昭和40年代は、日本が高度経済成長を遂げ、国民の生活水準が向上した時期です。この経済的な豊かさは、食文化にも影響を及ぼし、菓子業界では新しい製品や技術が次々と登場しました。消費者のニーズも多様化し、見た目の美しさや贈答品としての価値が重視され、菓子は単なる嗜好品から生活の中で楽しむ文化的な要素としての位置づけが強まりました。
[前期]昭和40年代の日本の菓子業界
デコレーション技術の進化
昭和40年代前期には、デコレーションケーキが注目を集めました。特にマジパン細工を取り入れたケーキは、その美しさが話題となり、特別な日の主役としての地位を確立しました。装飾技術の進歩は、菓子の見た目を大きく向上させ、視覚的な楽しさを提供すると同時に、洋菓子店では高度な装飾技術が競われました。
名店街の充実とバウムクーヘンの人気
百貨店の名店街が次々と拡充され、日持ちが良く配送にも適したバウムクーヘンが贈答品として人気を集めました。その高級感と日持ちの良さは、遠方への配送にも適しており、贈り物の定番として広く親しまれるようになったのが要因です。
ブライダル市場の拡大
経済成長に伴い、結婚式が盛大に行われるようになりました。これを受けて、共に需要が変化したのは菓子業界です。披露宴の引き出物や引き菓子の需要が増加して、ブライダル産業の一環として、菓子業界も大きなマーケットを形成していきました。
流行した洋菓子
オムレツケーキやレモンケーキといった商品が街の洋菓子店で人気を博しました。特にレモンケーキは、レモンの形を模したデザインが特徴で、その視覚的な楽しさが今でも特徴的です。また、チーズケーキも徐々に注目を集め、後の大ヒットの布石となりました。
夏の贈答品
夏季の贈答用として缶詰の水羊羹やゼリーが大ヒット。これらの商品は冷やして食べることで涼を感じられるため、夏の贈り物として重宝されました。
地域特産品
北海道土産としてホワイトチョコレートが注目を集め、地域限定菓子の人気が高まりました。
[中期]昭和40年代の日本の菓子業界
フランスパンの大ヒット
昭和40年代中期(1970年~1972年)には、フランスパンが爆発的な人気を博しました。パリの地図が印刷された細長い紙袋を持ち歩くことがファッションとなり、洋風の食文化が一般家庭にも浸透しました。
贈答用菓子
贈答用の洋菓子として、缶詰のプリンやフランス式の巻きせんべい(シガレット)が人気を集めました。これらの商品は、見た目の美しさと高級感が重視され、贈り物としての価値を高めました。
生菓子とフランス菓子の進化
チーズケーキやチョコレートケーキが生菓子の人気商品となり、さらに本格的なフランス菓子が注目を浴びました。この頃、多くの若手菓子職人がヨーロッパで技術を学び、帰国後にフランス菓子店を開業しました。パティシエたちが技術を競い合う時代となりました。その結果、日本の菓子業界は新たな技術やデザインを取り入れ、大きく進化しました。
技術革新とあめ細工の導入
本格的なフランス菓子への関心が高まり、パティシエたちが技術を競い合う時代。さらに海外で習得された一粒チョコレートの製造技術やあめ細工の技術が日本に持ち込まれ、洋菓子の技術水準が飛躍的に向上しました。
[後期]昭和40年代の日本の菓子業界
アメリカンスタイルの台頭
昭和40年代後期、日本の菓子業界では、小型で洗練されたフランス菓子と、アメリカンスタイルの大型カットケーキが同時に流行しました。フランス菓子はエクレアやタルト、マカロンなど高級感と美しさを兼ね備えた小さなスイーツが人気を集め、一方で、分厚いスポンジケーキにたっぷりのクリームやカラフルなデコレーションが施されたアメリカンケーキは、家庭用オーブンの普及やスーパーマーケットでの販売拡大によって日常的な菓子として受け入れられました。
プッチンプリンの登場
昭和40年代後期に登場した「プッチンプリン」は、革新的な流通菓子として日本の消費者に大きなインパクトを与えました。独自の「プッチン」とひっくり返す仕掛けが注目され、特許も取得されたこの商品は、手軽さ、なめらかな食感、遊び心のある楽しみ方を兼ね備え、多くの家庭で親しまれました。
デニッシュペストリー
フランスパンブームの後継として昭和40年代後期に流行したデニッシュペストリーは、バターをたっぷり使用した層状のパンで、多様なトッピングや香り高い風味が特徴でした。デンマーク発祥のこのパンは、喫茶店やパン屋で提供されることで高級感や特別感が演出され、朝食やおやつとして幅広く浸透しました。
[まとめ]昭和40年代の日本の菓子業界
昭和40年代は、日本の菓子業界が進化を遂げた重要な時代でした。経済成長に伴う生活の変化が、菓子の価値観や消費傾向にも大きな影響を与えました。見た目の美しさを重視したデコレーションケーキや贈答用の高級菓子、さらにはフランス菓子やアメリカンスタイルの大型ケーキの流行など、多彩な商品が次々と登場しました。