秘書検定とは|資格試験をはじめて受ける人へ

秘書検定とは
秘書検定は、秘書として必要な知識や技能を測るための資格試験です。
この検定は単に秘書の専門スキルを問うだけでなく、社会人としての常識やマナー、人柄を磨くことを目指しています。
検定で学ぶ内容は、秘書という特定の仕事にとどまらず、どのような職種にも役立つものです。
秘書という仕事の役割
秘書検定の役割を深く理解するためには、まず「秘書」という職種について知ることが大切です。
秘書は、会社の経営者や管理職など、多忙な上司の仕事を幅広くサポートする職種です。
具体的には、スケジュール調整、会議の準備、来客応対、電話対応、文書作成、ファイル管理など、上司が本来の業務に集中できるように、多岐にわたる事務作業を担当します。
これらの業務を適切に行うためには、単に作業をこなすだけでなく、上司の意向を正しく理解し、状況に応じて適切な判断を下し、社内外の人々と円滑にコミュニケーションを取る能力が求められます。
秘書検定が生まれた背景
秘書検定は、正式名称を「文部科学省後援 秘書技能検定試験」といい、1972年に始まった歴史ある資格試験です。
この検定が誕生した背景には、高度経済成長期における社会の変化がありました。
当時、日本経済の急速な発展に伴い、企業経営が複雑化し、経営者がより効率的に業務を遂行するために秘書の重要性が認識されるようになったのです。
秘書検定が生まれた理由
秘書検定の根本的な目的は「人柄育成」にあります。
ここで言う「人柄」とは、相手に「感じがよい」という印象を与えることができる人物像を指します。
この「感じのよさ」は、表情、態度、振る舞い、言葉遣い、話し方など、さまざまな要素から成り立っています。
つまり、秘書検定は単に知識を問う試験ではなく、他人とのコミュニケーションにおいて好印象を与える方法を学び、実践できるようになることを目指しています。
現代社会における秘書検定の価値
現代では、人工知能やロボット技術が発達し、多くの定型的な業務が自動化されつつあります。
このような時代において、人間ならではの対人関係能力や状況判断力、気配りといった能力の価値が高まっています。
秘書検定で培われる能力は、機械では代替できない人間的な温かさや細やかな配慮であり、現代社会において求められる基盤的な能力と言えます。
秘書検定の階級と難易度
秘書検定には、1級、準1級、2級、3級の4つの階級があります。
数字が小さいほど難易度が高く、より高度な能力が求められます。
どの級からでも受験することができ、年齢、学歴、実務経験などの制限は一切ありません。
また、隣接する級であれば同時に受験することも可能です。
それぞれの級には、以下のような特徴があります。
3級の概要
3級は、社会人として最低限必要な職場での常識を問われる最も基礎的な級です。
上司が効率よく仕事を進めるために秘書がどのような点に気を配るべきか、どのように対応すれば相手に好印象を与えられるかといった基本的な内容が中心となります。
試験形式は、マークシート方式の筆記試験のみです。
合格率は約70パーセントで、主に高校生の受験者が多く、社会人としての第一歩を踏み出す準備段階として位置づけられています。
2級の概要
2級は、3級の内容をベースにしながら、より複雑な場面設定の問題が出題されます。
上司の身の回りの世話や手助けを行う際に、どのような優先順位で業務を進めるべきかという判断力が求められるようになります。
単に「感じがよい」対応をするだけでなく、「効率的に」仕事を進める能力も評価の対象となります。
合格率は約58パーセントで、就職活動を控えた大学生の受験者が多くなります。
2級レベルの知識と技能が、社会人としての基礎的な素養を示すものとして採用担当者に認識されています。
準1級の概要
準1級になると、求められるレベルが大きく変わります。
中堅秘書として、上司からの相談を受けたり、後輩へのアドバイスを求められたりする場面を想定した問題が出題されます。
物事の判断力と対応力がより高度に問われるようになります。
この級から筆記試験に加えて面接試験が実施されます。
知識として理解しているだけでなく、実際にその知識を適切に表現し、行動に移すことができるかどうかが評価されるのです。
合格率は約42パーセントで、大学生と社会人の受験者がほぼ同数となります。
1級の概要
最高位の1級では、上級秘書としての高度な能力が求められます。
上司が携わっている仕事の内容を深く理解し、先を読んでサポートを行う能力が問われます。
筆記試験は全問記述式となり、より深い思考力と表現力が必要になります。
面接試験も実施され、報告や応対に関する質疑応答だけでなく、余裕と自信のある態度も評価の対象となります。
合格率は約34パーセントと最も低く、現役の秘書や経験豊富な社会人が多く受験しています。
秘書検定の試験内容
秘書検定の試験は、秘書として必要な知識と技能を総合的に測るために、「理論領域」と「実技領域」の2つの大きな分野に分かれています。
さらに、これらの分野は5つの専門分野に細かく分かれています。
合格するには、理論領域と実技領域のそれぞれで、60パーセント以上の得点を取る必要があります。
どちらか一方の分野で満点を取っても、もう一方が60パーセント未満だと不合格となるため、両方の分野をバランスよく学習することが大切です。
理論領域
理論領域は、秘書としての考え方や知識を問う分野です。
この領域は、以下の3つの専門分野で構成されています。
必要とされる資質
この分野では、秘書として、また社会人として身につけるべき基本的な心構えや、身だしなみ、立ち居振る舞いについて学びます。
例えば、TPO(時と場所、場合)に応じた服装や髪型、表情の作り方、挨拶の仕方などが含まれます。
また、状況を正しく判断し、どのように行動すべきかという判断力の基礎も問われます。
職務知識
この分野では、実際の秘書業務における具体的な対応方法を、さまざまなケーススタディを通して学習します。
上司の行動を予測して先回りして行動する「先読みの力」や、状況に応じた優先順位の付け方、効率的な仕事の進め方などが問われます。
電話応対や来客対応といった日常業務から、会議の準備や出張手配といった具体的な業務に関する知識も含まれます。
一般知識
この分野では、ビジネスシーンで使われる経済用語や時事用語、さらには一般常識や冠婚葬祭のマナーなど、社会人として知っておくべき幅広い知識が問われます。
これは、上司や社外の人との会話を円滑に進めるため、また、ビジネス文書を正しく理解するために必要な知識です。
新聞やニュースを日常的にチェックする習慣をつけることが有効な対策となります。
実技領域
実技領域は、学んだ知識を実際に活用する能力を問う分野です。
この領域は、以下の2つの専門分野で構成されています。
マナー・接遇
この分野は、対人関係において不可欠なマナーや言葉遣い、振る舞いについて学び、実践する能力を問います。
電話応対での正しい敬語の使い方、来客を案内する際のエスコートの仕方、贈り物をする際や慶弔行事での適切な振る舞いなどが含まれます。
単に決まったマナーを覚えるだけでなく、相手の立場に立って考え、相手が不快に感じないような配慮ができるかが評価のポイントとなります。
技能
この分野では、事務作業に関する実務的なスキルが問われます。
例えば、正確な文書作成能力、受け取った文書を適切に整理・保管するファイリングの技術、複数の予定を管理するスケジュール管理能力などが含まれます。
また、オフィスで使われる文房具や事務用品の知識、さらに快適なオフィス環境を整えるための知識も問われます。
秘書検定の面接試験
秘書検定の準1級と1級では、筆記試験に加えて面接試験が実施されます。
これは、筆記試験で得た知識を単に覚えているだけでなく、実際の場面で適切に表現し、行動に移せるかを評価するものです。
面接試験は、秘書に求められる「感じのよさ」やコミュニケーション能力を直接的に測る目的があります。
各級の面接には、それぞれ異なる形式と課題が設けられています。
準1級の面接
準1級の面接は、3人1組のグループで行われるロールプレイング形式です。
面接官は2人おり、受験者3人が役割を交代しながら課題に取り組みます。
この面接では、「挨拶」「報告」「状況対応」という3つの課題が与えられます。
それぞれの課題は、受験者が秘書として遭遇するであろう具体的な場面を想定して設定されています。
例えば、「来客を応接室に案内する」「上司に電話の伝言を報告する」「急な来客に対応する」といった内容です。
評価のポイントは、言葉遣いや振る舞い、表情、態度など、相手に好印象を与えることができるかどうかです。
1級の面接
1級の面接は、2人1組のペアで行われるロールプレイングが中心となります。
この級では、より高度な対応力が求められます。
具体的な課題は、準1級よりも複雑で、物事の本質を理解した上で臨機応変に対応する力が問われます。
例えば、「顧客からのクレームに冷静に対応する」「複数の業務を抱える上司に、状況を簡潔かつ正確に報告する」といった内容が含まれます。
面接官は、受験者の報告や応対の内容だけでなく、その場にふさわしい態度や話し方、そして自信をもって振る舞えるかどうかも評価します。
知識を基にした論理的な受け答えはもちろんのこと、人間的な温かさや気配りができるかが重要な評価基準となります。
秘書検定を取得するメリット
就職活動において有利に働く
まず、社会人としての基本的なマナーが身につくため、就職活動において有利に働きます。
多くの企業が新入社員研修に秘書検定の内容を取り入れているため、事前に取得しておくことで、入社後スムーズに業務に取り組める人材として評価される可能性があります。
履歴書には3級から記載することは可能ですが、実際に就職で有利に働くのは2級からとされています。
準1級を取得すれば、さらに高い評価を得ることができ、面接試験があることで実践的なスキルを身につけていることの証明にもなります。
さまざまな職種に必要なスキルを学べる
秘書検定で学ぶ内容は、秘書という特定の職種に限定されるものではありません。
ビジネスマナー、コミュニケーション能力、判断力、気配りの仕方など、どのような職種においても必要とされる基本的なスキルを総合的に身につけることができます。
そのため、受験者の職種は多岐にわたり、一般事務、営業、接客業、管理職、さらには自営業者まで、さまざまな分野の人々が活用しています。
秘書検定の実施状況
秘書検定は、年に3回、6月、11月、2月に実施されます。
ただし、2月は2級と3級のみの開催です。
年間の受験者数は約14万人に達し、これまでの累計受験者数は800万人を超えています。
この数字からも、秘書検定が社会的に広く認知され、多くの人々にとって有用な資格として位置づけられていることがわかります。
秘書検定の学習方法
秘書検定の学習方法としては、公式のテキストや問題集を活用した独学が一般的です。
通信教育や専門学校での講座も利用可能です。
特に準1級や1級の面接対策については、実際の練習が必要なため、専門的な指導を受けることが効果的とされています。
学習のポイントとしては、単に知識を暗記するのではなく、さまざまな場面でどのような対応が適切かを考える習慣をつけることが重要です。