2025年以降の量販店インストアベーカリー市場|パン市場で最も成長率が高い

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調査概要

株式会社富士経済は2025年10月10日、国内のパン・スイーツ市場に関する包括的な調査結果を「パン&スイーツ市場の全貌・課題分析 2025」として発表しました。本記事は、この調査結果の中から量販店インストアベーカリー市場に関する情報を抽出し、分析したものです。この調査では、原料価格の高騰により消費者の価格意識が高まる中で、パン市場がどのように変化しているのかを明らかにすることを目的としています。

量販店インストアベーカリー市場の特徴

インストアベーカリーとは

量販店インストアベーカリーとは、スーパーマーケットなどの量販店の中に設けられたベーカリーコーナーのことです。店内で生地を焼き上げ、焼きたてのパンを販売する仕組みになっています。この市場規模にはパンだけでなく、飲料など一緒に販売される商品の売上も含まれます。

インストアベーカリーの最大の魅力は、日常的な買い物のついでに焼きたてパンを購入できる利便性にあります。わざわざパン屋に足を運ばなくても、野菜や肉を買うのと同じ場所で、焼きたての香ばしいパンが手に入るのです。この利便性と焼きたて感の両立が、インストアベーカリーの独自の価値を生み出しています。

パン市場で最も勢いのある成長率

量販店インストアベーカリー市場は2026年に2,290億円に達し、2024年比で5.0%増と予測されています。この成長率はパン市場全体の成長率を上回っており、インストアベーカリーがパン市場の中で最も勢いのあるチャネルの一つであることを示しています。個人経営のベーカリーが減少傾向にある中で、インストアベーカリーは逆に店舗数を増やし続けており、市場の構造変化を象徴する存在となっているのです。

量販店インストアベーカリー市場の歴史

2010年代後半の停滞期

量販店インストアベーカリー市場の歴史を振り返ると、現在の成長がいかに意味のあるものかが理解できます。2010年代後半は、この市場にとって厳しい時期でした。流通パンとの価格競争に苦しみ、市場は微減が続いたのです。

当時の量販店は、ベーカリーを重要な売り場として認識していませんでした。「あればいい」程度の位置づけで、店舗の隅に追いやられることも少なくありませんでした。売場面積も限られており、テナントとして入っているチェーンベーカリーに任せきりという状態でした。量販店側の主体的な関与は乏しく、十分な投資や販促活動が行われなかったため、市場は停滞を続けていたのです。

2021年以降の転機

2021年以降、状況は大きく変化します。新型コロナウイルス感染症の流行に伴う外出自粛や在宅勤務により、内食需要が高まりました。家で食事をする機会が増えた消費者は、日常的に訪れる量販店で焼きたてのパンを購入するようになったのです。これが市場回復の契機となりました。

その後も成長は続きました。原料高騰に伴う価格改定で単価が上昇したことが市場規模の拡大に寄与しました。また、個人ベーカリーや外食店の価格も上昇する中で、量販店インストアベーカリーの相対的な価格優位性が顕在化しました。コストパフォーマンスを重視する消費者の支持を集めることで、市場は拡大基調に転じたのです。

2024年の市場転換点

2024年は量販店インストアベーカリー市場にとって重要な転換点となりました。この年、市場は単なる回復を超えて、新たな成長段階に入ったと言えます。

惣菜パンの人気向上

低価格な流通パンへのシフトも一部で見られましたが、市場全体としてはコストパフォーマンスの高い惣菜パンを中心に需要が増加しました。惣菜パンは昼食や夕食の代替として機能するため、外食費の節約を考える消費者にとって魅力的な選択肢です。

量販店インストアベーカリーの惣菜パンは、コンビニエンスストアの弁当よりも安く、かつ焼きたての温かさという付加価値があります。この価格と品質のバランスが、消費者に高く評価されました。カレーパンサンドイッチといった定番商品に加えて、地域の食材を使った独自の惣菜パンを開発する店舗も現れ、商品の幅が広がっています。菓子パンも堅調で、食パンは朝食用途として安定した需要を維持しています。

店舗数の増加

量販店の新規出店や改装時にインストアベーカリーを併設する動きが活発化しました。これは量販店側の意識が大きく変化したことを示しています。かつてベーカリーは「あればいい」程度の位置づけでしたが、現在では店舗の魅力を高める重要な要素として認識されています。

ベーカリーから漂う焼きたてパンの香りは、店内の雰囲気を良くし、買い物体験全体の質を向上させます。焼きたてパンの香ばしい匂いは、視覚的な訴求以上に強力な効果があり、来店客の食欲を刺激します。また、焼きたてパンを目当てに来店した顧客が他の商品も購入することで、店舗全体の売上向上にもつながっています。量販店にとって、インストアベーカリーは単なるテナント収入の源ではなく、集客装置としての役割を果たすようになったのです。

2025年以降の見込み

2025年のインストアベーカリー市場では、量的な拡大だけでなく、質的な変化も注目されます。店舗数の増加は続く見込みですが、それ以上に重要なのは運営形態の変化です。

テナントから直営への切り替え

量販店がベーカリーをテナントから直営へ切り替える動きが見られます。この変化は、インストアベーカリーに対する量販店の姿勢が、受動的なものから能動的なものへと転換したことを意味しています。

テナント形式

テナント形式とは、全国展開するチェーンベーカリーが量販店内に出店する形態です。この形式の利点は、運営ノウハウを活用でき、量販店側の投資負担が少ないことにあります。チェーンベーカリーは長年培ってきたパン製造の技術と店舗運営の経験を持っているため、安定した品質の商品を提供できます。量販店は場所を貸すだけで、専門的な運営はプロに任せられるのです。

しかし、テナント形式には限界もあります。どの量販店でも似たような商品ラインアップになりがちで、差別化が困難です。また、売上の一部はテナント料として量販店に入りますが、利益の大部分はテナント企業に帰属するため、量販店側の利益率は低くなります。

直営形式

直営形式では、量販店が自らベーカリーを運営します。これにより、独自の商品戦略を展開できるようになります。もちろん、直営にはパン製造の技術や店舗運営のノウハウが必要で、初期投資の負担も大きくなります。しかし、それを補って余りあるメリットがあるのです。

独自の付加価値をつけやすい

直営化の最大の利点は、エリア独自のメニューや単価の高い付加価値商品の投入が可能になることです。全国チェーンのテナントでは実現しにくい地域性を活かした商品開発が、直営店では柔軟に行えます。

たとえば、地元の食材を使った惣菜パンの開発です。地域で採れた野菜や、その土地で親しまれている味付けを取り入れることで、「この店でしか買えない」という特別感を演出できます。また、その地域でしか買えない限定商品は、消費者にとって来店する理由となり、リピート購入を促します。

単価の高い付加価値商品の投入も重要です。プレミアム素材を使った高級食パンや、手間をかけて作られる特別な菓子パンなど、価格は高くても品質で納得させる商品を展開できます。こうした商品は1店舗あたりの売上を増加させ、市場の続伸につながると期待されています。

袋売りから裸売りへ回帰

販売方法にも変化が見られます。新型コロナウイルス対策として、一時期は衛生面への配慮からパンの袋売りが広がりました。個別に袋に入れて販売することで、直接手に触れることを避けたのです。しかし、現在は裸売りに戻す動きが見られます。

裸売りとは、トングで取って袋に入れる従来の販売方法です。この変更により、オープンフレッシュベーカリーならではの焼きたて感やシズル感を訴求できます。店頭にパンが並んでいる様子を見て、その香りを感じることで、購買意欲が刺激されるのです。視覚的・嗅覚的な訴求は、商品の魅力を伝える上で言葉以上に強力な手段となります。パンを見て、香りを感じることで、「今すぐ食べたい」という欲求が生まれ、購入につながるのです。

まとめ

量販店インストアベーカリー市場は2026年に2,290億円に達し、2024年比で5.0%増と予測されています。この成長率はパン市場全体を上回っており、インストアベーカリーが最も勢いのあるチャネルであることを示しています。

市場の歴史を振り返ると、2010年代後半の停滞期から、2021年以降の転機を経て、2024年の市場転換点に至る道のりが見えてきます。2024年には惣菜パンの人気向上と店舗数の増加により、市場は新たな成長段階に入りました。

2025年以降は、テナントから直営への切り替えという質的な変化が注目されています。直営化により、エリア独自のメニュー開発や付加価値商品の投入が可能になり、全国チェーンとの差別化が進んでいます。また、袋売りから裸売りへの回帰により、焼きたて感やシズル感を訴求する動きも見られます。

量販店インストアベーカリーは、日常的な買い物の場で焼きたてパンを提供するという独自のポジションを確立しています。利便性と品質の両立、そして地域性を活かした商品開発により、市場は今後も成長を続けるでしょう。

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