用量が増加しました。売上が伸びない中で、エネルギーコストだけが増加する状況は、経営を厳しくする要因となります。
人手不足と人件費の上昇
菓子製造には専門的な技術と経験が必要です。ケーキのデコレーション、和菓子の成形、生地の焼き加減の調整など、熟練した職人の技術が求められる工程が多くあります。しかし、若い世代の菓子職人を確保することは難しくなっています。
労働時間が長く、早朝から仕込みを始める必要があるなど、労働環境の厳しさが敬遠される要因となっています。また、賃金水準が他の業種と比較して低い傾向にあり、人材が集まりにくい状況です。人手不足が深刻化する中で、従業員を確保するためには賃金を引き上げる必要があります。
従業員の数が少ない小規模店舗では、一人あたりの業務負担が大きくなります。製造、接客、清掃、在庫管理など、幅広い業務を少人数でこなす必要があり、労働時間が長くなりがちです。この状況が、さらに人材の定着を難しくする悪循環を生んでいます。
店舗賃料の負担
都市部の人通りの多い場所に店舗を構える場合、賃料の負担が大きくなります。集客しやすい立地は賃料が高く設定されており、毎月の固定費として経営を圧迫します。売上が減少しても賃料は固定費として支払う必要があるため、利益率が低下します。
価格転嫁の限界と消費者の反応
商品値上げの難しさ
原材料費やエネルギーコスト、人件費が上昇しても、販売価格に転嫁することは容易ではありません。値上げをすると、消費者が購入を控える可能性があるためです。
菓子は嗜好品としての性格が強く、生活必需品ではありません。そのため、価格が上昇すると、消費者は購入を我慢しやすい傾向があります。日常的に購入していた商品でも、価格が一定のラインを超えると、購入頻度を減らす行動が見られます。値上げを実施すると、単価は上がりますが、販売数量が減少します。単価の上昇分よりも数量の減少幅が大きければ、売上全体は減少することになります。
価格据え置き策の限界
値上げをせずに価格を据え置く選択肢もありますが、その場合は別の方法でコストを吸収する必要があります。商品のサイズを小さくすることで、実質的な値上げを行う方法があります。価格は変えずに内容量を減らすことで、単位あたりの価格を上げる手法です。
サイズを小さくしすぎると、商品の魅力が低下します。ケーキが小さくなりすぎると、見栄えが悪くなり、購買意欲が減少する可能性があります。材料の使用量を減らしたり、より安価な材料に変更したりすることで、コストを削減する方法もあります。しかし、材料を減らすと、味や食感が変わってしまいます。
菓子店の競争力は、味と品質にあります。材料を削減して品質を落とすことは、店舗の存在価値を損なうことにつながりかねません。短期的にはコストを削減できても、長期的には顧客を失い、経営が成り立たなくなるリスクがあります。
コンビニやスーパーのスイーツとの競争
大手チェーンの優位性
| 大手チェーンの強み | 個人店舗への影響 |
|---|---|
| 値ごろ感のある価格設定 | 価格競争で不利 |
| 味の向上(冷凍技術の進化) | 品質面での差が縮小 |
| 利便性の高さ(営業時間、立地) | 顧客の来店機会減少 |
コンビニエンスストアやスーパーマーケットで販売されるスイーツは、品質が向上しており、個人経営の菓子店にとって大きな脅威となっています。大手チェーンは規模の経済を活かして、比較的低価格でスイーツを提供できます。大量生産により製造コストを抑え、全国の店舗で販売することで効率的な流通を実現しています。
コンビニエンスストアのスイーツは、味の面でも大きく進化しています。有名パティシエや老舗菓子店との共同開発により、専門店に近い品質の商品が登場しています。冷凍技術や保存技術の進化により、作りたての味を再現できるようになりました。
コンビニエンスストアやスーパーマーケットは、生活圏内に多数の店舗があり、いつでも気軽に立ち寄ることができます。営業時間も長く、夜遅くや早朝でも購入できる利便性があります。わざわざ専門店まで足を運ぶ手間が省けるため、日常的な購入では大手チェーンが選ばれやすくなります。
個人経営の菓子店が対抗する難しさ
個人経営の菓子店は、大手チェーンとの競争において不利な立場に置かれています。小規模な店舗は、大手チェーンのような低価格を実現することが難しい構造があります。仕入れ量が少ないため、原材料の単価が高くなります。製造も手作業が中心であり、人件費の割合が高くなります。
個人経営の菓子店が生き残るためには、大手チェーンにはない価値を提供する必要があります。手作りの温かみ、地域に根ざした味、職人の技術といった要素が差別化のポイントとなります。しかし、これらの価値を消費者に伝えることは容易ではありません。
菓子が「高値の花」になる現実
消費者の購買行動の変化
原材料費の高騰による値上げにより、ケーキや和菓子は「高値の花」となりつつあります。日常的に気軽に購入できる価格帯ではなくなり、特別な日や贈答用といった限られた場面でしか購入されなくなっています。
価格が上昇すると、消費者は購入頻度を減らします。週に一度買っていたケーキを、月に一度にする。誕生日やクリスマスといった特別な日だけに限定する。このような購買行動の変化が起こっています。購入機会が減少すれば、菓子店の売上は減少します。
日常的な購入が減少する中で、贈答用の需要が相対的に重要になります。お中元、お歳暮、手土産といった用途では、ある程度高価な商品でも購入される傾向があります。しかし、贈答需要だけでは安定した売上を維持することは難しくなります。
菓子店の存在意義の再考
価格が上昇し、購入機会が減少する中で、菓子店は自らの存在意義を問い直す必要があります。地域密着型の菓子店は、地域コミュニティの一部としての役割を果たしてきました。地元の祭りやイベントに協賛したり、学校行事の際に商品を提供したり、地域との関わりを持ってきました。
このようなつながりを維持し、地域から支持される存在であり続けることが、生き残りのための一つの道となります。手作りの温かみ、職人の技術、こだわりの材料といった付加価値を高めることも重要です。高価格であっても、それに見合った価値があると消費者が感じれば、購入につながります。
年間倒産件数の見通し
50件超えの可能性
2025年1月から9月までの9ヶ月間で37件の倒産が発生しており、月平均では約4.1件のペースです。このペースが年末まで続くと仮定すると、2025年の年間倒産件数は50件を超える見込みとなります。
残りの3ヶ月間で13件以上の倒産が発生すれば、年間で50件を超える計算になります。過去のデータを見ると、年末に向けて倒産が増加する傾向があります。クリスマスや年末年始は菓子店にとって書き入れ時ですが、この時期に十分な売上が確保できなかった場合、年明けに資金繰りが悪化して倒産に至るケースが考えられます。
構造的な問題の深刻化
倒産件数が過去最多となる見通しの背景には、一時的な要因だけでなく、構造的な問題が深刻化していることがあります。原材料費の高騰は短期的に解決する見込みがなく、人手不足も今後さらに深刻化する可能性があります。大手チェーンとの競争も激化の一途をたどっており、個人経営の菓子店が生き残るための環境は厳しさを増しています。
今後の懸念事項
菓子製造小売業では、後継者が見つからずに廃業を選択するケースが増加しています。創業者や現在の経営者が高齢化する中で、事業を引き継ぐ人材がいない場合、事業継続が困難になります。技術の継承には長い年月が必要です。菓子職人として一人前になるまでには、数年から10年以上の修行期間が必要とされます。
製造設備の老朽化により、更新や買い換えが必要になった際に、事業継続を断念する企業が増えることも懸念されています。オーブンや冷蔵設備といった製造機器は高額であり、新規に導入するためには数百万円から数千万円の投資が必要です。将来の売上に不安がある状況では、大きな設備投資のリスクを取ることができません。
まとめ
2025年1月から9月までの菓子製造小売業の倒産件数は37件に達し、過去20年間で最も多いペースで推移しています。前年同期と比較して15.6%増加しており、このペースで推移すると年間倒産件数は50件を超える見込みです。
倒産した事業者の大半は、従業員数5人未満、資本金1,000万円未満の小規模・零細規模の店舗でした。倒産の原因として、約3割が原材料費などの物価高によるものでした。卵、牛乳、小麦粉、バター、小豆といった菓子製造に欠かせない材料の価格が上昇し、製造コストが増加しました。
商品の値上げは消費者の購入機会を減少させ、値上げによる売上減少で倒産したケースも存在します。コンビニエンスストアの冷凍スイーツなど、大手チェーンの商品が台頭したことで、顧客を奪われて倒産したケースもあります。
2025年には起死回生となるようなスイーツブームが現れず、市場全体が停滞している状況です。ケーキや和菓子は「高値の花」となりつつあり、日常的に気軽に購入できる価格帯ではなくなっています。今後は、後継者問題や設備更新のタイミングで事業を断念する企業がさらに増加することが懸念されており、菓子製造小売業にとって厳しい状況が続くと予想されています。





