フランとは|フランスはタルト形式、スペインはプリンに似ている
フランとは
フランとは、プリンに似たスペインやフランス発祥の伝統的なデザートです。
牛乳や卵、砂糖を使ったカスタード生地を型に流し込み、カラメルソースと一緒にオーブンで蒸し焼きにして作られます。
なめらかな食感と香ばしいカラメルのほろ苦さが特徴で、素朴ながらも奥深い味わいがあります。
地域によってはバニラやシナモンで風味を加えることも多く、家庭料理からレストランのデザートまで幅広く親しまれています。
フランという名前の由来
フランという名前は、古代ラテン語の「フラド」という言葉に由来しています。
古代ラテン語の「フラド」という言葉は、「丸くて平たいもの」を意味していました。
ラテン語は、現在のフランス語、スペイン語、イタリア語などの祖先となった言語です。
つまり、ラテン語を祖先に持つこれらの言語を話す人々が、それぞれの文化や食習慣の中でフランを発達させていったため、同じ名前でありながら異なる食べ物になったのです。
この言葉の成り立ちが、フランの多様性を生み出す最初の要因となりました。
フランの古い歴史を解説
フランの歴史は想像以上に古く、その始まりは古代ローマ時代まで遡ります。
古代ローマ時代がフラン発祥の起源
当時のローマでは鶏卵の生産が盛んになり、人々はギリシャの調理法を参考にして「ティロパティナム」という食べ物を作り始めました。
この「ティロパティナム」の作り方を詳しく見てみましょう。
牛乳に卵とハチミツを加え、混ぜながら加熱し、最後に胡椒をふって仕上げるというものでした。
当時の卵、ハチミツ、胡椒はすべて貴重な高級食材でした。
そのため、この料理は富裕層だけが楽しめる贅沢品だったと考えられています。
中世ヨーロッパでフランは分岐した
時代が進んで中世になると、この食べ物は「フラド」という名前でヨーロッパ全体に広がっていきました。
ここで、フランの歴史にとって重要な分岐点が生まれます。
この拡散により、各地でフランの解釈が分かれることになります。
フランスで確立したタルト形式
14世紀のフランスでは、タルト生地の中にカスタード状の液体を流し込んで焼くという、現在のフランスのフランに近い形が確立されました。
この形式は、生地を使うことで手軽に持ち運べるという利点があり、後のフランスの菓子文化に影響を与えます。
スペインで確立した生地なし形式
一方、同じ時期のスペインでは、タルト生地を使わずに卵液だけで作るタイプのフランが登場していました。
このスペイン型のフランは、現在のスペインや中南米のフランの原型となりました。
フランスのフランの特徴
この歴史的な分岐を理解すると、現代の国によるフランの違いが明確になります。
フランスで「フラン」と言えば、タルト生地にカスタードクリームを流して焼いたお菓子を指します。
フランスのフランのカスタードクリームには、単なる卵液だけでなくコーンスターチや薄力粉を加えます。
この粉類を加えることにより、プリンよりも固く、しっかりとした食感に仕上がります。
これにより、切り分けても形が崩れにくい構造になります。
スペインのフランの特徴
スペインやメキシコ、そして中南米の多くの国では、日本人が想像するプリンに非常に近いものを「フラン」と呼んでいます。
これらの国のフランは、卵と牛乳、砂糖を混ぜた液体を型に流し、蒸し焼きや湯煎で固めて作ります。
日本のプリンと比べると甘さが強く、やや固めの食感に仕上げることが多いようです。
仕上げにはほろ苦いカラメルソースをかけるのが一般的であり、このカラメルが味のアクセントとなります。
日本のプリンの歴史(フランとの違い)
ここで、日本のプリンがどのように生まれたかを理解すると、フランとの関係がより明確になります。
プリンの原型は「プディング」というイギリス料理でした。しかし、このプディングは当初、デザートではありませんでした。
イギリスの船員たちが長い航海の間に、限られた食材である肉や野菜を卵液と混ぜて蒸し、食事として食べていたものがプディングの始まりです。
この実用的な料理が時代と共に変化し、甘いデザートとしてのカスタードプディングが生まれました。
それが江戸時代以降に日本に伝わり、「プディング」が「プリン」という呼び方に変化して定着したのです。
つまり、フランとプリンは全く異なる歴史を持つ食べ物だったということになります。フランは古代ローマから続く地中海文化圏の食べ物であり、プリンは海洋国家イギリスの実用的な船上食から発展したデザートだったのです。
フランスのフランの作り方
土台となる生地
現代のフランスにおけるフランの作り方を詳しく見てみましょう。
まず、タルト型にパートブリゼ(練りパイ生地)やフィユタージュ(パイ生地)を敷き込みます。
この生地の底には、焼いている間に生地が膨らんでしまうのを防ぐために、フォークで細かく穴を開けるピケという作業を行います。
カスタードクリーム
次に、全卵と卵黄、砂糖、牛乳を混ぜ合わせ、そこにコーンスターチまたは薄力粉を加えてカスタードクリームを作ります。
この粉類を加えることが、フランスのフランの最も重要な特徴です。
粉を加えることで、単なる卵液よりもずっと固い食感になり、切り分けて手で持って食べることができるようになるのです。
焼き方と完成品のサイズ
このカスタードクリームを生地に流し込み、オーブンで表面にこんがりとした焼き色がつくまで焼き上げます。
完成したフランは、直径24センチほどのホールケーキのような大きさになり、これを大ぶりに切り分けて販売されます。
フラン作りの難しさ
パティシエたちは、このシンプルさゆえの難しさを認識しています。
フランは材料が少なく作り方も単純であるため、素材の質、配合のバランス、火加減、焼き時間などのわずかな違いが仕上がりを大きく左右します。
そのため「誤魔化しのきかない菓子」とも言われ、本当においしいフランを作るには高い技術と経験が必要とされています。
著名なパティシエによる取り組み
現代のフランス菓子界では、著名なパティシエたちもフランの制作に取り組んでいます。
彼らは伝統的なレシピを基本としながらも、卵黄の分量を調整して濃厚さを変えたり、バニラ以外にトンカ豆などの香料を加えて独自の風味を作り出したりしています。
しかし、どのパティシエも基本的な形や食べ方は変えず、あくまでもシンプルなフランの本質を大切にしていることが共通しています。
フランを家庭で作る場合
フランを家庭で作る場合の基本的な材料は、タルト生地(市販品でも十分利用可能)、卵、牛乳、砂糖、コーンスターチまたは薄力粉、そしてバニラエッセンスです。
作り方の手順自体は決して複雑ではありません。
タルト生地を型に敷き込み、材料を混ぜ合わせてカスタードクリームを作り、それを生地に流し込んでオーブンで焼くだけです。
ただし、カスタードクリームを作る際は焦げないよう絶えず混ぜ続ける必要があり、オーブンでの焼き加減も重要なポイントになります。
フランスにおけるフランの食べ方
フランス人にとってフランとは、フォークとナイフを使って食べるものではなく、薄紙に包んでもらって手で持ち、コーヒーと一緒に気軽に楽しむものという認識です。
この手軽さが、日常的なお菓子として定着している理由の一つです。
フランスにおけるフランの役割
フランは、その作りやすさからフランスの家庭料理としても愛されています。
特別な技術や珍しい材料を必要とせず、どの家庭にもある基本的な食材だけで作ることができます。
また、冷蔵庫に余った牛乳や卵を使い切るための料理としても重宝されており、フランスの家庭では「あるものでさっと作れる料理」として日常的に作られています。
料理としてのフランの可能性を解説
フランスのフランは、砂糖を加えずに作る場合、野菜やキノコ、チーズ、ベーコン、魚介類などを加えることで、前菜や軽食として楽しむことができます。
この料理版のフランは、日本の茶わん蒸しと似た役割を果たしますが、牛乳や生クリームが入るためより滑らかで優しい口当たりになります。
フランスのレストランでは「カニのフラン」や「アスパラのフラン」といった前菜が定番メニューとして提供されており、これらは「西洋風茶わん蒸し」と呼ばれることもあります。
現代フランスにおけるフランの評価
伝統的な味わいを求める動き
近年のフランスでは、このシンプルなフランが改めて脚光を浴びています。
パリの新聞や雑誌では「パリのベストフラン」といった特集が組まれ、多くのパティスリーやブーランジュリー(パン屋)でフランを見つけることができます。
この現象の背景には、現代の菓子作りが複雑化しすぎることへの反動があると考えられています。
装飾的で手の込んだお菓子が主流になる中で、シンプルで伝統的な味わいを求める動きが生まれているのです。
フランの変わらない提供スタイル
実際に現代のパリを歩いてみると、高級ホテルから街角のパン屋まで、あらゆる場所でフランを見つけることができます。
しかし、どこで売られているフランも基本的な形は同じです。
大きなホールケーキ状に焼き上げたものを大ぶりに切り分けたもので、フルーツやチョコレートなどの装飾は一切ありません。
フランス人にとってフランとは、素材そのものの味と食感を楽しむための食べ物であり、余計な飾りは必要ないという意識があります。
フランが持つ多様性
世界各地でフランがこれほど多様な形で発展したのは、そのシンプルな基本構造ゆえに各地の食文化に適応しやすかったからです。
フランの基本は卵と乳製品を組み合わせた料理であるため、どの地域でも比較的入手しやすい材料で作ることができました。
また、甘くしてデザートにすることも、塩味にして料理にすることも可能な柔軟性が、各地での独自の発展を促したと考えられます。
フランスの地方菓子への派生例
フランスの地方でも、フランから派生した様々な郷土菓子が生まれています。
ブルターニュ地方の「ファーブルトン」は、生地を使わずに作るフランの一種で、プルーンなどのドライフルーツを加えるのが特徴です。
リムーザン地方の「フロニャルド」も同様に生地を使わないタイプで、新鮮な果物を加えて作られます。
これらの地方菓子を見ると、フランという食べ物の持つ適応力の高さがよく分かります。
まとめ
古代ローマ時代の贅沢品から始まり、中世ヨーロッパで庶民に広まり、そして現代では世界各地で愛される食べ物となったフランの歴史は、人類の食文化がいかに豊かで複雑な発展を遂げてきたかを物語っています。
このように、フランとは単純に定義できない、奥深い食べ物です。
国や地域によって異なる形を取りながらも、どこでも人々に愛され続けているという点で、食の普遍性と地域性の両方を体現する存在なのです。