ロールケーキブームの背景|人気になった理由・きっかけ

ロールケーキは、薄く焼いたスポンジケーキにクリームなどを塗って巻いた、日本で広く愛されるお菓子です。

その起源は世界各地に見られ、「スイスロール」という別名も持ちますが、その由来は定かではありません。

日本では1958年に山崎製パンが「スイスロール」を商品化し、2003年頃からは一本丸ごとのロールケーキがブームを巻き起こしました。

このブームは、お菓子屋さんの手間を省く利点に加え、個性豊かな商品が次々と誕生するきっかけとなり、現在の「一切れサイズのロールケーキ」という手軽なスイーツ文化へと繋がっています。

目次

ロールケーキとは

ロールケーキは、その名の通り、薄く焼いたスポンジケーキの表面にクリームやジャム、フルーツなどを塗り広げ、それを筒状にくるくると巻いて作られる洋菓子です。断面が渦巻き状になっているのが特徴で、日本ではコーヒーや紅茶のお供として、また手土産としても人気があります。

ロールケーキの発祥起源

ロールケーキは、スポンジ状の柔らかい生地にクリームやフルーツなどを巻き込んで仕上げる洋菓子ですが、その発祥についてははっきりした記録が残っていません。誰が、いつ、どこで最初に作ったのかは定かでなく、世界各地に類似したお菓子が自然発生的に存在しているのが実情です。

19世紀後半のヨーロッパではすでに存在している

19世紀後半のヨーロッパでは、すでにロールケーキに近い菓子が存在していたことが、当時の料理本からわかっています。特に1880年から1890年にかけてのレシピには、「薄い生地を焼いて、中にジャムを塗って巻く」という手法が紹介されており、これが現在のロールケーキと非常に近いものだと考えられています。

スイスで作られていたという情報もある

スイスでも、同じようなケーキが伝統的に作られていたことが知られており、そこから「スイスロール(Swiss Roll)」という名前で呼ばれることもあります。ただし、スイスが発祥地だと明確に特定することはできません。ロールケーキのように「巻く」という調理法はとてもシンプルで合理的なため、世界各地で自然と似た形のスイーツが誕生したと考えるのが妥当です。

ロールケーキと似た食品

ロールケーキに似たスタイルのお菓子は、実は世界中に存在しています。それぞれの国や地域の食文化の中で、独自の工夫やアレンジが加えられ、ロールケーキに近い形状や製法のお菓子が発展してきました。以下に代表的な例を紹介します。

ルレ・オ・シトロン

「ルレ・オ・シトロン(Roulé au citron)」は、フランスで親しまれているロールケーキの一種です。

名称の「ルレ」は、フランス語で「巻かれたもの」を意味し、まさにロールケーキの特徴を表しています。「シトロン」はレモンのことを指し、レモン風味のバタークリームやレモンカード(濃厚なレモンクリーム)を巻き込んだ爽やかな味わいのケーキです。

甘さの中にレモンの酸味が効いており、夏場にも人気があります。見た目も美しく、デコレーションされて販売されることが多いため、家庭用はもちろん贈答用としても重宝されています。

ルレ・オ・ザナナ

同じくフランスでは「ルレ・オ・ザナナ(Roulé à l’ananas)」も知られています。

「ザナナ(ananas)」はパイナップルの意味で、果肉やジュレ状のフィリングとしてパイナップルを使い、トロピカルな風味を楽しめる一品です。

南国果実特有の香りとジューシーさがクリームと好相性で、フランス本土だけでなく海外領土や旧植民地の料理文化にも根ざしている点が特徴的です。

ブラソ・デ・ヒターノ

スペインには「ブラソ・デ・ヒターノ(Brazo de Gitano)」という名前のロールケーキがあります。

直訳すると「ジプシーの腕」という意味で、名前の由来には諸説ありますが、その外観が腕のように見えることからこの名がついたとされています。

スポンジ生地にクリームやジャムを巻き込み、外側に粉砂糖チョコレートコーティングを施すことが多く、味も見た目も豊かです。

スペイン語圏の国々やラテンアメリカでも広く受け継がれており、家庭の定番スイーツとして親しまれています。

竿物(さおもの)

日本にも、ロールケーキに近い構造を持つ和菓子が古くから存在しています。

その代表が「竿物(さおもの)」と呼ばれる菓子です。

「竿物」とは、長く棒状に作られた菓子の総称で、切り分けて食べるスタイルが特徴です。

たとえば、餡を芯にしてカステラ状の生地で巻いた「栗蒸し羊羹」や「棹巻(さおまき)」といった菓子があります。

現代のロールケーキと同じく、見た目の美しさや切り分けのしやすさが評価され、贈答用やお茶菓子として重宝されています。

このように、日本でも「巻く」構造のお菓子はすでに定着しており、洋菓子としてのロールケーキが輸入された際にも、違和感なく受け入れられた背景があります。

日本でのロールケーキ普及のきっかけ

日本でロールケーキが広く浸透するまでには、いくつかの重要な出来事やキーパーソンの存在がありました。

最初は量産型の市販品として、次に高級スイーツとして再評価されることで、ロールケーキは「日常のおやつ」から「特別な贈り物」へと多様な役割を持つお菓子へと変化していきます。

山崎製パンスイスロール

ロールケーキが一般家庭に普及する最初のきっかけとなったのが、1958年(昭和33年)に山崎製パンが発売した「スイスロール」です。

この商品は、柔らかいスポンジ生地に甘いクリームを巻き込んだシンプルな構造で、切り分けて家族で楽しめるという点が支持されました。また、保存が効くことや手軽な価格設定も後押しし、全国のスーパーやコンビニで販売される定番商品へと成長します。

スイスロール」という名称にはヨーロッパ的なイメージが込められており、当時の日本ではまだ珍しかった洋風スイーツとしての印象も消費者の興味を引きました。こうして、ロールケーキは「特別な日のお菓子」から「日常のおやつ」へと身近な存在になっていきます。

なお、山崎製パンスイスロールは現在も少しずつマイナーチェンジされながらも販売が続いており、日本人のロールケーキ体験の原点として、半世紀以上にわたって愛されているロングセラー商品です。

辻口博啓の自由が丘ロール屋

ロールケーキが再び注目を集めるきっかけとなったのは、2000年代初頭の「ロールケーキブーム」です。その象徴的な存在が、2003年に東京・自由が丘でオープンした「自由が丘ロール屋」でした。

この店をプロデュースしたのは、国内外で数々の受賞歴を持つパティシエ辻口博啓氏。彼は既存のロールケーキとは一線を画す、見た目にも洗練されたデザインと、厳選された素材による繊細な味わいを提供しました。

自由が丘というトレンドの発信地で、高級感と職人技が詰まったロールケーキを販売するスタイルは、多くのスイーツファンの心を掴みました。行列ができるほどの人気を博し、メディアにも多数取り上げられたことから、「ロールケーキ=高級スイーツ」という新たな認識が定着していきます。

また、「ロール専門店」という業態自体が話題となり、他の洋菓子店にも大きな刺激を与えることとなりました。

富久屋のロールケーキ

東京の「自由が丘ロール屋」と並ぶもう一つの立役者が、静岡県沼津市の老舗洋菓子店「富久屋(ふくや)」です。

富久屋のロールケーキは、地域に密着した店舗ながら、こだわり抜いた素材と丁寧な手作業によって、非常に完成度の高い味わいを実現していました。特に地元産の卵やミルク、小麦などを使用することで、自然な風味としっとりとした食感が特徴となっています。

このロールケーキは口コミや雑誌、テレビ番組で紹介されることで一躍注目され、東京や大阪などの都市部からわざわざ取り寄せる人も現れました。

このような地方発のヒットが注目を集めたことは、それまで都市部のパティスリーが中心だったスイーツブームに新しい潮流をもたらします。素材や味へのこだわり、そして店主の想いが込められた商品が「お取り寄せスイーツ」として全国的に支持されるようになり、他地域の洋菓子店もロールケーキに本腰を入れるきっかけとなりました。

一本物ロールケーキとは

2000年代初頭のロールケーキブームの中で、特に注目を集めたのが「一本物ロールケーキ」の存在です。

それまで日本では、ロールケーキはあらかじめ数等分にカットされ、個包装された状態で販売されるのが一般的でした。コンビニやスーパー、街の洋菓子店でも、ケーキは「一人前サイズ」で提供されることが多く、切り分ける手間を省いたスタイルが主流でした。

しかしこのブームの最中、まるでホールケーキのように一本丸ごとで販売される「一本物ロールケーキ」が急速に人気を集め始めます。消費者が自宅で好きな厚さにカットできるという自由度が魅力であり、「見た目の迫力」「切る楽しさ」「家族や友人と分け合う体験」など、これまでのロールケーキにはなかった体験価値が注目されたのです。

また、パッケージの高級感やギフト映えするフォルムも相まって、家庭用のみならず贈答用スイーツとしても人気が高まりました。

一本物ロールケーキが普及した理由

一本物ロールケーキが全国に急速に広まった背景には、製造・販売の効率性という現場レベルでの大きなメリットがありました。

従来のショートケーキやホールケーキは、工程が複雑で人手も時間も必要です。一つ一つを丁寧にカットし、断面が崩れないようセロハンで巻き、銀トレイに乗せ、ケーキ箱に詰める作業は、見た目の美しさと衛生を保つために不可欠でした。

しかしロールケーキは、生地を天板に流して焼き、クリームを塗って巻き上げるだけで形になります。しかも一本物で販売する場合は、カットや包装といった手間も最小限に抑えられ、店舗スタッフの作業負担が大幅に軽減されます。

さらに、一本売りであれば単価が高く設定しやすく、利益率も高まります。このように「簡便さ」と「利益性」の両面で優れていたロールケーキは、スイーツ業界にとって極めて扱いやすい商品でした。

この利点に気づいた全国の洋菓子店がこぞって一本物ロールケーキに注目し、続々と新商品を開発・販売したことで、一気にブームが拡大していったのでしょう。

個性的なロールケーキが次々に登場

一本物ロールケーキブームがもたらしたもう一つの大きな変化は、多様なアレンジやブランド化でした。

著名な料理人・熊谷喜八氏が手がけた「キハチロール」は、その象徴的な存在です。

ふんわりとした生地と上品な甘さのクリーム、そして上質な素材選びにこだわったキハチロールは、ロールケーキが「高級菓子」へと格上げされるきっかけとなりました。

また、全国各地のパティスリーでも、地元の名産品や食材を使った「ご当地ロールケーキ」が次々に誕生しました。

抹茶や和三盆、フルーツや酒粕など、その地域ならではの素材を活かしたロールケーキは、観光客のお土産としても人気を集めました。

さらに、あるパティシエが「銀座一丁目ロール」という名前を付けて販売していたことからも分かるように、地域名+ロールケーキというネーミングスタイルも流行し、ブランド性を高める手段として活用されていきました。

ロールケーキブームの影響

一本物ロールケーキの大流行は、単なる一時的なスイーツトレンドでは終わりませんでした。日本のスイーツ文化全体に持続的な影響を与える、大きな転機となったのです。

とりわけ、このブームが後押ししたのが、「一切れサイズのロールケーキ」の登場と定着です。

一本物ロールケーキの人気により、ロールケーキの味や食感への関心が高まったことで、大手菓子メーカーやコンビニ各社は、手軽に買えるカット済みのロールケーキの開発に力を入れるようになります。

ローソンの「プレミアムロールケーキ」などは、その代表格といえる商品で、クリームや生地のクオリティは専門店並みでありながら、価格は手ごろということで一躍大ヒットとなりました。

現在でも、一切れサイズのロールケーキは、コンビニ、スーパー、カフェ、さらには航空機の機内スイーツとしても広く取り扱われています。仕事や家事の合間、ちょっとしたご褒美や差し入れとして、あらゆるシーンで親しまれているのです。

まとめ

ロールケーキは、世界各地の食文化とともに育まれてきたシンプルかつ奥深いお菓子です。日本では「スイスロール」に始まり、「自由が丘ロール屋」や「富久屋」のような個性豊かな専門店の台頭、そして一本物のブームを経て、今や誰もが手軽に楽しめる定番スイーツへと変貌を遂げました。素材や見た目、サイズなど多彩なスタイルで展開されるロールケーキは、これからも時代やニーズに合わせて進化し続けていくことでしょう。

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