お菓子市場における「消費の2極化」とは?【令和の食品業界】
お菓子市場における「消費の2極化」とは
私たちが日頃買っているお菓子の売れ方に、ここ数年で大きな変化が起きています。それが「消費の2極化」と呼ばれる現象です。
お菓子の世界では、安くてお得な商品と、高くて贅沢な商品の両方がよく売れるようになり、その中間の普通の値段の商品があまり売れなくなってきたのです。
例えば、100円のお菓子と500円の高級なお菓子はよく売れるのに、200円から300円くらいの中間の価格帯のお菓子は以前ほど売れなくなっているというような状況です。
消費の2極化が起きた背景
日本国内では、2025年に入っても物価の高騰が続いています。
特に食料品の値上げは、家計に大きな負担をかけ、私たちの買い物の仕方を大きく変えました。
この変化こそが、「消費の二極化」の背景にある、最も大きな理由です。
半年ぶりに訪れた値上げラッシュ)
2025年の食品の値上げは、10月に「半年ぶり」となる大きな波が訪れました。
この月の値上げ品目数は3,000品目を超え、値上げ率の平均は17%にも達しています。
この動きは、2022年から続く値上げの連鎖が、2025年になっても止まっていないことを示しています。
値上げが広がる分野
これまでお菓子や加工食品が中心でしたが、最近ではさらに広い分野に値上げが拡大しています。
- 酒類・飲料:焼酎や日本酒などのアルコール飲料や、清涼飲料水などが対象となり、最も多く値上げされています。
- 加工食品:パックご飯や餅製品、冷凍食品などの値上げが続いています。
- 調味料:焼肉のたれやみそ製品などの値上げも確認されています。
値上げが続く主な原因
値上げが続く理由は、主に三つの大きな原因が重なり合っているからです。
一つ目は原材料の価格高騰です。
チョコレートの原料であるカカオ豆や、パックご飯に使うコメなどの価格が高くなっています。
二つ目は円安の影響です。
「円安(えんやす)」とは、外国のお金と比べて日本のお金の価値が下がることです。
海外から原材料を輸入する(買う)時に、より多くのお金を払わなければならなくなるため、値上げの原因となります。
三つ目は人件費と物流費の上昇です。
人手不足などにより、働く人に支払う人件費や、商品を運ぶための費用(物流費)が高くなっていることも、商品の値段に影響しています。
現代の消費者を動かす「二極化」の価値観
物価が上がり続ける中で、消費者は「家計を守ろう」という意識をさらに強めています。
これが、今の時代に合った新しい消費のスタイル、「メリハリ消費」や「こだわり消費」となって現れています。
「安くて良いもの」を選ぶ賢い消費
消費者は、日々の暮らしに必要なものに対しては、できる限り支出を抑えようとしています。
「なんとなく買う」のではなく、事前に情報を調べて計画的に購入する人が増えている傾向です。
この結果、「安くて良いもの」の代表であるプライベートブランド(PB)商品の存在感が非常に大きくなっています。
メリハリをつけた「こだわり」への投資
一方で、全ての支出を抑えるわけではありません。
多くの消費者は、日常的な節約をする代わりに、自分にとって価値があると感じるものには、積極的にお金を使うという「メリハリ消費」を実践しています。
たとえば、「推し活(おし-かつ)」という、自分が熱中しているアイドルやキャラクターなどにお金を使う活動や、趣味に関するもの、旅行などの「体験」には、お金を惜しまない傾向があります。
このように、「節約」と「贅沢」をはっきり分ける消費行動が広がった結果、市場では「低価格で済ませたい商品」と「価値があれば高くても買う商品」の二つのグループに人気が分かれる、「消費の二極化」がより明確になっているのです。
低価格帯商品への支持拡大
プライベートブランド商品の台頭
PB商品とナショナルブランド商品の違い
では、具体的にどのような買い物の仕方に変わったのでしょうか。
まず、安い側の商品について詳しく見てみましょう。ここで活躍しているのが、PB商品と呼ばれるものです。
PBとは「プライベートブランド」の略で、小売店や卸売業者が企画し、独自のブランドで販売する商品のことです。
これに対して、カルビーやグリコ、明治といった全国で知られているメーカーが自社の名前で売っている商品を、NB商品、つまり「ナショナルブランド」商品と呼びます。
私たちが普段よく目にする有名なお菓子の多くは、このNB商品に該当します。
PB商品が安い理由と流通の仕組み
PB商品がなぜ安いのか、その仕組みを理解することが大切です。
普通、お菓子を作っているメーカーは、商品を開発して製造し、問屋を通してお店に届けます。
その過程で、テレビCMなどの広告費がかかり、商品が売れ残った場合はメーカーに返品されることもあります。
これらのコストがすべて商品の値段に含まれているのです。
一方、PB商品はお店が直接企画し、メーカーに製造だけを依頼します。
お店で販売する分だけを作るので、売れ残っても返品されることはなく、すべてお店が引き取ります。
また、お店のブランドなので、全国でテレビCMを流す必要もありません。
問屋などの中間業者も通さないため、その分のコストも削減できます。
こうして浮いたお金の分だけ、商品を安く売ることができるのです。
消費者がPB商品を選ぶ理由
実際に、PB商品を選ぶ理由として、「価格が安いから」と答えた人が7割以上いるという調査結果があります。
物価高騰が長引く中、家計への経済的負担が増しているため、良い品質を安く買いたいと考える消費者が増えているのです。
大袋商品の人気
ファミリーパックのコストメリット
安い商品のもう一つの傾向として、大袋商品があります。
これは普通サイズよりも大きな袋に入ったお菓子のことで、「ファミリーパック」とも呼ばれています。
例えば、100円のお菓子を3袋買うよりも、250円で大袋を1つ買った方が、たくさん入っていてお得になります。
家族で分けて食べたり、長持ちさせたりできるので、コストパフォーマンスが良いのです。
大袋商品が支持される背景
カントリーマアムやアルフォート、ホームパイなどの商品は、通常サイズだけでなく大袋のファミリーパックでも販売されており、こうした商品を選ぶ人が増えています。
値上げによって少しでも節約したいという意識が働く中で、単価を下げられる大袋商品は、特に家族世帯から支持を集めています。
また、一人暮らしの人でも、保存しながら少しずつ食べることで、結果的に節約につながると考える人が増えているのです。
高付加価値商品の需要拡大
自分へのご褒美消費の広がり
ご褒美消費が生まれた心理的背景
次に、もう一方の極である高価格帯の商品について見ていきましょう。
値上げが続いて節約している人が多い中で、なぜ高いお菓子が売れるのでしょうか。
それは「自分へのご褒美」という考え方が広まっているからです。
毎日は節約しているけれど、頑張った日や特別な日には、少し贅沢なものを買って自分を褒めたいという気持ちです。
節約ばかりではストレスが溜まってしまいます。
そのため、たまには自分を労ったり、気分転換をしたりする目的で、普段は買わないような高級なお菓子を購入する人が増えています。
贅沢感を演出する商品展開
カルビーの「ポテトチップス 贅沢ショコラ」は、この傾向を表す商品の一つです。
厚切りカットのポテトチップスにチョコレートをトッピングした秋冬限定商品で、2011年から毎年期間限定で発売されています。
チョコレート好きの30代から40代女性を中心に支持され、家事やお仕事に忙しく過ごす方に、ご自身へのプチご褒美として提供されています。
パッケージは贅沢感が伝わるよう、赤と金色の華やかなカラーリングで、普通のポテトチップスよりも値段が高く設定されています。
プレミアム商品の多様化
百貨店から生まれた高級ブランド
カルビーは他にも、阪急うめだ本店とコラボレーションした「グランカルビー」という高級ポテトチップスのブランドを展開しています。
2014年に百貨店の高級ポテトチップスギフトとして誕生し、2020年には「もっと気軽に贈りたい」「自分へのご褒美として買いたい」という要望に応えてカジュアルギフトにリニューアルしました。
北海道産じゃがいもを100パーセント使用し、1ミリ単位で厚さを調整してさくさくの食感を実現しています。
高級食材を使った付加価値商品
他にも、ロイズの「ポテトチップスチョコレート」のように、塩味のポテトチップスにチョコレートをコーティングした商品や、黒トリュフを使った高級ポテトチップスなども販売されています。
これらは普通のポテトチップスの何倍もの値段がしますが、「今日はがんばった自分へのご褒美」として買う人が多いのです。
高級食材を使うことで、普段は手が届かないような贅沢感を、お菓子という身近な商品で手軽に味わえるという点が支持されています。
中価格帯商品の苦戦
両極から挟まれる中間価格帯
節約志向からみた中価格帯の位置づけ
ここで、先ほど説明した2極化の話に戻ります。節約したい人から見れば、200円で普通のお菓子を買うよりも、100円のPB商品を2つ買った方がたくさん食べられてお得に感じます。
価格を重視する消費者にとって、中価格帯の商品は「高すぎる割に特別感がない」という位置づけになってしまうのです。
贅沢志向からみた中価格帯の魅力不足
一方、ご褒美が欲しい人から見れば、200円で中途半端なものを買うより、もう少し足して500円の本当においしいものを買った方が満足できます。
せっかく自分へのご褒美として買うのなら、少しお金を足してでも、より贅沢感のある商品を選びたいと考えるのです。
市場データに表れた2極化
流通菓子市場の成長
この2極化は、統計データにも現れています。
矢野経済研究所の調査によると、2023年度の流通菓子市場は2兆1039億円で前年度比5.6パーセント増となり、2024年度も2兆1689億円で前年度比3.1パーセント増と予測されています。
値上げが続いているにもかかわらず市場が成長しているのは、高付加価値商品への需要があることを示しています。
価格帯別の販売動向
つまり、安い商品と高い商品の両方が売れているため、市場全体としては伸びているのです。
中価格帯の商品は苦戦していますが、低価格帯と高価格帯がそれを補って余りあるほど成長していることが、この市場データから読み取れます。
消費者の購買行動が明確に二つの方向に分かれていることが、数字によって裏付けられているのです。
メーカーが直面する課題
PB商品とNB商品の競合関係
自社製品の競合を作るジレンマ
この状況は、お菓子を作っている会社にとって難しい問題を生んでいます。
例えば、カルビーやグリコのような大手メーカーは、今まで自分たちのブランドでお菓子を売ってきました。
しかし、PB商品の人気が高まる中で、お店から「うちのブランドで商品を作ってください」と依頼されることが増えています。
メーカーがPB商品の製造を受注すれば、売上は確保できます。
しかし同時に、自分たちのブランド商品と競合することになります。
もしPB商品の方が売れてしまえば、自社ブランドの売上が減ってしまう可能性があります。
自分たちで自分たちの商品の競合相手を作ってしまうという矛盾が生じるのです。
製造受託のメリットとリスク
一方で、PB商品の製造を断れば、お店との関係が悪くなるかもしれません。
また、製造設備や人員に余裕がある場合、PB商品を作ることで稼働率を上げて安定的な収益を確保できるというメリットもあります。
特に、需要が季節によって変動する商品を作っているメーカーにとって、PB商品の製造は工場の稼働を安定させる手段としても機能します。
共存と競合のバランス
NB商品の差別化戦略
問題文に書かれている「競合、場合によっては共存、共栄」とは、このような複雑な関係を指しています。
メーカーにとっては、自社ブランドで勝負するのか、PB商品も製造するのか、あるいは両方やるのか、そのバランスを取ることがとても難しくなっているのです。
自社ブランドでは高付加価値商品を展開して差別化を図り、PB商品の製造では安定収益を確保するという戦略を取るメーカーもあります。
今後の対応の難しさ
しかし、PB商品の品質が向上し、消費者の支持が年々拡大している現状では、この戦略も長期的に成功するとは限りません。
メーカーは、ブランド価値を維持しながら、変化する消費者ニーズに対応していく必要があります。
この対応の難しさは、今後さらに増していくと考えられています。
まとめ
この消費の2極化という現象は、お菓子だけでなく、服や外食、家電など様々な分野で起きています。
値上げが続く中で、人々は必要なものは安く済ませ、特別なものには少し高くてもお金を使うという、メリハリのある買い方をするようになりました。
私たちがお店でお菓子を選ぶとき、「今日は節約だからPB商品にしよう」とか「今日は頑張ったから特別なチョコレートを買おう」と考えることがあるかもしれません。
それが、社会全体で起きている変化なのです。そして、その変化は、お菓子を作る会社の戦略にも大きな影響を与えているのです。





