2000年前後のスイーツのトレンド
2000年前後の日本のお菓子業界は、目まぐるしくトレンドが移り変わる時代でした。
1999年にはカラメルテイストが、続く2000年にはシナモンテイストが人気を博し、2001年にはジンジャーテイストが新たな風味として登場。
それまでデザートに使われるのは、カラメル、シナモン、ジンジャーのような甘みや香りを引き立てる定番の香辛料が主流で、次に登場するとすれば唐辛子のようなスパイシーな調味料だろうとさえ考えられていました。
しかし、実際に現れたのは全く異なる方向性の食材、そう、「トマト」だったのです。
トマトスイーツの意外性
スイーツにトマトテイストのトレンドがやってくるというこの展開を、当時予測できた人はほとんどいなかったでしょう。
なぜなら、トマトは野菜の中でも特に「甘さ」とはかけ離れたイメージを持つ食材だったからです。
多くの人にとって、トマトといえば、その酸味や青臭さからサラダやパスタソースなど、料理の主役として使われる野菜という認識が一般的でした。
そのようなトマトが、まさかスイーツの材料として注目されるようになるとは、一体なぜなのでしょうか。
トマトスイーツが誕生した背景
流行は偶然生まれるものではなく、多くの場合、誰かの意図的な仕掛けによって話題が作られます。
トマトスイーツの場合も同様で、その背景にはいくつかの要因が考えられます。
「フルーツのお菓子化」が野菜にも波及
近年見られる「フルーツのお菓子化」。品種改良技術の飛躍的な発達により、近年、果物は以前にも増して甘みを増すように改良されてきました。
昔の果物と比べると、現在のイチゴ、ブドウ、リンゴなどは、その甘みが格段に向上していることが実感できます。
これは、消費者がより甘い果物を好む傾向にあるという嗜好の変化に合わせた結果であり、甘みが市場での人気に直結することを反映しています。
この「フルーツのお菓子化」の流れは、やがて野菜の世界にも波及しました。
野菜もまた、果物と同様に、より甘く、より食べやすい品種へと改良が進められるようになったのです。
その代表的な例が、まさにフルーツトマトでした。
従来のトマトは酸味が強く、生でそのまま食べるには好みが分かれる味でしたが、フルーツトマトは糖度が高く、まるで果実のような甘みを持つように品種改良されました。
農業協同組合(農協)の仕掛け
トマトスイーツが話題になった時期と、ほぼ同時に「フルーツトマト」という新しい品種のトマトが注目を集めるようになりました。
この時期の一致は偶然ではないかもしれません。農業協同組合(農協)などの農業関係者が、新しい品種の普及と販路拡大を目指して、トマトスイーツというアイデアを市場に提案した可能性も考えられます。
このフルーツトマトの登場は、スイーツ業界に新たな可能性を示唆しました。「甘みの強いトマトならば、お菓子の材料としても利用できるのではないか」という斬新な発想が生まれたのです。
トマトスイーツが人気になった背景
実際に、誰かがフルーツトマトを使ったムースやタルト、小さなタルトレットなどを試作してみたところ、予想以上に美味しく仕上がりました。
最初は単なる実験的な試みだったかもしれません。しかし、その試作品が思いのほか好評を博したことで、話題は徐々に広まっていきました。
常に新しいトレンドを探している女性誌やファッション誌の編集者たちは、このユニークなスイーツにいち早く注目。「今度はこれだ」と確信した編集者たちは、こぞってトマトスイーツを特集記事として取り上げるようになりました。
メディアの力は絶大です。雑誌で紹介されることで、トマトスイーツは一気に認知度を高めていきました。
社会現象と呼べるような爆発的なブームにまで至らなかったものの、スイーツ愛好家や食に関心の高い人々の間では確実に注目を集める存在となりました。
まとめ
2000年代初頭、日本のスイーツ業界に突如として現れた「トマトスイーツ」は、多くの人々を驚かせました。それまで料理用の野菜というイメージが強かったトマトがデザートに進出した背景には、品種改良によって果物だけでなく野菜にも波及した「甘み化」という大きな流れがありました。甘みを増したフルーツトマトはスイーツへの新たな可能性を開き、試作品の好評と女性誌・ファッション誌の積極的な取り上げによって、トマトスイーツは広く認知されるようになりました。