お菓子作りの中でも人気の高いシフォンケーキとスポンジケーキ。どちらもふんわりとした見た目が似ていますが、実は材料の選び方から作り方、そして最終的な食感や用途に至るまで、さまざまな点で明確な違いがあります。この記事では、それぞれのケーキが持つ特徴を詳しく比較し、あなたが「なるほど!」と納得できるように解説していきます。
使用する油脂の違い
ケーキのしっとり感や軽さに大きく影響する「油脂(ゆし)」の使い方は、シフォンケーキとスポンジケーキで大きく異なります。
シフォンケーキの油脂:液体の植物油を使用
サラダ油 | クセがなく、素材の風味を引き立てやすい |
菜種油(キャノーラ油) | 比較的軽くて、しっとり感を保ちやすい |
米油 | まろやかで酸化しにくく、風味が良い |
シフォンケーキでは、主に植物油が使われます。これは液体状の油脂です。
植物油は生地に均一に混ざりやすく、気泡を壊さずにしっとりと仕上げられます。
また、冷めても硬くならないため、時間が経っても柔らかさを保ちやすいのが特徴です。
植物油はバターのような風味はあまり出ませんが、そのぶん卵やバニラなど他の材料の味や香りをしっかり感じることができます。
スポンジケーキの油脂:バターを使ってコクを出す
無塩バター | 風味が豊かで、生地にコクを与える |
植物油(代用時) | 軽い食感に仕上がるが、バターほどの風味は出ない |
スポンジケーキでは、無塩バターを使用するのが基本です。バターは常温では固体の油脂で、使う前に柔らかくしておきます。
バターは香りとコクが強く、しっかりとした味わいのケーキに仕上がります。ただし、冷蔵すると生地がやや硬くなるため、食べるタイミングを選ぶ場合があります。
スポンジケーキに植物油を使うこともありますが、その場合でもシフォンケーキのようにメレンゲで膨らませるのではなく、全卵を泡立てる製法(共立て法)に沿って作られるのが一般的です。
卵の使い方と製法の違い
ふんわりとした膨らみを生む「卵」の扱い方も、両者ではまったく異なります。ここが、見た目や食感に大きな差が出る最大のポイントです。
シフォンケーキ:卵を「分けて」使う別立て法
- 卵黄生地を作る
卵黄に砂糖の一部、植物油、牛乳(または水)を加えてよく混ぜます。そこに薄力粉などの粉類を加えてなめらかにします。 - メレンゲを作る
卵白に残りの砂糖を数回に分けて加え、しっかり泡立てます。ツヤがあり角が立つほどの「しっかりしたメレンゲ」が理想です。 - メレンゲと卵黄生地を合わせる
卵黄生地にメレンゲを数回に分けて加え、泡を潰さないように混ぜます。底からすくい上げるように、優しく「切るように」混ぜるのがポイントです。
シフォンケーキでは「別立て法(べつだてほう)」という方法を使います。
これは卵黄(黄身)と卵白(白身)を完全に分けて使う方法です。
この方法により、メレンゲに含まれた空気が生地にたっぷり閉じ込められ、軽やかでふんわりとした食感が生まれます。
スポンジケーキ:卵を「一緒に」泡立てる共立て法
- 全卵と砂糖を湯せんで温める
卵と砂糖をボウルに入れて湯せんにかけ、人肌程度(約40℃)まで温めます。こうすることで泡立ちが良くなります。 - しっかりと泡立てる
ミキサーなどで白っぽく、もったりとするまで泡立てます。生地をすくい上げるとリボンのように落ちる「リボン状の生地」が目安です。 - 粉と油脂を加えて混ぜる
ふるった粉類を加え、泡を潰さないようにさっくりと混ぜます。バターを使う場合は溶かして加え、手早く混ぜ合わせて仕上げます。
スポンジケーキでは「共立て法(ともだてほう)」と呼ばれる方法を使うのが一般的です。これは卵黄と卵白を分けずに、全卵を一緒に泡立てる方法です。
スポンジケーキでも「別立て法」で作ることはありますが、その場合も油脂の量や水分量がシフォンケーキとは異なり、食感や仕上がりも違ってきます。
生地の密度と構造の違い
シフォンケーキとスポンジケーキは、同じ「ふわふわ系」のケーキに見えますが、実はその中身、つまり生地の密度や気泡の入り方に大きな差があります。
シフォンケーキの生地構造
シフォンケーキは、メレンゲ(泡立てた卵白)をたっぷりと使うため、非常に軽く空気を多く含んだ構造になります。生地の中にはきめ細かい小さな気泡が均等に散らばっており、その結果、柔らかくしっとりとした食感になります。
植物油が使われていることも、水分が保たれる理由のひとつです。油が液体状であるため、生地の中に均一に行き渡り、水分が逃げにくくなるのです。
スポンジケーキの生地構造
スポンジケーキは、全卵を泡立てる「共立て法」が主流で、メレンゲ単体よりも泡が粗くなりやすい特徴があります。そのため、シフォンケーキほど軽くはなく、やや詰まった印象のある中密度の生地になります。
また、バターを使う場合は、生地の間にバターの粒子が入り込み、風味やコクとともに、生地をしっかりと支える構造になります。
焼き上がりの食感の違い
焼き上がった後のケーキを一口食べれば、シフォンケーキとスポンジケーキの食感の違いはすぐにわかります。
シフォンケーキの食感
・ふんわりと軽く、まるで空気を食べているような口当たり
・水分量が多く、しっとりとした食感が長時間続く
・手でちぎるとふわっと裂けるように崩れる
この軽やかさは、メレンゲの泡を丁寧に生地へ取り込んでいることと、植物油が生地をなめらかにしていることが関係しています。
スポンジケーキの食感
・ふわふわしつつも、しっかりとした弾力がある
・噛み応えがあり、口の中でほぐれていくような食感
・生クリームやシロップとよくなじむ構造
ケーキとしての「土台力」が高く、ショートケーキやデコレーションケーキのベースによく使われる理由でもあります。
焼き型と形状の違い
ケーキの見た目や仕上がりは、使う「焼き型(ケーキ型)」によって大きく変わります。とくにシフォンケーキとスポンジケーキでは、焼き型の形や素材、焼き方に違いがあります。
シフォンケーキの焼き型と形状
シフォンケーキには、中央に筒のある「シフォン型」を使います。この型は、アルミやステンレスなどの熱が伝わりやすい金属製が一般的です。
焼くときに型に油を塗らないのがポイントです。生地が型にくっつくことで、しっかりと高さが出て、ふわふわに仕上がります。もし油を塗ると、生地が滑り落ちてしまい、ふくらみにくくなります。
焼きあがったあとは、型ごと逆さまにして冷ますのが特徴です。こうすることで、生地がしぼまずに高さを保つことができます。
焼き上がりの形は、高さがあり、中央に穴の空いた円筒形になります。
スポンジケーキの焼き型と形状
スポンジケーキには、底が平らな「丸型」や「スクエア型」を使います。素材は紙製または金属製が選ばれます。
型を使う前に、バターを塗ったり、紙を敷いたりして生地がくっつかないようにします。これは、型からきれいに外すための工夫です。
焼き上がりは、平らで丸い形や四角い形になり、ケーキの層を作るときに使いやすいのが特徴です。
冷却方法の違い
シフォンケーキの冷却方法
シフォンケーキは、焼き上がった直後に型ごと逆さまにして冷まします。これは、生地がとても軽く柔らかいため、重力で潰れてしまうのを防ぐためです。型に張り付けたまま冷ますことで、ふんわりとした高さのある形を保てます。
また、逆さまにすることで熱が均一に抜け、内部が急に縮むのを防ぐ効果もあります。冷却時間は2〜3時間が目安で、完全に冷めるまで型から外してはいけません。
冷却中は、揺らしたり移動させたりしないように注意が必要です。振動が加わると、内部が沈んでしまう恐れがあります。さらに、急激に冷やすのも避けましょう。ひび割れや食感の劣化につながることがあります。
スポンジケーキの冷却方法
スポンジケーキの場合は、型のまま冷ます方法と、ある程度冷めたら型から取り出して冷ます方法の2通りがあります。
型のまま冷ますときは、底を上にして逆さに置くこともあります。使う型の素材や厚みによって冷める時間が異なるため、それに合わせた対応が必要です。
一方、型から取り出して冷ます場合は、焼き上がり後に少しだけ冷ましてからケーキを外します。そして、ケーキクーラーの上に置いて自然に冷まします。表面が乾燥しやすいため、濡らした布巾を軽くかぶせることで乾燥を防ぐこともあります。
冷却時間の目安は1〜2時間ほどです。中までしっかり冷めてからカットすることで、断面がくずれにくくなります。
保存方法と日持ち
シフォンケーキの保存
シフォンケーキは、乾燥しやすい生地なので密閉容器での保存が基本です。常温なら2〜3日ほど保存できますが、夏場や気温が高い時期は冷蔵保存が推奨されます。
冷蔵では4〜5日程度もちます。より長く保存したい場合は冷凍保存も可能で、1ヶ月ほど保存できます。冷凍する際はカットしてから1切れずつラップで包み、冷凍用保存袋に入れると便利です。
スポンジケーキの保存
スポンジケーキも基本は常温保存で1〜2日程度もちますが、夏場や湿度が高い日は早めに冷蔵庫へ入れるのが安心です。冷蔵保存なら3〜4日が目安です。
ただし、バターを使っている場合は冷蔵庫で固くなりやすいため、食べる前に少し常温に戻すと風味が引き立ちます。冷凍保存も可能で、1ヶ月程度保存できます。乾燥を防ぐためにラップや密閉袋を使うとよいでしょう。
用途と楽しみ方の違い
シフォンケーキとスポンジケーキは、見た目や食感だけでなく、使い方や楽しみ方にも大きな違いがあります。
シフォンケーキの用途と楽しみ方
シフォンケーキは、そのまま食べても美味しいのが特徴です。ふわっと軽い口当たりで、食後のデザートにもぴったりです。
よく使われるフレーバー
- 抹茶
- ココア
- 紅茶
- 柑橘系(オレンジ、レモンなど)
生地に直接味をつけるため、シンプルでも満足感があります。
アレンジ方法
- 生クリームを添える
- フルーツと合わせる
- 軽いソースをかける
素材の風味をいかした、やさしい食べ方が人気です。
スポンジケーキの用途と楽しみ方
スポンジケーキは、他のケーキの土台として使われることが多いです。ふんわりしながらも、ある程度の弾力があるため、さまざまなアレンジに対応できます。
主な使い方
アレンジの幅
- シロップを染み込ませてしっとり感を出す
- 厚めのクリームやムースをはさむ
- フルーツやナッツで食感に変化を加える
- チョコレートで表面をコーティングする
しっかりとした構造のため、見た目を華やかに仕上げやすいケーキです。
失敗の原因と対策
シフォンケーキづくりによくある失敗
シフォンケーキでよくある失敗のひとつに「底上げ」があります。これはメレンゲの泡立てが不十分だったり、生地を混ぜすぎたことが原因で発生します。また「焼き縮み」が起こる場合は、冷却方法を誤ったり焼き時間が足りなかった可能性があります。さらに、「目詰まり」と呼ばれる生地の詰まり感は、粉の混ぜ方が悪かったり、メレンゲを潰してしまった場合に起こります。これらの失敗を防ぐためには、メレンゲの作り方を丁寧に行い、混ぜるときには手早く、かつやさしく仕上げることが大切です。
スポンジケーキづくりによくある失敗
スポンジケーキで多い失敗は、まず「膨らまない」という現象です。これは卵の泡立てが不十分であることが原因で起こりやすく、また粉を混ぜすぎると泡が潰れてしまい、結果的にふくらみません。「硬くなる」という仕上がりも同様に泡の潰れや焼きすぎが原因で起こります。さらに「底に粉が沈む」といった問題は、生地をしっかり混ぜられていないことや、材料の比重が合っていないことによって引き起こされます。対策としては、卵はしっかりと泡立て、粉はゴムベラなどで手早くやさしく混ぜることが大切です。
栄養価と健康面での違い
シフォンケーキの栄養
シフォンケーキは植物油を使っているため、脂質が比較的控えめで、全体的に軽やかな口当たりに仕上がります。そのため、カロリーもやや低めになる傾向があります。食感もふわっとしており、胃への負担が少なく、消化しやすい点も特徴です。
スポンジケーキの栄養
スポンジケーキは、バターを使用することが多く、コクのあるリッチな味わいになります。その分、脂質とカロリーは高くなりやすい傾向です。適度な密度としっかりした食べごたえがあり、満腹感を得やすいという利点もありますが、消化にはやや時間がかかる場合もあります。
まとめ
シフォンケーキとスポンジケーキは、見た目こそ似ていますが、その本質はまったく異なるものです。使用する油脂、卵の扱い方、生地の構造、そして焼き上がりの食感まで、それぞれに独自の特徴があります。シフォンケーキは植物油とメレンゲを活かしたしっとり軽やかな口あたりが魅力です。一方、スポンジケーキはバターのコクとしっかりとした食感が特徴で、デコレーションケーキの土台にも向いています。目的や好みに応じて、この違いを理解し、最適なケーキ作りに活かしてみてください。