トーヨービバレッジとは|ユニークな商品開発の「駆け込み寺」
トーヨービバレッジとはどのような会社か
トーヨービバレッジは、2006年に東京都渋谷区で創業した飲料メーカーであり、一般的なメーカーとは異なり、大手チェーン店などからの特殊な飲料開発を受託することを主な役割としています。
同社は、約50人という規模で、ナショナルブランドの低価格路線とは一線を画し、「量よりも話題性」を掲げて独自性を重視したプライベートブランド商品を手掛けています。
一つは、自社ブランドとして全国の小売店で広く販売される「ナショナルブランド」(NB)です。
もう一つは、小売店が独自に企画・販売する「プライベートブランド」(PB)です。
プライベートブランドは、通常、ナショナルブランドに比べて低価格で提供されることが多い商品形態です。ただし、近年では低価格だけを目的とせず、独自のコンセプトや品質を追求した商品として開発される例も増えています。
トーヨービバレッジの開発実績
トーヨービバレッジは2020年から2024年までの5年間で、450を超える商品を世に送り出しています。これは単純計算で年平均約90商品という高い頻度で新商品を開発していることを示します。
開発数は年度によって変動しています。2023年には107商品を開発しましたが、翌2024年は62商品でした。この変動は、新規開発以外の業務、例えば過去のヒット商品の再販対応などにリソースが割かれた影響によるものです。
開発商品の多様性
同社が手がけてきた商品は、従来の飲料の概念にとらわれないユニークなものが多いという特徴があります。
例えば同社が開発した商品の中には、山梨県の銘菓である信玄餅とコラボレーションした飲料があります。その他にも飲むフルーツポンチや、賛否両論を呼んだ飲むマヨネーズといった、一風変わった飲料も開発してきました。
ユニークな商品開発の「駆け込み寺」
大手メーカーでは製造ラインや効率の都合で実現が難しいような、複雑で変わった商品の開発依頼を多く受けています。大手では困難な商品も引き受けるその姿勢から、トーヨービバレッジは業界内ではユニークな商品開発の「駆け込み寺」と呼ばれる存在となっています。
UCC上島珈琲での経験を通じて、熊谷社長は特にコーヒー飲料の開発を専門としていました。例えばコメダ珈琲や猿田彦珈琲といったコーヒー専門店向けの飲料開発など。これらの専門店では、独自の味わいや品質が求められるため、高い専門性と技術が必要とされます。
熊谷聡社長の経歴
熊谷社長は、トーヨービバレッジを創業する以前に、日本のコーヒー業界で重要な役割を担う企業に在籍していました。この経験から、トーヨービバレッジは現在もコーヒー飲料を得意分野としています。
UCC上島珈琲の出身
熊谷社長は、UCC上島珈琲の出身です。UCC上島珈琲は、日本を代表するコーヒー関連企業の一つであり、コーヒーに関する深い専門知識や業界でのネットワークを培う基盤となりました。
コーヒー専門店向けの飲料開発
コンビニエンスストア向けのコーヒー飲料開発
さらに、コンビニエンスストア向けのコーヒー飲料の開発にも関わってきた経歴を持ちます。コンビニエンスストアで販売される商品は、手軽さやトレンドへの対応が求められるため、市場のニーズを捉える力も養われたと考えられます。
話題を呼んだ「ねるねるねるね」ゼリードリンク開発事例
トーヨービバレッジが手がけた商品の中でも、お菓子の特徴を飲料で再現した「ねるねるねるねゼリードリンク」は、話題を呼んだ開発事例として知られています。
この商品は、クラシエが1986年から販売している菓子「ねるねるねるね」を飲料化したものです。
ねるねるねるねは、クラシエが1986年から販売している粉末状の菓子で、子どもたちの泥んこ遊びから着想を得て開発された知育菓子に位置づけられています。
この菓子は、粉と水を入れて混ぜると色が変わり、さらに混ぜることで膨らむという二段階の変化を楽しめることが特徴です。
魔法のように変化する様子と、自分で作り上げる工程が人気を集め、長年にわたり子どもたちの創造性や好奇心を刺激する商品として親しまれています。
飲料版では、開栓すると最初は水色でソーダ味の液体が入っています。これに付属のパウダーを入れると、液体が徐々に膨らみ、紫色に変化してぶどう風味に変わるという仕組みで、菓子の特徴的な変化を再現しました。
この商品は、2025年7月末にファミリーマート限定で発売されました。
実際の売れ行き
2024年
ねるねるねるねゼリードリンクは、発売直後から大きな反響がありました。
なんと2024年夏に20万個限定で一度発売。コンビニエンスストアの飲料としては高めの298円という価格設定でしたが、発売から1カ月経たずに完売しました。これはSNSなどでは再販を求める声が多く寄せられましたことも要因として挙げられます。
2025年
この反響を受けて、2025年の再発売では2倍の40万個が用意されました。しかし、発売前日の時点で全国の店舗から約32万個の注文が入り、発売後は品薄状態になったと熊谷社長は説明しています。発売時期が夏休み期間と重なったことも、販売につながったと考えられます。
商品開発における技術的な工夫と連携
この商品の開発は、クラシエが譲れないとした「色の変化」と「膨張」という二つの変化を飲料で実現するために、トーヨービバレッジの技術力が求められました。
トーヨービバレッジは、約40の試作品を作成し、原料の組み合わせやカップの構造を変えながら検証を重ねました。最終的には、2種類の粉を封入するという技術的な工夫によって、菓子の特徴を飲料で再現することに成功しました。
開発を監修したクラシエの担当者によると、品質について細かい注文を出したにもかかわらず、トーヨービバレッジは素早く対応したということです。
トーヨービバレッジ独自の「まるごと輪仕立て製法」技術
トーヨービバレッジは、ユニークな商品開発を支える独自の製造技術も持っています。
同社が持つ技術の一つが「まるごと輪仕立て製法」です。
これは、輪切りにしたレモンをそのまま飲料の容器に入れる製法のことで、2012年にローソンから輪切りレモン入りのレモネード飲料を初めて発売する際に開発されました。
それまで同社は、乾燥レモンや蜜付けレモン、レモンの串切りなど、様々な形態のレモン入り飲料を試しており、この製法を継続的に改良してきました。
コメダ珈琲「クラフトレモネード」開発事例
2022年にコメダ珈琲からレモネードのカップ飲料の相談があった際、熊谷社長は輪切りレモンを入れることを提案しました。
こうして生まれたのが「クラフトレモネード」で、「輪切りレモンがまるごと入っている」という点を訴求する商品となりました。
アサヒビールが2024年に輪切りレモン入りのサワーを発売する2年前に、トーヨービバレッジは同様の特徴を持つ商品を市場に出していました。
大手が真似をしない理由
輪切りレモンを使った飲料の製造には、技術的な課題があります。
一つ一つ形が異なる輪切りレモンをカップに入れる作業は、自動化が難しいという点です。
しかし、熊谷社長によれば、トーヨービバレッジは手作業で対応できる体制を整えています。
この手作業による対応力は、大量生産を前提とする大手飲料メーカーとの違いを示しています。
トーヨービバレッジと大手メーカーの違い
生産規模
大手の飲料メーカーが年間1000万本以上を販売するペットボトル飲料を主力とするのに対し、トーヨービバレッジが扱うチルドカップ飲料は、月産1万個から10万個という規模の商品が中心です。
この規模感であるため、複雑な商品でも手作業で対応するという方針が実現できています。
開発体制
トーヨービバレッジでは、商品開発の依頼があると、営業部門だけでなく、マーケティング部や商品開発部がほぼ同時に動き出します。
部署の役割にとらわれずに会社全体で試作と改善を繰り返すため、通常の飲料メーカーが新商品開発に半年ほどかかるところを、同社では4週間から5週間で完成させることが可能です。最短では3週間で完成させた実績もあります。
開発の現場である東京都渋谷区の研究開発室は広さ40平方メートルほどと小さな空間ですが、この小さな開発室から多くの商品が生まれています。
トーヨービバレッジの過去の危機
トーヨービバレッジが現在の事業方針を確立する背景には、約10年前に直面した経営上の危機と、そこから学んだ教訓があります。
過去の危機
約10年前に、トーヨービバレッジは経営の危機に直面しました。
当時、大口の注文をしていた大手流通との取引が、担当者の変更という理由で急に打ち切りになったのです。
この取引停止により、会社は廃業の危機にまで追い込まれることになりました。
学んだ教訓
この危機的な経験から、会社は特定の取引先に過度に依存することの危険性を学びました。
そこで、特定の取引先に頼るのではなく、どんな商品の開発もこなす実績を積み重ねていくことの重要性を認識しました。
実績を重ねることで取引先を広げ、経営基盤を安定させるという教訓を事業方針として取り入れています。
トーヨービバレッジの開発商品の評価基準
トーヨービバレッジは、開発商品の評価基準を一般的な売上や味の成功のみに置いていません。
例えば2024年に発売した「旨辛ソース焼そば」や「台湾まぜそば」といった商品のように売上が伸びなかった事例もありますが、一方でローソンから発売された「飲むマヨ」のように味の評価は賛否両論でもSNSなどで大きな話題となり、結果としてローソンの経営陣から評価される事例もあります。
このように、同社は売上や味の成功だけでなく、話題性や挑戦そのものが評価される独自の基準を持っており、その挑戦によって大手メーカーでは得られない独自の知見を蓄えているという考え方を持っています。
トーヨービバレッジの経営状況
トーヨービバレッジは斬新な商品開発と得意とするコーヒー飲料の定番商品を両立させることで、事業全体として成長を続けています。
この成長の結果、2025年5月期には初めて売上高が150億円を超え、約4億円の最終黒字を達成しました。
このように受託開発を事業の中心としつつ、経営基盤の安定化を図っている状況です。
トーヨービバレッジの今後の事業展望
トーヨービバレッジは、事業の成長に合わせて今後の増産体制を整えるための具体的な投資を進めています。
その一つが、2025年8月に愛知県で開設した新工場であり、これにより年間1000万個の生産能力を持つことになりました。
チルド飲料の市場規模が横ばいという環境のなか、同社はこれまで通り大手メーカーにはない柔軟性を持ち、独自性の高いプライベートブランド商品の開発を引き続き担いつつ、今後は自社ブランド商品のラインナップも増やしていく方針です。