板チョコの値上げ(2022年96円→2025年171円)|好調ブランドの秘密
カカオ豆の歴史的な価格高騰により、板チョコレート(板チョコ・無垢チョコ)の販売価格が急上昇しています。2022年1月には96円だった平均単価が、2025年7月には171円に達し、その後も200円台へと上昇を続けているのです。値上げによる買い控えが広がる中、「明治ミルクチョコレート」と「ガーナ」の2ブランドは好調を維持しています。その理由は何なのでしょうか。
板チョコ価格の変化
平均単価の上昇
| 時期 | 平均個数単価(税別) | 前月比 |
|---|---|---|
| 2022年1月 | 96円 | 基準値 |
| 2024年6月 | 151円 | +55円 |
| 2025年7月 | 171円 | +20円 |
| 2025年以降 | 200円台に突入 | さらに上昇 |
インテージSRI+のデータによると、板チョコの平均個数単価(税別)は2022年1月の96円を起点として上昇基調にあります。特に急騰したのは2025年7月で、6月と比べて20円プラスの171円に達しました。以降、200円台へと高騰し続けているのです。
この価格上昇は、カカオ原料の使用比率が高く植物油脂の代替が難しいという板チョコの特性が影響しています。高カカオチョコレートと同様、カカオ豆高騰の影響をもろに受けやすいカテゴリなのです。約2年半で価格が2倍以上になったことで、消費者の購買行動に大きな変化が生まれました。
買い控えの発生
インテージ市場アナリストの木地利光氏は「板チョコは税抜き個数単価で170円を超えた2025年7月以降、個数前年比が80%台で推移している。手に取りやすい価格だった板チョコで、値上げによる割高感から買い控えの動きがみられる」との見方を示しています。
かつて100円前後で購入できた板チョコが、170円、200円と上昇したことで、消費者の購買行動に明確な変化が表れているのです。販売個数が前年比80%台ということは、約2割の消費者が板チョコの購入を控えている計算になります。
値上げが購買行動に与えた影響
100円前後だった頃の板チョコは、「ちょっと甘いものが食べたい」と思ったときに気軽に購入できる商品でした。しかし200円台となると、購入前に「本当に必要か」を考える消費者が増えています。この価格帯は、コンビニのデザートや小さなケーキと競合する水準であり、板チョコを選ぶ理由が明確でないと購入に至らないのです。
明治ミルクチョコレートの好調要因
販売金額の成長
明治ミルクチョコレートは、値上げ基調の中でも販売数量減少による販売金額の減少に陥ることなく好調に推移しています。2025年6月に実施した価格改定による消費の冷え込みを打ち返して好調を維持しているのです。
インテージSRI+によると、明治ミルクチョコレートの販売金額は2025年4月から6月で前年同期比二桁増、価格改定後の7月から9月も一桁増を記録しました。値上げにもかかわらず販売金額が成長している点が注目されます。ただし、具体的な販売金額の数値は企業の非公開情報となっており、前年比の成長率のみが公表されています。
データの出所について
ここで示されている成長率は、インテージSRI+という小売店販売データを集計・分析する業界標準のサービスから得られたものです。インテージSRI+は、全国の主要小売店における実際のPOSデータを収集しており、市場動向を把握する上で信頼性の高い情報源とされています。
手作り需要の高まり
好調要因について、明治の吉田彰グローバルカカオ事業本部カカオマーケティング部部長はスイーツなどの手作り需要の高まりを挙げています。
吉田部長は「比較的安価で満足感が得られる経済的価値もあるが、手作り需要の高まりのほうが大きいと考えている。洋菓子の価格上昇も影響して製菓材料の好調が続いている」との見方を示しています。この発言は、明治が自社製品の好調要因を分析した結果として公表したものです。
製菓材料としての価値
ケーキやクッキーなどの洋菓子が値上がりしたことで、自宅で手作りする需要が増えています。その際、製菓材料として板チョコが選ばれているのです。
板チョコは製菓用チョコレートと比べて少量から購入でき、使い切りやすいというメリットがあります。製菓用チョコレートは500グラムや1キログラム単位で販売されることが多く、家庭で使い切るのは難しい場合があります。一方、板チョコは50グラムという小さな単位で購入でき、必要な分だけ買えるため無駄が出ません。
また、「明治ミルクチョコレート」という長年親しまれたブランドであることも、手作り初心者にとっては安心材料となっています。初めてお菓子作りに挑戦する人にとって、知らないブランドの材料を使うよりも、昔から知っているブランドを使う方が安心できるのです。
ピュアチョコレートへのこだわり
明治ミルクチョコレートは、植物油脂を使用せず、カカオバターのみで作られた「ピュアチョコレート」です。他の大手メーカーの板チョコの多くが植物油脂を使用している中、明治はこのこだわりを貫いています。
植物油脂を使わないことで製造コストは上がりますが、純粋なチョコレートの味わいを求める消費者からの支持を得ています。値上げが続く環境下でも、品質へのこだわりが購入の理由になっているのです。特にお菓子作りにおいては、風味の良さが仕上がりに直結するため、ピュアチョコレートであることが選ばれる要因となっています。
ガーナの好調要因
売上高の成長
| 決算期 | 成長率 | 比較対象 |
|---|---|---|
| 前期(3月期) | +31% | 前々期比 |
| 上期 | +37% | 前年同期比 |
ロッテも「ガーナ」板チョコで2025年7月に価格改定を実施したものの好調を維持しています。「ガーナミルク」「ガーナブラック」「ガーナホワイト」などのガーナ板チョコレートは、前期(3月期)の売上高が前々期比31%増となりました。
上期売上高は既存品の好調に加えて、「プレミアムガーナ」を除いて5年ぶりの板チョコ新商品として4月に新発売した「ガーナ抹茶チョコレート」の純増効果もあり37%増となったのです。
売上高データの根拠
ここで示されている売上高の成長率は、ロッテが決算説明や報道発表で公表した数値に基づいています。ただし、具体的な売上高の金額は企業の経営情報として非公開となっており、前年比や前々期比といった成長率のみが公表されています。食品メーカーの多くは、製品カテゴリー別の詳細な売上高を公表しないことが一般的です。
新商品による需要喚起
「ガーナ抹茶チョコレート」は、5年ぶりの板チョコ新商品として投入されました。抹茶という和の素材とチョコレートを組み合わせることで、新しい味わいを求める消費者のニーズに応えたのです。
既存のミルク、ブラック、ホワイトに加えて抹茶という選択肢が増えたことで、ブランド全体の売場での存在感が高まりました。また、抹茶味は手作りお菓子の材料としても使いやすく、需要喚起につながっています。抹茶を使った洋菓子は近年人気が高まっており、ガトーショコラや抹茶チョコクッキーなど、様々なレシピで活用されているのです。
5年ぶりの新商品という意味
「プレミアムガーナ」を除いて5年ぶりという表現には理由があります。プレミアムガーナは通常のガーナシリーズよりも高価格帯の商品として位置づけられており、レギュラーラインの板チョコとは別扱いとなっているのです。レギュラーラインでの新商品投入が5年ぶりだったことは、ロッテがこの商品に大きな期待を寄せていたことを示しています。
身近なブランドとしての強み
2025年に入り、チョコレート市場の店頭価格が依然、上昇傾向にある中、「ガーナ」の板チョコが好調を維持できた要因は、チョコレートの喫食時に得られる幸福感に加えて「身近なブランドであることや季節催事への取り組みを強化し、手づくり需要などの使用シーンが拡大したこと」とロッテは分析しています。
季節催事への対応強化
バレンタインデーやホワイトデー、クリスマスなど、季節催事に合わせた販促活動を強化したことも功を奏しています。特にバレンタインでは、手作りチョコの材料として「ガーナ」を訴求する売場作りに力を入れました。
店頭では、ガーナブランドの板チョコと一緒に、レシピカードや型抜き、ラッピング材料などを陳列することで、手作りチョコの材料として選びやすい環境を整えたのです。長年にわたって築いてきた「ガーナ」というブランドの認知度と信頼性が、値上げ環境下でも消費者に選ばれる理由となっています。
板チョコ市場の構造変化
カカオ原料の使用比率による影響
板チョコレートは、カカオ原料の使用比率が高く植物油脂の代替が難しいカテゴリです。このため、カカオ豆の価格高騰がダイレクトに製造コストに跳ね返ります。
一方で、チョコレートコーティングされたビスケットなど、チョコレートの使用量を抑えた商品は価格への影響が比較的小さく済みます。ビスケット全体の重量に占めるチョコレートの割合は2割から3割程度であり、カカオ豆が高騰してもビスケット部分のコストは変わらないため、商品全体の値上げ幅を抑えられるのです。この構造的な違いが、カテゴリ間での明暗を分けています。
消費者の選択行動の変化
値上げが続く中、消費者の選択行動にも変化が見られます。以前は何気なく購入していた板チョコも、200円台となると「本当に必要か」を考えて購入する層が増えているのです。
その結果、ブランド力があり、用途が明確な商品が選ばれる傾向が強まっています。「明治ミルクチョコレート」や「ガーナ」が好調を維持できているのは、長年培ってきたブランド価値と、手作り需要という明確な用途があるためです。
購買の意思決定プロセスの変化
100円前後だった時代は、板チョコの購入は「衝動買い」に近い行動でした。レジ横に並んでいる商品を見て、「今日は疲れたから甘いものが欲しい」という気持ちで購入していた人も多かったのです。
しかし200円台となると、購入前に「今週はすでにお菓子を買ったから我慢しよう」「この金額なら他のデザートにしよう」といった検討が入るようになります。つまり、計画的な購買行動へと変化しているのです。この変化に対応できるのは、「バレンタインの手作りチョコに使う」「週末のお菓子作りに使う」といった明確な目的を持った購買を促せるブランドです。
製菓材料市場の拡大
洋菓子の価格上昇を背景に、自宅で手作りする需要が増えています。この流れは板チョコ市場にとって追い風となっています。
製菓用チョコレートではなく、板チョコを製菓材料として使う消費者が増えているのは、使いやすさと入手しやすさが理由です。50グラムという小さな単位で購入でき、全国のスーパーやコンビニで手に入る板チョコは、手作りお菓子の材料として理想的なのです。
洋菓子価格上昇との関連
ケーキ専門店やコンビニスイーツの値上げが続いています。かつて300円前後で買えたショートケーキが、今では500円を超えることも珍しくありません。この価格帯になると、「自分で作れば材料費は半分以下で済む」と考える消費者が増えています。
板チョコ2枚(100グラム)を使って作るガトーショコラは、材料費が全部で500円程度です。これで4人分から6人分のケーキができるため、1人分のコストは100円前後となります。お店で買うよりもはるかに安く、しかも手作りならではの楽しみや達成感も得られるのです。
値上げに耐えられた理由
ブランド力の重要性
「明治ミルクチョコレート」と「ガーナ」の2ブランドが値上げに耐えられた背景には、長年にわたって築いてきたブランド力があります。どちらも数十年の歴史を持つブランドで、消費者の記憶に深く刻まれているのです。
明治ミルクチョコレートは1926年に発売され、約100年の歴史を持ちます。ガーナも1964年の発売以来、60年以上にわたって愛されてきました。これだけの長い歴史があると、親から子へ、子から孫へと世代を超えて受け継がれるブランドとなります。
ブランド力が購買決定に与える影響
ブランド力があることで、多少の価格上昇があっても「いつものブランド」として選ばれ続けます。特に手作りお菓子の材料として使う場合、失敗したくないという心理から、信頼できるブランドを選ぶ傾向が強まります。
初めてガトーショコラを作る人が、聞いたことのないメーカーの板チョコを使うのは不安があります。しかし、明治やガーナという名前を見れば、「このブランドなら間違いない」という安心感が生まれるのです。
用途の明確化
単に「そのまま食べる」だけでなく、「手作りお菓子の材料」という用途を明確に訴求したことも成功要因です。用途が明確であれば、多少値段が高くても納得して購入してもらえるのです。
吉田部長が指摘するように、洋菓子の価格上昇により製菓材料の需要が高まっているという外部環境の変化を捉え、それに合わせた訴求を行ったことが奏功しています。店頭でのレシピ提案や、パッケージへの使用例の記載など、製菓材料としての活用を積極的に提案したのです。
用途提案の具体例
明治とロッテは、自社のウェブサイトで板チョコを使ったレシピを多数公開しています。バレンタインの時期には、「板チョコ1枚で作れる簡単レシピ」や「初心者でも失敗しないコツ」といった情報を発信し、消費者の背中を押しているのです。
また、店頭では板チョコのパッケージに「このチョコレートで○○が作れます」といった提案を記載することで、購買意欲を高めています。用途が明確になることで、200円という価格も「材料費」として納得できるようになるのです。
品質へのこだわり
明治ミルクチョコレートの場合、植物油脂を使わない「ピュアチョコレート」であることも差別化要因となっています。値上げが続く環境下では、安さだけでなく品質を重視する消費者も一定数います。
品質にこだわり、そのこだわりを消費者に伝えることで、価格以外の価値を認めてもらうことができるのです。ピュアチョコレートは口どけが良く、風味が豊かであるため、お菓子作りにおいても仕上がりの差が出ます。この品質の違いを理解している消費者は、多少高くても明治ミルクチョコレートを選ぶのです。
今後の見通し
価格上昇の継続
カカオ豆の価格高騰は2025年も続いており、板チョコの価格がすぐに下がる見込みはありません。むしろ、200円台が定着し、さらなる値上げの可能性も指摘されています。
この環境下で、ブランド力が弱い商品や用途が不明確な商品は、さらに苦戦を強いられる可能性があります。消費者の選別がより厳しくなることが予想されるのです。実際に、インテージSRI+のデータでは、大手ブランド以外の板チョコの販売個数が大きく減少しているという傾向が見られます。
手作り需要の定着
洋菓子の値上げ傾向は今後も続くとみられており、手作り需要は一時的なものではなく、定着する可能性が高いと考えられています。この流れをうまく捉えられるかどうかが、板チョコブランドの明暗を分けることになるでしょう。
「明治ミルクチョコレート」と「ガーナ」は、この手作り需要を確実に取り込むため、レシピ提案や季節催事での訴求をさらに強化していく方針です。特に、初心者でも失敗しにくい簡単なレシピの提案や、動画を使ったわかりやすい作り方の説明など、ハードルを下げる工夫が続けられています。
新たな用途開発の必要性
そのまま食べる需要が減少傾向にある中、板チョコメーカーには新たな用途開発が求められています。製菓材料以外にも、料理への活用や、新しい食べ方の提案など、消費シーンを広げる工夫が必要になるでしょう。
ガーナが抹茶味を投入したように、新しい味のバリエーションを増やすことで、そのまま食べる需要も喚起できる可能性があります。ただし、カカオ豆の価格高騰が続く中、新商品開発にはコスト面での制約もあり、慎重な判断が求められます。
まとめ
板チョコレートの価格は、カカオ豆の歴史的な高騰により、2022年1月の96円から2025年7月には171円へと急上昇し、その後も200円台へと上昇を続けています。この値上げにより、販売個数は前年比80%台に減少し、買い控えの動きが顕著になっています。
そうした厳しい環境の中で、「明治ミルクチョコレート」と「ガーナ」の2ブランドは好調を維持しています。その理由は、洋菓子の価格上昇を背景とした手作り需要の高まりを捉えたこと、長年培ってきたブランド力、そして品質へのこだわりにあります。
特に製菓材料としての需要が高まっており、販売金額は価格改定後も成長を続けているのです。今後もカカオ豆の価格高騰が続く見込みの中、ブランド力があり用途が明確な商品が選ばれる傾向は強まるでしょう。手作り需要をいかに取り込み、新たな用途を開発していくかが、板チョコ市場における成功の鍵となります。





