バターの香りとカリカリした表面、そして中のもちっとした食感が特徴の「クイニーアマン」。
フランス・ブルターニュ地方の伝統菓子として知られ、日本でも1990年代後半から人気を集め始めました。
この記事では、クイニーアマンがどのように誕生し、どんな特徴があるのか、そして日本での広まり方までを丁寧に解説していきます。
クイニーアマンとは
バターと砂糖が織りなす、カリカリ・もちもちの贅沢菓子
フランス西部、ブルターニュ地方。その海風が吹き抜ける港町で生まれたのが「クイニーアマン」というお菓子です。表面は飴のようにカリカリと硬く、中はしっとり、もちっとした食感。噛むたびにバターと砂糖の濃厚な香りが広がります。
一見すると小さな焼き菓子ですが、その製法は非常に手がかかり、まるでクロワッサンを作るかのような緻密な工程を経て完成します。日本では1990年代の終わりに注目され、多くの洋菓子店やパン屋で一斉に取り扱われるようになりました。今ではすっかり人気の定番スイーツの一つです。
クイニーアマンとクイニェットの違い
クイニーアマンとクイニェットの大きな違いは「サイズ」と「用途」です。
クイニーアマンは、フランス・ブルターニュ地方で親しまれる伝統的なバター菓子で、直径10cm前後の手のひらサイズが一般的。一方のクイニェットは、クイニーアマンを小型化した一口サイズのバリエーションで、食べ歩きやお土産にも適した現代的なスタイルです。
名前の語尾「-ette」はフランス語で“小さな”を意味しており、クイニーアマンをより気軽に楽しめるようにした派生品として人気があります。どちらもバターと砂糖がたっぷり使われ、外はカリッと中はもちっとした食感が魅力ですが、食べるシーンや量に応じて使い分けられています。
クイニーアマンの名前の由来
「クイニーアマン（Kouign-Amann）」という不思議な響きの名前は、ブルターニュ地方で話される“ブルトン語”が由来です。
「クイニー（kouign）」はケーキ、「アマン（amann）」はバターを意味します。直訳すれば「バターケーキ」ということになりますが、実際はバターを織り込んだパン生地を使用し、ケーキというよりもデニッシュやパイに近い存在です。
生地にはたっぷりのバターと砂糖を折り込み、高温で焼くことで、外はキャラメリゼされたようにカリッと、中はジュワッとバターが染みた食感に仕上がります。バターの豊かな風味と、カラメルの香ばしさ。素材はシンプルなのに、驚くほど奥深い味わいが楽しめます。
クイニーアマンの発祥起源
このお菓子が生まれたのは、ブルターニュ地方の「ドゥアルヌネ（Douarnenez）」という港町。
発案者は、19世紀半ばにこの地でパンを焼いていた職人「イヴ・ルネ・スコルディア（Yves-René Scordia）」と伝えられています。
当時、小麦粉が不足していた一方で、地元特産のバターが豊富にありました。
小麦粉を節約しようとして生地に大量のバターを加えたところ、通常のパンとしてはまとまらず、失敗作になってしまったそうです。しかし、それを無駄にするのは惜しいと感じたスコルディア氏は、そのまま焼いてみることに。すると、意外にも香ばしくておいしい焼き菓子ができあがったのです。
この偶然の産物が評判を呼び、やがて町の銘菓として広まり、現在ではブルターニュを代表する伝統菓子となりました。
ブルターニュでのクイニーアマンの位置づけ
クイニーアマンは、フランス全土というよりは、ブルターニュ地方特有の“郷土菓子”として根付いています。
ブルターニュはバターの名産地でもあり、乳製品を使った菓子や料理が多い地域です。その中でもクイニーアマンは、バターを最も贅沢に使った菓子といえるでしょう。
この地方では家庭で手作りするよりも、地元のブーランジェリー（パン屋）やパティスリー（菓子店）で購入するのが一般的です。ドゥアルヌネの町には、昔ながらの製法を守る老舗がいくつもあり、観光客も多く訪れる人気スポットとなっています。
近年では、一口サイズにした「クイニェット（Kouignette）」というバリエーションも登場。手軽に食べられるスタイルが好評で、お土産としても人気を集めています。
1998年、日本でクイニーアマンが注目された理由
クイニーアマンが日本で広まり始めたのは、1998年前後のこと。洋菓子業界では「まだあまり知られていない世界の伝統菓子を紹介しよう」という流れがありました。その中で、フランス菓子に詳しい職人たちがブルターニュ地方のこの郷土菓子に注目したのです。
当時の日本では、ここまでバターと砂糖を前面に出したお菓子は珍しく、そのシンプルながらも濃厚な味わいと、パリッとしたキャラメルのような表面が新鮮に映りました。
また、「クイニーアマン」という名前の響きが独特で目を引いたことも人気の理由のひとつ。バターが多く使われた黄金色の生地、カラメルのツヤ感、そして手のひらサイズというかわいらしさも、日本人の美意識にマッチしたのでしょう。
百貨店のスイーツ売場や、こだわりのベーカリーなどで販売されるようになり、一気に注目の存在となりました。
クイニーアマンの製法
クイニーアマンは見た目こそシンプルですが、実はとても手間のかかる菓子です。
生地にバターを何度も折り込む「折り込み作業」が必要で、この工程はクロワッサンと同じ技法を使います。
ただし、クイニーアマンは砂糖も一緒に折り込むため、温度や湿度の管理がさらにシビアになります。
焼くときは高温でしっかり焼き、表面をカラメル化させる必要があります。
焼きすぎると焦げて苦くなってしまい、逆に焼きが足りないとカリカリの仕上がりになりません。
また、バターが多いため、加熱中に生地が崩れてしまうこともあり、職人の技術が問われる一品です。
つまり、シンプルな材料とは裏腹に、成功させるには高い技術と経験が必要なのです。
現在の日本でのクイニーアマン
日本では伝統的な製法を基本にしながらも、さまざまなアレンジが加えられています。
たとえば、中にチョコレートやカスタードを入れたもの、りんごや洋ナシなど果物を加えたバージョン、さらには抹茶やほうじ茶を使った和風アレンジも登場しています。
また、冷凍状態で販売され、家庭で焼き直すだけで楽しめる商品もあります。これにより、家庭のオーブンでもプロに近い仕上がりを再現することが可能になっています。
全国のベーカリーやスイーツ専門店でも取り扱われており、期間限定のフレーバーが登場することも多く、季節感を取り入れた楽しみ方も広がっています。
まとめ
クイニーアマンは、たった数種類の材料だけで作られるにもかかわらず、焼き方や折り込み技術によってその味や食感に大きな違い発祥の地ブルターニュでは長く愛され、日本でもその魅力はしっかりと根付きました。
1998年のブーム以降、現在では定番菓子のひとつとなり、各地で工夫を凝らしたアレンジも登場しています。
もしまだ食べたことがない方がいれば、ぜひ一度、専門店で本格的なクイニーアマンを味わってみてください。バターと砂糖が織りなす、豊かな香ばしさにきっと驚くはずです。