香水のノートとは何か
香水について話すとき、「ノート」という専門的な言葉を聞くことがあります。
この言葉には、主に2つの意味があります。
1つ目は、香りの種類を分類する「香りのノート」です。
これは、かんきつ類やお花といった香りの特徴を表す言葉です。
2つ目は、香りが時間とともに変化する段階を表す「香りのピラミッド」です。
この2つの意味を理解することで、香水の奥深い仕組みが分かります。
ノートの意味(1)|香りの分類
香水は数十から数百の異なる香りの材料を正確に混ぜて作られた、とても複雑なものです。
この複雑な香りを分かりやすくするために、香水業界では香りを種類ごとに分ける方法が考えられました。
「ノート」という言葉の1つ目の意味は、香りの種類や性質を分けるための名前として使われることです。
これは、香りの特徴を分かりやすく表すためのシステムです。
たとえば、みかんやレモンのようなさわやかな香りは「シトラスノート」、お花のような香りは「フローラルノート」と呼びます。
これは、料理の味を「甘味」「酸味」「苦味」と分けるのと同じような考え方です。
香りの種類を表すノートは18種類
現在、香水業界では香りの種類を表すノートが18種類あるとされています。
この分類が生まれた背景には、香水を作る技術の進歩があります。
19世紀より前は、香水はすべて自然の植物や動物から取れる香料で作られていました。
しかし、天然の香料は値段が高く、品質も安定せず、手に入れるのも難しいという問題がありました。
19世紀になると、化学の力で人工的な香料が作られるようになり、香水の種類がとても増えました。
そこで、たくさんの香りを整理する必要が出てきたのです。
基本的な7つのノートについて
ここでは、その中でも基本となる7つのノートについて説明します。
ノート名 | 主な香料例 | 印象・特徴 | 使用される場面・層 |
---|---|---|---|
シトラスノート | レモン、オレンジ、ベルガモットなど | さわやか・明るい | 男女問わず、トップノートに多い |
フローラルノート | ローズ、ジャスミン、ラベンダーなど | 上品・やさしい | 女性向け、ミドルノートに多い |
ウッディノート | サンダルウッド、シダーウッド、パチュリ | 落ち着き・温かみ | 男性向け、ラストノートに多い |
フルーティーノート | りんご、もも、マンゴーなど | 甘く親しみやすい | 若々しい香水に多い |
グリーンノート | 草、新緑、葉など | 清々しい・自然 | 春夏向け、ビジネスにも適する |
オリエンタルノート | ムスク、アンバー、スパイス類 | 官能的・重厚 | 秋冬向け、特別な場面に適する |
スパイシーノート | シナモン、ナツメグ、カルダモンなど | 刺激・温かみ | アクセントとして使われる |
シトラスノートとは
シトラスノートは、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ベルガモットなど、かんきつ類の香りのことです。
これらの香りは、つけた瞬間に香ることが多いため、香水のトップノートによく使われます。
この香りはさわやかで、明るい印象を与えます。
そのため、男女問わず多くの人に好まれる傾向にあります。
フローラルノートとは
フローラルノートは、花をイメージした香りで、ローズ、ジャスミン、ラベンダー、すずらんなどが代表的です。
1つの花の香りから、たくさんの花を束ねた花束のような香りまで、色々な種類があります。
やさしく上品な印象を与えることが多く、香水の世界では昔から使われてきました。
ウッディノートとは
ウッディノートは、サンダルウッド、シダーウッド、パチュリなど、木や森を思わせる香りのことです。
この香りは、落ち着いた印象や温かみを与えます。
香水のラストノートやミドルノートによく使われ、香りに深みと安定感をもたらします。
特に男性向けの香水によく使われますが、最近では女性向けの香水にも広く取り入れられています。
フルーティーノートとは
フルーティーノートは、かんきつ類以外の果物の香りで、りんご、もも、マンゴーなどが含まれます。
甘く、親しみやすい香りが特徴です。
軽やかで明るい印象を与えるため、元気で若々しい香水や、気軽につけられる香水によく使われます。
グリーンノートとは
グリーンノートは、青々とした植物や草、新緑の葉などを思わせる香りのことです。
この香りは、自然の生命力を感じさせ、さわやかで清々しい印象を与えます。
オリエンタルノートとは
オリエンタルノートは、ムスクやアンバー、スパイス系の香料を組み合わせた、エキゾチックな香りのことです。
バニラや樹脂のような甘く重みのある香りに、シナモンやクローブなどのスパイスが加わることで、独特の深さと複雑さが生まれます。
スパイシーノートとは
スパイシーノートは、ブラックペッパー、カルダモン、シナモン、ナツメグなど、スパイスを思わせる香りのことです。
これらの香りには、ピリッとした刺激と温かみがあります。
他のノートと組み合わせることで、香りにアクセントや個性を加えます。
複合ノートについて
ノート名 | 主な香料例 | 印象・特徴 |
---|---|---|
フゼアノート | ラベンダー+オークモス | 男性的で落ち着いた印象 |
シプレノート | ベルガモット+ラブダナム+オークモス | 深みと爽やかさの融合 |
オリエンタルノート | バニラ+スパイス | 官能的で温かみのある香り |
アンバーノート | バニラ+ベンゾイン | 重厚で持続力のある香り |
複合ノートは、複数の異なるノートを組み合わせた香りの種類です。
これらの分類は、特定の香水が発表された歴史から生まれました。
これには、フゼア、シプレ、オリエンタル、アンバーの4種類があります。
フゼアノートとは
フゼアノートは、1882年にウビガン社が発表した「フジェール・ロワイヤル」という香水から生まれた分類です。
フゼアはフランス語でシダを意味します。
この香りの特徴は、ラベンダーのようなハーブの香りと、オークモスという苔の土のような重みのある香りを組み合わせている点です。
この組み合わせが、男性的で落ち着いた印象の香りを作り出します。
シプレノートとは
シプレノートは、1917年にコティー社の「ル・シープル」から生まれました。
シプレはキプロス島を意味するフランス語がもとになっています。
この香りは、ベルガモットのさわやかな香りと、ラブダナムやオークモスの深い香りを合わせ持っています。
オリエンタルノートとは
オリエンタルノートは、東洋風という意味で、バニラの甘さとスパイスの刺激を組み合わせた香りのことです。
これは単一のノートではなく、いくつかのノートを組み合わせた香りのタイプとして分類されることもあります。
温かみがあり、官能的な印象を与えることが多く、特に秋冬の季節に使われることが多いです。
アンバーノートとは
アンバーノートは、琥珀を意味し、バニラやベンゾインといった樹脂系の香料による重く甘い香りが特徴です。
これもオリエンタルノートと関連が深く、香水の最後の香りに頻繁に使われます。
香りに深さと香りが続く力をもたらします。
ノートの意味(2)|香りの時間の変化
ここで、「ノート」のもう一つの意味について説明します。
香水はつけた後の時間の経過とともに、香りが3つの段階で変化します。
この変化を表現するためにも「ノート」という言葉が使われます。
この香りの変化は「香りのピラミッド」とも呼ばれます。
香りが変わる仕組み
香水の香りが時間とともに変化する理由は、香料の材料が蒸発する速度の違いにあります。
蒸発する速度のことを「揮発性」と言います。
香水に含まれるたくさんの香料は、それぞれ異なる速度で蒸発します。
材料の分子の大きさや形によって、すぐに空気に広がるものもあれば、肌の上に長時間残るものもあります。
香りのピラミッドの3つの段階
ノート名 | 持続時間の目安 | 主な香料例 | 役割・印象 |
---|---|---|---|
トップノート | 約10分 | 柑橘系、果物系、ハーブ系 | 第一印象を決める、軽やかで爽快 |
ミドルノート | 約30分〜2時間 | フローラル系、スパイス系 | 香水の中心、個性や世界観を表現 |
ラストノート | 2時間〜数時間以上 | ウッディ系、ムスク、アンバーなど | 香りの余韻、深みと持続性を演出 |
香水の香りの変化は、トップノート、ミドルノート、ラストノートという3つの段階に分けられます。
この時間による香りの変化は、香水を作る人(調香師)が考えて作っています。
調香師は、香水を音楽や物語のようにとらえ、時間の流れの中で香りのストーリーを創造しています。
トップノートとは
トップノートは、香水をつけた直後から約10分くらいの間に感じる香りです。
この段階では、最も蒸発しやすい香料が香ります。
多くの場合、軽くてさわやかな香りが使われます。
レモンやオレンジなどの柑橘系、りんごやももなどの果物系、ユーカリやラベンダーなどのハーブ系がよく使用されます。
トップノートに使われる香料の分子は比較的小さいため、香りはすぐに広がりますが、同時に短い時間で消えてしまいます。
これは物理学の原理に基づいていて、小さな分子ほど、少ない力で気体になることができるからです。
ミドルノートとは
ミドルノートは、つけてから約30分後から2時間くらい続く香りです。
この段階は香水の中心となる部分で、調香師が本当に伝えたい香りの個性や世界観が表現されています。
そのため、海外では「ハートノート」とも呼ばれます。
お花のようなローズやジャスミン、スパイスのジンジャーやカルダモンなどが使われます。
ミドルノートの香料は、トップノートよりもゆっくりと蒸発します。
このため、香水をつけている時間のほとんどでこの香りを感じることになります。
ラストノートとは
ラストノートは、つけてから2時間以降、香りが完全に消えるまでの段階です。
この段階では、最も蒸発しにくい香料が肌に残ります。
ムスク、アンバー、バニラなどの甘く重みのある香りや、サンダルウッド、シダーウッドなどの木の香りが代表的です。
ラストノートの香料は分子の形が大きいため、長時間にわたって香りを放ち続け、最後に残る香りの印象を作り出します。
香水の成分と種類
香水は、天然の香料と人工的に作られた香料を組み合わせて作られています。
また、香料の濃さによっても分けられます。
現代の香水は、天然の香料が持つ豊かな香りと、人工的な香料が持つ安定した品質を上手に組み合わせることで、たくさんの種類があります。
香水の香料成分
香料の種類 | 主な原料例 | 特徴 |
---|---|---|
天然香料 | 花、葉、果皮、根、木、種など | 複雑で豊かな香り、希少性が高い |
合成香料 | 石油由来、化学合成 | 安定した品質、コストが低く種類が豊富 |
天然香料
天然香料は、植物や動物から取り出される香りの材料で、植物性香料と動物性香料に分けられます。
植物性香料は、花、葉、果物の皮、根、木、種など、植物の様々な部分から取られます。
動物性香料にはムスクなどがありますが、今は動物保護のルールによって、ほとんどが別の材料に置き換えられています。
天然香料の特徴は、自然が長い時間をかけて作り出した複雑で豊かな香りです。
合成香料
合成香料は、19世紀に化学技術の進歩とともに生まれました。
天然の香料から特定の成分だけを取り出したものや、石油などから化学的に作ったものがあります。
合成香料のよい点は、値段が安く、品質が安定していて、たくさん作れることです。
また、自然にはない新しい香りを生み出すこともできます。
香水の濃度による分類
種類 | 香料濃度の目安 | 持続時間の目安 | 特徴・用途 |
---|---|---|---|
パルファム | 15〜30% | 5〜7時間以上 | 最も濃厚、特別な場面に適する |
オードパルファム | 10〜15% | 4〜6時間 | バランス良好、日常〜改まった場面まで |
オードトワレ | 5〜10% | 2〜4時間 | 軽やかで普段使いに適する |
オーデコロン | 1〜5% | 1〜2時間 | 気分転換やスポーツ後に最適 |
香水は、含まれる香料の濃度によって4つの種類に分けられます。
この濃度が香りの強さや持続時間に直接影響を与えます。
一般的に、濃度が高いほど香りは強くなり、長く続きます。
パルファムの解説
パルファムは、香料の濃度が15%から30%と最も高い種類です。
このため、香りが最も強く、持続時間も長くなります。
香りが肌の上に長時間留まるため、特別な場面での使用や、香りをしっかり楽しみたいときに選ばれることが多いです。
オードパルファムの解説
オードパルファムは、香料の濃度が10%から15%で、パルファムに次いで高い種類です。
パルファムよりも少し軽やかな香り立ちでありながら、十分な持続時間を持っています。
日常使いから少し改まった場面まで、幅広く使用できるバランスの良さが特徴です。
オードトワレの解説
オードトワレは、香料の濃度が5%から10%で、パルファムやオードパルファムよりも軽やかな香りです。
香りの持続時間は短めですが、強すぎない香りのため、普段使いしやすい軽さがあります。
オフィスや学校など、香りを控えめにしたい場面に適しています。
オーデコロンの解説
オーデコロンは、香料の濃度が1%から5%と最も低い種類です。
香りが短時間で消えるため、気分転換したい時や、軽く香りを楽しみたい時によく使われます。
香りが強すぎず、気軽に使用できるため、暑い季節やスポーツの後などにも適しています。
香水の選び方と使い方
香水を選ぶときには、トップノートだけで決めないことが大切です。
香水の本当の個性は、ミドルノートとラストノートに表れるからです。
できれば手首に少しつけてみて、数時間かけて香りの変化を試してみてください。
場面に合わせた香水の選び方
香水は、つける場所や場面に合わせて選ぶことが重要です。
仕事やビジネスの場では、個性が強すぎない、多くの人に好まれやすいシトラスやグリーンノートが向いています。
友達との集まりでも、さわやかで親しみやすい香りが好まれます。
特別な場面では、ほんのりとした魅力が出る香りを選ぶとよいでしょう。
スポーツや外での活動では、汗と混ざっても不快にならない、軽やかな香りが適しています。
現代の香水の楽しみ方
最近では、一つの香水をずっと使うのではなく、気分や場面に合わせて複数の香りを使い分ける人が増えています。
これに合わせて、小さいボトルに入った香水や、色々な香りを試せるサービスも普及しています。
香水業界では「タイプ」と「ノート」という言葉も使い分けられています。
タイプは、いくつかのノートを組み合わせた香りの全体的な分類を指します。
ノートは、具体的な香りの種類を表します。
たとえば、みかん系の香りが主体で、お花の香りが少し入っている香水は「シトラスタイプ、フローラルノート」と表現されます。
まとめ
香水の「ノート」という言葉には、香りの種類を分ける意味と、香りの変化を指す意味があります。
これらの言葉を理解することで、香水はただの化粧品ではなく、時間とともに物語を語る芸術品のように感じられます。
香りは私たちの感情や記憶に深く結びついています。
香水について知識を深めることは、香りという目に見えない世界への理解を広げ、あなたに合った香りの楽しみ方を見つけることにつながるでしょう。