パンナコッタの名前の由来|イタリア語「cotta」の意味と語源
パンナコッタという名前は、イタリア語の2つの単語を組み合わせたものです。名前の意味を知るだけでなく、その言葉がイタリア語でどのように使われているかを理解すると、このデザートの成り立ちがより鮮明に見えてきます。今回は「パンナコッタ」という名前の語源と、その名前がいつ・どのように定着したかを解説します。
パンナコッタは「火を通した生クリーム」という意味
パンナコッタはイタリア語の「panna(パンナ)」と「cotta(コッタ)」という2つの単語から成り立っています。
パンナは牛乳から得られる脂肪分の多い部分、すなわち生クリームを意味します。コッタは「火を通した」「調理した」という意味です。つまりパンナコッタとは「火を通した生クリーム」という意味になります。完成品の見た目ではなく、作り方そのものを名前にしているのが特徴的で、材料と調理工程をそのまま呼び名にするのはイタリア語の食べ物の名前によく見られる発想です。
「cotta」は「煮た」より広い意味を持つ
「コッタ」という言葉には「煮た」と訳されることが多いですが、実際の意味はもう少し広く、英語の「cooked」に近いニュアンスを持っています。Treccaniの語義定義によれば、「cotto」とは「熱を加えることで使用に適した状態にされたもの」を意味し、「煮た」「焼いた」「火を通した」「調理した」のいずれにも対応できる言葉です。
現代のパンナコッタの作り方は、強く煮込むのではなく生クリームと牛乳を60〜70℃程度にやさしく温めるだけです。沸騰させてしまうと生クリームが分離するため、「温める」という表現の方が実態に近いほどです。名前が示す「火を通した」という動作は、この温める工程を指しています。
「cotta」はイタリア語で広く使われる言葉
「cotta(コッタ)」は、イタリア語の動詞「cuocere(クオチェレ)=加熱して調理する」の過去分詞(participio passato)の女性形です。男性形は「cotto(コット)」となり、「panna(パンナ)」が女性名詞であるためパンナコッタでは女性形の「cotta」が使われています。
「cotta」「cotto」を含む食べ物や言葉
| 言葉 | 意味 | 説明 |
|---|---|---|
| terra cotta(テラコッタ) | 焼いた土 | 粘土を焼いた素焼きの陶器・建築素材 |
| prosciutto cotto(プロシュットコット) | 火を通したハム | 加熱処理した普通のハム |
| ricotta(リコッタ) | 再び火を通した | チーズ製造後の乳清を再加熱して作るチーズ |
| biscotto(ビスコット) | 2回焼いた | 2度焼きして水分を飛ばした保存食が原型 |
これらを見ると、「cotta/cotto」という言葉がイタリア語においていかに日常的かがわかります。特にリコッタとビスコットはパンナコッタと語源的に同じ構造を持っています。
テラコッタは「焼いた土」
テラコッタ(terracotta)は「terra(土)」と「cotta(焼いた)」の組み合わせで、「焼いた土」という意味です。粘土を焼き固めた素焼きの陶器や建築素材を指します。パンナコッタと同じく「cotta」が調理・加熱の過程を示す言葉として機能しています。
リコッタは「再び火を通した」
リコッタ(ricotta)は「ri(再び)」と「cotta(火を通した)」から成り立っています。チーズを作った後に残る乳清(ホエイ)を再び加熱して作ることから、この名前がつきました。パンナコッタと同じように、作り方が名前になっています。
ビスケットは「2回焼いた」
ビスコット(biscotto)は中世ラテン語の「biscoctus」に由来し、「bis(2回)」と「coctus(火を通したもの)」の組み合わせです。元々は長期保存のために2度焼きして水分を完全に飛ばしたことが名前の由来で、日本語の「ビスケット」はこのイタリア語(またはフランス語のbiscuit)から来ています。
パンナコッタという名前の登場と定着
| 年代 | できごと |
|---|---|
| 1879年頃 | 辞書に「ラテ・イングレーゼ(英国の牛乳)」という類似デザートの記載があったとされる |
| 1900年代初頭 | ピエモンテ州のランゲ地方で家庭菓子として作られていたとされる |
| 1960年代 | 「パンナコッタ」という名称がイタリアの料理書・レストランメニューに登場したとされる |
| 2001年 | イタリア農業省によるPAT(伝統的農産食品)リストにパンナコッタが掲載される |
1879年頃:「ラテ・イングレーゼ」という原型
1879年の辞書に、ゼラチンを使って固め型に仕上げる「ラテ・イングレーゼ(latte inglese)」、直訳すると「イングランドの牛乳」という料理の記載があったとされています。現在のパンナコッタと完全に同一かどうかは定かではありませんが、原型の一つだったという説があります。なお、この1879年の辞書そのものの一次資料は確認できていないため、「とされています」の表現を使っています。
1960年代:料理書・レストランメニューに「パンナコッタ」が登場
「パンナコッタ」という名称がイタリアの料理書やレストランメニューに記録されるようになったのは1960年代のこととされています。デザートそのものはそれ以前からピエモンテ州の家庭で作られていたとみられていますが、名前が広く文書化されたのはこの時期です。
2001年:イタリア農業省のPATリストに掲載
2001年、パンナコッタはイタリア農業省が定める「伝統的農産食品(PAT:Prodotti Agroalimentari Tradizionali)」のリストに登録されました。PATはイタリアの各州が伝統的な製造法を持つ食品を認定し、農業省が国家リストとして公表する制度です。ピエモンテ州農業品質局の公式サイトにも、パンナコッタがピエモンテの伝統的なデザートとして収録されています。
日本における「パンナコッタ」という名前の受け入れ方
カタカナ表記と中点の有無
日本では「パンナコッタ」というカタカナ表記が定着しています。「パンナ・コッタ」と中点を入れた表記も見られますが、続けて書く形が一般的です。2つの単語の組み合わせであることを意識する必要がある場面では中点あり、一般的な表記では中点なし、という使い分けがされる傾向があります。
英語圏の発音とは大きく異なる
英語圏でも「panna cotta」と表記されますが、発音は日本語のカタカナとは大きく異なります。イギリス英語では「p」を強く破裂させて発音し、アメリカ英語では語末の「ta」が「ラ」のように変化します。日本語の「パンナコッタ」はイタリア語の発音に近い形で受け入れられたといえます。
「パンナコッタ、なんてこった!」という語呂
ブーム期には「パンナコッタ、なんてこった!」というダジャレが広く知られるようになりました。「こった」という語感が日本語の「こった(凝った・参った)」に似ていることから生まれたフレーズで、名前の意味とは無関係ですが、こうした語呂の良さが少し長い外来語を人々の記憶に残すことに貢献したとされています。
まとめ
パンナコッタという名前は、イタリア語の「panna(生クリーム)」と「cotta(火を通した)」を組み合わせた言葉で、「火を通した生クリーム」という意味を持ちます。「cotta」はイタリア語の動詞「cuocere」の過去分詞女性形で、テラコッタ・リコッタ・ビスコットなど、調理や加熱の過程を名前に含む多くの言葉に共通して登場します。これらはすべてTreccaniのイタリア語辞書で語源が確認できる言葉です。
「パンナコッタ」という名称が料理書やメニューに登場したのは1960年代のこととされており、2001年にはイタリア農業省のPATリストに登録されました。日本では1990年代のブーム期にカタカナ表記が定着し、「パンナコッタ、なんてこった!」というダジャレとともに広く知られるようになったとされています。