ポルボロンとは|スペイン南部の伝統的な焼き菓子

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目次

ポルボロンとは何か

ポルボロンは、スペイン南部アンダルシア地方発祥の伝統的な焼き菓子です。

ポルボロンの外見

ポルボロンの見た目は直径約3センチメートル、厚さ1センチメートル程度の小さな円形や楕円形をしています。

表面には白い粉砂糖がまぶされており、一見すると普通のクッキーのように見えます。

しかし、実際に口に入れてみると、通常のクッキーとは全く異なる独特の食感が待っています。

ポルボロンの原料

このお菓子に使用される主な材料は、薄力粉、砂糖、アーモンドプードル(アーモンドを粉末状にしたもの)、そして油脂分です。

本場スペインではポークラード(豚脂)を使用しますが、日本ではバターが使われることが一般的です。

一般的なクッキーには欠かせない卵が一切使われていないことが、ポルボロンの製法における一つの特徴です。

ポルボロンの食感

この食感を言葉で表現するのは困難ですが、まるで粉雪が口の中で溶けていくような感覚に近いといえるでしょう。

日本の和菓子に例えるなら、落雁(らくがん)や沖縄のちんすこうのような口溶けに近いものですが、それらよりもさらに繊細で、より早く溶けていく特徴があります。

最も特徴的なのはその製法で、薄力粉を事前に焼いてグルテンの働きを抑えるため、焼き上がりは通常のクッキーのようなサクサク感ではなく、口に入れた瞬間にほろほろと崩れる独特の繊細な食感を持ちます。

この食感から、スペイン語で「ほろほろ崩れる」という意味を持つ「ポルボ」が名前の由来となっており、クリスマスや特別な日に食べられる「幸せを呼ぶお菓子」として知られています。

ポルボロンの独特な食感の秘密

ポルボロンの独特な食感の秘密は、その製法にあります。

通常のお菓子作りでは、薄力粉をそのまま他の材料と混ぜ合わせますが、ポルボロンの場合は異なります。まず薄力粉だけをオーブンやフライパンで焼いてから使用するのです。

小麦粉にはグルテンというタンパク質が含まれており、これが水分と結合して加熱されると、粘りや弾力を生み出します。パンのもちもちした食感や、うどんのコシはこのグルテンの働きによるものです。

しかし、薄力粉を事前に焼くことで、このグルテンの結合を意図的に妨げることができます。グルテンが十分に働かないということは、生地に粘りや弾力が生まれにくくなることを意味します。

その結果、焼き上がったポルボロンは、従来のクッキーのような固さや噛み応えではなく、口に入れた瞬間にほろほろと崩れていく独特の食感を持つようになるのです。

ポルボロンの名前の由来

ポルボロンという名前自体も、この特徴的な食感から生まれています。

スペイン語の「polvo(ポルボ)」という言葉が語源で、これは「塵」や「ほこり」を意味しますが、同時に「パウダー」や「ほろほろと崩れる」という意味も含んでいます。

なお、スペイン語では1個の場合は「ポルボロン」、複数の場合は「ポルボローネ」と呼び分けられます。

ポルボロンの歴史

ポルボロンの起源|紀元800年頃の中東

ポルボロンの起源は800年頃まで遡ることができ、もともとは中東で作られていたお菓子でした。

マグレブやイベリア半島などに暮らしていたムーア人(イスラム教徒)によって作られており、それがスペインのアンダルシア地方に伝わったのが始まりとされています。

当初のレシピ

当初のレシピでは、ポークラード(豚脂)ではなく牛乳や植物性の油が使用されていました。

これは、イスラム教の戒律によって豚肉や豚脂の使用が禁止されていたためです。

宗教政策によるポルボロンのレシピ変更

しかし、15世紀以降スペインで起こった宗教的な変化が、ポルボロンのレシピを大きく変えることになります。

この時期、スペインではイスラム教を排除する政策が強化されました。

この政策の下で、ポルボロンにあえてポークラードを使用するよう布告されました。

イスラム教では豚は不浄の動物とされ食用が禁止されているため、ポークラードを使ったポルボロンを食べられない者はイスラム教徒であると判別できたのです。

これは、日本の江戸時代に隠れキリシタンを発見するために踏み絵が用いられたのと同様の仕組みでした。

ポルボロンは世界へ伝播した

15世紀以降の大航海時代になると、スペイン人の海外移住とともにポルボロンも世界各地に伝播しました。

各国でそれぞれの風土や好みに合わせてレシピが改良され、現在私たちが知る様々なバリエーションが生まれました。

フランスではブール・ド・ネージュアメリカではスノーボールと呼ばれるようになりました。

国が変わるにつれて、製法や使用される材料も微妙に変化していったのです。

ポルボロンはお祝いの日のお菓子

現在のスペインでは、ポルボロンは季節や特別な日を彩るお菓子として定着しています。

現在のスペインでは、ポルボロンはクリスマスや記念日などのお祝いの日に食べられるお菓子として定着しています。

古くは修道院で作られていましたが、現在では一般的なスーパーマーケットでも購入できます。

ポルボロンの個包装デザイン

本場スペインでの販売方法には特徴があります。

お菓子の崩れやすさを考慮して、1個ずつキャンディーのような可愛らしい包装紙で個包装されています。

この包装は実用性だけでなく、レトロで愛らしいデザインが施されており、贈り物としても利用されています。

ポルボロンにまつわる言い伝え

ポルボロンには、その食感を利用した楽しい言い伝えがあります。

口の中でお菓子が崩れてしまう前に「ポルボロン、ポルボロン、ポルボロン」と3回唱えることができれば、願いが叶い幸せになれるというものです。

しかし、実際にこの挑戦をしてみると、その難しさに気づくでしょう。

ポルボロンは口に入れた瞬間から溶け始めるため、3回の言葉を発する前に消えてしまうことがほとんどです。

この難しさゆえに、ポルボロンは「幸せを呼ぶお菓子」とも呼ばれています。

現代のポルボロンのフレーバー

現代では、基本のプレーン味以外にも多様なフレーバーが開発されています。

コーヒー、アールグレイ、チョコレート、マロン、ヘーゼルナッツなど、様々な味を楽しむことができるようになりました。

また、日本独自のアレンジとして、和三盆を使用したものや抹茶なども登場しています。

ポルボロンの入手方法

店舗での一般的な購入方法を解説

ポルボロンは、洋菓子店や輸入食品店で購入できます。特に、スペインやヨーロッパの食品を専門的に扱う店舗では、定番商品として通年で取り扱われていることが多いです。

また、成城石井無印良品といった身近な店舗でも、期間限定品や輸入菓子として取り扱いがある場合があります。これらの店舗で購入する際は、季節や在庫状況を事前に確認することが推奨されます。

専門店の通販購入方法を解説

より本格的なポルボロンや多様なフレーバーを求める場合は、専門店からのインターネット通販の利用が有効です。通販を利用すれば、全国どこからでも専門店のポルボロンを取り寄せることができます。

有名な提供店としては、東京の二子玉川にあるスペイン王室御用達グルメストア「マヨルカ」、大阪の「ヒビカ」、茨城の「ドゥルセ・ミーナ」などがあります。これらの店舗は、スペインの伝統的な製法に基づいたポルボロンを提供しています。

通販を利用する際は、商品の配送可能エリア送料、そして賞味期限を確認しておくことが推奨されます。特に贈答品として利用する場合は、個包装のデザインなども選ぶことができます。

ポルボロンを家庭で作る方法

ポルボロンは、家庭でも比較的簡単に作ることが可能です。ここでは、家庭で作る場合の基本的な材料と、その製法における重要なポイントを解説します。

家庭で作る場合の基本的な材料

家庭でポルボロンを作る場合の基本的な材料は、薄力粉、無バター、アーモンドパウダー、グラニュー糖、、そして仕上げ用の砂糖です。これらの材料は、一般的なスーパーマーケットや製菓材料店で入手可能です。

本場スペインではポークラード(豚脂)が使われますが、家庭で作りやすく、風味の面からもバターを使用することが一般的です。

必要な道具と準備

生地を成形するために型抜きが必要になりますが、直径3センチ程度の丸型や楕円形の抜き型があれば十分です。また、薄力粉を焼くためのオーブンまたはフライパン、生地を冷やし固めるための冷蔵庫も必要です。

ポルボロン作りの手順

薄力粉の加熱処理

作り方の核心となるのは、ポルボロンの独特な食感を生み出す薄力粉の事前加熱工程です。薄力粉に含まれるグルテンの働きを抑えるためにこの工程を行います。

薄力粉を天板に広げ、200度に予熱したオーブンで15分程度、薄いきつね色になるまで焼きます。この際、焦げ付かないよう途中で何度か混ぜることが、均一に加熱するための重要なポイントです。

生地作り、冷却、成形

加熱処理を終えた薄力粉と他の材料を混ぜ合わせて生地を作ったら、これを冷蔵庫で十分に冷やし固めます。生地を冷やし固める工程は、油分を固めて成形時に形が崩れないようにするために重要です。

生地が固まったら、麺棒で均一な厚さに伸ばし、型抜きで成形します。成形後は、低温のオーブンでじっくりと焼き上げます

最後の仕上げと取り扱いの注意点

焼き上がったポルボロンは、非常に崩れやすい性質を持っています。そのため、オーブンから取り出した後、天板の上で完全に冷ましてから取り扱うことが大切です。

冷ました後、仕上げとして表面に粉砂糖をふりかけて完成です。この粉砂糖が、お菓子の見た目を特徴づける「雪化粧」となります。

ポルボロンと似たお菓子との違い

フランスのブール・ド・ネージュとの違い

フランスブール・ド・ネージュは、ポルボロンがフランスに伝わって生まれたお菓子ですが、製法に違いがあります。

ブール・ド・ネージュでは薄力粉を事前に焼かずそのまま使用するため、ポルボロンのようなほろほろした食感ではなく、サクサクとした食感になります。

また、本場のポルボロンがポークラードを使用するのに対し、ブール・ド・ネージュではバターを使用するという違いもあります。

アメリカのスノーボールとの違い

アメリカスノーボールは、実はブール・ド・ネージュと同じお菓子を指します。

発祥国による呼び名の違いだけで、どちらも雪の玉という意味を持つ名前が付けられています。

このように、同じ系譜のお菓子でも、伝わった国や地域によって名前や製法が微妙に変化していることがわかります。

まとめ

このように、ポルボロンは単なるお菓子を超えて、歴史、文化、製法技術、そして人々の楽しみが込められた食べ物といえます。

その素朴な味わいと独特な食感を楽しむだけでなく、背景にある豊かな物語を知ることで、一口一口をより深く味わうことができるでしょう。

アーモンドの風味がふわりと鼻に抜け、口の中でほろほろと溶けていく瞬間は、スペインの伝統が生み出した特別な体験です。

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