乾パンと一緒に氷砂糖が入っている4つの理由

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乾パンと一緒に氷砂糖が入っている理由

乾パンの缶を開けたとき、小さな砂糖が一緒に入っているのを見た経験がある方は多いでしょう。

この氷砂糖は単なる甘味料やおまけではなく、非常食である乾パンをより食べやすくするための実用的な目的を持って入れられています。

砂糖の役割
  1. 唾液の分泌を促進する
  2. 速やかにエネルギー補給できる
  3. 精神的な安定をもたらす
  4. 口腔内の衛生状態を保つ

①氷砂糖は唾液の分泌を促す

砂糖がどのようにして唾液の分泌を促し、乾パンを食べやすくするのかについて、人間の体の反応から順を追って解説します。

STEP
砂糖が舌の味覚細胞を刺激する

砂糖を口の中に入れて舐めると、その甘い味が舌の上にある味覚細胞を刺激します。

この刺激が電気信号に変わり、脳へと伝達されます。

STEP
脳が唾液腺に分泌の指令を送る

甘味の刺激が脳に伝わると、脳は唾液を作る器官である唾液腺に対して「唾液を分泌するように」という指令を送ります。

その結果、口の中に唾液が増加し、口内が潤った状態になります。

STEP
乾パンのパサつきを唾液で補う

乾パンは、名前の通り水分がほとんど含まれていない、非常に乾燥した食品です。

口の中に入れるとパサパサとした食感で、口内のわずかな唾液を吸収してしまいます。

しかし、氷砂糖によって唾液の分泌が促進された状態で乾パンを食べると、増えた唾液が乾パンを湿らせるため、口の中でまとまりやすくなり、飲み込みやすくなるのです。

実際にこの方法を試してみると、氷砂糖なしで食べる場合と比べて、明らかに食べやすさが向上することがわかります。

②氷砂糖は速やかにエネルギーを補給する

砂糖は、食べやすさを向上させる役割だけでなく、非常時に必要なエネルギーを速やかに補給する機能も持っています。

砂糖は短時間でブドウ糖に分解される

砂糖は摂取すると、消化の過程で小腸において速やかにブドウ糖果糖に分解され、その後、血液中に吸収されます。

この吸収過程は非常に速く、摂取後短時間で血糖値が上昇し、体は疲労感の回復を感じることができます。

他の炭水化物よりも即効性が高い

ご飯やパンに含まれるでんぷん(炭水化物)も最終的にはブドウ糖に変わりますが、まず消化酵素によって分解される必要があるため、エネルギーになるまでに時間がかかります。

砂糖の持つこの即効性は、体力を著しく消耗している災害時の状況で特に有用な特性です。

脳へのエネルギー供給と思考能力の維持

人間の脳は、主にブドウ糖をエネルギー源として利用する臓器です。

血糖値が低下すると、脳に十分なエネルギーが供給されなくなり、集中力の低下や判断力の鈍化が起こります。

砂糖の摂取により脳に速やかにエネルギーを供給することで、思考能力の維持にも貢献します。

③氷砂糖は精神的な安定をもたらす

砂糖の摂取は、肉体的な疲労回復だけでなく、心理的な安定をもたらす効果があることも知られています。

セロトニン分泌による気分安定の作用

甘いものを食べると気持ちが落ち着くという経験は多くの人が持っていますが、これには科学的な根拠があります。

砂糖を摂取すると、脳内でセロトニンという神経伝達物質の分泌が促進されます。

セロトニンは、気分を安定させる働きがあり、不安や緊張を和らげる作用があることが報告されています。

β-エンドルフィン産生によるストレス軽減作用

さらに、砂糖の摂取は、脳内で**β-エンドルフィン**という物質の産生も促すと考えられています。

β-エンドルフィンは、ストレスを軽減し、心身をリラックスさせる効果がある物質です。

極度の不安や恐怖、将来への心配など、強いストレスにさらされる災害時において、甘いものによる心理的な安定効果は、心の健康を保つ上で重要な役割を果たします。

④氷砂糖は口腔内の衛生状態を保つ

唾液の分泌促進には、食べやすさの改善以外にも、口腔内の衛生状態を保つという重要な機能があります。

唾液には、口の中の細菌の増殖を抑える抗菌作用があることが知られています。

災害時には、断水などで十分な歯磨きができない状況も考えられ、口の中の衛生状態が悪化しがちです。

唾液の分泌が活発になることで、口腔内を清潔に保ち、感染症の予防にも寄与することができます。

乾パンの付属品に氷砂糖が選ばれた理由

数ある砂糖菓子の中で、なぜ氷砂糖乾パンの付属物として選ばれているのかには、その特性が関係しています。

氷砂糖はゆっくり溶けて甘味が持続する

砂糖は、通常のグラニュー糖を大きな結晶に再結晶させたものです。

この結晶構造のため、口の中でゆっくりと時間をかけて溶ける性質を持っています。

これにより、長時間にわたって甘味を感じ続けることができ、唾液の分泌も持続的に促されます。

少量で効果的に機能するため、限られたスペースに入れる乾パンの付属品として適しています。

氷砂糖は長期保存に非常に優れている

また、氷砂糖保存性に優れているという点も重要な理由です。

砂糖は適切に保管すれば品質の劣化がほとんどない食品であり、実際に砂糖には賞味期限の表示義務がありません。

砂糖の大きな結晶構造は常温でも品質が安定しており、湿気にも比較的強い特性を持っています。

乾パンの缶詰は密封されており、脱酸素剤も封入されていることが多いため、5年間という長期保存期間中も氷砂糖の品質が維持されます。

氷砂糖は他の砂糖菓子より添加物が少ない

製品によっては氷砂糖の代わりに金平糖やあめが使われることもありますが、これらも基本的に唾液分泌促進とエネルギー補給という同じ目的で使用されています。

ただし、氷砂糖は他の砂糖菓子と比べて添加物が少なく、アレルギーを引き起こすリスクが低いという利点もあります。

乾パンと氷砂糖の組み合わせが生まれた背景

この氷砂糖乾パンの組み合わせが生まれたのは1931年頃のことです。

当時、乾パン軍用食として使用されていましたが、当時の日本人の口に合うように改良が重ねられる過程で、この組み合わせが考案されたと考えられています。

約90年前に生み出されたこの発想は、現在でも多くの非常食で採用され続けている、長年の経験から生まれた合理的な知恵です。

災害時の状況と氷砂糖の必要性

なぜこのような唾液を増やす工夫が必要になったのかを理解するために、災害時の状況を考えてみましょう。

災害発生時には水を確保することが難しい

地震や水害などの災害が発生すると、電気や水道といったライフラインが停止してしまうことがあります。

そうなると、普段のように料理をすることができず、水を沸かしたり米を炊いたりすることも困難になります。

また、清潔な飲み水の確保も難しくなり、普段は意識しない水分の重要性が非常に高まる状況になります。

強いストレスが唾液の分泌を低下させてしまう

しかし、災害時のような強いストレスを感じる状況では、緊張や不安により唾液の分泌が通常よりも少なくなることがわかっています。

つまり、ただでさえ水分の少ない乾パンを、唾液も少ない状態で食べなければならないという困難な状況になるのです。

乾パンは水を使わずに食べられるよう設計されている

このような状況で重要になるのが、火や水を使わずにそのまま食べられる食品です。

砂糖は、この二重の水分不足の問題を、舐めるだけで唾液を増やし、食べやすくすることで解決するために役立ちます。

乾パンはまさにそのために作られた食品で、缶詰に入っているため長期間保存でき、開けてすぐに食べることができます。

乾パン本体が持つ非常食としての機能

付属の氷砂糖だけでなく、乾パン自体も非常食として重要な機能を持っています。

乾パンはエネルギー量の管理が容易である

乾パンは1枚あたり約10キロカロリーという計算しやすいエネルギー量を持っています。

これにより、避難生活などで制限がある中でも摂取カロリーの管理が容易になります。

乾パンはアレルギー対応にも配慮されている

また、市販されている乾パンの製品の多くは、卵を使用していないものが多いため、卵アレルギーのある人でも比較的安心して食べることができます。

乾パンは消化吸収に優れている

さらに、乾パンは製造過程ででんぷんのアルファ化度が高い処理がされているため、消化吸収に優れているという特徴があります。

アルファ化とは、でんぷんに水を加えて加熱した後で乾燥させる処理のことで、これによりでんぷんが消化しやすい状態になっています。

まとめ

このように、乾パンと氷砂糖の組み合わせは、水分不足の解決、エネルギー補給、精神的安定、保存性など、非常時に必要な様々な要素を考慮して設計された合理的なシステムです。

単純に甘くておいしいからという理由ではなく、厳しい条件下でも安全かつ効率的に栄養を摂取できるよう、多角的に検討された結果生まれた防災における実用的な知恵なのです。

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