2016年、お菓子の世界では突出した大ブームはなかったものの、いくつかの新しいトレンドが穏やかに受け入れられました。その中の一つが、フランス生まれの素朴で愛らしいお菓子「シューケット」です。この小さなおやつは、そのシンプルさの中に奥深い魅力と、職人の知恵が詰まっています。
シューケットとは
シューケット(chouquette)は、フランスの伝統的なおやつ菓子です。このお菓子は、シュークリームなどにも使われるシュー生地を一口サイズの小さなドーム型に絞り、表面にあられ糖という粒状の砂糖をまぶして焼き上げたものです。中にクリームなどは入っておらず、シュー生地本来の軽やかさと、あられ糖のカリカリとした食感のハーモニーを楽しむのが特徴です。お茶会やパーティーでコーヒーや紅茶と一緒に楽しまれる、上品な「プティフール」の一種として知られています。
シューケットの土台「シュー生地」について
シューケットを理解するためには、まずその土台となる「シュー生地」について知る必要があります。
シュー生地とは?
シュー生地は、バター、水、小麦粉、卵を使って作られる生地です。まず鍋で水とバターを沸騰させ、そこに小麦粉を一気に加えて力強く混ぜることで、生地のでんぷんが糊化し、独特のもちもち感が生まれます。その後、火から下ろして卵を少しずつ加えることで、焼いた時に大きく膨らむ性質を持つ生地が完成します。
シューケットの魅力
シューケットは、シュー生地を使った代表的なお菓子であるシュークリームやエクレアとは全く異なる方法で楽しまれます。
食感のハーモニー
シューケットは、シュー生地を一口サイズの小さなドーム型に絞り出し、表面に「あられ糖」という粒状の砂糖を振りかけて焼き上げます。あられ糖は焼成中に完全に溶けきらず、表面にカリカリとした食感を残します。このため、シューケットの最大の魅力は、ふんわりと軽やかなシュー生地と、表面のあられ糖が生み出すカリッとした食感の対比にあるのです。
プティフールとしての役割
シューケットは「プティフール」の一種として分類されます。プティフールとは、フランス語で「小さなオーブン」という意味で、一口で食べられる小さなお菓子の総称です。お茶会やパーティーの際に、コーヒーや紅茶と共に楽しまれることが多く、上品で繊細な見た目も重要な要素となります。
シューケットの楽しみ方とアレンジ
基本的なシューケットは中身を詰めずに、シュー生地そのものの味わいを楽しむものです。しかし、この素朴さゆえに様々なアレンジの可能性も秘めています。
甘いクリームを詰めれば、より贅沢なデザートになります。また、クリームチーズを詰めれば軽やかな前菜にもなります。驚くことに、マッシュポテトを詰めるという斬新なアレンジも提案されており、これによってシューケットは甘いお菓子の枠を超えた食べ物へと変貌を遂げることもできるのです。このような自由な発想で楽しむことができるのも、シューケットの魅力の一つです。
シュー生地にまつわる職人の知恵
シュー生地には、単なるお菓子としての魅力だけでなく、パティシエたちの知恵が詰まった興味深いエピソードがあります。
失敗作を無駄にしない知恵
パティシエの修業時代には、誰しもがシュー作りで失敗を経験するものです。生地がうまく膨らまなかったり、形が崩れてしまったりすることもあります。しかし、そうした失敗作も決して無駄にはなりません。実は、失敗したシュー生地を翌日の味噌汁の具として使うという、日本らしい知恵があるのです。お麩よりも贅沢な材料で作られたシュー生地は、味噌汁に入れると意外にも絶妙な美味しさを発揮し、バターと卵の風味が加わってコクのある仕上がりになります。
このように、シューケットは単なる流行のお菓子を超えて、フランスの伝統的なお菓子作りの技術と、素材を無駄にしない職人の知恵、そして現代的なアレンジの可能性が組み合わさった、奥深い食べ物と言えるでしょう。その素朴な見た目からは想像できないほど、多くの技術と文化的背景を持った、味わい深いお菓子なのです。