アコードとは – 香水初心者向け解説

香水における「アコード」とは
香水におけるアコードとは、複数の香りが重なり合って、まるで一つの新しい香りが生まれたように感じられる、香りの組み合わせのことです。
アコードがわかると、香水の奥深い世界がもっと楽しくなります。
「アコード」を理解するためには、まず私たちの鼻がどうやって香りをかぎ分けているのかを知ることが大切です。
鼻の仕組みと香りの関係
私たちの鼻には、香りをかぎ分けるためのセンサーが約400万個もあります。
このセンサーは、バラの香りやレモンの香りのような、一つ一つの香りをキャッチします。
面白いのは、いくつかの香りが同時に鼻に入ってきたとき、その香りがお互いに影響し合って、今まで嗅いだことのないような新しい香りを作り出すことがある点です。
この鼻の不思議な働きが、アコードの基本になっています。
香りの世界と音楽の世界
香水の世界では、「ノート」と「アコード」という言葉をよく使います。
この言葉は、実は音楽の世界から借りてきたものなのです。
音楽では、ドレミファソラシドの一つ一つの音を「ノート」と呼び、いくつかの音が重なってできる「和音」のことを「アコード」と呼びます。
香水もこれと同じです。
バラやジャスミンのような一つ一つの香りを「ノート」と呼び、それらをいくつか組み合わせることで、和音のようにきれいにまとまった香りの組み合わせ、つまり「アコード」を作り出しているのです。
ノートとアコードのちがい
「ノート」は、香水の材料となる一つ一つの香りを指す言葉です。
例えば、バラやジャスミン、レモンといった香りのことです。
ここで大事なのは、ノートと呼ばれる香りのほとんどは、実は一つではなく、いくつかの香りが組み合わさってできている、ということなのです。
シトラスノートを例に見てみよう
例えば、「シトラスノート」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
これは、レモンの香りだけでなく、ベルガモットやグレープフルーツ、オレンジなど、いろいろな柑橘系の香りを混ぜ合わせたもの全体を指しています。
調香師は、これらの柑橘系の香りをどのくらい混ぜるか、少しずつ変えながら、爽やかなシトラスの香りや、少し大人の雰囲気のシトラスの香りなど、さまざまなシトラスノートを作り出しています。
アコードの説明「1+1+1は1である」
アコードとは、2つ以上の香りを混ぜたときに、それらがバラバラに香るのではなく、一つにまとまって全く新しい香りになることをいいます。
このことを、調香師は「1+1+1は1である」という言葉で表現することがあります。
なんだか不思議な感じがしますよね。
3つの香りを混ぜたとき、私たちの鼻は、3つの香りを別々に感じるのではなく、それらが一つになった新しい香りをかぎ取ります。
たとえば、バラとコショウとアンバー(琥珀の香り)を混ぜたとき、バラの香り、コショウの香り、アンバーの香りをそれぞれ感じるのではなく、それらが合わさってできた、スパイシーで温かい、新しいバラの香りに感じられるのです。
アコードを「色の混ざり」に例える
アコードは、絵の具を混ぜるのと少し似ています。
青い絵の具と黄色い絵の具を混ぜると緑色になりますが、この緑色は青でも黄色でもない新しい色ですよね。
アコードもこれと同じように、いくつかの香りが混ざり合って新しい香りを作り出します。
しかし、絵の具と違うところもあります。
絵の具の混ぜ方はだいたい決まっていますが、香りの組み合わせはもっと複雑で、ときには予想もしないような香りが生まれることがあります。
長年香水を作ってきた調香師でも、新しい組み合わせを試すときには、いつも驚きや発見があるのです。
アコードを作る調香師の仕事
アコードを作る
香水作りの仕事は、まるで科学者の実験のようです。
香水を作る調香師は、まずどんな香りにしたいかをじっくりと考えます。
たとえば、「春の朝の庭」のような香りを作りたいとします。
そのイメージに合うように、たくさんの香料の中からいくつかを選び、少しずつ量を調整しながら、理想の香りに近づけていきます。
このとき、香料の量を少し変えるだけで、全く違う香りが生まれることがあります。
調香師は、理想のアコードを見つけるために、何度も何度も香りを試し、ときには0.1%のような、ごくわずかな量の調整も行います。
この作業には、たくさんの経験と、とても根気のいる作業が必要です。
理想の香りができるまでに、何十回も、何百回も試行錯誤を繰り返すこともあります。
さらにアコード×アコードを積み重ねる
次に、いくつかの異なるアコードを組み合わせて、もっと複雑で深い香りにしていきます。
たとえば、「春の朝の庭」というテーマで、「露に濡れた花のアコード」と「若い葉っぱのアコード」、「温かい太陽の光のアコード」を別々に作ったとします。
これらのアコードをさらに組み合わせることで、より奥行きのある香りが生まれるのです。
これは、建築家が一つ一つの材料を組み合わせて家を作り、さらにその家を組み合わせて町を作るのと似ています。
この作業の最後に、香水には50種類から100種類、ときにはそれ以上の香料が使われることもあります。
秘密のレシピ「フォーミュラ」
この複雑な香水作りを支えているのが、「フォーミュラ」と呼ばれるレシピです。
フォーミュラには、使った香料の種類や量、作ったときの様子などが詳しく書かれています。
これにより、たとえ偶然に良いアコードができたとしても、同じ香りをまた作ることができるのです。
アコードの評価軸
香水作りは、単に香りを混ぜるだけでなく、人の心に響く芸術作品を生み出すことでもあります。
香水の評価は、とても主観的なものです。
同じアコードでも、人によって感じ方は全くちがいます。
鼻の敏感さや、これまでの経験、生まれ育った文化、その日の気分などによっても、香りの感じ方は変わるからです。
調香師は、たくさんの人に愛される香水を作るために、いろいろな人の意見を聞きながら、香りを何度も調整するのです。
記憶に残る香り
それでも、素晴らしいアコードには共通する特徴があります。
まず、一つ一つの香りが感じられるのに、全体として一つのまとまった香りになっていることです。
次に、時間が経つにつれて香りがきれいに変わっていくことです。
そして何より、一度嗅いだら忘れられないような、特別な個性があることです。
有名な香水には、このような独創的なアコードがあり、それが芸術作品と呼ばれる理由なのです。
人間の感性と科学の融合
最近では、コンピューターやAI(人工知能)を使って香りを分析したり、予測したりする技術も進んでいます。
しかし、最終的にアコードが優れているかどうかを決めるのは、人間の鼻と心です。
香りは、単なる化学的なものではなく、それを嗅ぐ人の気持ちや思い出と深くつながっているからです。
優れた調香師は、科学の知識と自分の感性をうまく組み合わせて、心に残る美しいアコードを作り出しています。
このように、アコードは香水の世界でとても大切な、そして美しい考え方です。
一つ一つの香りが持つ力を深く理解し、それらを巧みに組み合わせることで生まれる、新しい香りの世界。
これこそが、香水が私たちの心に深く響く理由なのです。