イギリス菓子とは|アフタヌーンティーの文化と代表菓子を深掘り

イギリス菓子とは、イギリス(英国)で育まれてきたお菓子の総称です。その中心には、19世紀に貴婦人が始めた「アフタヌーンティー」の文化があります。紅茶とともに味わうスコーンやヴィクトリアケーキ、クリスマスに欠かせないクリスマスプディング、スコットランド生まれのショートブレッド——派手さよりも、家庭的で温かみのある味わいが、イギリス菓子の身上です。このページでは、アフタヌーンティーの成り立ちから、代表的なお菓子の背景までを掘り下げて紹介します。
| 意味 | イギリス(英国)生まれのお菓子の総称 |
|---|---|
| 文化の中心 | アフタヌーンティー(1840年頃に誕生) |
| 代表的な菓子 | スコーン、ヴィクトリアケーキ、クリスマスプディング、ショートブレッド、ファッジ |
| 特徴 | 家庭的で素朴、行事と結びついた菓子が多い |
アフタヌーンティーという文化
一人の公爵夫人が始めた習慣
イギリス菓子を理解する最大の鍵が、アフタヌーンティーです。この習慣を始めたのは、1840年頃、第7代ベッドフォード公爵夫人アンナ・マリア・ラッセルだと伝えられています。当時のイギリスでは、夜の社交が盛んになり、夕食の時間がどんどん遅くなっていました。昼下がりの空腹をもてあました公爵夫人が、紅茶と軽い食事を用意して友人を招いたところ、これが貴婦人たちの間で社交の場として広まったのです。夫人は、ヴィクトリア女王の側近を務めた人物でもありました。
三段スタンドの作法
伝統的なアフタヌーンティーでは、三段のスタンドが使われます。下段にサンドイッチ、中段にケーキや焼き菓子、上段にスコーン——というのが基本の構成です。下から上へ、塩気のあるものから甘いものへと食べ進めるのが作法とされます。このスタイルが、スコーンをはじめとするイギリス菓子を育てました。
もう一つ知っておきたいのが、イギリスでは「プディング(pudding)」がデザート全般を指す言葉として使われる点です。日本で言う「プリン」よりずっと広い意味を持っています。
参考:午後の紅茶を始めた貴婦人アンナ・マリア|キリン歴史ミュージアム
ヴィクトリアケーキ|女王が愛したスポンジ
ヴィクトリアケーキ(ヴィクトリアサンドイッチ)は、2枚のスポンジケーキでジャム(やクリーム)を挟んだ、シンプルな焼き菓子です。その名は、19世紀のイギリスを象徴するヴィクトリア女王に由来するとされています。夫を亡くして喪に服していた女王が、アフタヌーンティーでこのケーキを好んだと伝えられ、以来「女王のケーキ」として広まりました。飾り気のない素朴さこそが、かえってイギリス菓子らしさを感じさせます。いまも家庭やティールームの定番であり、手作りお菓子の腕試しの基本とされています。
スコーン|クリームティーの主役
クロテッドクリームとジャムで
スコーンは、アフタヌーンティーの主役ともいえる焼き菓子です。外はさっくり、中はしっとりと焼き上げ、横に割ってクロテッドクリームとジャムをたっぷりのせていただきます。紅茶とスコーンの組み合わせは「クリームティー」と呼ばれ、イギリスの午後を象徴する情景です。
デヴォン式か、コーンウォール式か
面白いのが、スコーンにクリームとジャムをのせる「順番」をめぐる論争です。イングランド南西部のデヴォン地方では、先にクリームを塗ってからジャムをのせるのが流儀。隣のコーンウォール地方では、先にジャムを塗ってからクリームをのせます。どちらが正しいかは長年の”名物論争”となっており、それぞれの地方の人々が譲りません。正解はひとつではなく、好みで楽しむのがおすすめです。
クリスマスプディング|火をともす祝いの菓子
クリスマスプディングは、ドライフルーツやスパイス、牛脂などをたっぷり練り込んだ生地を、長時間蒸し上げて作る、イギリスのクリスマスに欠かせないお菓子です。濃い茶色でずっしりとした見た目は、日本でイメージする「プリン」とはまったくの別物。作り置きして数週間から数か月も寝かせ、熟成させてからクリスマス当日にいただく家庭も多い、時間をかけたお菓子です。
食卓ではブランデーをかけて火をつけ、青い炎を立ちのぼらせてから取り分けるのが伝統的な楽しみ方。生地に小さな銀貨(かつては6ペンス硬貨)を隠して焼き、当たった人に幸運が訪れるという遊び心のある言い伝えもあります。行事と深く結びついた、祝いのお菓子です。
ファッジとショートブレッド
ファッジ|ほろりと崩れる砂糖菓子
ファッジは、砂糖・バター・牛乳を煮詰めて作る、口の中でほろっと崩れる柔らかいお菓子です。キャラメルに似ていますが、ファッジは砂糖の細かな結晶を含むことで、シャリっとしたやさしい口どけになります。観光地では色とりどりのファッジが量り売りされ、イギリスのお土産の定番になっています。
ショートブレッド|スコットランドのバター菓子
ショートブレッドは、小麦粉・バター・砂糖だけで作る、スコットランド発祥のシンプルなバタービスケットです。「ショート」は、バターをたっぷり使ってさっくりと崩れる食感を表す言葉。扇形に切り分ける「ペチコートテイル」の形が有名で、古くはスコットランド女王メアリーにも愛されたと伝えられています。素朴ながら、バターの豊かな風味が後を引く名菓です。
まだある、英国の菓子
イギリス菓子は、ほかにも個性豊かです。スポンジ・カスタード・フルーツ・生クリームを層に重ねた「トライフル」、バナナとキャラメルを使った20世紀生まれの「バノフィーパイ」、温かいデーツの蒸しケーキにトフィーソースをかけた「スティッキートフィープディング」など、家庭のぬくもりを感じる甘いお菓子がそろっています。
まとめ
イギリス菓子は、一人の公爵夫人が始めたアフタヌーンティーの文化に育まれた、家庭的で温かなお菓子の一族です。ヴィクトリアケーキやスコーンのような日常の菓子から、クリスマスプディングのような行事の菓子まで、暮らしのリズムに寄り添っています。順番論争や幸運の銀貨など、遊び心のある言い伝えも、イギリス菓子の楽しみのひとつです。
それぞれのお菓子の由来や作り方は、本文中の個別記事で詳しく紹介しています。紅茶を淹れて、ゆっくりどうぞ。



