ヴィクトリアケーキとは何か
この記事では、ヴィクトリアケーキがどのようなお菓子なのか、その歴史や特徴について、一つずつ説明していきます。
ヴィクトリアケーキの発祥起源
ここでは、ヴィクトリアケーキが生まれた時代の背景と、その由来について解説します。
ベーキングパウダーの発明
ヴィクトリアケーキの誕生には、19世紀のイギリスで起こった技術革新が関係しています。
1841年にベーキングパウダーが発明されたことで、それまで重くて固かったケーキが、ふっくらとした軽やかなスポンジケーキに変わりました。
この発明以前は、ケーキといえば重くて固いものが一般的でしたが、ベーキングパウダーの登場により、空気を含んだ軽やかなスポンジケーキという新しいジャンルのお菓子が生まれました。
ヴィクトリア女王と家族の暮らし
この技術革新と時を同じくして、イギリスにはヴィクトリア女王が君臨していました。
1837年にわずか18歳で即位したヴィクトリア女王は、家庭的な幸せを重視しました。
女王は1840年にアルバート公と結婚し、9人の子どもに恵まれ、家族愛を前面に出した生活を確立しました。
ロンドンでの公務から離れて家族と過ごすために、ワイト島にオズボーンハウスという別邸を設けました。
女王の名前がついた理由
オズボーンハウスでの生活を理解することで、このお菓子の誕生背景が見えてきます。
当時の子どもの健康に対する考え方から、子ども用には非常にシンプルなお菓子が作られていました。
それは、スポンジケーキにジャムを挟むだけという、装飾も複雑な材料もない素朴なケーキでした。
この子ども用のお菓子が、やがて甘いものを好んだヴィクトリア女王のお気に入りとなったことから、「ヴィクトリア・サンドイッチ」や「ヴィクトリア・スポンジ」と呼ばれるようになったのです。
1897年に書かれた女王の私生活に関する記録によると、王室の厨房では一年中忙しく様々なお菓子が作られており、チョコレートスポンジ、ウエハース、ビスケット、プティフールなど大量のお菓子が週に4回も宮廷に送られていました。
このような背景があったからこそ、シンプルなケーキが女王の名前を冠するまでに愛されるようになったのです。
ヴィクトリアケーキの特徴
ここでは、ヴィクトリアケーキがどのようなお菓子なのか、その構造と材料について説明します。
ヴィクトリアケーキは、驚くほどシンプルな構造をしています。
バター、砂糖、卵、小麦粉を同量ずつ使って2枚のスポンジケーキを焼き、その間にジャムを挟みます。
最後に、上から粉砂糖を軽く振って仕上げます。
伝統的にはラズベリージャムが使われていましたが、現在では様々な種類のジャムが使われています。
ヴィクトリアケーキと日本のスポンジケーキの違い
ここでは、ヴィクトリアケーキが日本のスポンジケーキとどう違うのかを説明します。
食感の違い
日本でスポンジケーキといえば、ふわふわとした軽い食感を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし、ヴィクトリアケーキは全く異なる特徴を持っています。
しっかりとした密度があり、バターの風味が強く感じられる、どちらかといえば重めの食感なのです。
製法の違い
この食感の違いは、使用される小麦粉の性質と作り方の両方にあります。
イギリスの小麦粉は日本のものと比べてタンパク質の含有量が多く、そのためグルテンが形成されやすくなっています。
また、作り方も日本の一般的なスポンジケーキとは大きく異なります。
日本では卵を泡立てて空気をたっぷり含ませることでふわふわな食感を作り出しますが、ヴィクトリアケーキはパウンドケーキに近い製法で作られます。
つまり、バターと砂糖をクリーム状になるまで混ぜ、そこに卵と粉を交互に加えて木べらでざっくりと混ぜるという方法です。
このような作り方により、ヴィクトリアケーキは日本のスポンジケーキよりもバターの風味が前面に出て、食べ応えのあるしっかりとした食感になります。
「ヴィクトリア・サンドイッチ」とも呼ばれる理由
現在、「サンドイッチ」と聞くとパンに具材を挟んだ食べ物を思い浮かべますが、この言葉は「何かで何かを挟んだ食べ物」という広い意味を持っています。
つまり、パンに限らず、スポンジケーキでジャムを挟んだこのお菓子も、サンドイッチと呼ばれるのです。
このため、ヴィクトリアケーキはヴィクトリア・サンドイッチとも呼ばれています。
イギリスでのヴィクトリアケーキの存在
ここでは、ヴィクトリアケーキが現代のイギリスでどのように親しまれているのかを説明します。
現在でも、ヴィクトリアケーキはイギリスのティータイムには欠かせない存在です。
イギリスのティールームを訪れると、必ずといっていいほどヴィクトリア・サンドイッチがメニューに載っています。
また、家庭でも手作りされることが多く、村の品評会ではヴィクトリア・サンドイッチの部門が設けられることもあります。
イギリスでは、このケーキを切り分けてから皿に置き、フォークを使わずに手で食べることも珍しくありません。
これは、その素朴さと親しみやすさの表れといえるでしょう。
日本でのヴィクトリアケーキ
ここでは、日本におけるヴィクトリアケーキの広まりについて説明します。
近年、日本でもヴィクトリアケーキを扱うベーカリーやティールームが増えています。
各店舗では伝統的なレシピに加えて、日本人の味覚に合わせたアレンジや、季節の食材を使った独自のバリエーションを提供しています。
例えば、いちご、ルバーブ、カシスなど様々な種類のジャムを使用したり、キューブ型やマフィン型で一口サイズに仕上げたりといった工夫が見られます。
ヴィクトリアケーキの作り方
ここでは、ヴィクトリアケーキの基本的な家庭での作り方を説明します。
基本の材料と分量
18センチの丸型一台分を作る場合、薄力粉200グラム、無塩バター150グラム、砂糖150グラム、卵3個、ジャム150グラム、ベーキングパウダー小さじ1、塩ひとつまみ、粉砂糖適量という基本的な材料があれば十分です。
比較的シンプルな手順
手順も比較的シンプルで、特別な技術や道具が必要ないことが分かります。
まず、バターをクリーム状になるまで混ぜ、砂糖と塩を加えてふんわりするまで混ぜます。
次に、溶き卵と粉類を交互に少しずつ加えて混ぜ合わせます。
生地を型に入れて170度のオーブンで50分から60分焼き、冷めてから横半分に切ってジャムを挟み、最後に粉砂糖を振りかけて完成です。
これこそが、ヴィクトリアケーキが長い間愛され続けてきた理由の一つです。
ヴィクトリアケーキの魅力
ここでは、ヴィクトリアケーキが持つ魅力について説明します。
ヴィクトリアケーキの魅力は、その素朴さにあります。
現代の華やかなケーキとは対照的に、装飾も複雑な技術も必要としないシンプルさが、かえって印象に残ります。
そのシンプルさゆえに、素材一つ一つの味がはっきりと感じられます。
特に、バターの豊かな風味とジャムの甘酸っぱさが絶妙に調和し、満足感の高いお菓子に仕上がります。
紅茶文化の国イギリスにおいて、このケーキが紅茶と相性が良いのも、この重めの食感と濃厚な味わいがあるからです。
まとめ
19世紀に生まれ、技術革新とともに発展し、女王の名前を冠して現在まで愛され続けるヴィクトリアケーキは、単なるお菓子を超えて、イギリスの食文化と歴史を物語る貴重な存在といえます。
その素朴で親しみやすい味わいは、時代を超えて多くの人々に愛され、今後も受け継がれていくことでしょう。